第一部 20話 目的地
細い道をジグザグと走る。
我ながら見るも無残な恰好で、まるで這うように逃げた。
今のは危なかった。
ハッタリで小刀を投げたら反応してくれて助かった。
ひょっとしたら、複数のものを同時には動かせないのかもと思った。
俺が何かを投げたから、弾くためには離すしかなかったのだろう。
「でも……いや」
疑問はいったん後回しだ。
あいつの素性とか最後の言葉とか小刀を弾いた音だとか。
「今は、走るしかない……!」
一瞬だけ後ろを振り返る。
まだ追い付いていないみたいだけど、あいつの能力の射程は分からない。
「痛ってぇな……くそ」
ぶつかった肩も締め上げられた左腕も痛かったが、最初に衝撃を受けた右の脇腹も酷い。まさか肋骨が折れてたりしないよな?
目的地まではもう少しだ。思ったよりも時間が掛かってしまった。
すっかり日は落ちたというのに、随分と俺の周囲は騒がしい。
「…………」
妙な気分だった。
みんな、俺が奈乃香を殺したと思ってる。
俺にしてみれば、一緒に奈乃香が走っていないことを不思議に思うくらいだ。
……子供の頃はよく二人で逃げ出した。
息が上がっているからだろう、俺は奈乃香と出会った頃を思い出していた。奈乃香は近所の女の子で、俺は……なんと言うか、典型的な悪ガキだった。
ある日、公園で偶然一緒になって遊んでいたら、奈乃香の母親が迎えに来た。
奈乃香の家は異常に門限が早かったのを覚えている。
そして、奈乃香は悔しそうに俯いていた。
悪ガキな俺は気に食わなくて、奈乃香の腕を引いて逃げ出したのだ。
……今思えば、普通に誘拐だったな。
だが、奈乃香は楽しそうに笑っていた。
俺も調子に乗って、繰り返し連れ出すわ隠れるわ。
互いの両親が仲良くなって、最後は諦めていた。
いつだって俺はあいつの手を引いて逃げる役割だった。ちゃんと奈乃香は後ろから付いて来た。だから……『追いかけっこ』には慣れていたんだけどな。
「はぁ……はぁ……ここか?」
開けた場所に出る。間違いない。やっと着いた。
雨宮さんに指定された港だ。
「……っ!?」
ガタ、と背後から物音が聞こえて、慌てて振り返る。
しかし、そこに警官の姿はなくて一息つく。
一瞬、雨宮さんかとも思ったが、どうやら古い木箱が潮風で揺れたようだ。
……奈乃香もいなかった。
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