第35話 チョロい先輩
「人気が少ない道は避けて。知らない人に誘われてもついて行かない。具合が悪いふりして、家に上がろうとする人もいるから気をつけて」
理人のスマホに、子供向けの不審者対応のページが表示されている。
これは一体……。
「お前、俺の事バカにしてるだろ」
「先輩、道案内お願いされて、知らない人の車乗っちゃいそうだし、犬が迷子だからって言われて人気がない所連れて行かれそうだし、お金貸してって言われたら素直に貸しちゃいそうだし……」
「それの何が悪いんだ」
「世の中には、親切心につけ込む悪い人がいるんだよ」
「バカだな。騙されたと気付いた時点で、全員ぶん殴れば解決するだろ」
「俺が言うのも何だけど、拳で解決しようとしてる方がバカだよ。大体、薬のせいで弱々なんだから」
本当にお勉強させられるとは。
「先輩は危機管理の意識が低すぎるよ」
「そうか?」
「日頃から備えておかないと」
「まあ、確かに」
「災害があった時に、居場所が分かって安心なアプリとか入れておく?」
「入れる」
促されるまま、スマホを手渡す。
「そういえば先輩って、甲斐くんの事が気になる割には、GPSアプリとか使わないんだね」
俺のスマホを操作しながら、理人が疑問を投げかけた。
「浮気が気になって使う人いるじゃん」
「考えた事もなかった」
「あはは。まあ、先輩らしくていいんじゃない? 監視されてるみたいで良い気持ちしないし。勝手にインストールするのは禁止されてるから、了承の上でダウンロードしないといけないしね」
「ふ〜ん」
「他の口実を理由にして、自発的にインストールしてもらう手もあるけど」
「そんな手に引っかかるか? チョロすぎるだろ」
「ふっ……だよね……」
何で笑ってるんだ?
「はい、終わったよ。これで安心」
「サンキュ〜」
文都にも後で教えてあげよう。
災害があった時に、居場所が分からないと困るもんな。
「先輩は、今まで危険な目に遭った事ないの?」
「バスの中で酔っ払いに顔叩かれたことはあったけど、傷はすぐ治ったし、関節きめて捻じ伏せたから問題ない」
「何が問題ないのか、まるで分からない」
そのおかげで文都と会えたんだから、逆に感謝しないとな。
「吸血鬼の力が弱まってるって事は、今は傷も治らないんじゃないの?」
「まあ、怪我しなければいい事だし」
理人が呆れたように、ため息を吐く。
「先輩が弱々で傷がすぐに治らない事、甲斐くんは知ってるの?」
「知らない」
キスマークには戸惑ってたけど。まだ、気付いてはいないと思う。
「その薬飲み続けるなら、内緒にしておいた方がいいかも」
「何で?」
「天使に進化した先輩が、天国に連れて行かれるって会合開くほど心配してるのに、余計心配の種が増えて面倒だから」
「会合……?」
だから何であいつは、俺が天使だという妄想に取り憑かれてるんだ?
「強くてチョロい先輩が、弱くてチョロい先輩になるなんて。はぁ、心配しかない……」
「おい! チョロいって何だ!」
俺はチョロくないぞ!
「週末、お泊まりって言ってたけど、大丈夫なの?」
「何が?」
「甲斐くんに薬飲んでる事、バレないといいね」
「ハッ……」
「……気付いてなかったの?」
そして迎えた週末。
俺は、文都との時間を取り戻した事で、気が緩んでいたのかもしれない。
まさか、自分のついた嘘や行動が、こんなピンチを招く事になるなんて、考えもつかなかった。




