表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/50

第12話 俺のベッドの匂い嗅いで帰った

「今日は来てくれてありがとう」


 玄関で、靴を履く文都の背中に声を掛ける。


 文都と別れる時って、何でこんなに寂しくなるんだろう。ずっといてくれたらいいのに。


「いえ、こちらこそ。先輩が元気になって良かったです」


 うん。俺も正気を失うきっかけが、文都との接触だって分かってスッキリした。

 触れられる時間は短いけど、側にいる事はできるし、しばらく我慢すれば血を欲する時期も過ぎるから。


「あ! そうだ。お前、何か欲しいものない?」

「え?」


 もうすぐ文都の誕生日だから。

 リサーチしておかないと……。


「欲しいものはあるんですけど……」

「何?」


 財布とか? 服? 時計?

 それともお菓子作りに使う道具かな?


 文都が、少し困ったように笑う。


「内緒です」


 え?


「俺に言えないもの?」

「もう少し、待っていたいだけです」

「……」


 え? 何それ。

 すごく気になる……。




 玄関のドアを開けると、心地いい風が髪を揺らした。新しい生活を待ち侘びるような、期待と不安が入り混じったような、この時期の空気が、俺は嫌いじゃない。


 ドアの前で、文都が俺に振り返る。


「キャラメル生チョコマカロン作れなくて、すみませんでした」

「いいよ。調子が悪い時もあるって」

「……」


 なぜ黙る。


「この間貰ったの、美味しかったよ。理人が届けてくれたやつ」

「あ、あいつ何かしませんでした? 意味深な事言ってたから……」

「いや、特に何も。俺のベッドの匂い嗅いで帰ったけど」

「……は?」


 呆気に取られた様子の文都が、一瞬フリーズする。


「それって……」


 俺を背後のドアに追い詰めるように、顔の横に手が置かれた。


「先輩のベッドに、理人を上げたって事ですか?」

「そうだけど……」


 これ、教科書(恋愛漫画)で見た。

 壁ドンとかいうやつ?

 脅すような構図なのに、されてる側がときめいてるから、ずっと不思議に思ってたんだよな。

 人間の感覚って、よく分からな……。


「俺以外の人間を、先輩の寝室に入れたらダメですよ」


 冷たさは感じないのに、一切拒む事を許さないような視線に、心臓がドキッと鼓動を打った。

 射すくめられたみたいに、声がうまく出なくなって、心臓の音が外まで聞こえてしまいそうなほど、ドキドキする。


「あ……ごめんなさい……」


 何がダメなのか分からないけど、反射的に謝ってしまう。


「いくら相手が理人でも、ベッドの上はダメです。先輩は、俺のなんですから」

「俺の……」

「嫉妬します」

「嫉妬!?」


 え……? ヤバい。

 心臓が痛いくらいドキドキする!

 顔熱い……。


 視線から逃れるように顔を逸らすと、顎を引かれ、強制的に目を合わせられる。


「あや、と……?」

「1分、でしたよね?」


 文都が、ふっと息を吐くように笑い、唇を重ねた。俺の反応を揶揄うみたいに、軽く触れたまま動かない。


「……」


 え? な、長くない?

 な、何? キスってこんな感じだっけ? 触れてるだけだけど……。

 俺から何かした方がいいの?

 正解を焦らされてるみたい……。


 どうしたらいいか分からなくて、戸惑いの視線を向けると、俺を許すような微笑みが向けられる。

 ホッとした俺に、文都が、安堵の息を飲み込むようなキスをした。


 へっ!?


 角度を変えて、唇の感触を楽しむようなキスが繰り返される。


「んっ……はぁ……」


 ここここんなの、教科書に載ってなかったけど!?

 なんか……慣れてない!?


「……1分ってどれくらいでしたっけ?」


 文都が、名残惜しそうに口を離し、そう聞いた。


「……」


 な……何で、そんな普通にしてられる訳? 


「まだ、大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃない……」


 眉を寄せて睨み、低い声で威圧すると、宥めるみたいに髪を撫でられる。


「大丈夫そうに見えますけど」

「ちょっ……もう、一回離れろ」


 びっくりして、血を吸いたいと思う暇もなかった……。


「せっかく、先輩が気持ちよさそうにしてたのに……」

「は……」


 顔、熱っ。


「な、何で、急にこんな所で、何回も……」

「先輩が好きなので、1分間キスしました」

「……」


 別に特別な事じゃないって顔してるし。


「やっぱり、1分って短いですね」

「長い!」

「え?」


 こいつ……こういう事出来たの?

 し、知らなかった……。

 何か、俺より年下なのに、大人な感じ……。


「先輩、何がいけない事なのか、分からなかったんですよね?」

「へ……?」


 理人の事? だって、あいつは……。


「大丈夫です。俺がこれから教えていきます。だから、約束守ってくださいね」


 やさしく子供に諭すような口調で、俺に語りかけると、文都は、いつもの何もかも受け止めてくれそうな笑顔で笑った。


「理人は、俺がぶん殴っときます」


 俺、そんなにいけない事したの?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ