拾ってきた子
私はよく親に、近所の川から拾ってきた子だと言われた。
今はそんなこと言うと、大騒ぎな世の中かもしれないが、昔はどこのご家庭でも、そんなようなことを言っていたらしい。
同僚の妹さんも、同じようなことを言われて、信じていたらしい。
私はもちろん信じていたクチだ。
そうすると、普通は悩むらしいのだが、私は全く悩まなかった。
私の妄想力は逞しい。
私は本気で、いつか本当の両親が迎えに来ると信じていた。
本当の両親は大金持ちで、金髪で青い目で、お城のようなおうちに住んでいて……。
私の妄想は果てしなかった。
真っ黒な髪と目、どう考えても日本人なのっぺり顔、そして胴長短足の私だが、本物の両親は足が長くて、美形でなはずなのだ。
おまけにとても優しくてお金持ちなのだ。
どうしても私を手放さなくてはならない大人の事情があって、私は今の家に仮住まいしているはずだった。
ちなみに、当時の私にとっては「大人の事情」というは、最終兵器であった。
「大人の事情」とは、なにかとてつもなく難しい大変な、どうすることもできない、という意味だった。
だから「大人の事情」といわれると、納得しなくてはいけないと思っていた。
その「大人の事情」で可哀想な私は、今の家にいるのだ。
いつか必ず本当の両親が迎えに来るはずなのだ。
今の両親に叱られると、さらにその妄想を逞しくしてしのいでいた。
年を重ねるにつれ、両親や親類と、顔や体型がにているということに薄々気がついてきた。
が、それにはあえて触れなかった。
絶対に来るのはずなのだ。
美形で優しくて大金持ちの本当の両親が迎えに来るはずなのだ。
たまに現実を受け入れるのに抵抗していた日々を懐かしく思い出す。
そういえば、私はいつあきらめたんだろうか。