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第36話 ワァーーーッ!!!

 週末の夜。

 文都と、俺の家族で食卓を囲む。

 俺達の関係に好意的な、姉とじいちゃんと四人で、和気あいあいと食事するはずが……。


「どうしてここに? 試食は明日ですよね?」


 俺の向かい側に座る兄に、嫌味を言う。


「文都のお兄さんとのルームシェア先、すぐ近くですから、食事したら帰られますよね?」

「何を言っているんだ、亜蘭。ここは俺の家でもあるんだぞ?」


 つまり泊まる気なんだな?


「どうして急に……」

「希惟くんは、文都くんの邪魔したいみたいだよぉ」


 姉が、俺の疑問にあけすけに答える。


「邪魔……?」

「文都くんと亜蘭くんがイチャイチャするのが気に入らないみたいで、お泊まりするって聞いたら予定変更して来ちゃったの〜。そのせいで、希惟くんの予定にじいじが代わりに出席する事になっちゃって〜」


 なんだと?

 それで、じいちゃんがいないのか。


「イチャイチャだなんてそんな」


 文都、そこは照れる所じゃないぞ。


「お祖父様に会えないのは残念ですが、先輩の素敵な家に泊まらせていただけて、すごく嬉しいです」

「文都くんなら、いつ来てもOKだよぉ。じいじも文都くんに会いたがって……」

「おい人間、調子に乗るなよ」


 兄が、空気を凍らせるような一言を放つ。


「亜蘭はまだ甘えたい年頃なんだ」

「はい! 俺も先輩にたくさん甘えていただけるように……」

「貴様じゃない、お兄ちゃんにだ」


 俺の脳内で、お兄ちゃんというワードがエコーがかかったように響く。


「「お兄ちゃん?」」


 文都と姉が、キョトンとした顔で兄を見た。


「亜蘭が先日、俺の事をおに……」

「ワァーーーッ!!!」


 俺がプライドを捨てて、お兄ちゃんと言った時の話ー! 文都の前で俺の痴態を晒すな! ていうか絶対誰にも知られたくない!


「先輩?」

「亜蘭くん?」


 ま、マズい……早く話題を変えないと……。


「そういえば〜」


 タイミングよく、姉が俺に話しかける。


 よし、いいぞ! そのまま俺がお兄ちゃんと言った話から遠ざけてくれ!


「亜蘭くん、もう大丈夫なの〜? ついこの前まで、文都くんの血を吸いた……」

「ワァーーーッ!!!」


 血が吸いたくて仕方なくなっちゃう事、文都に事情話して、誤解がないようにした方がいいかもって言われてたんだった。でも言える訳ないだろ!? だからそれは、文都の前で絶対絶対言っちゃダメなやつ!


「先輩?」

「亜蘭?」


 マズいマズい! もう兄と姉は話すな!

 早く別の話題!


「そういえば、お二人は驚かれましたか?」


 俺の心情を察したように、文都が兄と姉に向かって話しかける。


 さすが俺の彼氏ー!


「よくある事なんですか? 吸血鬼がしん……」

「ワァーーーッ!!!」

「お二人も心配ですよね。まさか先輩が、てん……」

「ワァーーーッ!!!」


 それは、この二人の前で、絶対絶対絶対言っちゃダメなやつ!!

 吸血鬼が天使に進化したなんて聞かれたら、色々終わる!


「亜蘭?」

「亜蘭くん?」


 マズいマズいマズい! なんだこの状況!

 何でこんな事に!?


「先輩、まさかご家族にお話してないんですか?」

「文都、その話は後で」


 必死で笑顔を作り、平静を装う。


「でも、天国の使者が先輩と接触したばかりなのに」

「だからその話は……」

「先輩を油断させて天国に連れ……」

「ああもう!」


 文都にキスをして口を塞ぐ。


「!」

「わぁお。亜蘭くん情熱的〜」


 もう話すな!


 唇を合わせたまま、ピンチを乗り切る方法を考える。


 どうしよう、どうしよう! 文都と姉と兄が一緒にいるとダメなんだから……。


「そうだ! 文都! 一緒にお風呂入ろ!」


 二人きりになれば問題ない!

 俺って頭いい〜!


「え? ご飯食べたばかりですけど、大丈夫ですか?」

「大丈夫! 早く早く!」

「亜蘭! それは許さない!」


 え?


 兄が、厳しい声で俺を戒めた。


「な……どうしてですか?」


 俺達、付き合ってるんだけど。


「穢らわしい人間が、亜蘭の事を嫌らしい目で見るかと思うと殺意が湧いてくる」


 兄が額に手を当てて、ため息を吐く。


「なっ……何言ってるんですか!? い、嫌らしい目って……。文都に失礼な事、言わないでください!」

「大丈夫ですよ。実の兄から、似たような事よく言われるので慣れてます」


 いや、怒っていい所だぞ?


「希惟くんは、弟離れができつつあったのに、急にどうしちゃったんだろうねぇ? 何かブラコンが加速するきっかけがあったのかなぁ」


 まさか、俺がお兄ちゃんって言ったせいじゃないよな……?




「じゃあ、俺が希惟さんの背中を流させていただきます」


 文都が衝撃の一言を放つ。


「え!? 何で!?」

「先輩、俺は先輩のご家族に気に入られたいんです。先輩と末永くイチャイチャできるように」

「家族目の前にして、よく正直に言えるな」


 俺、文都とお風呂入るの楽しみにしてたのに。

 まあでも、兄が文都とお風呂に入るはずないだろうから……。


「来い、人間」

「え!? 何で!?」

「いい機会だ。その腹の内を暴いて、亜蘭に相応しい男か見定めてやる」

「バスルームでやる事ですか!?」


 ええええ何でこうなるんだよ!?

 俺と文都のバスタイムが……。




 バスルームの前で、聞き耳を立てる。


 気になって仕方ない!

 俺がお兄ちゃんって言った話とか、進化して天使になったとか話してないだろうな?


「気になる所ありますか?」


 文都の明るい声がバスルームに響く。


 本当に背中流してるのか?

 羨ましい。俺も文都に髪とか洗ってもらいたい。


「怪我をした時に、先輩がお弁当を作ってくれたんですけど……」


 思ったより楽しそうにしてるな。


「先輩が作る卵焼き、フワフワですっごくおいしくて……」


 不意に褒められてキュンとする。


「そんなに気に入ってくれてたんだ。またお弁当作ろうかな……」

「おい人間、俺を挑発してるのか?」


 兄の鋭い声が、俺の体を硬直させた。


 何で怒ってるんだ!?


「許せない! 俺もまだ食べた事のない亜蘭の手料理を……! それも、お弁当だと!?」

「すみません! そうとは知らず、俺は配慮に欠けた事を……。俺から先輩に頼んでみますか? きっと作ってくれると思います!」


 作る訳ないだろ。


「遠慮してるんだと思います。大好きな希惟さんの為に、先輩が作らないはずありません」


 作らないからな?


「大好きな俺の為に、亜蘭が……」


 それは文都の妄想だからな?


「先輩のお弁当を一緒に食べましょう。お兄さん」


 お兄さん……?


「貴様の兄になった覚えはない!!!」

「ヒィッ」


 何かが投げつけられたような音と、文都の悲鳴が響く。


 全然楽しそうじゃなかった!


「文都!!」

「俺は、貴様を亜蘭の恋人だとまだ認めてないからな!?」

「大丈夫です! 一生をかけてでも必ず認めてもら……」


 バスルームのドアを開けた瞬間、床に押し倒された文都と、文都の髪を掴む兄が目に入ってくる。

 二人の目が、同時に俺を見つめた。


「先輩!?」

「亜蘭!?」

「俺の文都に、何してるんですか……?」

「これは……今、髪を洗おうとして……」

「そうです先輩! 今シャンプーして下さってたんですよ!」

「へぇ……。仲良さそうだな?」

「そうなんです! 仲良くさせてもらってます! ね!? お兄さん!?」

「お兄さんだと!?」

「文都、お前分かってないな」


 服を脱ぎながら、低い声で呟く。


「え? あの……先輩……?」

「お前が兄にやられるのも腹立たしいけど、仲良くされるのも気に入らない」


 服を全部脱いでバスルームに入ると、文都が沸騰したお湯をかけられたみたいに、真っ赤に染まった。


「お前、俺に服脱ぐの慣れた方がいいって言ったよな?」


 床に押し倒されたままの文都の前に座って、顎に触れ、顔を俺に向ける。


「お前も慣れたら? 俺の体見るの」

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