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第40話 文都の無様な姿なんて何回も見てる

「環境への配慮を意識したサステナブルなスイーツを提案致します。オーガニック、ヴィーガン、地産地消、食品ロスなど、様々なテーマがある中で、今回は廃材を新しい素材とする取り組みに目を向けました。チョコレート危機についてはご承知の事と存じますが、環境問題や貧困など、カカオ農家が抱える問題は深刻で、そういった問題を広く知ってもらう為、業界の活性化の為に、カカオの廃材、カカオハスクを使ったスイーツを……」


 ホテル併設のレストランで、文都がスイーツのプレゼンをする。

 兄を含め、強面の大人たちの前にも関わらず、緊張している様子はない。


「亜蘭、どう思う?」


 兄が、同じ並びの端に座る俺に、意見を求める。


「企業イメージの向上にも繋がる提案だと思います。SDGsの特集として取り上げられれば、話題になりますし」


 俺、審査員側なのか。


「さすが俺の亜蘭。的確で無駄のない意見だ」


 職場で、大した事ない身内の意見を褒める上司って最低だな。

 俺のって何だ。俺のって。

 それにしても……。


 文都と、兄の顔を交互に伺う。


 文都も兄も普通だよな。あの後、何も言ってこないし。やっぱり、何もなかった?


「カカオハスクの食感を活かして、ガナッシュ、チョコムース、オレンジムース、キャラメルソースを組み合わせました。段々と気温の上がるこれからの時期にも、爽やかに味わう事ができます」


 俺たちの前に、ショコラオランジュの飾られた、きれいな層のケーキが並んでいる。 


 これが、文都の考えたスイーツ。


「すごくきれい」


 だけど……。

 

 文都の隣で、細身のスーツをきっちりと着こなした鬼ケ原伊織が、俺に向かって微笑んだ。


 これを作ったのが、鬼ケ原伊織じゃなかったら、最高なんだけどな……。


「社長、特別にお招きした外部の方ですが、到着までもうしばらくかかるそうです。お待ちになりますか?」

「いや、予定通りで構わない」


 俺の隣に、一人分の空席がある。


 後から来る奴がいるのか。


「それではご試食下さい。忌憚ないご意見をお聞かせ願います」


 無反応な兄を除いて、審査員の大人たちは上々の反応を見せた。


「高校生が作ったとは思えない」

「アイディアもさる事ながら、技術が素晴らしい」

「ありがとうございます!」


 おい、何嬉しそうにしてるんだ。

 作ったのは鬼ケ原伊織だろ。


「亜蘭くん、悔しいですか?」


 鬼ケ原伊織が、俺だけに聞こえるように耳元で囁く。


「俺と甲斐文都さんの共同作業が誉められて」

「なっ!?」

「甲斐文都さんも沢山努力されていたんです。俺の家で。技術的な部分は、すぐに身につくものではありませんから、仕方ありません。俺は作っただけで、その他は全部、甲斐文都さんが考えたんですよ? 俺の家で。だから沢山、誉めてあげてくださいね」


 こっ……このっ! 俺を挑発してるな!?

 ムカつくムカつくムカつく!!!


「甲斐文都さんの恋人が無理をさせるので、俺は心配で……。先日は貧血のご様子でしたので、俺の家で仮眠を……」

「何!?」


 突然、大声を出した俺に、全員の視線が注がれた。


「亜蘭、どうした?」

「い、いえ……何でもありません」


 クッソー……相変わらず、油断できない奴!

 でも俺が無理をさせた事は事実だから、言い返せない……。


「調理過程を見せてもらいたい」


 これまで無言を貫いていた兄が、文都にそう言った。


 本当に文都が作ったか疑ってるな?

 マズいぞ。目の前で作れって言われたら、文都の嘘がバレて殺される。


「あの、それなら俺が代わりに……」

「では、こちらをご覧下さい」


 俺の発言を遮って、鬼ケ原伊織がタブレットを取り出した。

 文都が作っている様子の動画が流される。


「先日、甲斐文都さんの許可を得て、録画させていただきました」


 いや、これ……手元の映像、文都じゃないじゃん! 俺には分かるぞ! 文都の手じゃない事!


「まさか、本当にこれを作っただと……? チッ亜蘭の前で、無様な姿を晒すつもりが……」


 兄の聞き捨てならない発言が、俺の方にまで聞こえてくる。


 ちなみに、文都の無様な姿なんて何回も見てるから、今更何も変わらないぞ?

 今も中々、無様だし。


「才能溢れる若い世代、頼もしいですね」


 よく言うよ鬼ケ原伊織。

 動画編集もできたのかよ。

 一体お前は何が出来ないんだよ。

 はぁ……文都のピンチを切り抜けたのに、何だかモヤモヤするな。

 ただでさえ、したのかしてないのかでモヤモヤしてるのに。


「すみません、遅くなりました」


 俺たちの前に、遅れてきた審査員が姿を現した。


「よかった。まだ終わってないみたいですね」


 白に近いホワイトブロンドに、青みがかったグレーの瞳。吸血鬼らしい、美しい顔立ち。

 見覚えのある姿に、目が離せなくなる。


「お前、あの時の……」


 俺の隣に立った吸血鬼が、あの時と同じように、どこか冷たさを感じる笑顔を浮かべた。


「また会えて嬉しいよ。日ノ岡亜蘭くん」

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