第36話 賞金の行方
「賞金を取られたか?」
ヴィット城。兵隊本部。
忙しい一日を過ごした後、ようやく本部に戻ってきたヴィックは本部の雰囲気がいつもと違うことに気づいた。
以前は城の外をさまよう未知の魔物のせいで、みんなはずっとしかめっ面をしている。しかし、
「何かいいことでもあったのか?」
今日は普段とは違って、みんなが笑顔で仕事をしていることから判断すると、今日はみんな機嫌がいいようだ。
(もしかして、あいつは倒されたのか?)
些細なことだが、部下の心身の状況に気を配るのも上司の役目だろう。この街の全ての兵士の隊長として、ヴィックはそう思って懸賞金の置かれた窓口の前で顔を上げる。
「賞金を取られたのか……」
見上げると、棚の上に金貨を詰めた袋がなくなっていた。
賞金を取られた、しかもA級魔物の懸賞金。
つまり、誰かがA級魔物を倒した。
(でもそんな情報も入ってこなかったし……)
もしそんなことがあったら、ヴィックが知らないはずはない。
お金を盗む魔物だからな。しかもお金を盗むだけでなく、兵士の装備も盗むことがあるが……
A級魔物がお金を盗むから、みんなお金を持ってパトロールに出ていないが、最近は魔物も武器を盗むようになった。
いつもあいつに罠を仕掛けてるんだけど、賢くて様々な罠を避けることができるので、なかなか捕まらない。
その魔物は厄介だが、誰も死傷者が出ていないため、ヴィックを含めて誰も本気で捕まえようとしなかった。
「まさか賞金を取られるとは。賞金は誰が持っていった」
ヴィックは窓口に座ってる兵士に声をかけて尋ねた。
もしその魔物が兵士に捕まったら、この時本部はこの状態ではないはずだ。討たれたのなら、証拠品として魔物の肢体がここにあるはずだ。
「ごめん。隊長、証拠品はありません」
「証拠品はない?」
兵士の気まずい顔を見て、ヴィックは眉をひそめた。
魔物を捕まえることはなく、魔物を狩ったという証明もないし、悪ふざけか?
「あの城主の自作自演だったのかも……」
いや、相手の生意気な性格からして、そんなことをするはずがない。
城主に10年以上仕えてきたヴィックは相手の性格をよく知っていて、レブスが自作自演するわけがない。
「じゃいったいどういうこと?」
「お、隊長戻ってきて、お疲れ様です」
振り向くと、ヘクトと同僚が軽快な足取りで歩いてきた。
「どうしたの、困った顔をしている?」
「ちょうどいいところに来た、この賞金引き出しはどういうことだ、お前が保証人だろう」
ヴィックは手にした書類を手に取った。賞金を引き出す保証人はヘクトだと書いてある。
「あ、それで悩んでるのか」
「隊長まだ知らないのね、今日はみんながその話をしているよ~」
ヴィックが尋ねると、暇を持て余していた兵士たちが雑談をしようと寄ってきた。
「忙しいんだ。お前らのように雑談する時間はない」
この兵隊の指導者として、ヴィックはいつもレブスらが起こしたトラブルの処理に追われてる。用事を処理するために本部にいないことが多いので、もちろん人と世間話をする時間はない。
「どんな話?」
「あ、さっきもA級魔物に驚いて倒れたパトロール隊がいたじゃないか。A級の魔物を処理しに行った時に助っ人が来たよ」
「助っ人が来た?」
本来ならば、このような問題を処理できるのは兵士だけだろう。兵士を助けることができる人……
「親衛隊が手伝ってくれたのか」
「隊長、彼らが手伝うと思う?」
「いや……全然そうは思わない」
高慢な奴らに魔物を討たせるなんてありえない。
「助けに来たは冒険者だよ、冒険者」
「冒険者?でも城に冒険者はいなかったはずだ」
数ヶ月前にレブスはすでに冒険者のヴィット城への出入りを禁止していた。このヴィット城には冒険者は一人もいないはずだが、ヘクトを助けたのは冒険者?
「禁止令のせいで、ヴィットに冒険者が来ることはないだろう」
「そうね、しかし、彼らは禁止令が発布される前に城を出た冒険者だった。禁忌の森で恐ろしい魔物に遭遇したらしく、ここに折り返しを余儀なくされたらしい」
「そうか……」
禁止令が出る前に城を出たのだから、禁止令があることを知らないのも合理的なこと……が
「だが、それでも城に入れておくわけにはいけないだろう。誰が入れた?」
「ヘクト?」
隣の同僚は迷わずヘクトを裏切った。視線をヘクトに向けて、相手は気まずい思いをして頭を掻いた。
「冒険者は女の子だからな……荷物をなくして服もボロボロだし、追い払うわけにはいかないだろう」
「うん……なるほど」
(女冒険者だからな……)
ヴィックはため息をついた。
「その話はいいとして、だからこの後、彼女たちは魔物討伐の手伝いに来た?」
「ええ、彼女たちはその魔物の正体をかっこよく見破ったよ」
「魔物の正体?」
「そうよ。その魔物をつかもうとしたけど、みんな寝ちゃったね」
隣の兵士が口を挟む。
「寝ちゃった?」
「ええ、あの恐ろしいと思われたA級魔物は実は女だったよ!しかも亡霊術師で、悪夢を見る魔法でみんなを眠らせてしまう……」
ヘクトたちの騒々しい説明で、ヴィックは何が起こったのかわかった。
「つまり、2人の女性冒険者が魔物を倒しに来ようとしたが、その魔物が亡霊術師であることを見破って、そして相手を撃退したのか?」
「ええ、今回は何も盗まれなかったよ!」
「シィンさんは強いだけでなく美しい。俺たちの大恩人だね!」「そうね、シメリアさんもきれい!」
「……」
みんなの討論から、あの冒険者たちがきれいだと分かる。
どうりでみんな機嫌がいい。
きれいな女性冒険者に助けられて、みんながこんなに喜ぶのも無理はない。しかし、ヴィックはあまり楽しくなかった。
「だからこのことで彼女たちに賞金を渡したのか」
「そうね、彼女たちが俺たちの悩みを解決してくれたからね」
「……」
「彼女たちは荷物をなくしたからね。彼女たちはこのお金が必要だと思う」
A級魔物の正体が亡霊術師であることを見破ったため賞金を渡したか?
噂の魔物が亡霊術師かどうかはさておき、相手を捕まえられないまま賞金を渡すのは豪快すぎないか。
ヴィックは頭を振る。
小銭ならまだしも、それは数ある金貨だよ。なんといっても懸賞金は城の資産であり、もしレブス城主が追及してきたら……
「まあ……とにかく、魔物の正体が亡霊術師であることを前提に対策をしよう。早く魔法を防ぐ装備を申請してくれ」
「もう資料は書きましたが、入手するにはもう少し時間だと思います……」
そばにいた兵士が、きちんと記入したレポートを渡してくれた。
「お、もう書いたか。なら今日は城主のところに持って行ってみよう」
「今日?ああ、確かに」
ヴィックは振り向いて隣の壁のカレンダーを見た。
兵隊のカレンダーには重要な行程があらかじめ書かれている。兵隊にとっては見落としてはいけないことがあり、それは月に一回の会議。
月に一回の会議で、城主はヴィット城の役人を城主邸に集めて、人々の報告によって城内で起こってる大小事を知ることになっている。
ヴィックは兵隊の隊長として、もちろん会議にも参加しなければならない。
「ああ、隊長お疲れ様、あの嫌な奴に会いに行くなんて」
「そうね、俺なら、あいつのために10年働くなんて絶対に無理だ~」
ヴィックが城主を訪ねると聞いて、みんなでブーイングをした。
城主は上司だが、兵士たちは城主をあまり好きではない。
「お前ら、城主が嫌いなのは分かるが、そんなことは決して外で言いふらしてはいけないよ」
「わかってるよ~そんなことも小声で言うだけ。そうしないと親衛隊に連行されるかもしれないよ~ははは~」
ヴィット城出身の兵士にとって、おそらく親衛隊は兵士の最も嫌な人だろう。
同じ城主が立てた行政機関だが、親衛隊と兵士たちの関係は犬猿の仲と言える。
見上げると時計は8時になっていて、もうすぐ会議の時間になる。
「お、そろそろ時間だ――いいか!言いふらすなよ!」
「はい!」
城主の邸宅で会議を開くといっても、そこに行くには正式な服装をしなければならないので、ヴィックは自分の部屋に戻ってスーツを着替えた。
「はあ……賞金を取られた。そんなことどう説明するんだよ。フレリスのやつはたぶんいろいろ質問してくるだろう」
城主の腹心として、フレリスはヴィックに問題を提起するに違いない。多分シオラペもそこで吠えるだろう。
「まず資料を用意しておこう……」
そう思って、ヴィックは書類室に来て、冒険者たちの資料を見つけようとした。
「えと、数ヶ月前にヴィット城に来た冒険者だよね」
冒険者、しかも3人の女性しかいない冒険者のチーム。このチームはどこに置いても珍しいし、女性ばかりだから、簡単に関連資料を見つけることができるはずだが……
「ない……?」
よく探してみたが見つからなかった。いいえ、集められた資料の中には、その女性冒険者たちの資料は少しも見られなかった――
……
「もしかして……仮名?」
城主邸に向かう馬車で、ヴィックはあごを撫でながら考えていた。
その可能性もあるが、じゃなぜ嘘をつくのか?
よく考えると確かにおかしい。
数ヶ月前に禁忌の森に入って、そして危険な魔物に遭遇して逃げてきた?
普通、何ヶ月もあの森の中に滞在できるチームなんてあるだろうか。しかもたった3人?
もし実力があれば可能だけど、相手は強力な魔物に遭遇して荷物を捨てて逃げてきたんだよ?
しかもA級魔物討伐の手伝いに行ったり……相手が実は亡霊術師だったことは後で分かった。けど魔物じゃなくても、亡霊術師はそう簡単に倒せないだろう?
「一体なぜ?」
(相手が何をしようとしているのかはわからないが、今のところ無害そうだ……)
「隊長、到着しました!」
窓の外を見ると、遠くに見えるお屋敷が目に目に入る。
(……後にしようか)
今は他に何かしなければならないことがあるね。
考えながら、ヴィックは会議が行われる邸宅へと向かった。




