表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/26

第一部 3話 目撃

「待てよ!」


 黒い怪物を追い掛けて、住宅街を走り抜ける。見失う心配はない。

 部活のおかげもあるが、子供の頃から追いかけっこは得意だった。


 この辺りは昔ながらの町並みで、古い民家がひしめいている。

 怪物は狭い路地を迷いなく走ってゆく。


 走るのに邪魔だからだろうか、いつの間にか大剣は消えていた。

 自由に出し入れできるということか……?


 雨足が強くなる。制服が重くなっているのが分かった。

 ……幸か不幸か、この雨では人通りもなさそうだ。

 

 ふと疑問が過ぎる――一体、追い付いてどうするのか。

 捕まえられるとでも思うのか。それとも刺し違えるつもりなのか。

 

「それでも、見逃すわけにもいかないだろ……!」

 

 冷たくなっていた奈乃香を思い返して、俺はさらに速度を上げる。

 右手の小刀をさらに強く握り締めた。怪物との距離が縮まってゆく。

 

 降りしきる雨の中、両手両足をただ全力で動かした。

 そうして、俺はその黒い背中を捉える。


「!」


 まさか追いつかれるとは思っていなかったのだろう。

 怪物はちらりと振り返ると、小さく息を呑んだようだった。


 俺は一際強く踏み込んで、その背中へと飛び掛かる。

 同時に右手の小刀を斬り上げた。


 技も何もない。ただ我武者羅なだけの一撃。

 まるで体当たりでもするような俺の小刀を怪物は右腕で受けた。


 手応えはあった。でも、きっと浅い。

 恐らく『本体』を軽く傷つけた程度だ。


「――ッ!」


 怪物が叫びを上げた。

 さらに無傷の左腕を引き絞る。


「……くそ」


 俺の顔が引きつった。

 次の瞬間、怪物の裏拳をまともに食らって俺は路地を吹き飛んでいた。


「……う、ぁ……」


 細長い路地を何度も転がってゆく。

 ようやく勢いが収まった頃には、俺の全身は擦り傷だらけだった。


 それでも、どうにか顔を上げる。

 いつの間にか、怪物は黒いレインコートに戻っていた。


「…………」

「ま、て」


 黒いレインコートは一度だけ俺を振り返る。

 気のせいでなければ、小さく微笑った気がした。


 奈乃香を殺した男は俺に背を向けると歩き出す。

 フラフラになりながらも、どうにか俺は立ち上がる。


 その背中を追いかけて、一歩ずつ前へと進む。

 こんな状態になっても小刀を放さなかったのは奇跡だろう。


「……あ」


 そして路地を抜けて、思わず声が出た。

 そこはすでに人通りのない路地ではなく、繁華街の大通りだった。


 雨の夜とは言え、人通りは絶えていない。

 すぐ目の前に傘をさしたカップルがいた。


「?」

 カップルは首を傾げている。


 他にも多くの通行人が見えた。

 全ての視線が俺に集中する。


 ずぶ濡れの制服。荒い息。

 そして――血に濡れた右手の小刀。


 誰かの甲高い悲鳴が上がる。

 俺は逃げるように路地裏へと引き返した。


読んで頂きありがとうございます!

ブックマーク、評価など頂けると嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

以下のサイトにURL登録しています。

小説家になろう 勝手にランキング


ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ