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異世界英雄監獄  作者: 千蒼
二章
41/42

第40話 情報交換

「やっと見つました」


 屋上から建物の中を見ていると、黒マント──ユルがうなずいた。


 ここ数日、ヴィット城に冒険者が現れたので、今城主の部下は冒険者たちの行方を必死に探している。しかし冒険者は何らかの方法で姿を隠していたため、部下たちはいくら探しても冒険者を見つけることができなかった。


 その後、城主たちは結論を結論を出す──冒険者は何らかの魔法を使っているのかもしれない。だとしたら、冒険者が見つからないのも当然だ。


 なぜならヴィット城で魔法を使える人は数えるほどしかいない。ユル自身も魔法は使えない。


 だが一般的な人間とは違い、ユルには冒険者を見つける方法がある。


 ユルはヴィット城に住む人間ではなく、外れの村に住む亜人だった。亜人であるユルは、人間にはわからない匂いを嗅ぐ能力を持っている。


 冒険者は姿を隠したが、匂いは隠せないとフレリスは判断した。すると今日ユルは冒険者を捜す刺客として派遣された。


「重要な任務を命じられました!」


 危険な任務だが、この命令を受けたことを知っていたユルはやる気満々だった。なぜなら、


「ようやくお兄さんの役に立てます──!」


 お兄さんの役に立てると思うと、ユルは思わず笑みを浮かべた。


 ユルの兄のルタは村の村長村長である。村の村長のほか、武力が強いため、ルタは別の集落の村長も兼任している。


 ルタの指導のもと、亜人の集落は豊かになったが、最近森で大きな出来事があった。


 ゴブリンたちが進化した。


 ゴブリンはもともと森の中の弱い魔物だったが、なぜかゴブリンたちが進化した。それに進化しただけでなく、ゴブリンたちは鎧を身に着けて自ら軍隊を名乗るようになった。


 進化したゴブリンたちの力は亜人よりも強かったため、少なくない亜人たちはゴブリンに村を襲われることを恐れている。


 そんなことでルタが困っていると、フレリスが現れた。フレリスによれば、ゴブリンはすでに味方になっており、亜人が味方になればゴブリンの攻撃をまぬかれる。


 ゴブリンの脅しに、ルタはフレリスの味方になることを承諾した。それに同盟者として、ユルはフレリス側に人質として送られた。


 そして、時は流れ、ユルはフレリス様から冒険者の追跡任務を受ける──


(ライン村の結晶を、冒険者が盗んだそうです……フレリス様が結晶を取り返せるように協力すれば、お兄さんの役に立てます!)


 彼らの手から結晶を取り戻せば、亜人部族は森で最強の勢力になるかもしれない!


 そう思うと、ユルは思わず笑みを浮かべ、眼下の建物の中を見やる。


「えと、二人ですか?」


 中を覗くと、二人の人が何かを言い争っているのが見える。


(確か冒険者は三人で来ていて、結晶を持っていたのは背の高い女魔術師……)


 フレリスの情報によると、結晶を持っているのは背の高い女魔術師だそう。だが部屋にいた二人の外見は、描かれていたものとは違う。


「いないの?ん、あとで戻ってくるかもしれません……戻ってくるのを待ちますか?」


 ん、あの黒髪の魔力を感じません……まずは人を捕まえて人質にしましょうか。


 そう思った瞬間、体が動いた。


 持ち前の力を発揮して、ユルはドアの前に勢いよく飛び降りた。着地と同時に素早く黒髪に刃を振り上げる。


 このような素早い攻撃は、反応できなかったはず──!


「くっ!」


 なのに、攻撃が届く前に、どこからか女剣士が現れ、ユルの攻撃を受け止めた。


(誰れ?!どこから出てきた!?)


 目の前に現れた女剣士に、ユルは目を丸くする。


 女剣士が部屋にいることにまったく気づいていない。相手が手を出すまで、その存在に気づくことすらなかった。


(……これは、魔法!?)


 確かに姿を隠す魔法を使うという情报はあったが、姿を隠す魔法がこんなにすごいとは思わなかった。


 ここは冒険者の匂いばかりなので、ユルはこのことを無視してしまった。


(これは罠?……撤退すべきですか?でも向こうは逃げるかもしれません──う!)


 一瞬ためらったユルは次の瞬間、魔法にやられた。


「うーん!」


 白い風が目の前に押し寄せた。


 魔法でやられた!……でも痛くない?攻撃は当たらなかったの?


 と思って、ユルは目前の霧を振り払った。そして、ライオンのような巨大な怪物が目に入る。


「……え?」


 いつのまにか冒険者はいなくなり、部屋に残っているのはユルと怪物だけ。


(さ、さきここはこんな怪物があるの!?)


「おおおお──!」


 何がなんだかわからないうちに、怪物は一歩まえに出て咆哮した。


「え──!」


 ユルは混乱した。


「こ、来ないで!」


 これほど巨大な魔物は見たことがない。外見からして、怪物は噂のA級魔物だろうが、なぜここに?


「──!」


 反応する間もなく、魔物は再び前に出て、凄まじい威圧を放つ。瞬間にユルは威圧で体が動かなくなり、握っていた剣が床に落ちた。


(ど、どうしよう?)


「おおおお──!」


「……ひぃ!なんでここに魔物がいるよ!!!!」


 食べないでくれ!魔物に近づき、ユルは目を閉じて頭を抱えて丸まった。


「食べないでくれ!」


 ……


 ……どれくらいの時間がたったかわかないが、魔物はユルを食べなかった。


「え、大丈夫ですか?」


「?」


 顔を上げると、そこに魔物の姿はなく、黒髪の少女が立っているだけだ。


「よ、おはよう」


 黒髪の少女が気まずそうに笑った。


「え!?」


 何時の間にか、さっき消えた冒険者がまた現れた。


 部屋を見回すと魔物の姿は見えず、部屋にいたのは銀髪の女剣士、黒髪の少女、青い髪の少女、そしてユル自身だけだ。


「魔物はどこ!?」


「それは私の魔法だ、最初から魔物なんていないよ」


 そばにいた青い髪の少女が、杖を振ってこちらを指している。


「魔法……ええ!」


(さっき見たのは幻覚!?)


 冒険者が幻術を使うとは思わなかった。ユルが怪訝そうな顔をすると、黒髪の少女は苦笑した。


「悪い夢を見させてすまんな。えと、誰の使いか、説明してくれいいの?」


「誰の使いか……いえません」


「おえ、言わないなら魔法で言わせてあげよ!」


「いやいや、さっき相手と話し合うと言ったでしょう!?」


 青い髪の魔術師が杖を安に向けるのを見て、黒髪の少女が慌てて止めに入る。


「だからよ──!」


「……」


(いずれにしても、フレリス様の名は言えません……)


 二人が言い争う間に、ユルは頭の中を整理する。


 フレリス様の名を口にすれば、自分だけでなく、村のみんなが危険にさらされるかもしれない。


 奇襲は失敗し、あの女剣士も強そうで、簡単に勝てる相手ではない。ここに留まるのは危険な可能性が高い。


(……なんとかして逃げなくてはなりません!)


 ユルは視線を動かしてそばを見ると、剣はそばにいた。この距離なら、その魔術師を制圧できるかも!


 魔術師を制圧すれば、ここから逃げるチャンスがある!


 そばにあった剣をつかむと、ユルは青い髪の魔術師に突進する。だが相手の姿はたちまち魔物の姿になった。


(また幻覚ですか!でも、魔物よりもフレリス様の方が怖いですよ!だから怖くないです!)


 この程度では、もう怖がらせない!


 そう思いながら、ユルは得意げに剣を構えたが、魔物に斬りかかろうとした。その時、魔物の姿が変わり、フレリスの姿になってしまった。


「フレリス様!?」


 ユルが驚きの眼差しで見守る中、再びフレリスの姿が変わる。フレリスの頭には悪魔の角が生え、後ろには大きな翼が生えていた。


「えぃ……」


「ユルオオオオオオオ!」


 呆けているユルに、咆哮を上げた怪物が飛びかかってくる。


「ひぃ!!!」


 ……


「フレリス様、来ないで!!ユルはおいしくないよ!!!」


「は!やっぱり城主の刺客だね」


 茶色の髪に獣耳をつけた少女が苦しげな表情で地面に横たわり、その傍らにはアイルが杖を構えていた。


 少女が正気に戻れば、すぐに魔法で悪夢にうなされる。


「おい、それはよくないだろ」


「なに?夢を見させるだけで、拷問でもなんでもない。それに、そうすることでしかこいつの口から黒幕の情報を聞き出すことができるよ」


「ある意味、拷問よりも恐ろしい魔法だ」


 ふふっと笑いながら魔法を放つ亡霊術師に、俺はため息をついた。


 アイルの言うとおりだ。魔法のおかげで俺も情報をたくさん知ることができた。たとえば相手はユルといって、近くの村から来たフレリスの配下の亜人だとか……


「まさか亜人に追跡されるとは思わなかった」


 においから敵を追跡するなんて、確かに、思いもよらないことだった。


「そうか?嗅覚の鋭い亜人はたくさんいるよ。こいつのお兄さんも同じくらい嗅覚が鋭いんだよ」


 アイルは杖を振って肩をすくめる。


「え?彼女のお兄さんのこと知ってる?」


「ええ、知ってる。実はこの辺りの亜人のことはだいたい知ってる」


「この辺は亜人の村が多いか?」


「ん、ヴィット近くの村は二十ほどあったと思う」


「近くにこれほど多くの村があったとは……地図には全く書いてない」


 考えてみれば確かに、帝国の辺境に追いやられた亜人がいなくなるわけではない。人間が森に住めるようになったのだから、亜人が森に集落を作ってもおかしくはない。


 これらの村はあるけど、村の位置は地図上には全く存在しない。たぶん帝国は村の存在を認めていないのだろう。


「ていうか、なんでそんなに亜人と親しくなった?」


「人間の町には住めないから、当然、亜人の村に住むことになった。そしてそのうち仲良くなってきた」


 そこまで言うと、アイルは微かに笑った。


「ちなみに、亜人は人間のものが大好きなんだよ。いい値で売れるぞ」


「そうか……」


 アイルは兵士たちのものを亜人部族に売ったようだ。


 兵士のおじさんたちの金を取り返してあげようと思ってたんだけど、どうやらもうお金が返ってこないようだ。


「てか、亜人の集落は帝国人と同盟できるのか?、なんかおかしい感じ……」


 なにしろ帝国の者の多くは亜人を嫌っていたから。が、ユルの言葉によればフレリスはひそかに亜人と同盟を結んでいる。


「それに結晶の件。まさか結晶を奪うために追跡されていたとは。なぜ結晶を奪いたいのか」


「さあね」


 ライン村の結晶には膨大な魔力が宿っており、使用者に大きな力をもたらすことができる……


 でも、それは人間が制御できるものではないような気がするが、あのフレリスって奴は、そういうものには詳しいみたい。ひょっとして彼らが結晶の力を制御できるのか、それとも彼らが結晶に似たものを持っているのか──


「あ!!!」


 うつ伏せになったユルが声をあげて顔を上げた。


「あ、魔法をかけるのを忘れてた」


 アイルは杖を構えた。アイルが魔法の杖を構えてるのを見て、ユルは身震いしながらも声を上げた。


「何も言いませんよ!」


「……実はもう話してくれたよ。フレリスのことも」


「え……」


 ユルは一瞬、きょとんとした。自分がさっき何を言ったか思い出したのかもしれない、ユルは気の抜けたようにうつむいた。


「そんな……」


 ……あ、なんか、申し訳ない気分になった。後で謝ろう……でもその前に降参させようか。


 苦笑しながら、どうやって相手を降参させるかを考えた。


 ◇


「フレリス様!また親衛隊が襲われました!」


 シオラペの報告を聞いて、フレリスは報告書を読んで眉をひそめた。


「またか?」


 ここ数日、親衛隊が襲われることが続いている。最初はいつものようなちょっとしたトラブルだから、すぐに解決すると思っていたが、事件が増えていくにつれ。フレリスはそれがいつもと違うことに気づいた。


 親衛隊の人々を攻撃したのは一般の民衆ではなく、マントを着た人々だった。


 集めた情報によると、相手は紫電流の弟子と名乗っている。


「こんなことになるとは。紫電流……」


 紫電流の弟子たちは、それまで単独で暴れていたのと違って、集団で行動していて、その人数は五十人ほどだったそうだ。


 五十人、そのことだけ知っていれば、紫電流が数で勝ったと思うかも。だが、そうではない。相手は親衛隊と戦うたびに、親衛隊よりも人数が少ない。


 数的に優位だったのは、むしろ親衛隊の方だ。


 しかし、親衛隊は数では勝っていたにもかかわらず、敗北したのだ。


「つまり、一個小隊を数人で倒したということか?」


 三人、二人、場合によっては一人で、親衛隊全員を倒すことができる……


 相手が剣の達人であれば、納得できないことではない。だが親衛隊の話では、紫電流の弟子たちは十代の少年だったようだ。


 十代の少年が一人で親衛隊を倒すなんてことがあり得るのだろうか?


 信じられないが、この数日間に送られてきた報告書がすべてを物語っている。ここ数日、紫電流の弟子たちは親衛隊との戦いを繰り返し、すでに数百人を倒している。


 それだけではない。事態が進むにつれて、普段は無茶苦茶なことをしていたため、城主たちに不満を抱いていた人々も、密かに紫電流を支援するようになった。


 これは極めて深刻な事態であることは間違いない。放っておくと、おそらく……


「おそらく遠からずヴィット城に反乱が起こるだろう」


「反乱って!?フレリス様、どうすればいいんですか!?」


 フレリスの言葉に、シオラペは狼狽える。


 前にも、シオラペは部下を引き連れて紫電流を追ってみたことがあるから、相手の強さを深く知っている。これで相手が反乱を起こしたら、事態は収拾がつかなくなる。


「相手も冒険者と同じで、追跡できない?」


「はい……おそらく冒険者が協力しています」


「彼らに剣術を教えたのも、おそらく冒険者だろう」


 潜伏していた冒険者は、少年たちに剣術を教えただけでなく、城主に反抗するよう煽っていた……たぶん 、相手が短期間で一気に実力を伸ばした真相だろう。


 真相が何であれ、今さら検証のしようがない。


 追い続けたかったが、先日、唯一相手を追跡できたユルが冒険者を追跡して消息を絶ち、もう相手を追跡する手段がない。


(このまま、待っているわけにはいかない……)


 ユルが数日遅れて帰ってくる可能性もなくはないが、フレリスはもうこれ以上待つ気はないんだ。


 フレリスが手を伸ばして青い水晶球を取り出し、魔力を入れると、水晶球にはすぐに茶髪の少年が映し出されている。


「おい、フレリス!俺の妹がいなくなったってどういうことだ!」


 口を開く間もなく、茶髪の青年が怒鳴ってきた。


「落ち着け。ルタ」


「落ち着け!?俺の妹が行方不明なんだよ!」


「それについては私も残念だが、冒険者がこれほど強いとは思いませんでした」


「ちくしょう、信頼してユルを渡したのに!」


 ルタは悲痛な表情で、牙の生えた口を開ける。


 ルタは少し前にも妹が行方不明になっていることを告げられ、ユルが殺害された可能性は小さくないと判断された。


「あの冒険者たちはどこだ、殺しに行く!」


 ルタがが叫ぶと、後ろから次々とルタの言葉に呼応する者たちがいた。


「そうだそうだ!」


「仇を討つ!」

 

 血の気の多い連中だ。水晶球の中で騒がす姿たちを見て、フレリスは冷静に断る。


「それはいけない」


「俺たちは仲間じゃないか!?」


「陰の仲間だよ。あなたの一族を率いて来られると、私たちの関係がばれるよ」


 ルタとフレリスは盟友。そのことを知ってるのはフレリスとシオラペだけで、城主であるレブスは知らん。


 ここでルタが亜人を率いてきたら、ヴィット城がパニックになるのは間違いない。


「じゃあ、俺は何もできないのか!」


「いえ、そんなこと言ってないよ。あなたにやっていただきたいことがある。できるだけ戦える亜人を率いて、この近くに駐屯している」


「駐屯?フレリス……お前、何がしたい?」


 若いとはいえ、いくつかの部族を率いる盟主として、ルタは部族に関わることには慎重である。駐屯の事を聞いて、ルタは疑わしそうな顔をしてフレリスを見た。


「協力してもらいたいだけなんだ」


 疑わしげな視線を向けるルタに、フレリスは軽く笑ってみせた。


「冒険者を牽制して欲しい」


「牽制……か?」


「冒険者を捕まえる計画を考えたが、それが実行されたときには、相手が城から飛び出してくるかもしれないから、そのときに止めてほしい」


「止めてか?でもやつらは強いだろう。我が一族の多くが死ぬかも……」


 冒険者を止めると聞いて、ルタはためらった。相手は数人しかいないのに、フレリスはルタたちにできるだけ戦える一族を総動員させている。


 大勢の人が牽制しなければならない冒険者は強いに違いない。もし相手を止めたら、少なからぬ死傷者を出す恐れがある。


「この件については、この後で補償するから。この件が終わってから、あなたたちを、ゴブリンよりも強くしてあげる」


「ゴブリンより強くなるって、どういうこと?」


「文字通り、彼らよりも強くなることができる。森でゴブリンが妙に強くなったのを覚えてるだろう。」


「覚えてる」


「ゴブリンが強くなれたのは、彼らが私の結晶を得たからだ。強くなったが、結晶を正しく扱えないため、ほとんどのゴブリンは正気を失った今その結晶は冒険者のところにある。私が冒険者から結晶を取り戻せば、その結晶を使って、あなた方を彼らよりも強く、理性を失わずにすることができる」


「強く……」


「そう。今やゴブリン軍は森から姿を消した。私がなくしたものを取り戻したら、あなたたちはこの森で一番の勢力になる。強くなれば二度といじめられることはない、帝国でさえもあなたたちをいじめられなくなるよ」


 フレリスを見て、しばらく考えた末、ルタはうなずいた。


「……わかった。約束を破るなよ」


「もちろん。約束を破ったりはしない」


 ルタは頷いて踵を返し、水晶球の映像は消えた。


「フレリス様、本当ですか?彼らに冒険者を牽制します?」


 フレリスは水晶球をしまい。そばにいたシオラペがたまりかねて口を開いた。


「お言葉ですが、あの亜人たちは冒険者に勝てません……」


「さき牽制だと言っただろう。亜人の仕事は牽制だけ。冒険者を倒すことはできなくても、逃亡を遅らせることはできるはずだ。その時になったら、城内の反乱を鎮圧してから、外に出て逃げた人を片付けてもいい」


 そう言って、フレリスは暫く顎を撫でながら考えた。


「うん、かなりの被害が出るかもしれない。部族が残っていれば、約束どおり進化させよう」


「なるほど……でも、まだ相手がどこに隠れているのかわかりません。どうやって冒険者を捕まえるの?」


「安心して。もう彼らを見つけることができる計画を立てた」


 フレリスは立ち上がり、扉の方へ歩き出した。


「今度はこちらから出撃する番だ」


 ◇


 夕焼けに照らされて、マントを着た少年たちが何十人も城のどこかに向かって走ってる。


 少年たちが進むにつれて、目の前に見える建物は次第に古い建物だけになり、このあたりには久しく人が来ていないようだった。このあたりは普段は人が近づかない場所のようだが、それでも少年たちは立ち止まらない。


 走ってると、遠くに大きな監獄が見えてきた。


「レイン、このまま監獄に侵入して本当にいいのか?」


 遠くの監獄を見ながら目に入ると、監獄に向かって走っていた少年の一人が、一番前を走っていた少年に向かって低い声で尋ねた。


「大丈夫だ、あいつらは俺たちに勝てないよ」


 仲間の質問に、先頭を走るレインは不敵な笑みを浮かた。


 二日前のレインなら、監獄侵入の失敗を心配したかもしれないが、今は心配していない。


 今日のためにレインは懸命に鍛えてきた。懸命に鍛えた結果、今ではレインが一人で数十人の親衛隊を倒せるようになる。


 レインの仲間も、すでに数十人の親衛隊を倒せる実力を持っているから親衛隊を恐れる必要はない。


「クトナが何を恐れているのか分からない。今は親衛隊を恐れる必要はない!」


 力が増すにつれ、レインは親衛隊を倒すことに満足せず、監獄に入れられた人たちを救おうとし始めた。


 共通の目的のために行動する仲間だから、レインはクトナも提案に同意するだろうと思ってたが、監獄に行って家族を救出しようと提案すると、クトナは反対した。


 クトナは時期尚早だと考えており、監獄に入れられた人を救出するのにあと数日待った方がいい。


 だがレインはこれに反対した。レインはもう両親を監獄に一秒でも長く滞在させたくない。すると、レインは同じ考えを持つ少年たちを引き連れて監獄への侵入を試みるのだ。


「お!お前らは誰だ!」


 レインたちが監獄に向かって突進してくるのに気づき、入り口にいた衛兵が駆け寄って来る。レインは素早く剣を振り、紫の電光が剣からあふれ、衛兵に命中した。


「うわっ」


 衛兵は電流を浴びて、その場に倒れて動けなくなる。


「……意外に弱いんだ」


 監獄前の広場を走り抜けながら、レインは思わず呟く。


「ん、士兵を倒せるのはいいことではないか?」


「まさか簡単に倒すとは」


「ほとんどの兵士が別の場所に行ったからだな」


 ここ数日、多くなる騒乱が増えたために、監獄の周りをパトロールする兵士が他の場所に派遣された。それを察知したからこそ、レインは皆を率いて監獄を攻めることにしたのだ。


 外郭の防備が弱まることは予想していたが、監獄の兵士も一撃に耐えられなかったとは思わなかった。


「パトロールが減って、監獄の防備が高まると思ってた……」


 ヴィットの監獄を管理する衛兵はすべて城主の親衛隊だと聞いていたので、侵入するのに時間がかかると思っていた。


「はは、レインは心配し過ぎだよ」


「かもね……とにかく気をつけろ」


 伏兵がいないことを確認してから、レインは仲間に叫んだ。


「よし、行け!監獄に閉じ込められた仲間を助けに行こうーー!」


「お──」


「──いいえ、それはできないよ」


 突然、後ろから聞こえた声が仲間の声を遮った。


 声がした方を振り向くと、一人の男が監獄に入って来た。


「援軍、か」


「いえ!それは──!」


「フレリス!」


 その男が誰であるかを見ると、一同は怪訝な顔をした。


 フレリスが誰だか、ヴィットの人であるかぎり知らないはずはない。人を投獄することも含めて、ヴィット城ではレブスの執事であるフレリスが取り仕切っていることが多いと言われている。


「なぜフレリスがここにいる!」


「ちょうどいい!!彼を人質にして、私たちをレブスのところへ案内させる!」


 距離を隔てて、フレリスはすぐに少年たちに囲まれた。


「失礼だね。君たち」


 フレリスは囲まれていたにもかかわらず、狼狽える様子はなかった。むしろのんびりしている。


 ──なぜ驚かない?


 レインはその態度に違和感を感じた。


 ヴィットが危険だということは知っていたはずだが、なぜ護衛も付けずに一人でここにいる?自分の身の危険はわかっているはずなのに、一人でここに?


「みんな、気をつけろ」


 態度に違和感を覚えたレインはすぐにみんなに叫んだ。


「気がつきましたか。勘が鋭いが、手遅れでした」


 フレリスは右手をあげた。


「──!」


 危険に気付く。レインは、とっさに手にした剣を振り下ろした。紫の電光がフレリスに向かって突進した。攻撃が当たれば、フレリスを倒せるはずだが、


「ほう」


 無傷で平然と立っていた。まるで透明な盾に守られているように。突進してきた雷光はフレリスに当たる前に、空中で止まっていた。


「これが紫電流の技か。面白い」


 フレリスは顎を撫で、しばらく雷光をよく観察してから右手を握りしめた。


「……!」


 フレリスが右手を握りしめると、紫の雷光が消えた。


「何故……」


「我に返ろ!」


 呆気にとられたみんなに、レインはすぐに叫んだ。


「早く攻撃しろ!」


 レインの叫びに、みんなすぐに我に返り剣を振り下ろした。幾筋もの電光がフレリスを襲い掛かるが、それも透明な盾のようなものに阻まれていた。


「それが君たちの全力?」


 フレリスは首を振って、少しがっかりした顔をした。


「では、次は私が攻撃する番だ」


「くっ……!みんな逃げろ──!」


 フレリスが再び腕を上げたのを見て、レインはみんなに逃げるように言う。だが逃げようとした瞬間、周囲に大きな圧力が押し寄せてきた。


 天から降ってきたかのような圧力に、レインたちは一瞬で圧倒された。


「こ……動けない!」


「何した!?」


「わあ──」


 レインは顔を上げて、遠くから近づいてきたフレリスを見ていた。


「フレリス、お前、何をした!?」


「すまない、どうやってやったのか教えてあげられない。だが心配しないで、私がそうするのは君たちと話をしたいだけ」


「話をしたい?」


「そう。話をしたい……いや、情報交換と言った方がいいだろう……」


 フレリスが近づいてきて、床に落ちた剣を拾った。


「面白い武器ね。お?剣の印から察するに、君たちが手にしている剣は私たちが森で失った武器だろう。もしかして、君たちが盗んだ?」


「違う──」


「まあ、どうでもいい、話は後から幾らでも出来るから。ユル君が行方不明になったことから推測すると、冒険者たちはもう私のことを知っていて、おそらく私に別の結晶があることも知っているかもしれないし……」


「結晶?……いったい何を言ってる?」


「おや、ただ独り言を言っているだけ。とにかく、こちらだけ一方的に情報を流すわけにはいけないな。だから、情報交換をしよう」


 まるで教師のような穏やかな笑顔を浮かべながら、フレリスは腕を振り下ろした。


 その後、レインは意識を失った。

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