第一部 11話 祠と夢
山道を慎重に進んでゆく。
目が慣れても薄暗くて、何とも気味が悪い。
思ったより勾配がきつい。何より道が悪かった。
一応は階段のようになっているが、陸上部で鍛えた足でも息が上がる。
途中、誰とも会わなかったのは、誰も登らないような山なのか。
それとも、時間帯が合わなかったのか。
物音が聞こえる度に震えながら、一時間程度歩いたと思う。
道の先に光が見えて、俺は少しだけ急いだ。
「ん?」
少し開けた場所に出る。
どうやら山頂のようだった。
特に手入れもされていないようで、雑草が伸びている。
しかし、この一帯には木がなくて明るかった。
「……おぉ」
思わず声が漏れる。正面に海が見えた。
大災害の影響で急に発展した、この『風見市』は雑多な場所だ。
中心には山があり、北は海に面しているが未開発地域。
昔ながらの住民が暮らしている。
「だけど……」
今度は後ろを振り返る。一面に広がるのは住宅街だ。
あちこちには川が張り巡らされていて、電車や地下鉄も節操なく増えた。
便利にはなっているが、外から来た住民も多い。
もっとも、俺や奈乃香は昔から南部に住んでいた住民だったが。
「? なんだこれ?」
ちらりと目を向けると、赤い祠がある。
未だに残っているということは重要な意味があるのだろうか?
時間は昼近く。大学へ入るには人目が多い。
夕方くらいまで時間を潰そう。
「……失礼しますよっと」
少しだけ悩んで……いや、悩んだフリをして、俺はこそこそと祠の裏側へと回り込む。そしてその場にゴロンと寝転んだ。
……いや、ちょうど死角になっていたから。
いつの間にか、天気は晴れていたらしい。
しばらく休んでから、俺は買っておいた総菜パンを食べる。
そうすると、何もやることがなくて、眠気がやってきた。
夢を見た。子供の頃、奈乃香を助けた夢だ。
……悪夢だった。
読んで頂きありがとうございます!
ブックマーク、評価など頂けると嬉しいです。




