表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/50

第5話 可愛いって言われるの、本当はちょっと恥ずかしい

 ホワイトデー翌日の朝。

 俺の家に迎えに来た文都が、玄関に背を向けて立っている。考え事をしているのか、玄関から出た俺には、まだ気付いていない。


 今朝は、文都が昨日くれた服を着ているからか、すごく気分がいい。

 だからかもしれない。普段と違う事をする気になったのは。


「わっ!」


 文都の背中を押して、驚かす。


「えっ?」


 振り向いた文都の驚いた顔を見て、つい愉快な気持ちになった。自然に口元が綻んでしまう。


「びっくりした?」

「はい……。心臓が止まったかと思いました」


 え? 人間ってそんなひ弱なの!?

 うわ〜……俺、気まぐれで恋人を殺しそうになったって事? 


「ごめん……」

「何で謝るんですか? もっとやって下さい」


 文都が、俺の両手を握る。


 何でだよ。

 心臓止まりそうだったくせに、よくそんな事言えるな。


「その服、着てくれたんですね。似合ってます!」

「そう思う?」

「はい! めちゃめちゃ可愛いし、めちゃめちゃ似合ってます!」


 可愛いって言われるの、本当はちょっと恥ずかしいんだけど……。でも。


「俺もそう思う。だって、俺の恋人が買ってくれたやつだから」


 こういう事言うのも、恥ずかしいな。


「……」

「文都?」

「あ、すみません。感情が追いつかなくて」

「……」


 急に驚かしたせいで、感情に支障が?




「昨日のマカロン、おいしかった」

「あ……本当ですか? お口に合って良かったです」

「今度、作り方教えて」

「……」


 文都が、ピシッと音を立てて、石化したみたいに固まった。


 え? 何? その顔。

 顔に、それは予想してませんでしたって、書いてあるけど。


「お前、お菓子作り得意だったんだな。今度、うち来て作らない? 俺の家族、みんな甘い物好きだから、喜ぶと思う」


 パティシエになる夢の為に、恋人として協力してやらないと。俺が場所も材料も、試食要員も確保してやるから、安心して……。


「あ、いえ、それはちょっと……」

「……」


 さては、遠慮してるんだな?


「作れ」

「え」

「遠慮するな。作れ。それとも出来ない理由があるのか?」

「いえ、あの、それは……。先輩? あの、何か気付いてますか?」


 気付いて? 何でそんなに動揺してるんだ? 怪しい……。


「おい、俺に隠し事してる訳じゃないだろうな? 何をそんなに動揺して……」


 ハッ……!

 まさか協力者って、この間、文都を誘惑した、着物が似合う大人のご近所さんなのか!?


「お前、まさか俺に内緒で……」


 変化は突然に訪れた。

 文都の服を掴もうとした時、甘く煮詰めたキャラメルみたいな香りがして、頭の中がグラッと傾くような錯覚が起きた。


 え? 何だ……これ。


「文都、お前、香水とか付けてる?」

「え? 付けてないですよ」

「甘い匂いしない?」

「匂いですか? 俺は、分からないですけど……」


 いい匂いだけど、意識が持っていかれるような危険を感じる。

 何なんだ?

 突然こんな、甘くて、おいしそうな、ゾクゾクするような……。


 匂いの正体を掴もうと集中していると、うたた寝をする時のように、心地よく頭がふわふわとしてきて、集中が途切れてしまう。


 あ〜なんか今、無性に文都の血が吸いたい気分。


「先輩?」

「ハッ……」


 え? 今、意識飛んでた?

 一瞬、欲望が頭をよぎったような。


「あの、先輩……」

「ん?」

「涎出てますけど」

「へっ!?」


 欲望が全面に出てた。


「そんなに、キャラメル生チョコマカロンが食べたかったんですか?」

「違っ……これは……」


 文都が、ポケットから取り出したタオルで、俺の口元を拭く。

 手が近付くのと同時に、甘い香りが強くなった。


 いい匂いの正体、お前かっ!

 でも、急に何で?

 今までも文都からいい匂いはしてたけど、こんな風に強くは感じなかったのに。

 あ〜おいしそうな匂いがする〜……!


「先輩、大丈夫ですか? 顔が赤い気がしますけど……」


 体の力が抜けて、気が緩んだ、だらしない顔になってしまう。

 ほろ酔い気分って、こんな感じかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ