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異世界英雄監獄  作者: 千蒼
二章
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第39話 借家の闖入者たち

「なんというか、大変なことになった」


 クトナたちが路地を出ていくのを見ながら、俺はため息を吐いた。


 こんなことになるとは予想外だった。


 最初クトナに少し身を守る技を教えようとしただけ、こんなことになるとは思わなかった。


 俺が教えたとはいえ、成長スピードが速すぎる。


 心配で、クトナが親衛隊のおっさんたちと戦いを見に行ったけど、一発で人を倒せるのは異常すぎるだろう。


 こんな子を訓練した覚えはないよ!


 クトナは強くなった理由は俺の教えだと言っているが、そうじゃないと思う。


 こちらが提供しているのは誰も修練したことのない剣術だからよ?


 教材は何もない。訓練で俺にできたのはクトナを導くことだけ。こういう訓練は全く当てにならない。


 それにクトナは頭が良く、一を聞いて十を知ることができる。時々知らない質問をすることもあるから、俺は夜中にもひそかにシメリア先生に剣術の勉強をする。


 だからクトナが学んだことは完全に想像した剣術だったと言っても過言ではない。


「俺が想像した剣術を学ぶだけでは、そんなに強くなることはできないだろう。もしかしてあいつは天才?」


 天才だから短時間で技を覚えることができる。


 天才だからね。弟子がクトナだけだったら、こう思ったかもしれないが、その後また人が俺に剣術を習いに来た。


 俺に剣術を習いに来たのは、クトナと年齢の近い子供たちだった。クトナの話では、彼らは城主のせいで居場所を失った人たちだそう。戦う力が欲しいので、紫電流を習いたい。


 まぁ、クトナのような状況は偶然にすぎない。誰もが天才で、簡単に剣術を覚えられるわけではないでしょう。


 このような考えをもとに、同じく数十人に剣術を教えた。結果……


 ……1日もたたないうちに、全員が人と戦うことができるようになった。


 や、みんな天才だとは思わなかったね──そんなわけないだろう!!


「師匠の教えはわかりやすいですからね」


 原因を聞いてみたら、みんなそう言ってた。


 俺の教え方や技自体はわかりやすいので、みんなは紫電流の剣術を簡単に習得することができるらしい……うん、不可能ではなさそう。


 それだけならどうということはない。護身術を身につけるのは悪いことではないから。でもね、


 クトナ


 称号:紫電流の弟子


 スキル:


『紫電斬』


 ……マジか。


 驚かなかったといえば嘘になる。


 クトナのステータスを調べてみて、事の間違いに気づいた。


 クトナは奥義ともいうべき紫電斬を習得した。


「待って、もしかして──」


 ……ちょっと全員のステータスを調べてみると、クトナだけでなく、気がつくと五十人全員が紫電斬を習得していた。


 みんなの話によると、正常な人間が魔力を操り可視化しようとするのは難しいことだという。でも俺の教えで、みんなは剣術だけでなく、魔力を操ることもできるようになった。


 魔力を操ることができたので、体格が負けても、みんなで親衛隊を倒すのに十分だった。


「さすが師匠!魔力を操るなんて!」


「師匠に感謝します!」


「あはは……」


 大変なことになったね──


「ハァ……一般的に人間は少しの間にこんなに強くなる可能性があるのか?」


「これらの技は勉強しやすいからです。シィン様の指導があったので、こんなに早く強くなるのは普通だと思います」


 そばにいたシメリアに尋ねると、こんな答えが返ってきた。


 シメリアはお世辞を言っていないような気がするが、


「勉強しやすいから……」


 シメリアにとって紫電流はもちろん勉強しやすいので、彼女を基準にすることはできない。


 もちろん俺も同じ、俺たちの基準は普通の人とは比較にならない。


 俺たちの目には学びやすい技も、一般の人の目には学びやすい……ではないと思う。俺にとっては簡単なことだが、他の人にとっては必ずしも簡単ではない。


 前、クトナたちも魔力を操るのは難しいと言っていたし、実際、魔力を可視化できる人間を見たこともないし。つまり、紫電斬は決して簡単に覚えられる技ではない。


「でも今みんな簡単に魔力を扱えるようになったって、どういうことか?」


「シィン様のご指導が的確だったからではないですか?」


 シメリアは首をかしげて、自分の意見を言った。


「そうか……」


 そうじゃない気がする。まあ、とりあえずこのことは考えない。


 今はそれより、親衛隊襲撃の件の方が重要だ。


 実は襲撃と言っても正確ではない。みんな約束を守っていて、親衛隊を攻撃していない。が、


「親衛隊を攻撃することはできないが、親衛隊にいじめられている人を助けられないわけではないだろう!」


 クトナたちに、なぜ親衛隊を攻撃したのかを尋ねると、次のような答えが返ってきた。


 確かに、紛争を調停し、人を助けること自体は悪いことではない。しかし相手は親衛隊。


 親衛隊はもちろん忠告した人の言うことを聞かず、逆に忠告した人を剣で攻撃することもある。それで──


 親衛隊が難癖をつけて──そうしないよう説得し──相手が怒って攻撃してきて──こちらも打ち返す。このような式になった。


「みんな正当防衛って言っても、実は一方的に人を殴ったんだろ」


 みんなの実力が強すぎるので、毎回戦いで怪我をするのは親衛隊だけ。意図的な襲撃だと言われるのも無理はないな。


 その後、親衛隊を襲ったという噂が広がり、彼らを教えていた俺も含めて、紫電流という流派の全員指名手配された。


「指名手配……でも俺はとっくに指名手配されているね」


 俺はため息をつき、手にしていた手配書を持ち上げた。手配書に俺の姿が描かれている。


 相手がいつ気づいたのかはわからないが、手配書の記述によると、親衛隊を攻撃したため、レブスが俺たちを指名手配することになった。


「指名手配よ。まさかこの世界でまた指名手配されるとは」


 前世も同様に指名手配され、そして指名手配犯として投獄された。


 まさか異世界に来て二度目の指名手配をされるとは思わなかった。俺と監獄の間には特別な縁があるのだろうか?


 でも向こうの言う通りだけど……今回は本当に人を襲うようなことをした。今回は自首した方が良いかも……いや、ちっとも良くない!


 前世の俺だったら、素直に罪を認めたかもしれないが、今回はいけない。


 正直に監獄に入れば、ライン村は間違いなく窮地に陥るだろう。だから今回は絶対に閉じ込められてはいけない。


「ですが、今ライン村に帰るなら、手間がかかるかもしれません」


 謝っても無駄だから実はいつここを離れてもいいが、指名手配の件で、今は各の出入り口に見張りがいるので、離れるのに手間がかかる。


「ええ、でも特に急いでいるわけではないから、数日後に出てもいい」


 人に追跡されない魔法がかかっているので、勝手に城で行動しない限り、基本的に兵士たちに発見されることはない。


 マーリンの話では、服と剣はあと数日で完成するそうなので、俺たちは完成まで待って帰るつもりだ。


「それに正直、クトナたちのことも心配」


 クトナによく聞いてみたが、親衛隊には勝手に人を殺す権利があることを知った。彼らはすでに千人以上を殺したという。


 つまり、もし捕まっていたら、投獄されて尋問されるのではなく、殺されていたかもしれない。


「クトナたちには追跡不能な魔法もかけていたが、やはり少し不安だ」


 魔法は万能ではないから。


 城主に反抗する人が増えるにつれ、わざとクトナたちに加わって、城主に俺たちの行方を明らかにする人がいるかもしれない。


 そのことを心配して、クトナ以外の弟子の前でマントを脱いだことも、自分の名前を口にしたこともない。


「ハァ……この件はいつ終わるか分からないな」


「この件を終わらせるには、城主を倒せばいいだけでしょう」


 シメリアは俺がため息をつくのを見て、城主を倒す作戦を提案した。


「シィン様に率いられて城主を倒してほしいという弟子は少なくありませんよ」


「いや、それはよくないでしょう」


 紫電流の師匠だから、俺が城主に反抗する者たちを率いて城主を倒したいと願う弟子は少なくない。


 だが俺が手伝いに行けば、マーリンやシメリアたちも協力してくれるし、もしかしたらヒュルトロスも来てくれるかもしれない……そうなったら大変なことになる。処理しなければならないトラブルは多分、いや、必ず増える。


「城主を倒す前にも結果を考えないとね。準備ができていないまま城主とその部下を倒すと、街を混乱させるに違いない」


 それに城主を倒すという行為は、どう考えても違法行為。レブスの人柄がどうであれ、帝国はこのようなことを許さなかっただろう。


 レブスがここを長期統治できたのは、帝国も彼らの所業を黙認していたことを示している。そうなれば、帝国は抵抗する民を鎮圧するために軍隊を派遣するかもしれない。


「レブスを倒せば、もっと敵を引き寄せるかもな……軍隊と戦ったなんて、もう二度と経験したくない」


 戦わなければ倒せない敵ではないし、どうなるかはわからないが、できれば平和的に解決したほうがいいと思う。


 平和的に問題を解決する方法は盛沢山ある。例えばレブスを退位させるのは戦わずに済む良い選択肢だ。


 集計はされていないが、城主に反抗した者は千人を超えていただろう。


 クトナたちを含め、時間が経つにつれて城主に反抗する人が増えるだけだ。その時になってこちらの手を借りなくても、彼らはレブスを自主的に退位させ、新しい城主を選ぶ可能性がある。


 今のところ、これが一番平和的な解決策のようだ。


「人数といえば、シィン様の弟子が増えたので、みんなにマントを作ってあげたいですとマーリンは言いました」


「そういえば、みんな鎧を着ていないな」


 こちらには鎧があるが逃げるには不便だから、みんなは動きやすいマントを着ている。


「どんなマントを作ると言ってたか」


「紫のマントをクトナたちに作ってあげたいとマーリンが言いました」


「紫のマント?」


 うーん、クトナが紫色のマントを羽織り、路上で人を斬りつける姿が目に浮かぶ……。


「まるで新選組、いや、性質を考えれば攘夷志士?……ん、色はそんなに目立たないほうがいい──」


「何もない?がっかりだよ──」


 マントの話をしていると、後方から声が聞こえてきた。


「今の声、シメリアさんの声か?」


「いえ、声は後ろから聞こえました」


「後ろ?」


 後ろなら、俺たちの部屋じゃないか?確か鍵がかかっていた。空き巣に入られた?


 戸惑いながらドアを開けると、部屋は荒らされた。ベッドサイドでマントを着た人が探し物をしている。


「本当に空き巣に入られたんだよ!?おい!」


「わあ、まさか外に誰かいるとは!くそっ!先手を打つ!」


 こちらが入ってきたことに気づいた相手は、説明しようともせず、手近な杖を構えて襲いかかってきた。


「うわ、凶暴すぎるだろ!てかこの杖は見覚えがある!」


「寝てろ!」


 杖の先から突風が飛び出してきた。回避は間に合いないが、避けなくても大丈夫だと思う。


「寝てない!?」


 俺たちが寝ていないのを見ると、相手は驚いたように一歩後ずさりした。


「お、お久しぶり。アイルさん」


「私の名前を知ってる?まさかあの時の──!」


 アイルは俺が名前を知っていることに驚いているようだ。仕方がない、その看板技はよく知ってるから。


 俺の知る限り、この技を使えるのは城の外で出会ったこの亡霊術師だけだ。


「俺だ」


 俺はマントを脱いだ。


「ここで会えるとはね」


「お、お前!お前のせいで、私がどれだけ酷い目にあっていたか知っているか!」


 俺だと気づくと、アイルは激昂したように駆け寄ってきて杖を突き付けた。


「俺は何も悪いことしてないよ!?」


「よく言うね。お前が私のことを話したから、私が空き巣をしなくちゃならないのよ」


「いや、このことは空き巣に入ったことと関係があるか?」


「もちろん関係がある!正体がばれた後、パトロール隊員はすべて魔法に対する装備を身につけているので、もう彼らから物を盗むことはできなかった!」


 アイルは怒ったように言いながら、ドシドシと足を踏み鳴らしていた。


「そのせいで、ヴィットの街に入って、活動資金を集めなくてはならなくなった」


「え、つまり。俺のせいで、兵隊さんから物を盗めなくなって、空き巣に入るんだ?」


「そうよ、弁償してくれ」


 アイルは右手を差しだした。


「いえ、こちらにもお金はないし」


 資金のほとんどはマーリンに預けたし、マーリンは今ここにいないから、弁償するお金がない。


「てか今逃げてないね。前に逃げたくせに、ここで堂々と金を要求してる……」


「前は逃げ場所があるから。ヴィットはなぜか警戒中で、ここから出たくても出られない……はぁ」


 けんかや戦いを続けるつもりはないだろう。アイルはため息をつき、ベッドに腰を下ろした。


「私に気づいてくれたからだろう。まさかレブスがこんなに亡霊術師を怖がるなんて」


「ええ、それについては、俺にも責任があると思うが……」


「お前に何の責任がある?私のように指名手配者ではないのに」


「え、それは必ずしも……」


 俺は手配書をアイルに渡した。


「指名手配って、私の?……待って、手配書の上に描かれているのはお前!?」


 手配書を見て、アイルは驚いてこちらを見ていた。


「お前も指名手配!?」


「認めたくはないが、間違いない」


「えーと……手配書には親衛隊を襲ったと書いてある。どうりでパトロールが増えている!」


 アイルは怒ったように立ち上がる。


「お前が悪いよ!とにかく弁償してもらうよ!」


「いや、今は本当にお金がないよ。でも待ってくれれば、あとでここから連れ出してもいい」


「連れ出して?方法はあるか?」


「あるけど数日待つ必要がある」


「それはダメ!近頃はある流派の者が親衛隊を攻撃している。こんな危険な場所には一日もいたくないよ」


「やあ、紫電流の弟子は親衛隊しか攻撃しないから、攻撃される心配はないよ」


「?なんでそれ知ってる?」


 そう言うと、アイルはすぐに不審そうな目をこちらに向けた。


「えと、彼らのうち何人かは俺の友達だから、安全に関しては心配ないと思う!」


「そうか?ん……だとしても、同じ場所にじっとしているわけにはいかないだろう。城主は指名手配を追うために刺客を送るよ」


「刺客?」


「そうよ」


 アイルはうなずいた。


 アイルの話では、城中の指名手配を追うために、城主から刺客が送られてくるそうだから、同じ場所に長くいるわけにはいかない。


 紫電流の弟子は親衛隊しか攻撃しないから、攻撃される心配はない。追跡される場合は、魔法で防ぐこともできるし、そんなに心配することはないと思う。


「魔法に守られているのだから、いくら刺客でも追跡は不可能──」


「キン──」


 と説得してみた時カンと背後で金属同士がぶつかる音がした。


「え?」


 振り向くと、後ろではシメリアが剣を構え、黒いマントを纏った人の剣を受け止めていた。


「刺客だ──!」


「くっ!」


 マントの人は、シメリアが剣を受け止めるとは思わなかったのか、小さく驚きの声を上げた。


 さっきまでシメリアがマントを着ていて、気配を隠していたから気付かれなかったみたいな。いや今重要なのはこれじゃない。誰だよこいつ!


 ひょっとしてさっき言った刺客?それとも──


「捕まえに来たか!?はっ!」


 俺の反応を待たずに、アイルが杖を構えた。


「あ、待て!」


 止める間もなく、杖の先から吹き出した風がマントの人を襲いた。


「おい。そんなに簡単に人を襲うのはよくないだろう?なぜ襲うのかまだわからないよ!」


「どうせ誰かを捕らえに来た刺客でしょう。それに、挨拶もせずに先に手を出すような奴に手加減は必要ない」


 確かに刺客だけが理由もなく人を攻撃する。でも刺客さんが誰の使いかはまだわからないし、そのまま相手を寝かせるのはよくないだろう。


「うーん!」


 わあ、刺客さんは寝ていない。


「え?また失敗した?」


 眠りの風で撃たれても、刺客さんは倒れなかった。


 え、確か眠りの風は魂が干渉して眠らせる魔法だった。


 相手も俺たちと同じように、そういう攻撃には免疫があるのかもしれない?


「え、あの、あなたは……」


「──来ないで!」


 まるで何か恐ろしいものを見たように。一歩前に出ると、刺客さんは震える声を出した。


「……そんなに怖くないだろう?俺」


「そうね、失礼な奴だな」


「ひぃ!」


 アイルも一歩前進した後、刺客さんは頭を抱えてしゃがんだ。


「なんでここに魔物がいるよ!!!!」


「……は?」


 え、攻撃が効いていないわけではないようだ。

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