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第9話 全力で俺が止めます

「はあ……緊張する……」


 夜の道を、頼りなく照らす街灯の下で、気持ちを落ち着けようと深呼吸する。


 居ても立っても居られなくて、文都の家に来ちゃったけど、いきなり来たら迷惑だよな。

 理人に焚き付けられたかな……。

 せめて顔見て、お礼だけ言えたらと思ったけど、やっぱり帰ろうかな……。


「先輩?」

「っ!?」


 背後から声をかけられて、思わず体がビクッと跳ねる。

 恐る恐る振り返ると、スポーツウェアを着た文都が、両膝に手をついて、息を整えているのが見えた。

 少し荒い息遣いや、首筋に流れる汗に、ドキドキしてしまう。


「あ、あの……ごめん。いきなり来て……」

「すみません。その前に、俺、汗ヤバいので離れたままでいいですか?」


 俺の方こそ、近付くと匂いに惑わされて何するか分からないから、今はその方がありがたい……。


 顔を上げた文都と目が合う。

 心臓を射抜かれたみたいにドキッとして、言いたかった言葉が出てこない。


「良かった……。もしかしたら、まだしばらくの間、会えないのかもって不安だったので」

「え?」

「もしそうなら、戦線布告しないといけないと思って、体を鍛えてたんです」

「……」


 どうしよう。

 何言ってるか全然分からない。

 分からないけど……。


 10日ぶりにまともに顔を合わせたから、俺の恋人が格好良すぎて、直視できない……!

 さっきから、ずっと顔が熱い。頭もクラクラするし。もちろん、いい匂いもする!

 うう……真剣な目つきゾクゾクする……。

 俺、前から文都のこういう顔、弱いんだよな。

 

「はあ……」


 文都が深いため息を吐いてしゃがみ込む。

 その姿が、たくさん傷つけてしまった事を証明しているようで、胸が痛くなる。


「文都……。ごめん、避けたりして。側にいると、俺の問題にお前を巻き込んでしまいそうで怖くて……」


 本当は、ずっと会いたかった。毎日、お前の事ばかり考えてた。

 こんなワガママ、言っていいのか分からないけど……。


「理由は言えないけど、俺が、また側にいられるようになるまで、待ってて欲しい。ダメかな?」


 夜の静けさを強調するように、沈黙が流れる。


 やっぱり、理由も聞かずに納得できないよな。

 でも、絶対言いたくない。

 血が欲しくて仕方ないなんて。

 嫌われたくないのも理由だけど、文都を絶対俺のものにするって決めた時から、俺は、文都の事を大切にしたいと思っていたから。

 正式に付き合い始めるまで、自分を食欲の対象だと思っていた文都に、そんな本心とは違う事、伝えたくない。


「先輩は、あとどれくらい我慢出来ますか?」

「え……?」

「側にいられるようになるまで、どれくらい待てますか?」


 何で、そんな事聞くんだ?


「本当は、もう我慢できない。今すぐハグしたいけど、怖くて……」

「怖いんですね……」


 文都の冷たい視線の奥に、怒りが見えた気がした。


 文都、もしかして怒ってる?

 こんな冷たい目、初めて見た。


「ごめん……」

「何で先輩が謝るんですか? 先輩は悪くないのに」


 え? こいつ、俺の事情知ってるのか?


「俺も、考えてみたんです。何か方法があるんじゃないかって……」


 文都が立ち上がって、髪をかき上げた。

 いつもの何もかも許してしまいそうな笑顔が向けられる。


 まさか……全部知って……。


「家の中なら、大丈夫なのでは?」

「……」


 知らないみたいだな。

 何だ? その自信ありげな顔。

 勝算8割みたいな顔してるけど、普通にダメだろ。


「屋根が妨害してくれると思うんです」


 屋根ってそんな万能だっけ?


「それか、狭くて暗い場所とか」


 余計ダメだろ。

 感覚研ぎ澄まされるだろ。


「きっとバレないと思います」


 誰に?


「それでもダメなら、俺が直接戦います」


 バトル?

 誰と?

 ところで、お前は誰を敵とみなしてるの?


「どうせなら、色々試しませんか? 先輩が苦しんでいるのに、何もしないなんて有り得ない」

「……」


 文都って、意外と諦めが悪いタイプ?


「でも、俺の問題に、文都を巻き込む訳には……」

「二人の問題です。俺だって、先輩に触れられないなんて、耐えられない」

「……」


 はうっ。

 お、お前、スキンシップ好きな吸血鬼の心を射抜くようなセリフを……。


「で、でも……」

「あ、怖いですよね……? 大丈夫です。もし上手くいかなくて、先輩がまた、ご自分を傷つけそうになったら、その時は……」


 その時は?


「全力で俺が止めます」


 何でだよ!!

 それじゃ俺、正気に戻れないだろ!!

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