表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/26

第一部 20話 目的地

 細い道をジグザグと走る。

 我ながら見るも無残な恰好で、まるで這うように逃げた。


 今のは危なかった。

 ハッタリで小刀を投げたら反応してくれて助かった。


 ひょっとしたら、複数のものを同時には動かせないのかもと思った。

 俺が何かを投げたから、弾くためには離すしかなかったのだろう。


「でも……いや」


 疑問はいったん後回しだ。

 あいつの素性とか最後の言葉とか小刀を弾いた音だとか。


「今は、走るしかない……!」


 一瞬だけ後ろを振り返る。

 まだ追い付いていないみたいだけど、あいつの能力の射程は分からない。


「痛ってぇな……くそ」


 ぶつかった肩も締め上げられた左腕も痛かったが、最初に衝撃を受けた右の脇腹も酷い。まさか肋骨が折れてたりしないよな?


 目的地まではもう少しだ。思ったよりも時間が掛かってしまった。

 すっかり日は落ちたというのに、随分と俺の周囲は騒がしい。


「…………」


 妙な気分だった。

 みんな、俺が奈乃香を殺したと思ってる。

 

 俺にしてみれば、一緒に奈乃香が走っていないことを不思議に思うくらいだ。

 ……子供の頃はよく二人で逃げ出した。


 息が上がっているからだろう、俺は奈乃香と出会った頃を思い出していた。奈乃香は近所の女の子で、俺は……なんと言うか、典型的な悪ガキだった。


 ある日、公園で偶然一緒になって遊んでいたら、奈乃香の母親が迎えに来た。

 奈乃香の家は異常に門限が早かったのを覚えている。


 そして、奈乃香は悔しそうに俯いていた。

 悪ガキな俺は気に食わなくて、奈乃香の腕を引いて逃げ出したのだ。


 ……今思えば、普通に誘拐だったな。

 だが、奈乃香は楽しそうに笑っていた。


 俺も調子に乗って、繰り返し連れ出すわ隠れるわ。

 互いの両親が仲良くなって、最後は諦めていた。


 いつだって俺はあいつの手を引いて逃げる役割だった。ちゃんと奈乃香は後ろから付いて来た。だから……『追いかけっこ』には慣れていたんだけどな。


「はぁ……はぁ……ここか?」


 開けた場所に出る。間違いない。やっと着いた。

 雨宮さんに指定された港だ。


「……っ!?」


 ガタ、と背後から物音が聞こえて、慌てて振り返る。

 しかし、そこに警官の姿はなくて一息つく。


 一瞬、雨宮さんかとも思ったが、どうやら古い木箱が潮風で揺れたようだ。

 ……奈乃香もいなかった。


読んで頂きありがとうございます!

ブックマーク、評価など頂けると嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

以下のサイトにURL登録しています。

小説家になろう 勝手にランキング


ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ