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第一部 24話 不吉の象徴

 俺は自分の能力について雨宮さんに説明した。

 雨宮さんは黙って聞いてくれた。しかし一通り聞くと納得したらしい。


「……なるほどね」

「あまり驚かないんだな」


 まぁね、なんて言いながら少し言いづらそうに視線を逸らした。

 少しだけ罪悪感のある声で続ける。


「祭先生が協力的すぎておかしいとは思ったんだよ。

 ……実を言うと、何か交換条件があると踏んでたから」


「……あー、そういうことか」


 逃げる手伝いまでしてくれたのは、あれだ……研究対象だからか。

 恩を売っておこうってか。軽く寒気を感じて身震いをした。


「でも、小刀か……ちょっとまずいね」

「? 何がだ?」

「……決まってるでしょ。その小刀は犯人の凶器だったんでしょ?」

「あ」


 そりゃそうだ。犯人ですと言ってるようなものだ。

 俺の様子に雨宮さんはこれ見よがしに溜息を吐いて見せた。


「咄嗟の判断力はあるのに、普段は鈍すぎない?」

「ははは……」


 じとっとした雨宮さんの視線に、乾いた笑いを返す。

 誰にも小刀が見えなかったのは不幸中の幸いなのか……?


「朝に相談してくれれば、人に見せるなんて許さなかったのに」

「いや、あれは通報されそうだったから……」

「多分ブラフよ。朝霞君を見て、対話の余地があると思ったんでしょうね」

「……マジ?」

「マジ」


 いきなり襲われることはないと踏んで、俺に行動させたってことか。

 言われてみれば、視線一つで見事に釣られているなぁ。


「ひとまずバレないようにすれば良いと思う。で、その小刀はここにあるの?」

「? ああ、テーブルの上に置いてある……おい?」


 すぐさま雨宮さんは指先でトントン、と小刀を叩いた。

 ん? 『叩いた』?


「うん、やっぱり『実体化』してる」

「……マジか」

「マジマジ」

「…………」


 冗談めかして雨宮さんが言った。

 視線を向けると、雨宮さんは動じることなく首を傾げた。


 ……なんだか勝てる気がしないんだよなぁ。

 敗北者の気分で、俺は視線を逸らした。


 実際、あれだけ綺麗に助けられてる。

 勝ち目がないのも無理はなかった。


「じゃあ、小刀の詳細な検証は後でするとして……」

「検証なんてするのか……」

 

 雨宮さんは「当然、自分の能力は把握すべきよ」と言い切った。

 正論すぎて言い返せない。実際、雨宮さんは把握してるのだろう。

 

「そうだ、雨宮さんの象徴って何なんだ?」

「…………」

 

 ふと気になったことを訊いてみた。祭教授の話によれば、雨宮さんにも俺にとっての『小刀』のようなものがあることになる。

 

「……朝霞君は距離の詰め方と速さが独特だよね。

 正確には押し引きのタイミングと緩急、かな」


「?」


「普通は訊きづらいと思うってこと。ま、私は別に良いけど。

 それに……私だけ教えてもらうのも、確かに変か」


 そこで雨宮さんは、いったん俺から目を離した。それから自分のペットボトルのお茶を飲む。話す内容を整理しているのだと分かった。


「猫よ、黒い子猫」

「? 猫?」


 そうか、物とは限らないのか。

 当然だ。幻覚なんだ、何だって有り得るだろう。


「ある日、家族で見かけてね。両親とお姉ちゃんは可愛いって撫でていた。

 でも真っ赤な目をしていたから……不吉に思えて、私は少しだけ怖かった」


「…………」


「そのすぐ後、三人が死んだの。

 それであの子は私にとって『死』の象徴になっちゃった」


 あの子は何も悪くないのにね、なんて笑う。

 相変わらず、どこか皮肉っぽい……自嘲するような笑み。


「あの子は私に近寄らないけれど、たまに遠目で見かけるの。

 大抵は誰かの足元にじゃれついてる。もともと人懐っこいのよ」


「……まさか」


 奈乃香の時を思い出す。

 雨宮さんの能力が、誰かの死と関わるものなら。


「そ。あの子が懐いた人は、その後に死ぬか……少なくとも危険な目に逢う。

 で、それが私と親しい人だったら、私はその瞬間を上から眺めてる」


 人の死を予見する黒猫。

 それは……まさに不吉の象徴だった。


「これから死ぬ人……死にそうな人が分かるのか?

 ! ひょっとして、奈乃香の時も?」


 雨宮さんは答えず、代わりに肩を竦めて見せた。


「気を付けるようには何度も言ったんだけどね。

 朝霞君(シュン)がいるから大丈夫……だってさ」


 冗談めかして言う。

 でも、その様子は……あまりにも悲しそうだった。 


 道理で準備が良いわけだ。

 きっと雨宮さんは、この状況を見越して……準備していた。


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