第4話 出会い
攻撃をすると不必要な死傷者になりやすいから、俺はこれからは森の生物との戦いをできるだけ回避することにした。
「このように行動しょう……」
どう戦うかを考えるより、そのまま逃げたほうがいい。戦いから逃げるのは恥ずかしいが、すべての魔物と戦う時間がないから、今この策略をとるのは間違いなく良い選択だ。
このようにしてこの策略に従って前進して、どんな生物に出会っても俺は見て見ぬふりをして、相手を怒らせないことを選んだ。
そして進む途中で、まだたくさんの魔物に出会った。
例えば巨大な狼、巨大なシカ、巨大なキツネ……この森の中の魔物はすべて前世の動物の拡大版のように巨大だ。
なんというか……出会ったこれらの魔物は、少しも異世界の感覚がなくて、少し面白くないね。
しかし、彼らは前世の動物に似ていても、強い魔獣である。魔物を舐めていたら、殺されるかもしれない。
だから前に魔物が出てきたら、俺はすぐに隣の林に駆け込んで木に登った。
常識的に言えば、これらの魔物は木に登れないはずだが、俺は警戒を捨てずに、梢の間をジャンプして前進した。
これでは、こいつらは追いつけないはずだ!
頭を下げて下の魔物を見ている。下の魔物は俺に気づいていたが、追いかけてくるつもりはなかった。
おそらく彼らの考えでは、俺を攻撃することは厄介なことになっていたのだろう。
だから俺は更にこの策略が間違っていないことを確信して、このような方式を利用して絶えず前進する。
このような方法でこの森での移動速度は予想以上に速い。
空を見上げて時間を判断する。出発した時間が午前だったら、今はもうお昼になっていたはずだ。
「ちょっと意外だな……何の村も見てない」
すぐに村が見つかると思っていたが、この近くには人間の活動の形跡はまったくない。
まさかこの森は思ったより大きいのではないだろうか。それとも世界の人間は滅亡したのか?
管理者は、この世界に3人の人間の大帝国が存在したと言っていたが、それも1000年以上前のことだった。そんな帝国はとっくに存在していないかもしれないし、人間も滅亡しているかもしれないね。
もしそうなら、俺が今やっていることは無駄なことだ。
「うん……」
正直に言って、この世界の人間がどこに行ったのか気にしていないが、もし彼らが遠くまで走っていたら、一生彼らを見つけることができなかったかもしれない。
そうなったら村に行って暮らせなくなって、一人でこの森で狩りをしなければならなくなるね。
「狩りか……」
この森の魔物はおいしいのかどうか……
「いやーーー!」
どんな魔物の肉を狩るのがおいしいか考えていると、突然甲高い悲鳴が聞こえてきた。
俺はこの世界の言語を学んだことがないのに、この言葉の意味を理解することができる。
あの音の発祥地が近くにあるから、ここから行くのにさほど時間はかからない。
声を出すのは人間か。危ない目にあったか。
相手の種族が何なのかは分からないが、相手が人間であろうとなかろうと、俺は手伝いに行く。この森で出会った最初の会話相手かもしれないからだ。
手伝うと決めたらすぐに動き出す。
俺は木の上を素早く移動し、音の出る源に向かって急速に進んだ。程なくして目的地に着いた。
木の上にしゃがんで身を隠し、地面を覗き込んだ。下の森の中で、4人がそこに立っている。
その5人は2人が男性で、2人が女性。彼らの身長から判断すると、すべての人はまだ大人になっていない子供だ。それ以外に特別なところは見当たらないが、多分みなは人間だろう。
「まさかこの森に子供がいるとは……」
この世界で出会った最初の人間は子供だったか……。
この森の魔物たちはとても危険な存在だ。管理者の強力な剣を手に入れた俺でさえ、この森で安全に行働できる自信がない。子供がこの森で楽に行動できるとは思わなかった。
まぁ、実際には、彼らの今の状況も楽とは言えないね。
頭を下げて下を見る。子供達の前には、巨大な赤いイノシシがいた。
そのイノシシはたてがみが炎のように赤く燃えているほか、鋭い白い牙を持っている。
イノシシの後ろには、体の小さいイノシシもいた。そのイノシシは体型からして赤いイノシシの伴侶だろう。
「ううんっーー!」
パートナーの前で弱音を吐かないように、巨大なイノシシは前足を前に踏み出し、耳障りな鳴き声を上げた。
子供達の身長はイノシシの半分にも満たない。イノシシがすぐに突進したら、おそらくこの子たちは全員死ぬだろう。
これが普通の森なら、逃げるのはいい選択かもしれない。だけど、この森は禁忌の森である。この森の中には危険な魔物があちこちにあり、この森の中でむやみに逃げ出すと、死を探しているのと同じだ。
これらのことは、その子供達もよく知っているようだ。だから彼らは逃げなかった。
巨大なイノシシの前で、男の子が剣を手に取り、緊張してイノシシを見つめていた。彼の後ろには、3人の子供が木のそばに隠れていた。
その3人の子供は2人の女の子1人の男の子で、彼らは今一心不乱に前の男の子の後ろ姿を見ている。
「ん?」
金髪の女の子の一人がイノシシのそばの地面を見て涙を流しているのを見つけた。
イノシシのそばで、子供が倒れていた。
子供が血の中に倒れていて、その子供の体には大きな傷があり、その傷から判断すると、それはイノシシによる傷だろう。
つまり、さっきの声はあの女の子が出したのだろう。
「おい!早く逃げよう!」
「そんなわけにはいかない!」
「でもあいつはまだ死んでいないな!見捨てるつもりはないーー!」
剣を持った男の子は仲間の言葉に反論し、イノシシを見つめた。彼は仲間を捨てたくないようで、イノシシと戦いたいと思っている。
戦いたいのはいいが、相手が誰なのかにもよるね。
イノシシは彼らが勝てる相手ではない。イノシシに勝とうとするなら、あちこち移動して地勢の高地差を利用して攻撃すべきだろう!
俺は上で声もなく叫んでいたが、下の五人二豚は俺の話を聞くことはできなかった。
「ちくしょう……」
剣を持った男の子は赤いイノシシを見ている。イノシシは鈴のような大きな目を開けて、彼の前を行ったり来たりしている。
「うーーーー!」
イノシシは低い鳴き声を出して、まず後ろに下がって、続いて前に向かってダッシュして、蹄で男の子を踏み殺そうとした。
「ごめんなーー」
巨大なイノシシが走ってくるのを見て、男の子は目を閉じた。
おや、もう手をこまねいて見ているわけにはいかないようだ。
放っておけば、男の子だけでなく、残された子供もイノシシに殺されるだろう。そうなるとこの世界の情報を知る良い機会を逃してしまうから、そんなことを放っておくわけにはいきないね。
「どいて!」
俺は距離を確認した後、下の子供に大声で叫びながら、下のイノシシに向かって飛び降りた。
「えっ?」
男の子は剣を持って顔を上げ、目を開けて俺を見ていた。男の子だけでなく、あの赤いイノシシも俺に気づいた。
イノシシは背を向けて牙で襲おうとしたが、俺はそんな機会を与えなかった。
「へえ!」
俺は手にしていた長剣を持ち上げ、力いっぱいイノシシに投げた。
「うーーーー!」
投げられた長剣は槍のようにイノシシの首に当たった。その力に衝撃を受け、イノシシはそばに移動し、体はそばの大木にもたれかかった。
イノシシはもちろん自分の意思でそこに移動したのではなく、イノシシは長剣に刺され、今は木に釘付けにされて動けない。
「よし!」
俺は男の子の前に穏やかに着陸した。
「うーーーーー!」
自分の伴侶が倒されたのを見て、隣のイノシシが突進してきた。
「おい、お前!」
「なに?」
男の子は目の前の景色に驚いて動けなくなったようだ。俺は右手を伸ばして彼の胸を押さえ、彼を後方に押した。
「ちょっと後退してよーー」
この数秒の間に、イノシシは俺の前に着いた。
今の俺の手には武器がなく、これまでのようにイノシシに対処することはできないが、俺にはまだスキルがある!
かつて見た技を思い出すーー
「うーーーーー!」
イノシシの牙が目の前に迫ってきた。イノシシにぶつかられそうになった瞬間、俺は足を上げて、イノシシの体に強く蹴った。
『武芸洞察』!回し蹴り!
巨大なイノシシは一瞬にして飛び立った。イノシシは俺に蹴飛ばされて、木にぶつかってから止まった。
「う……」
イノシシはまだよろよろともがいて立ち上がろうとしたが、すぐに意識を失って戦うことができなかった。
イノシシが止まっているのを見て、俺は木に釘付けにされたイノシシに目を向けた。そのイノシシは死んでいた。
この戦い方はまあまあだろう……
力を抑えただけでなく、血なまぐさい映像も出なかった。この戦いは俺の最もきびきびした戦いと言ってもよい。
「ああ……」
俺が2匹のイノシシを倒したのを見て、後の男の子は手に持っていた剣を放して、後ろに転んで地面に座っていた。
「お前たちは大丈夫か?」
「えーー」
俺が彼を見つめているのを見て、男の子は緊張した表情をした。
さっきの行動は彼を怖がらせたようだったので、男の子はしばらく言葉が出なかった。
「リオ!」
その時、木の後ろに隠れていた金髪の女の子が飛び出してきた。彼女は俺たちに向かっていなかったが、後ろに倒れていた子供に向かって走っていった。金髪の女の子が彼のそばにひざまずいて、彼の怪我をチェックしている。
「……まだ息がある。きっと助けてあげるから!」
金髪の少女は叫びながら、子供の傷口の上に両手を伸ばした。金髪の女の子は目を閉じ、手のひらの先に緑色の魔法陣が現れた。
え?魔法?
金髪の女の子が繰り出す力は間違いなく魔法だ。この世界で初めて魔法を見たね。
相手が魔法をかけているのを見て、俺は好奇心を持って歩いて行った。
その緑の魔法陣は少し緑の光を流した。緑の光は他の場所には行かず、現れると前方の傷口に着陸した。光点は傷に触れると、傷が癒合しているのがかすかに見える。
傷を癒す魔法か。それは治癒の魔法だろう。
その魔法を使えば、あの子の傷を癒すことができるはずだ……でも金髪の女の子の横顔から彼女の力が足りないことがわかる。
緑の光は男の子を癒す傷があったが、男の子の呼吸は次第に弱くなっていった。
「やだ……」
仲間の呼吸が次第に弱くなるのを見て、金髪の女の子の目に涙が出た。
うん……このようなことが起こるのがあまり好きではないね。でも俺も彼女を助けることはできない魔法も使いないから。
「ん?やってみてもいいかもけど……」
俺はあごを触って女の子の魔法陣を見つめ、彼女たちのところに向かった。
もし『武芸洞察』を使えば、魔法が使えるかも……?
『武芸洞察』を使って見た武芸を再現できる以上、『武芸洞察』このスキルは魔法も再現できるかもしれない。
魔法は武技とは違って制限があるかもしれないし、再現できないかもしれないが、今は危険な状況なので、スキルを試す時間もない。
治癒の魔法がうまく使えるかどうかはわからないが、それほど危険なことではないので、やってみるのは悪いことではない。
そう思って、スキル『武芸洞察』を使って、金髪の女の子の魔法を再現してみた。
手を伸ばして地面に倒れた子供に向かって、頭の中で金髪の女の子の魔法陣を考えている。そして次の瞬間、俺の手のひらの前に緑色の魔法陣が現れ、金髪の女の子の魔法陣にそっくりだ。
武芸洞察も魔法を再現できるようだ。
魔法陣が間違っていないことを確認した後、俺は金髪の女の子のそばにしゃがんで、魔法陣を傷口に向けた。
そして、魔法陣の中から緑色の光が立ち、相手の傷を癒し始めた。