第21話 何で俺の名前知ってんの?
「あ〜向井がしつこいせいで、こんな時間に……」
急いで文都の家行かないと。
夕暮れ時、沈んでいく日の光を背中に受けて、長く伸びる自分の影を追いかける。鉄分補給のドリンクが入った、コンビニの袋を腕に下げて。
初めて文都の血を吸った時の事、思い出すな。
あの時もがっついちゃって、後で鉄分補給のドリンク持って、文都の家に謝りに言ったんだっけ……。
お詫びも兼ねた差し入れ、喜んでくれるかな。
文都の家の玄関先で息を整え、チャイムを鳴らす。
「……」
呼び鈴に、返事はない。
誰かが玄関のドアを開ける気配もない。
あれ? 留守?
「文都、お菓子作りするって言ってたから、てっきり家にいるのかと……」
あいつ、どこで作ってるんだ?
肩を落としつつ、文都の家を後にする。
図書館で会った時に、もっと話せばよかったな……。
昨日会ったばかりで、さっきも会ったのに、もう恋しい。
文都と一緒にいる時間が、全然足りない。
昨日みたいに、ハグして、キスして……そしたら満たされるのかな?
どうせまた、触れたら酔っ払いになっちゃうんだろうけど。
「それにしても、一体どこでお菓子作りを?」
教室にでも通ってるのかな?
「……」
まさか、ご近所さんの所で!?
俺の想像上の文都が、大人の色気を感じさせる女性と並んで、キッチンに立つ。
「あーくんって、付き合ってる子いるの?」とご近所さんが聞く。
冷たい表情の文都が、
「自重ができなくて、我慢できないので別れました」と淡白に答える。
「……」
あ、文都は、そんな事言わない!
い……言わないよな?
不安が募って、涙目になる。
昨日も、甘えてくださいって言ってくれたし。
でも、自重していただかないとって……。
「……グスッ……」
ご近所さんって事は、この近くに住んでるって事だよな?
ど、どこだ? 文都をたぶらかす、着物の似合う大人の……。
色を失っていくような黄昏時、植え込みの影から光が差した。
柔らかい色味の金髪。長い襟足を残して、ハーフアップにした、限りなく白に近いホワイトブロンド。
青みがかったグレーの瞳。
派手な模様が描かれた、黒いジャージの上下。
広い二重幅のツリ目が印象的で、喧嘩を売るような顔つきでも、整った顔立ちだと分かる。
「え、吸血鬼じゃん……」
年齢は俺と同じくらい? それか年下?
ヤンキーみたいな格好してるな。
この界隈に、俺の家族以外の吸血鬼はいないはずなのに……。
吸血鬼同士、どこにどんな思想の吸血鬼がコミュニティを形成しているのかは、大体把握している。
俺の家族は、人間社会に溶け込んで生きているタイプの吸血鬼で、その例に漏れる事なく、俺も吸血鬼という事を隠しつつ、人間と同じ高校に通っている。
この辺りで、同じように生きている同世代の吸血鬼はいない。
ヤンキー吸血鬼と、目が合う。
一瞬、電流がバチっと走ったような気がした。
「おい、お前……」
声をかけようとした瞬間、ヤンキー吸血鬼が、俺に背を向けて全力で走り出す。
「は?」
逃げた? 何で?
話しかけただけなのに……。
「おい、待てよ」
「ぐふっ」
とりま、飛び蹴りをくらわせて、馬乗りになる。
「お前、吸血鬼だろ? 何で俺の顔を見て逃げた?」
「……」
ヤンキー吸血鬼は、顔を両手で押さえたまま、何も答えない。
プルプルと小刻みに震えている。
「何か言えないような事があるのか? おい、どうなんだ? 言ってみ……」
顔を近付けると、指の間から見えた顔が、真っ赤になっているのが分かった。
「……」
顔、赤っ。
ジャージのポケットから放り出された、スマホの画面が目に入る。
え? あれって……。
見覚えのある写真。
記憶を辿るまでもない、去年の冬、文都とクリスマスデートの時に撮った、ツーショット写真。その写真の、なぜか文都の部分がだけが切り取られて、表示されている。
は……?
何でお前が、俺と文都のプライベート写真を持ってる?
「おい……どういう事だゴラァ。なんでお前が、俺と文都の写真を持ってて……。しかも文都だけ切り取るなんて……」
悪意を感じる。
「は……離れて……」
「え?」
「ああああ亜蘭くんが……」
え? 何で俺の名前知ってんの? 怖。
写真といい、もしかしてストーカー?
「おい、お前……」
「亜蘭くんが、俺に馬乗りっっ!?」
「あ゛?」
ヤンキー吸血鬼の指の隙間から、赤い液体が流れる。
え? 鼻血?
「ちょっ……」
俺が飛び蹴りくらわせたせいで?
ていうかお前、吸血鬼なのに、鼻血って……。
「大丈夫か? お前」
胸ぐらを掴んで引き寄せる。
「顔が近い!!」
いちいちうるせーな。
別作品として投稿していた、俺の可愛すぎる吸血鬼の恋人は、天使かもしれない。をこちらの作品にまとめました。
.5話として、該当する話の下部に追加しましたので、お読み頂ければ幸いです(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾




