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第一部 4話 小刀

 路地裏に戻った俺は民家の塀や外壁に体を預けながらよろよろと歩いてゆく。

 雨の中、色々な事が頭の中を過ぎっていった。


 逃げられた。寒い。あの怪物は何だったのか。鞄も置いてきちゃったな。早く警察に行かないと。雨が強いな。持ち物は財布とこの小刀だけか。そうか、表通りに出るからレインコート姿に戻ったんだ。スマホは鞄の中だっけ。制服が重くなってきた。どっちに行けば良いんだろう。奈乃香が死んだ。


 見覚えのある川の名前を見つけたので、大まかな方向だけ注意しながら上流へと川沿いを進んでいった。


 高校の近くを流れているはずだから、このまま進んで行けば見覚えのある場所に出るだろう。かなり走ったから遠いだろうけど。


「……あ」


 川には小さな橋が架かっていた。

 道なりに進んでいると、いつの間にか橋の下に入り込んだらしい。


 雨を凌げる場所に来ると、急に疲労が襲ってきた。

 休もうと思うまでもなく、気づけば橋の一部に背中を預けていた。


 そのままずるずると座り込んでしまう。

 ああ、これはマズイな。


 一度、座るともう立ち上がれる気がしなかった。

 走り疲れたのもあるが、二度も打ち付けた背中が痛む。


 加えて、ずぶ濡れの体は急激に体力を失っていた。

 このままだと、体力が尽きて、最悪死ぬかもしれない。


「?」


 不意に足元でカタ、という音がした。

 見れば、赤と青の小刀が転がっている。


 無意識に右手から落ちたようだ。

 いよいよ握力もなくなったのだろう。


 赤と青の綺麗な装飾が入った小刀だ。

 価値は分からないが、業物なのかもしれない。


「……ぅ」


 その刀身には、まだ鮮やかな赤い血が残っていた。

 奈乃香の血か、あるいはあの怪物の血か。


「ぐ……ぁ」


 そう考えた瞬間、その場で胃の中のものを全てぶちまける。

 ついさっきまで自分が握っていた小刀に恐怖を感じて奥歯が勝手に鳴った。


 そして、自分でも良く分からない言葉を叫びながら、小刀を投げ飛ばす。

 くるくると回転しながら小刀は飛んでいき、小さな音を立てて川の中に沈んでいった。


「くそ……」

 急に目蓋が重くなる。


 こんな状態で意識を失ったら、それこそ死んでしまう。

 だけど、もう体は言うことを聞いてくれそうにない。


 橋に寄りかかっていた背中が、ずるずると横に滑っていく。

 とうとう橋の下で横になってしまった俺はぼんやりと呟いた。


「ちくしょう……」


 何に対して悪態を突いたのか。

 自分でも良く分からない。


 それは幼馴染を助けられなかったことか。

 あるいは仇が討てなかったことか。


 ……自分が死ぬことか。

 

 意識が消える間際――少女の姿を見た気がした。


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