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第4話 俺の恋人、世界一格好いい

 服を見に行きたいという文都の為に、カフェ近くのショップに。


 何だ、この教科書(恋愛漫画)通りの展開。めっちゃ楽しい。あ〜服を選ぶ俺の恋人が格好いい〜……。


 真剣な顔で服を選ぶ文都を、少し離れた位置から見守る。


 それにしても熱心に選んでるな。俺を放っておいてまで、何をそんなに真剣に……。


 文都が、四角いニット帽に触れた。


「……」


 それって、あれだろ? 被るとねこ耳になるやつだろ? はっきり言った方がいいのかな? お前はそれじゃないって。でも、そんな事言ったら、人のファッションに口出しする、めんどくさい恋人だよな……。


「それ、買うの?」

「え?」


 文都が戸惑った顔を俺に向ける。


「いや、さすがにこれは……。好きですか? こういうの」


 好きですか?って聞かれても……。


「あの……文都、それは……」

「似合いそうですけど」


 自分で言う?


「すみません、忘れて下さい。こんなの被ったら、可愛すぎて、さすがに死にます」


 え〜……!? すごい自信〜……。 あ〜でもシュンとしてる〜……! い、言えない……! 似合わないって、絶対言えない!


「……買ってあげよっか?」


 ああ〜……俺のバカ〜……。


「いえ、違うのにします。やっぱり服がいいなと思って……」

「あ、そ、そうだよね。服選びに来たんだから、服がいいよ」


 よ、よかった〜……。

 恋人とのショッピングって、予想以上にハラハラする……。


 文都が、手に取った服を広げる。

 オーバーサイズのジップアップパーカー。制服に合わせても着られそうなシンプルなデザイン。色はグレーで、胸と袖の所にブランドのロゴが入っている。


 韓国のユニセックスブランド。


「これはどうですか?」

「かわいい」

「じゃあ、これにします」


 俺が着たら、オーバーサイズでちょうどいい感じだけど、文都が着るのに、そのサイズでいいのかな? まあ嬉しそうだし、それが気に入ったなら……。


「俺、買ってあげるよ」

「いえ。俺が買わないと意味がないです」

「え?」

「これは先輩へのプレゼントなので」

「……」


 え? え? えーーーーーっ!!?




 俺の家の前で、ショップのロゴが入った紙袋を文都から受け取る。


「みんなではお祝いしましたけど、期末テストの勉強とか、デートに誘うには気が引ける時期だったのもあって、先輩の誕生日、個人的にお祝い出来てなかったので」

「……」


 やばい……嬉しすぎる……。

 え〜……人間ってこういう事しちゃうの?

 うわ〜心臓がキュッてなる……何なんだこれ……。


「それと……」


 まだ何か!? 


 リュックから取り出された、小さな紙袋。くすみカラーの淡いグリーンに、グレーのリボンで出来た持ち手が付いている。


「ホワイトデーなので、お菓子を作りました」


 え?


「手作り?」

「はい。協力者に手伝ってもらったので、味も見た目も大丈夫です。今日中に召し上がって下さい」

「え、え」


 うわ〜〜〜〜〜。

 ウソウソ何それ涙出そう。

 ウワァーン!


「ありがとう……嬉しい。味わって食べる。服も、大事に着るから。あっ……明日着る!」

「先輩に喜んでもらえて、俺も嬉しいです。今日は、先輩と放課後デートできて光栄でした」


 文都が、名残惜しそうに俺の髪を撫でる。

 目が合うと、何もかも包み込んでくれそうな笑顔で、文都が笑った。


「じゃあ、また明日」




 あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!

 俺の恋人、世界一格好いい……!


 ベッドにうつ伏せで寝転び、足をバタバタする。


 しかも俺、さりげなく家まで送られてるし! これが普通の恋愛? 人間やばいな! あ〜〜〜〜〜明日絶対この服着ていく。


「お菓子まで貰っちゃった」


 うつ伏せのまま、淡いグリーンの小さな紙袋に手を伸ばす。


「……」


 何かこのラッピング、文都っぽくないような……。センスが洗練されてるっていうか……。いや、俺は何を考えてるんだ。


 起き上がって、中を確認する。

 リボンでラッピングされた、透明の窓付きの箱に、素人が作ったとは思えない、完璧なビジュアルのマカロンが入っている。


 え? これを作った? 文都が?

 前に手料理振る舞われた時、フライパンの上で野菜切ろうとしたり、カレーに斬新な隠し味を繰り出そうとしてた奴が?


「……」


 箱からマカロンを出して口に運ぶ。

 サクッとした食感、やわらかい口溶けと、キャラメル風味の濃厚なガナッシュが、口の中を甘い幸福感で支配する。


「へぇ……」


 お菓子作りだけは天才的にうまいのか?

 いや、協力者に手伝ってもらったとか言ってたな。文都、もしかして……。


「あいつ、将来パティシエになりたいのか?」




 第4.5話 可愛いで世界を征服しよう


 ホワイトデー当日。

 先輩に、服とお菓子のプレゼントを渡し、帰宅してお風呂に入る俺。


「はあ……」


 俺の恋人、何であんなに可愛いんだろう……。


 シャワーで、熱めのお湯を頭から被る。


 先輩と放課後デートしてしまった。

 ショートケーキを食べる先輩、服を選ぶ先輩、プレゼントを渡されて驚く先輩。

 あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜何でそんなに可愛いんですか?

 隙あらばベタベタするし、許されていると誤解してしまいそうな発言するし。

 上目遣いの視線を向けられただけでも、ドキッとするのに、どれだけ俺を弄べば気が済むんですか?

 可愛いで世界を征服しようとしてるんですか?


「ああ、もう……本当に天使みたいにかわ……」


 可愛すぎる恋人に浮かれる俺に、実は天使だった先輩が、天国に連れ戻されるという不安がよぎる。


「……」


 ハッ……また俺は、先輩が天使だという心配を……。

 きっと幸せすぎるから、不安になるんだ。

 理人も言ってただろ? 先輩は吸血鬼。俺の血が好きな……。もう3週間血を吸われてないけど。


「……」


 大丈夫大丈夫、たまたま血に飢えてないだけ! きっと近々、血を吸わせて欲しいって先輩から……。


 俺の脳内で、頰を赤く染めた先輩が、俺におねだりする。


「文都のじゃないと満足できない。俺にちょうだい。お願い……欲しい……」


 何その意味深なセリフ。

 落ち着け俺〜〜〜!




 お風呂上がり、ホワイトデーの協力者、鬼ちゃんさんに、お礼の電話をかける。


 音春君、どうなったかな? ピリピリしてたから、心配。


「こんばんは。甲斐文都さん」

「あ、鬼ちゃんさん。昨日はありがとうございました! おかげで無事にお渡しして、喜んでいただけました」

「それは良かったです。俺も、俺の好きな甲斐文都さんと、お菓子作りができて楽しかったですよ」


 何だろう、精神的ダメージが……。


「あ……音春君はどうなりました?」

「ええ、ご両親に事情をお話して、しばらくここに居ていい事になりました」


 えっ。そうなんだ。穏便に済んで良かった。実は柔軟なご両親だったのかな?


「彼、やはり、製薬会社の御令息でした」


 やはり?


「珍しいお名前なので、もしかしたらと思っていたのですが。小規模ながら歴史は古い製薬会社です」

「……」

「吸血鬼向けの新薬の開発をしているそうで、会社から金銭面での協力を匂わせた後、音春君の事をお話しまして。弊社の社長には、音春君の事は内密にするとお伝えしましたら、スムーズな回答を得られました。身内の恥を晒したくなかったのでしょうね」


 怖いな。この人。


「鬼ちゃんさんって、もしかして捨て猫とか放っておけないタイプですか?」


 自分にメリットないのに、他人の為にそこまでしてあげるなんて、空気は読めないけど、根はめちゃめちゃやさしい人なんじゃないかな。


「そうかもしれませんね。猫、かわいいですから」

「大丈夫ですか? 急な事で何か困ったりしませんか? 俺にできる事があったら、何でも言ってください」


 順調だった会話に、ふいに沈黙が訪れる。


 あれ? 通話切れた?


「鬼ちゃんさん?」

「ふふっ。君を心配する亜蘭くんの気持ちが分かります」


 どゆこと? この会話の流れで、何故先輩の話に?


「俺が心配ですか?」

「心配……? そ、そうですね?」

「大丈夫です。音春くんのような若い子に、気を移したりしませんよ。俺は、甲斐文都さんが好きです」


 音春君、俺と一個違いですけど……。

 あと、俺は先輩が好きです。


「まあ、そのうち飽きて出て行くでしょうし。それに、何か秘密があるようで気になるので」

「音春君、吸血鬼っぽくないですもんね」

「本来、純血であれば能力が高いはずなのですが」


 へえーそうなんだ。

 俺、吸血鬼について、まだ知らない事が多そう。

 もう二度とすれ違う事なんてないとか、心の中で誓っておきながら、これじゃ先が思いやられるな。

 この機会に、音春君と仲良くなって、吸血鬼の事、もっと詳しくなりたいな。


「俺は、音春君が血に興味を示すまで、人間だと思ってました」

「人間……。そうですね、確かに人間のようです」

「近いうちに、理人と一緒に、音春君に会いに行きますね」


 年近いと話しやすいかもしれないし。

 懐いてくれるか微妙だけど。


「それは俺が嬉しいですが、そうしなくても、もうすぐ会えるようになりますよ」

「え?」

「彼、4月から、君と同じ学校の生徒になりますから」

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