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第一部 23話 雨宮さんちの事情

「んー、そこは左だね」


 雨宮さんのナビに従って、下水道を進む。懐中電灯を二つ用意しているのは流石だと思う。今は手元の紙を確認しながら、進んでいるらしい。


「今度は右」


 最初は荒れていた呼吸もすでに落ち着いてきた。

 脇腹だけは少し痛むが、これなら何とかなる。


「あとはしばらく真っ直ぐ」


 どうやら本当に警官を撒いたらしい。

 あそこから良く逃げられたもんだなぁ。


「それにしても……思ったよりも、こう……臭ったりしないんだな」

「嘘でしょ? 女の子に振る話題がそれ?」

「……悪かったよ」

「あはは、冗談よ。冗談」

「…………」


 雨宮さんがカラカラと笑う。

 完全に手玉に取られている気分だ。


「このルートはまだ使われてないの。新しく出来た浄水場と一緒に着工されて、今はまだ工事中。私たちが通って来た旧下水道と完全に繋いでから開通よ」

 

「へぇ」


 雨宮さんはすらすらと言う。どうやら俺たちが入口として使った海への排水管はこれから埋めるらしい。最後に「時期も場所も良かったね」と続けた。


「でも、下水道の地図? で良いのか? 良く調べられたな」

「……市役所で閲覧できるのよ」

「へぇ……全然知らなかった」

「まあ、普通はね。私は事情があって詳しいの」

「?」




「ぐぎぎ……」

「頑張れー」


 しばらく歩いた後、全力で俺はマンホールの蓋を押し上げていた。

 下から雨宮さんが機械音声よりも機械的な棒読みで応援してくれる。


「もうちょっと可愛く」

「え? 何だって? もういっぺん言ってみて? んん?」


 軽口を叩いてみたものの、冷たい声で聞き返された。

 無残にも撃沈。「何でもないです……」と撤退する。


 それでもマンホールはどうにか開いて、外に出ることが出来た。

 ここは……公園? 人気はなさそうだけど……。


 続いて雨宮さんも出てきた。

 軽く手を貸して、マンホールを戻す。


「この公園、夜間は立ち入り禁止なのよ。

 ……なのに、警備がザルなんだから」


 すたすたと歩いていく雨宮さんの後を追う。

 やがて、生垣の前までやってくると、すーっと顔を外に出す。

 

「警備員なんていないし……簡単に出入りできるのよっと」

 人目がないことを確認して、ひょいと生垣を飛び越えた。


「おぉ……不良だな」

 俺がそう漏らすと、雨宮さんは「今の朝霞君に言われるのは複雑ね」と返す。


「付いてきて」

「?」


 公園から出ると、すぐにまた歩き出す。

 素直に後ろを付いて行った。


 やって来たのは……マンション?  公園からは十分も歩いていない。

 見れば随分と上まで伸びているようだ。色々とお高いのだろう。


「入って」

「??」


 雨宮さんが何か操作をして、一階の鍵を開けた。

 素直に中へと入っていった。


 エレベータに乗ると、上の階層へ。

 一軒家の俺に分かったのは半分よりも上の階ということくらい。


「入って」

「???」


 エレベーターから出てすぐの部屋。鍵を開けると雨宮さんが言った。

 素直に部屋へと入っていった。


 そのまま居間へと通される。

 雨宮さんに促されて、テーブル脇のクッションに腰を下ろす。


「いらっしゃい。ようこそ、私の家へ」

「雨宮さんの家!?」


 俺は思わず声を荒げる。

 流れるようにここまで来てしまった。


「あはは、私が鍵を開けてるんだから気付こうよ」

「お、親御さんは?」

「親御さんて。今朝も言った通り、家族は事故で亡くなってるよ」

「あ……」


 そうだった。

 その事件が原因で能力が出て、転校してきたんだ。


「気にしないで良いよ。私の伯父さんがいわゆる後見人? そんな感じでね。

 でも忙しいし、家庭もあるから……私は一人暮らしなの」


 話しながら、雨宮さんが居間を出ていく。さらに話し終わる頃に戻ってくると「お茶」と言って小さなペットボトルを俺に差し出した。


「ありがとう……え?」


 お礼を言ったものの、思わず呆けた声が出る。同じ街に住んでいるのに一緒には暮らさず、部屋だけ与えて別に住んでるってのか。


「良いのよ。私もその方が良かったからね」

「でも、流石に――」


 さらに食い下がろうとした俺に、雨宮さんは笑いかけた。

 一瞬だけ俺が言い淀むと、すかさず割り込む。


「それで通っちゃうのよ……だってあの人、市議会議員だしね」

「……っ。なるほど」


 雨宮さんの言葉に驚いたものの、すぐに納得した。

 ……色々と腑に落ちたのだ。


 思わず部屋を見回した。高校生の一人暮らしには……あまりにも広い。

 だが、議員であればこれくらいの部屋はあっさりと用意しそうだ。


 それに下水道の工事について詳しかったり、市役所で下水道について調査できることを知っていたのも……無関係ではないのだろう。


「じゃあ、まずは戦利品を確認しよっか。その後で夕飯にしよう」

「…………」

「祭先生はなんて言ってた? 収穫はあったんでしょ?」

「……資料をもらった」


 この話はここでおしまい、と無言で示される。

 俺は応じて、背負ってきたリュックサックをごそごそと漁る。


 資料の入っているクリアフォルダを取り出してテーブルに置いた。

 そこで――気が付いた。


「……おい、嘘だろ」

「?」


 俺が呟くと、雨宮さんもリュックを覗き込んだ。

 でも、きっと意味はなかっただろう。


 俺にしか見えないはずだ。

 リュックの中には放り投げたはずの小刀が入っていた。


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