第8話 試着
そこで、俺は彼らと質問に答えながら、サンドイッチを食べ終わった。
サンドイッチを食べ終わった後、飢餓感もついに消えた……いや、実はその空腹感は最初のサンドイッチを噛んだときには消えていた。
飢餓感はまるで最初から存在しないかのように急速に消えた。あまりに早く飢餓感が消えたせいで、俺も一瞬驚いた。まるで俺の感覚のせいでこの空腹感が生まれたかのように……もしかして、実は食べ物を食べなくてもいいだか。
ああ、一体どうしたのか、この体は……。
そう呟いて、俺は話している子供達に視線を移した。
村を離れたことがなく世間知らずのせいか、彼らの質問は意外に多く、しかもどんな問題もあるな……。
答えられる質問にはすべて答えていた。知らないことがあれば、森に住んでいるという理由で知らないと言う。うん、便利な人物設定だね。
でも、それでも彼らの質問に答えるのに1時間以上かかった。
「だからトーレは、ライトおじさんにずいぶん怒られたんだな!」
「あの時トーレは惨めだったね」
今話題のテーマがトーレに移って、やっと休める。でもトーレはあまり嬉しくなかった。
「大人にはわからないよ!本当にゴブリン軍団がいるんだ!」
「まだそんなこと言ってるの?嘘をつくな!」
「嘘じゃない!」
ルナとトーレは確執が激しく、けんかになりそうな様子だった。だから俺は急いで二人を引き離した。
「喧嘩すんなよ」
「誰も死ななくてよかったね、そうでなければトーレのこの行為は許されないよ」
「で、でも!」
パーティーの中に負傷者が出たこだけは弁解できず、トーレの目が泳ぐ、最後にこちらに目を向けた。
「シィンはどう思う!森の中にゴブリン軍団がいるだろう!」
お、まさか助けを求められるとは……でもその辺のことはよくわからないね……
「森の中には確かに群れをなしているゴブリンがいるかもしれない。でもゴブリン軍団はいないだろう。俺も見たことがないから」
トーレは俺が森の中のことをよく知っていると思っているのだろう。でも実は俺は森の中の魔物のことをよくわからないから、このような答えしかできない。
「でも……!」
「ほら!シィンさんがそう言っていたわ!」
ルナは勝利のポーズを取ってトーレを見ている。
「くそっ……でも本当にあるんだよ!」
トーレは悔しそうな表情で叫び、玄関に向かって走っていった。
「トーレ!」
トーレは俺を無視してドアを開けて離れた。
や……そう答えるべきではないようだね。俺は首を振って立ち上がり、トーレを追おうとした。でもサレが止めてくれた。
「シィンさんはここで休もう。僕が追えばいい……」
サレはため息をついて、頭を掻いて玄関に向かった。
「おお……」
大丈夫か?
「シィンさんは心配なく、トーレはただふてくされているだけから……」
ルナも隣でそう言った。みんながそう言った以上、サレも彼について行ったから、たぶんあまり心配する必要はないだろう?
俺は少し心配そうに窓の外を見た。
「トーレのことはともかく、シィンさんちょっと来て、見せたいものがあるんです!」
「こちらです!」
「おお……」
ルナは手をつかみ、ユイは背中を押して、俺を2階の部屋に連れて行った。
部屋の中にはベッドとテーブルと椅子がいくつかあり、クローゼットがある。この部屋はこの家の寝室のようだ。俺をここに連れてきて何をするか。
「シィンさん、見て!」
ルナはクローゼットを開けて、クローゼットの中から黒い服を取り出した。
「シィンさんの服がボロボロになっているのを見たので、服を用意しましたよ!この中の服は全部着てもいいですよ!」
「えっ?」
ルナが服を用意してくれるとは思わなかった。
「いいか?これらの服を着させて……」
クローゼットのそばに出て、俺はクローゼットの中の服を見ている。
この中に入っている服は普通に見える。でもこれは所詮他の人のものだから、俺もむやみに触るわけにもいかない。
「うん!これらの服はすべて着ることができます!ほら、この服はシィンさんの色と同じ黒でよく似合うわ!」
「見せて……うん、服がちょっと大きい気がするね」
ルナの手の中の黒い服を受け取って、服を前方に移動して体とサイズを比較してみた。うん、この服は少し大きすぎた。
「やっぱり、似合う服なんて簡単には見つからないな」
今俺の体がこんなに小さくて、似合う服を見つけるのは難しいだろう。もし似合う服を探すなら、子供の服から探さなければならないかもな。
そう思いながら、クローゼットの中の服に目を向けた。
「てかここは中の服が多いだね。これらの服はどこから来たのか」
村長がこの家には誰も住んでいないと言ったのを覚えているから、クローゼットの中に服があるはずではない。でもクローゼットの中の服は数十枚以上の服がある……
「これらの服は全部私が持ってきたのよ!選んだ服が気に入らないのではないかと思って、家にあった服を持ってきました!」
ルナはそう答えた。
「お、そうか」
ルナが俺のために家の服を持ってくるとは……そうすることで他の人に迷惑をかけるんだよね?
「あの、安心してください!家の人には話してあるからです!」
俺の心配を察したのか、ルナは慌てて説明した。
「そうか……とにかく試着してみよう……」
やはり人に迷惑をかけるのが少し心配だ。トラブルを起こさないように、クローゼットの中からサイズの合った服を素早く選んだ。そして服の試着を始める。
……黒いロングコートを着ているせいか、ルナたちが持ってきた服の色はほとんど黒だった。そしてよく見てみると、他の色の服はサイズが大きすぎて、似合う服が数着しかない。
「うん、この服だけが似合うな……」
俺はベッドの横の姿見の前に立ち、鏡の中の自分を眺めたーー黒い上着と黒いズボンをはいて、全身真っ黒だね。
全身黒なのはおかしいけど、せっかく服を着ていない窮地を脱したのだから文句を言うこともない。
「これで逮捕される心配はないな」
俺は服を着てほっとした。なんとか服の心配はいらないけど、もうひとつ対処しなければならない問題がある。
ベッドの黒い服に視線を向ける。その服はサイズに合っているから、ちょうど着ることができる。だけど、この服には問題がある……この服は、スカート。
正確には、黒のワンピースだ。
「なんで服の中にスカートがある……?」
視線を移して部屋のドアを見る。俺が服を試着している間に部屋を出るようにルナたちに頼んだから、ルナたちは今ドアの外で待っていてくれた。
もしかして……俺、彼女たちに女の子扱いされてるのか?
これはちょうどルナたちが俺に好意を持っている理由を説明することができる……。
……いや、きっと間違いだろう。たまたま女の子の服を取り間違えただけで、たぶんそうだろう?
「よく考えてみると、髪はこんなに長くて、確かに誤解されやすいだな」
鏡の中を振り返る。鏡中の俺の髪の長さはすでに肩を超えて、膝まで伸びていた。
この後髪を切りに行こう……。
そう思いながら、俺はルナたちを呼んで入ってきた。
「どうだった?」
「ぴったり!」
「かっこいいです!」
黒い服を着ていると変に見えると思っていたが、2人ともかっこいいと褒めていた。どうやらこのような格好はこの世界ではおかしくないようだな。
「まぁ……服を用意してくれてありがとう。服を買いに行かなきゃいけないと思ってたな」
「これは私たちがすべきことです。シィンさんは私たちの命の恩人です。服代を要求しませんよ!」
ルナは遠慮はいらないと言って、服代も受け取らない。
「お、ありがとう!」
うん、では続いて村で情報を集めよう。
彼女たちにお礼を言った後、俺は村に行って情報を集めるつもりだ。
管理者に頼まれたのを忘れなかった。そのディビルという人はこの近くにいる可能性は低いだが、やはり聞いてみなければならない。
「えっ、誰かを探しに行くの?」
「私たちも一緒に行きたい」
ルナたちにこのことを説明すると、彼女たちもこのことに興味を持って一緒に行動しようとした。
……まあ、どうせ人を探すことは秘密にしていないから、彼女たちについてきてもらっても大丈夫だろう。
「あ、神社だ」
ほとんど人が村の中央付近に住んでいると聞いていたから、まずはそこに行って情報を集めるつもりだ。
村の中央まで行くと、村の真ん中に巨大な神社がそびえ立っていた。
「うん、神社って言うけど、ちょっと風格が独特だね」
この神社は日本の神社に似ているが、西洋風のデザインをしている。両者を組み合わせて設計されているように見える。
「この神社は村で一番古い建物よ。私たちの村は神社を中心に建てられたそうです」
隣にいたルナは神社の由来を説明してくれた。
この神社は500年以上の歴史があるそうだ。この神社はあるものを鎮圧するために設立されたもので、ここの村人は昔は守衛を務めていた人たちだった。そして長い年月をかけてここに村が形成された。
「あるものを鎮圧するのか。ここに村があるのも無理はない」
「かつて帝国は、村の人をここから出せと使者を派遣していたそうで、またここは危ないとか言って。でも、当時の村長は、村には我々を守る結界があると言って断ったそうですよ」
「なるほど。たまにはこんな話を聞くのもいいね。では情報収集を始めましょう」
「おー!」
こうして、俺は彼女たちと一緒に村でディビルという人に関する情報を探していたが、
「ん?ディビル、聞いたことない」
「聞いたことないね」
「知らない。ここにはあまり人が来ないから、あなたは都会に行って探したほうがいい」
村の中で聞いた結果、このような答えが得られた。
「……」
人が見つかる確率はほぼゼロだとわかっていたが、こんな返事をもらうのはちょっとがっかりだな。
「ということは、もっと遠い大都市に行くのか……」
もっと遠い都市に人を探しに行くと思うと、ちょっと諦めたくなる。でも人を探すと約束した以上、中途半端なままにしてはいけない。
「シィンさんは大都市に人を探しに行くの?」
「うん、都会に行かなきゃいけないかもね」
「そうですか……」
「どうしたの?」
なんだか隣のルナが落ち込んでいる。
「なんでもない。ただ、シィンさんがこの村を出られるのはうらやましいです……。何か意外なことがない限り、私たちはここを離れることはできません」
ルナたちの話によると、このライン村は人口が少なすぎるため、ほとんどの人が村に残ってここを離れることができないように迫られている。
そうなるのは帝国の条約では、帝国国内の村の人口は最低200人程度と定められているからだ。
もしある村の人口が200人以下であれば、この村は廃棄される。村長はライン村を廃村にしないためには、村人にこの村に留まってほしいと頼むしかなかった。
しかし、それでもこの村の人数は減少している中で、おそらくあと十数年ほどでこの村は廃棄されるだろう。
「あと十数年くらいすれば、シィンさんのようにここを離れることができるかもしれませんね!」
ルナは嬉しそうに微笑んだ。
……十数年もこのようなよそ者が来ない辺鄙な村にいて、どう考えてもいいことではないだ。
こんなにいろいろなことを聞いてくれるのも、この村にはもう長いこと人が来ていないからだろう。
方法があれば彼女たちを助けてあげたい。しかし俺はただのよそ者で、何の力もなく、彼女たちを助ける方法はない。このことが起こるのを任せるしかない。
「うん……」
「私たちのことは心配しなくていいよ!」
「大したことはないから、心配しなくていい!」
空気が重くなったことに気づいたのか、ルナたちは急いでこのことはたいしたことではないと言った。
「……」
どうすることもできない彼女たちの気持ちは、俺の前世と同じような気がする。
素晴らしい人生を楽しもうとしているのに、何もできない……この何もできない気持ちなんて、俺の前世で充分味わった。
できれば、同じようなことが他の人に起こってほしくない……機会があれば、できる限り彼女たちを助けよう。
「おい!」
どうすれば彼女たちを助けることができるか考えていると、サレがこちらに向かって走ってきた。
「トーレを見ませんでしたか!」
「見ていません。どうしたのですか?」
「トーレ……彼……」
サレは言いにくそうに頭を下げた。
「また飛び出したようだ……」