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第33話 ガチで泣いてる

「場所は住宅街で、主婦とか子供連れをターゲットにした小さなお店から始めるのがいいと思うんだ」


 放課後、理人と一緒に、不動産屋の店頭に貼られた物件情報を眺める。


「先輩、まさかとは思うけど、甲斐くんへのご褒美って……」

「文都のお店をプレゼントしようと思って」

「気が早いよ!」


 俺の隣で、理人が驚きと呆れが共存したような顔をした。


「理人、お前はどう思う?」


 俺一人で来ても良かったんだけど、一応他の意見も聞いておきたいから。


「1人から2人で経営するなら、10坪くらいでいいと思うんだけど……」

「ご褒美は他のものにしなよ」

「え? 何で?」

「こんなの普通じゃないよ。こんな事されたら、甲斐くんだって引くって。してもらって嬉しい範疇を超えて、もはや迷惑だし。今まで迷惑だって言われた事なかったの? 大体先輩は、甲斐くんの事になると盲目的だから……」


 理人の言葉の槍が、俺の心に深く突き刺さる。


「え……め、迷惑……?」

「うん。正直言って、重すぎ」

「重っ……」

「執着心強くて、すぐ嫉妬するし、所構わずベタベタするし、先輩ってメンヘラっぽいよね〜。嫌われるよ?」


 嫌われる?


 自然に視線が地面に向かって、下向きになる。


「あれ? 先輩、拗ねちゃった?」

「拗ねてない。文都が嫌がりそうな事が知れて良かった」


 俯いたまま不動産屋を後にして、トボトボ歩く。


「先輩? どこ行くの? そっち帰り道じゃないでしょ?」

「もういい。お前に用事無くなったから付いてくるな」

「ごめんごめん、言い過ぎちゃった。そんな事言わないで。ご褒美何がいいか、一緒に考えてあげるから」


 理人が俺の肩を掴んで、俺の行き先を変えた。


「何か奢ってあげるから、おいしいものでも食べながら考えようよ……って」


 理人を、涙が溢れる目で睨む。


「ガチで泣いてるじゃん」

「うるさい!」

「あ〜あ〜甲斐くんの事になると、本当にナイーブなんだから……」


 文都が喜ぶかと思ったのに、迷惑だった?

 ベタベタしてる? 普通だよな。

 嫌われたくないけど、俺、何が重いのか分からないし……。


「かわいいね」


 理人が、涙が滲む俺の目尻にキスをした。


「おい! やめろ!」

「だって、先輩の泣き顔大好きだから」


 こいつ、最低だ。

 最低の変態だ。


「大丈夫だよ。甲斐くんに振られたら、俺が慰めてあげるから」

「殺すぞ?」




第33.5話 俺の呪われた右腕


「ピンチです」

「ピンチですか」


 鬼ちゃんさんの家で、安定生産される溶岩を前に、頭を抱える。


 地獄の審判の時が、まさか今週末とは。


「俺はてっきり、あと3ヶ月くらい猶予があるものかと」

「甲斐文都さんのレベルでは、あと3年あっても足りないと思いますが」

「俺の呪われた右腕のせいで、溶岩が出来てしまう」

「厨二病ですか」

「いっそ、斬新なスイーツとして、希惟さんに試食して頂くのはどうだろう」

「殺されると思いますよ」


 ああああああこれは大変な事になったぞ。

 先輩や希惟さんの前で溶岩を作るの?


 俺に蔑むような目を向ける希惟さんと、失望する先輩の顔が頭に浮かぶ。


「希惟さんに殺されるのは仕方ないとして、先輩の期待を裏切るのは避けたい」

「命よりも、亜蘭くんの期待に応える事が大事ですか」

「はははザマァねえな」


 学校の勉強をしていた音春くんが、口を挟む。


「亜蘭くんと、亜蘭くんのお兄様の前で恥かいて、潔く振られてこい!」

「音春くん……」

「そしてオレが亜蘭くんと付き合う!」

「その問題、計算式間違ってるよ。教えてあげようか? ここがこうなって……」

「うぉい! 俺はライバルに値しないってか!? 舐めやがって!」


 俺の胸ぐらを掴む音春くんを、鬼ちゃんさんが手刀でいなす。


「ウッ!」

「甲斐文都さん、ここは一つ、俺に任せてくれませんか?」

「鬼ちゃんさん?」

「俺が、何とかして差し上げます」

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