表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/26

第一部 15話 遭遇

「……分かったよ。少しだけ待っていてね」

「…………」


 俺の話を一通り聞き終わった後、祭教授はそう言って机に戻るとキーボードをしばらく叩いた。やがて隣に置いてあったプリンターが何かを印刷する。


「はい、これ」

「これは……?」


 何枚かの紙をクリアフォルダに入れて俺に手渡す。

 ちらりと見れば、事件のデータのようなものが見えた。


「心当たりがある。以前、この街にいた連続殺人犯だ。

 赤と青の小刀を凶器として使用していた。君はその犯人だと思われている」


「!?」


 祭教授の言葉に目を見開いた。

 その話が事実であれば、まさしくソイツが奈乃香を殺したに違いない。


「世間には伏せられた情報だ。この能力はまだ世の中に浸透していないからね」

「じゃあ、この資料は……」


 祭教授が小さく頷いた。過去の事件資料ということだろう。

 警察が調べた後だろうが、俺しか知らない情報もあるかもしれない。


「あと、この町の能力者についてもまとめてある。

 ……もっとも犯罪者の集団に絞ってあるけどね」


 なるほど。犯罪者同士、犯人と繋がりがある可能性は高いということか。

 ひょっとしたら、この中に犯人がいる可能性すらある。


「……ありがとうございます」

「? どうしてお礼を言うんだい?」


 これで手掛かりが手に入った。俺は急いでリュックに資料を仕舞う。

 しかし俺が頭を下げると、祭教授は不思議そうな声を出した。

 

「いや、俺のためにわざわざ……」

「…………」

「どうしたんですか?」

「なるほど、君のためか……」

「?」


 祭教授は小さく呟く。

 首を傾げた俺を無視すると、研究室の天井を見上げた。


 口に咥えたタバコを一際大きく吸う。

 そのまま右手でタバコを持ち、天井目掛けて息を吹き上げた。


 それはまるで鯨が潮を噴き上げるような。

 あるいは機関車の汽笛と呼んだ方が相応しかっただろうか。


「ハハハッ」


 そして、祭教授は狂ったように笑った。

 空の左手でお腹を押さえて散々に笑った後、彼女はその雰囲気を一変させた。


「……悪いがそれは違う。

 君のため? 世のため? 人のため? 違うな」


 表情も眼光も口調すらも別人のように切り替えて、祭教授は笑う。

 いつの間にか夕日は落ちていたらしい。研究室はすでに薄暗かった。


「全て私のためだ。私が『知りたい』んだ。それだけだ。

 何故か? 馬鹿馬鹿しいな。そんなもの、決まってるだろう」


 祭教授の様子に気圧されて、俺は思わず一歩だけ後ろに下がっていた。

 少女の姿をしているにも関わらず、俺を見上げる眼光が恐ろしかった。


 しかし、すぐ後ろは扉だ。

 これ以上は下がれない。


「面白いからさ。過去の経験が君たちの異能を形作っている。

 ああ、興味深いな。私はね、君たちの行き着く先が見たいのさ」


 さらに鋭く祭教授の眼光が輝いた。

 口元を歪ませながら微笑んで、彼女は『すぱー』と紫煙を吐いた。


「例えば……君の『象徴』は小刀だったな? 

 それは幼馴染を殺された『象徴』なのか? それとも……」


「…………」


 いつの間にか、俺は祭教授を睨みつけていた。気付けば俺の左手は自分の肩を抱いている。その肩はガタガタと震えて収まらない。


「やはり、君たちは――面白い」


 祭教授が右手を俺の鼻先に突き付ける。

 薄闇にタバコの灯りが後を引いた。

 

「期待しているよ?」

「……良い趣味してるな」


 祭教授は最後にへらっとした笑みを纏い直す。

 その時、突然研究室に光が差した。

 

「え?」

「む……」


 俺と祭教授の両方が驚いた声を上げた。

 その意味に気が付いて、俺の背筋が凍る。すぐ後ろにある扉が開いたんだ。


 やばい! 誰か来た!?

 流石に長居しすぎたか……?


 急いで後ろを振り返る。

 この状況を見られたら、言い逃れでき――


「……誰もいない?」

「もう追いついたのか」


 ――体が宙に浮かぶ感覚だけ理解できた。


「がぁ……は!」


 床に背中を叩きつけられて、肺から空気が全て出て行った。

 幸いだったのは、リュックが衝撃を吸収してくれたことくらいか。


 何だ!? 何が起きた!?

 扉が開いた後、俺が勝手に一回転したとしか思えない。


 俺は研究室の外で寝転がっていた。

 咄嗟に立ち上がって祭教授を見る。


 さらに左右を見る。誰もいない。

 祭教授以外に人影は見当たらなかった。


「一本背負いとは容赦がないね」


 祭教授が呟いた。

 一本背負い? 何を言ってる?


 訳が分からずに祭教授を見ると、小さく顎を動かした。

 それが「逃げろ」と言ってるのだと理解して――


「……クソッ!?」


 ――俺は全力で廊下を走り出した。


読んで頂きありがとうございます!

ブックマーク、評価など頂けると嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

以下のサイトにURL登録しています。

小説家になろう 勝手にランキング


ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ