第一部 12話 足跡
「ちょっと統哉君!? 突然電話しないでよぉ……」
「すみませんね、あかりさん」
犯行現場を線路越しに横眼で眺めながら、俺は警察の情報提供者と連絡を取っていた。内通者とでも言えば良いのか。
川端あかりさん。県警の刑事だが、祭教授に頭が上がらないらしい。
今までも何度かやりとりしており、警察側の情報を教えてくれる。
本人は上司に知られることを何よりも怖がっていた……もっとも、祭教授のパイプは警察の上層部にも及んでいるみたいだが。
「ひとまず現場は見ました。まだ野次馬がいますね。
で? 何か情報は?」
「で? じゃないでしょ!?
祭教授の紹介だからやってるけど、こんなことバレたら……」
「お願いしますよ」
「……はぁ、分かったわよ。後で情報を送る」
彼女は俺の事情も知っていて、その点も含めて協力してくれている。
俺が頼み込むと、渋々といった様子で折れてくれた。
お礼を言って、通話を切る。
踏切の横を通り過ぎると、奏が戻って来た。
「んー、見た限り怪しい人はいなかったよ?」
「……まぁ、そうか。この場合、戻ってくるメリットもなさそうだ」
さて、どうするか……と考える。
見た限り、よく見かけるような住宅地だ。
部活の帰り道だったと聞いている。容疑者は学生らしい。
その点は俺のイメージとは少し違っていた。
スマホが小さく鳴った。
見れば、メッセージが届いている。
あかりさんからだ。容疑者――朝霞の目撃情報があったらしい。
役に立ちそうなのは全部で三件。
一つ目は朝霞の自宅付近。
二つ目は駅前の大通り。
三つ目は『桐山』近くのショッピングモール。
さて、どこに向かうか……。
俺は歩きながら考える。奏がちょろちょろと移動していて鬱陶しい。
自宅の近くは警察も張っているはずだ。
そちらに行く時間はない。後回しだ。
なら、駅前の大通りに行ってみようか。市外に逃げられると厄介だ。
それに、一度は電車で逃げようと駅の様子を見に来るかもしれない。
その後で『桐山』方面だ。山は検問が薄くてもおかしくない。
北部に抜けられる可能性があった。
「……遅かったか」
俺は『桐山』の頂上で舌打ちする。そこには食事の形跡があった。
捨てられた袋を見る限り、パンの賞味期限は今日だったらしい。
検問の場所を知っていたのか?
いや、あるいは……北部に向かっている?
この先にあるのは海と未開発の地域。
海から逃げるのは無理だろう。警察が張っている。
住民に匿ってもらうのも難しいはず……。
「――! 狙いは祭教授か?」
奏を殺した時、アイツは間違いなく能力を使っていた。
祭教授を殺すつもりか、あるいは誘拐か……。
「くそッ! あのまま残っていれば……!」
定期健診を中断したことを心の底から悔やんだ。
俺は悪態を吐くと「奏!」と叫ぶ。
「? どうしたの?」
祠を眺めていた奏が振り返る。
「祭教授の研究室へ先行しろ。
朝霞春を見つけたら、殺さずに捕まえろ」
「うん、分かった」
奏は素直に頷いて、白桐大学へと走り出した。
高速で山を駆け下りながら、何度も振り返って俺に手を振る。
その緊張感のなさに呆れて脱力してしまう。
そして――その人間離れした速さを悲しく思った。
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