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異世界英雄監獄  作者: 千蒼
一章
7/42

第6話 自己紹介

 一般的には、常識のある人は突然現れた見知らぬ人と行動しない。でも俺はこの子供達の命の恩人だから、みんなとうまく行動できる。


 道中、みんなは何も言わなかったが、子供達が俺を尊敬していることに気づいた。


 彼らを救ったのだから、尊敬されるのも当然のことだから、俺は自然に子供達に話しかけた。


「あ、さっきは聞かなかったけど、みんなの名前は?」


 一緒に行動する子供達の名前がまだわからないから、彼らに聞いてみた。


 隣の2人の女の子の名前はまだわからないが、今名前を知っている子供はこの人たちだけ……


 前方の左を歩いて人を支えている子供はトーレ、右の子供はサレ、彼らに支えられている子供はリオと呼ばれている。


 これは彼らの本名のようだが、危険にさらされたときに相手をどう呼べばいいのかわからないことがないように、みんなの名前が何なのか確認したいと思う。


「私たちの名前が知りたいか!では紹介させていただきます!」


 金髪の女の子がみんなの名前を熱心に紹介しようとした。彼女の熱心さを見て、俺は何も言わず、ただうなずいて続けてくれと言った。


「よし、先に自己紹介しましょう!……私の名前はルナ!こちらの方はユイです」


「よろしくお願いします」


 隣にいた黒髪の女の子がうなずいた。


「よろしく」


「これから先の男子たちを紹介します。左にいる背の高い人はサレ、右にいるチビはトーレ。彼らが支えている人はリオです」


「おい!誰をチビ呼ばわりするんだ!」


 ルナがそう自分を紹介するのを聞いて、トーレは不満そうに振り向いた。


「トーレは私より背が低いからね。チビと呼ばれたくないのなら、早く背が伸びなさい!」


 ルナは腰に手を当て、得意げな表情でトーレを見ていた。


 よく見て俺も気づいたが、その場にいたのはサレ最高以外にも、ユイを含めた人たちはトーレよりも上だった。


「これからきっとお前より背が高くなるよ!!」


 トーレは相手の言葉に反論したかったけど、身長の差は一目瞭然だったので、そう言い返すしかなかった。


 うーん……なんというか、先ほどの紹介から、みんな個性的な人だということがわかるね。


 では基本的な紹介が終わったら、中身はどうなっているのか見てみましょう……!


 俺は密かにスキル『情報探知』を発動する。


 このスキルは相手の情報を情報を探ることができ、相手の今の状況を理解することができる。


 ルナ、ユイ、トーレ、サレ、リオらに順番に『情報探知』を使っている。『情報探知』順調に発動した。


 ええ、リオという子供が昏睡状態にある以外は、みんな元気だ。


 それ以外にも、その場にはルナが治癒術という魔法を持っている以外、誰も魔法やスキルを習得していない。


 偏差がひどいだね、このパーティー。


 もし彼らが装備を着ていれば、スキルがないことやスキルがないことは大したことではないが、彼らの体には簡易なよろいさえ着ていない。


 つまり、彼らは何の準備もせずにこの森に来たのだろうか。本当に大胆だね……


 準備もせずに森の奥に入ってまだ誰も死んでいないというのは、ある意味では運がいいだね。


「あの……ごめんなさい」


 考えている間に、ルナがそばに来て少し緊張した様子でこちらを見ている。


「どうしたの?」


「あの……私たちはあなたの名前を知りたいです」


 名前か?


 俺の前世には浅野绫人という名前がある。できればこの世界でもこの名前を使いたいが、この世界の人は転生者があまり好きではないようだ。転生者だと気づかれやすい名前だから、この名前はもう使えないかもしれない。


 名前、新しい名前……あ、いっそこの名前にしよう!


「俺の名前はシィン。シィンと呼んでくれればいい」


 この世界には西洋風の名前が多いかもしれないと考えて、シィンという違和感のないかっこいい名前を使った。


「うん!よろしく!シィンさん!」


「よろしくお願いします!シィンさん!」


 こうして、俺のこの世界での名前はこうして決まり、名前はシィンと呼ばれた。


 ◇


 ちなみに、このパーティーの中で、女の子は俺に対してもっと友好的な態度を示してくれて、特にルナ。


 これはなぜだか。


 もし外見がかっこいいお兄さんのようであれば、この態度も理解できる。だが、正直なところ、俺の外見年齢は彼女よりいくつか年上に見えるだけで、イケメンとは程遠い。


 ……だめだ、思いつかない。


 ルナが俺にこんなに友好的な態度を示してくれた理由はどうしても思いつかないし、最終的には俺も彼女の友好的な態度を女の子のお兄さんへの崇拝と定義するしかなかった。


「……てか、お前たちの村はどの国に属しているか。またこの世界には人間の国がいくつ存在するか?」


 友好的な理由がわからず戸惑ったけど、俺はすぐに気持ちの整理がついた。


 これでちょうど2人の女の子から情報を集めることができる。だから俺はこの機会に、2人の女の子に世界の情報を聞いてみた。


「え?シィンさん知らないの?世界には人間の国が5つあるよ!」


 そう尋ねると、ルナは驚きの表情を浮かべた。


「俺はこの森に住んで久しいから、外の世界がどうなっているか知らないのよ」


 そんな状況を想定していたから、事前に用意していた設定を彼女たちに伝えた。


「森に長く住んでいる?ひょっとしてシィンさんはエルフ?でも外見からはわからないね」


 ユイは俺の耳を見て、俺のエルフとしての特徴を見つけたいようだ。


「いいえ、俺の種族はエルフじゃない……。種族のことについては詳しくは説明できない。できればこのことを無視してください」


「ええ、わかりました。何か言いにくいことがあるでしょう。これ以上聞きません!」


 ルナは真顔で頷いた。彼女は厳しい拷問を受けても情報を漏らさない勢いがにじみ出ていた。


 いいえ、何も言いにくいことはない。種族について詳しく言えないのは自分がどんな種族か全く知らないからだが……。


 誤解が増えてるのを見て、俺は頭を振って誤解を解く考えを放棄した。


「それではシィンさん、私たちの国のことを説明しましょう!私たちの国はスロウィルと呼ばれ、大陸にある5つの人間帝国の1つですよ!」


 ルナは誇らしげにこのことを言っていた。


 ルナの話によると、スロウィル帝国は千年前に築かれた国だという。スロウィル帝国がこれほど長く存在したのは、すべて初代の皇帝が一つの勅令を実行したからだ。


 その勅令は少し冗長だが、伝える内容は簡単でわかりやすい。


 簡単に言えば、この勅令は帝国内で種族差別があることを許さず、帝国内のすべての臣民は平等な存在だった。他の種族を差別し続ける人がいれば、皇帝は彼らを閉じ込めてしまう。


 また差別した者に重刑を科すと同時に、初代皇帝は種族間差別を解消するためのイベントや祭りを数多く行い、帝国内の他の種族に自分も皇帝の臣民であることを意識させた。スロウィル帝国はこれらの他の種族の助けを得て、国力も次第に強くなってきた。


 このまま、すべての種族の協力のもと、スロウィル帝国は大陸では珍しい他の種族を差別しない大帝国となり、一千年以上も続いた。帝国がこのような大国になったのは、初代皇帝のおかげだ。


「なるほど」


 ルナの説明に俺は共感して頷いた。


 この異世界には前世と違って本当に別の種族がいるのだから、きっと前世以上に差別の問題が深刻になるのだろう。こういう政策をとった皇帝は大したものだな。


 彼らが異種族を受け入れることができた以上、彼らは俺のような転生者を受け入れるだろうか。


 そのことをルナに聞きたかったけど、結局口を開かなかった。


 このことが言えるかどうか分からない。もしうまく処理されていなければ、きっと大きなトラブルを招くことになる。また機会があったら彼女に聞いてみよう。


「じゃ他の国の状況はどうでしょう?」


「他の国の状況……申し訳ありませんが、実はよく知らない……」


 ルナは初めて窮状を見せた。


「え?他の国の情報知らないの?」


 目はユイに向けられ、相手も頭を振って、このことを知らないことを示した。


「私たちの村は辺境の小さな村なので、他国のことはよくわからないのですが……」


 ルナの説明でどんな状況はだいたいわかった。


 彼女たちの村は帝国の辺境にあり、道が険しいため、この村は長らく半自治の状態にあった。


「最近村に来たよそ者は帝国の役人だけで、税金を取りに来ただけなので、私たちも彼を通して外のことを知ることはできません……でも隣の国の名前は知ってるよ!帝国と国境を接している国の名前はダランティスと呼ばれ、同じも人間が築いた帝国でもある!」


 ルナの説明によると、ダランティス帝国は森の向こうにあり、兵士たちが赤い鎧を着ている国だという。


「なるほど、同じも人間の帝国でもあったのか……じゃこの森は誰の領土だ?」


 ルナたちの村は帝国の国境にあるから、村のもう一方はダランティス帝国であるはずだ。しかし、今村の位置から距離があるから、俺は俺たちが現在どの国の領土内にあるか分からない。


「この森には誰も欲しがっていません」


「誰も欲しがっていない?」


「この森の中は魔獣だらけだからね。村の大人が言うには森の魔獣は危険で扱いが大変だから、スロウィルもダランティスもここは欲しくないです」


 簡単に言えば、ここを治めるのは面倒だから、この2つの国はこの魔獣が横行するこの土地を欲しくない。


 そうね……ここには何の役に立つ資源もなさそうだ。もし俺がその二つの国の指導者だったら、多分同じような決断をするだろう。


「でもここには誰も欲しくない……。つまり俺たちは今、2つの国の間の無人地帯にいるということか?」


 この禁忌の森はとても大きいようで、2つの国が欲しがらない以上、この森内は違法で危険な領域になっている。


「ここで事故が起きたら誰かに助けてもらうのも難しいな」


「そうよ、ここは危険ですので、大人はこの森に入ってはいけないと言っています。でも誰かは執拗にこの森に入りたがっているのね!」


 ルナは怒って文句を言いながら、前を歩くトーレを見ている。


「えっ!この森に入ったときお前も興奮しているだろう!」


 トーレも彼女が自分のことを言っているのを知っていたから、不満そうに振り返って反論した。


「それは緊張です。トーレがこの中に何かゴブリン軍団がいると言ったから。結局、私たちはゴブリンを見つけるどころか、怪我をした人もいた!」


「本当のことを言ってるんだけど……本当にゴブリン軍団がいるんだ……」


 ルナの非難に、トーレは小声で応えた。彼もこの怪我をした人がいることに申し訳ないと思っているようだ。


「ふん!」


「ははは……」


 ルナが目をそらすのを見て、俺は思わず笑った。


 や、なんというか、今の状況は俺が昔、物心のつかない妹と話していた頃に似ている。なんだか懐かしい感じがするね。


「まあ、どうせ命を落とした人はいないんだ。トーレも村のために考えてやったんだから、せいにするな」


 彼らが言い争っているのを見て、俺はそばで彼らの気持ちをなだめる。


「でもトーレはゴブリンが軍団を作っていると言ってたよ、ここにゴブリンが軍隊を作っているはずがないーーもし本当にゴブリン軍がいたら、きっとゴブリンを統率しているのはB級以上の魔物!」


「B級?」


「そうです!魔物を制御できる魔物は少なくともB級以上です。B級以上の魔物にゴブリンだけ統べるわけがないでしょう」


 ルナたちのところには魔物がランク付けされているらしいな。


 小説やゲームで読んだような気がして、異世界の魔物は危険度でランクが決められている。この世界もそうなのか?


「ルナ、あの、さっき言ったB級はお前の国が魔物に与えた等級制度でしょ?現在のスロウィルの魔物のランクを説明してくれないか?」


「わかりました!」


 ルナは喜んで手伝ってくれたようで、さっそく魔物のヒエラルキーを説明してくれた。


 具体的には大体このように分類されている……


 D級ーー熟練した冒険者が倒すことができる魔物。


 C級ーー簡単な魔力を操って攻撃することができ、生息地の分布に応じて、元素の魔法を使用する可能性もある魔物。


 B級ーーすでに人間に近い知恵を持つ魔物がいて、他の魔物とコミュニケーションができるだけでなく、スキルを持っている可能性もある。


 A級――数十の町を破壊するに足る凶悪な魔物。一般的には強力な魔力とスキルを持っている。


 S級ーー超危険な魔物、もしこのような魔物が現れたら、近隣の国は通常転覆される危険がある。


 この分類はスロウィルの冒険者ギルドが与えたランキングだ。


 冒険者ギルドは国ごとにあるから、国ごとの魔物ランキングの違いはそれほど大きくないそうだ。だからこの等級制度をこの世界の標準的な魔物ランキングとすることができる。


「うん……」


 彼らのランキングを見ると、俺が倒した魔物はおそらくD級だろう。


 これまで倒してきた魔物はスキルや魔法を使っておらず、頭が良さそうにも見えなかったので、おそらくD級で間違いない。


 や、道理でこんなに簡単に魔物を倒すことができる。


 危ないだね。ルナにこのランキングを聞いてよかった。さもないとある日スキルのできる魔物に出会ったら、命を落とすかもしれない。


 こうして、俺はみんなを連れて雑談しながら、村に向かった。ずっと話していたから、村へ行く過程は退屈ではなかった。


「ウウゥ!」


 でも、ときどき魔物が出てきて邪魔をすることもある。


 角のある狼が俺たちの前に立ちはだかる。狼の体は今まで見た魔物と同じ大きさだ。


「任せろ!」


 目の前に魔物が現れたのを見て、俺はすぐに前に出て狼に剣を向けた。


「うーっ」


「え?」


 魔物は前のように襲い掛かってくるのかと思っていた。結局魔物と対峙して数秒もしないうちに、相手は後方の森に向かって逃げていった。


 なんで逃げた?


 俺は首をかしげる。


「シィンはすごい!その魔物はきっとあなたの勢いにおびえて逃げた!」


 トーレが歩いてきて、崇拝の目で俺を見ていた。


 勢い?俺に勢いというものがあるとは全く思えない。


 その魔物は俺が持っている剣を見て逃げた……この剣は管理者からもらったものだから、剣は低級な魔物に抑止力があるのかも?


「うん、たぶんそうだろう」


 何が起こったのか分からないから、俺は曖昧にトーレに答えるしかなかった。


「すごい!やっぱりすごい冒険者だな!」


「ははは、もちろん……」


 幸いにも相手は子供だから、演技が下手でもごまかすことができる。


 ……村に着く前にキャラ設定を考えておこう……然もない大人に出会ったら多分すぐ見破るだろう。


 このことが起こった後、魔物が襲ってくるたびに俺は魔物の前に立ち、その後魔物が逃げるようになった。


 危険の心配がないからかもしれない。このようなことが繰り返されると、子どもたちも慎重な気持ちを捨て、移動の速度を速めた。


 そのため、俺たちの行動の速度も大幅に速まり、間もなく村の入り口に到着した。


「これがこの世界の村か……」


 村の木でできた塀を眺めた。外は木製の塀で、入り口から中を眺めると、中の建物も木製のものが多い……これは村というより砦だろ。


「着きました!シィンさん!ここが私たちの村です!」


「ようこそ!」


 嬉しそうに歓迎してくれたルナとユイに頷いて、俺はトーレが支えているレオを振り返った。


「早く仲間を休ませよ。傷は治ったけど、もっと休まなければならない」


「わかった」


 トーレとサレはうなずいて、リオを連れて前に進んだ。


 子供達は一緒に村の入り口に向かって、俺は彼らの後について進んだ。


 村の入り口に着くと、入り口のそばにある小さなあずまやの中から、一人があずまやの中から出てきた。


「トーレ!どこに行った!お前たちも!朝から一度もお前たちの姿を見ていないぞ!」


「あの……外に物を探しに行った……」


 トーレは相手を知っているようで、頭を下げて低い声で青年に答えた。


「みんなを探し物に連れて行ったのか……。リオはどうしたの?」


 青年はそっと呟き、トーレに支えられたリオを見た。


「リオは怪我をした……」


「そうか……」


 青年はうつむいて話をしていないリオを見て、仕方なく首を横に振ったようだった。


「早く彼を休みに連れて行って。あとで村長のところへ行ってくれ、彼はこのことに怒っているね」


「わかった……」


 この件は深刻なようだ。でも子供が勝手に走って大人に叱られるのは当然だ。安心して罰を受けましょう。


 俺は後ろの遠くに立ってうなずいた。


「ん?……おいし、トーレ。お前の後ろにいる方は?」


 この時青年はやっと子供の後ろに立っている俺に気づいたようだ。


「シィンです。森で子供達に会ったから、連れて帰ってきた」


「そうか……」


 青年は俺をよく見て、身元を確認しようとしたようだが、長い間見ていたが何の見当もつかなかったようだ。彼は俺が持っている長剣を見たとき、すこし驚いた顔をした。


 青年は少し葛藤した表情を浮かべ、最後にため息をついて近づいてきた。


「シィンというんですね。子供達を護送してくれてありがとう」


 青年は俺にお礼を言って、それから振り向いてトーレたちを見ている。


「一般的に、彼らは魔物の森から無事に戻ってくることは不可能です。助けてくれてありがとう」


「いえいえ、大したことないよ。ちょうど通りかかって彼らを助けただけだ。特に感謝する必要はない」


「……本当にありがとう。何かお手伝いすることがあればお手伝いします」


「わかった……ところで、この村は旅行者を入れることができるか。しばらくこの村にいたい」


 俺は青年にしばらくこの村にいたいことを説明した。


 このあたりの町は遠いようなので、俺はとりあえずここで世界の情報を集めるつもりだ。


「そうか……それではここで待っていていただけませんか。村に人を入れるには、まず村長に通報しなければなりません」


 青年はあずまや内の別の男に何か言った。相手は青年と話している間、ちらちらこちらに視線をやっていた、話が終わると村の内部に向かって走って行った。


「さあ、お前たちも早く休みなさい」


 青年は子供達を中に入れて休ませ、子供達も村に入った。


「シィンさん。また後でね!」


「おお」


 子供達が村の中に入った後、村の入り口には俺と青年だけが残っていた。


「……ジャックと申します」


 子供達の姿が視界に消えたのを見て、青年は振り向いて手を伸ばし、自己紹介をした。


「シィンと申します。よろしくお願いします」


 俺は彼の手を握り返し、同様に自己紹介をした。


「よろしく……うん」


 手を放すと、ジャックは苦悩の表情を浮かべた。


「あの……シィンさんは、彼らが何をしに行ったか知っていますか?」


 ジャックの目は遠くの禁忌の森を見ている。


「森で何が起こっているのかはわかりませんが、森の中にはすごい魔物が存在するのは知っています……。魔物に満ちた森の中で子供達を守るのは容易なことではありませんね」


「そうだね」


「シィンさんは冒険者ですか」


 ジャックは俺を冒険者だと思っているようだ。こちらは彼の考えに沿って話しておいたほうがいい。


「まあね」


「きっとすごい冒険者でしょう。単独行動をする冒険者を見たことがないからね」


「ここで単独行動する冒険者は少ないのか」


「ほかの場所のことはわからない。でもこの近くに冒険に来た冒険者の小隊の人数は通常数十人以上いますよ。ここの魔物は危険だからね」


 ここの魔物はそんなに危険なのか?


 今まで出会った魔物は確かに獰猛だが、ここの魔物を倒すには数十人の力が必要だとは思わない。


 こんな辺鄙なところでは来にくいから、旅費を節約するために一緒に来たのかも?それとも慎重だから大勢連れてきた?


 俺はここの情報をよく知らないから、そう推測するしかなかった。


 ていうか、これだけの人数で行動するのも悪くないね。そんなに大勢で森に入ると危険な状況に遭遇する可能性も低くなるね。


 今後冒険家になるなら、俺も彼らのように慎重になるべきだね。


「とにかくトーレたちは森の中でシィンさんに出会えてよかったねーー」


「おい!入れていいぞ!」


 その時、さっき離れた男がこちらに向かって大声で叫びながら走ってきた。


「おお!」


 ジャックは男性に手を振って、振り向いて俺を見て笑顔を見せた。


「村長はあなたを入れることに同意したようです。それではシィンさん、俺たちの村、ライン村へようこそ!」

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