第32話 溶岩みたいなスイーツ
「お前らのせいで、昼休みもう終わっちゃうだろ」
「亜蘭くん! オレちゃんと理由があって来たんですけど……」
音春が、自分には非がないことを主張する。
「何?」
「亜蘭くんの体調を確かめに来ました!」
「え? 別に俺、元気だけど……」
「天使に進化したなんて、初めての事例なんで! 亜蘭くん、マジで神秘っすね!」
「……」
あれ? 何でこいつまで、天使に進化したと思ってるんだ?
「ほんとそれ、びっくりだよね。まさか先輩が、吸血鬼から天使に進化するなんて。ついこの間まで、甲斐くんの血が大好きだった先輩が、天使に進化」
「……」
理人が笑いを堪えながら同意する。
お前まで何故その情報を……。
音春は本気だけど、理人は俺の吐いた嘘だと気付いてて言ってるな?
「音春、とにかく必要ない。俺の体調に変わりはない」
「でも……薬の副作用で天使にな」
「え? 先輩、薬飲んでるんですか?」
文都が音春の言葉を拾う。
ギクッ。
このバカ!
文都の前で薬の話を出すな!
「どこか悪いんですか?」
「わ、悪くないよ? どこも! 全然元気なんだけど、ただちょっとサプリ飲んでて……」
「サプリ? それって何の……」
「音春! 健康観察! 昼休み終わっちゃう!」
早くこの話題から離れないと!
文都の血が吸いたくて仕方なくて、薬飲んだって事がバレる!
「じゃあ、失礼します」
「うん」
音春が、俺の腕を取って脈拍を測る。
まあ、別にどこも悪くないから、いくら確かめられようが構わな……。
「ヤバい」
「え?」
音春が深刻な声を上げた。
空気が張り詰めて、緊張感が高まる。
「亜蘭くん、ちょっと服捲ってもらってもいいすか?」
「う、うん……」
薬の副作用で何かあったのかな?
俺、自分では何も感じないけど……。
やだな。これで薬飲めなくなったら、また文都と距離保たないといけなくなる。
外気に晒されたお腹に、音春が触れる。
「もうちょい、上まで……」
「おい、どこか悪いなら、はっきり言えって……」
「ハァ……ヤバい」
やっぱり、薬の副作用が……。
「亜蘭くんの肌スベスベ。白くて、柔らかくて……舐めたら甘そう。腰細くて超エロい。ハァ……亜蘭くんとお医者さんごっこできるとか、最高……」
「……」
「ハッ! これは亜蘭くんの健康観察が目的で、役得とか全く思ってないっす!」
「心の声全部出てるんだよ音春。先輩から離れろ変態!」
理人、そういうお前も変態だけどな。
全く、せっかく文都と普通の恋愛を楽しんでるのに。学校じゃ、あまり二人きりになれないな。
あ、そうだ。
「文都! いい報告があるんだ!」
「え? 何ですか?」
俺のプライドを犠牲にして、兄から手に入れた約束!
「兄がスイーツの試食してくれるって!」
しんと静まった屋上に、爽やかな風が吹く。
「希惟さんが、試食を……」
ふふ。文都、驚いてる。
プライドを捨てた甲斐があったな。
「ついに、試される時が……」
「甲斐くんに訪れる、地獄の審判の時」
「文都、すごい真剣な顔。スイーツにかける情熱が半端ない。俺が必要な物は何もかも用意するから、安心してスイーツ作りに専念……」
「先輩が相変わらず、盲目のダメ男製造機」
文都、どんなスイーツを考えてるんだろう。文都の事だから、前衛的で、独創的かつ繊細で、まるでアートのような……。
「今、どんなの作ってるの? 俺もちょっとだけ知りたいな〜なんて……」
出しゃばっていると思われないように、笑顔で愛嬌を振り撒く。
「甲斐くんは今の所、溶岩しか作ってないよ」
「溶岩?」
「溶岩みたいなスイーツです! みたいな!」
「へ〜さすが文都! 前衛的〜」
「あれを前衛的と言っていいのか……」
理人、お前どこかで文都のスイーツを見たような言い方だな。
「先輩、ところでお約束はいつ頃ですか?」
「今週末」
「こっ……!? 今週末ですか!?」
「うん、早い方がいいと思って。そうだ。前日お泊まりして、うちで作ったら?」
「お泊まり……先輩の家……」
文都が複雑な顔をする。
「甲斐くん、公開処刑が決まったね」
「公開処刑?」
「ぜひ! ぜひそうさせていただきます!」
「何で理人の口を押さえてるんだ?」
さっきから挙動不審だぞ?
ま、いつもの事か。
「終わったらご褒美あげるよ」
「先輩が、ご褒美を?」
「うん。文都ずっと頑張ってたから」
実はもう、文都へのご褒美考えてあるんだ。




