第30話 亡霊術師
ヴィット城の南側の城門を出て、兵士の後に、俺たちは兵士たちと合流した。
相手の人数は16人ほどで、俺たち4人を加えてちょうど20人。
「遅い!遅れてあいつを捕まえられなかったら大変だぞ!」
前方に立っている隊長のように見える兵士は、まず兵士を叱って、俺たちに向かって口を開く。
「ねえ、ヘクト?後ろの2人は?」
「ああ、彼女たちは冒険者で、自ら進んで手伝いに来たのだ」
「手伝いに来た?冒険者は怖がって来られないのかと思ってたな。まあ、勝手にして、君たちは後ろの守備を担当してくれ」
相手は俺たちが魔物を捕まえるチームに加わることを気にしていないように見える。
俺とシメリアは彼の指示に従ってチームの後方に来た。メンバーが揃うと、兵士たちはすぐに前に移動した。
「よし、早く現場に駆けつけないと!!!」
「おお!!!!」
「今度こそあいつを生け捕りにしてやる!」
兵士たちは積極的に見えるが……仲間を助けに行くからか?あまり似ていないような気がするね。
「ああ、あいつらの金は全部奪われたから、こんなに積極的になったんだよ」
兵士ーーヘクトに聞いてみると、こう答えてくれた。
「お金は奪われた?」
「ええ、16人合わせて少なくとも十枚以上の金貨がある。お金を奪われるのが悔しいから、その魔物を積極的に捕まえようとしているだろう」
なるほど、同僚を救うためではなく、お金を奪われたからこそこんなに積極的なのか。彼らが魔物を生け捕りにすると言うのを聞くのも無理はない。
「あの魔物さえつかめば、失ったお金を取り戻すことができる……そう思って逮捕チームを作ったけど、望みは薄いと思う」
「おいヘクト!そこで縁起でもないことを言うな、お前はそんなに金を取り戻したくないのか!?」
「俺のお金を奪われたわけじゃない、だから平気だよ」
ヘクトが両手を広げているのを見て、前を歩いているのは逮捕チーム隊長のような兵士が怒って槍を振っている。
「くそったれ魔物、きっとお前に俺のお金を吐き出させてやる!」
「そうだ!」「俺の剣術のすごさを味わわせてやる!」
みんなは殺気立った様子で隊長に応えた。森の林内に向かって進む。
士気があるのはいいが、正直に言ってヘクトの言うとおりだと思う。
彼らの実力は強くないから、魔物を生け捕りにするようなことはできないだろう。
チーム全員の状況を『情報探知』で探ってみた。
予想通り、このチームの兵士の中にはスキルを持っている人はいない。
シメリアのように高い剣術を持ってる可能性はあるがないわけではないが、可能性は低いと思う。
俺の経験からすると、このチームの兵士の実力ではB級の魔物を相手にしても苦戦するだろう。A級魔物に勝たせるなんて、望み薄な気がする。
しかし、前に得た情報から判断すると、その魔物はA級魔物ではない可能性がある。
多分相手はB級しかいないだろうと推測する。
「すぐ前だ!気をつけろ!」
森の遊歩道を約3分ほど歩くと、先頭にいた隊長が低い声で叫んだ。彼らの言動から判断すると、このルートは兵士たちが常にパトロールしてるルートであるはずだ。
パトロール隊の人数は5人で、道路の状況にも詳しいのに、奇襲されたのは、その魔物がいかに狡猾であるかを証明するに足る。
だからみんなは油断せず、黙って慎重に進んだ。
「この先がパトロール隊の遭難地だ……魔物攻撃には用心してくれよ!」
みんながこんなに慎重にしているのを見て、俺も少し緊張し始めた。
慎重に進むと、間もなく俺たちは前の芝生で地面に倒れている兵士を見た。
「気をつけろ……罠かも……」
隊長の慎重さは想像以上で、倒れた兵士のところに石を投げ、続いて彼らの周りの地面に槍を突き刺させた。
相手は幻術を使う魔物だと言われているから、みんな幻が存在するのではないかと心配されている。
でもあまり魔力を感じなかったな……相手の腕が良かったのかもしれない。
長い槍で丁寧に捜査を進め、10分ほど繰り返した後、隊長はほっとして他の人に叫んだ。
「無事、くそっ、あいつは逃げた!」
「くそっ、逃げる弱虫!」
他の兵士たちはほっとしながら、同時に魔物を罵倒した。
「おや、今度も失敗したようだな」
ヘクトは俺のそばに行って隊長を見て苦笑した。
「あいつも俺たちが捕まえることを知っていたから、先に逃げていたんだろう」
「そうだったようだね。相手の正体を拝見できるかと思った」
周りの人も倒れている兵士を起こし始め、魔物を捕まえる冒険は一段落しそうだね。
そう思いながらも、この時――
「?」
一陣の風が吹いてきた。
さっきまで風がなかった森の中に突然風が吹いてきて、それから風が一瞬にして消えていった。
「ん?この風は?……えっ!?」
ヘクトに聞こうとした時、気がついたらみんな地面に倒れていた。
「どういうこと?」
振り向いて観察してみると、その場にいた俺とシメリアを除くすべての兵士が倒れていた。
「まだ息があります」
シメリアはしゃがんで隣の兵士の状況をチェックした。
「彼らは眠っているようです」
「眠っている……」
横に倒れているヘクトの顔を見ると、シメリアの言う通り、彼らは眠っているようだ。
しかし、彼らが眉をひそめている様子を見ると、何かいい夢を見ているわけではないようだ。
「急に眠らせる風……もしかして、あの魔物がやったのかしら?」
もしかしたらその魔物は犯罪現場に戻ったかもしれない。
周りの魔力を感じて、相手がどこにいるのかを見つけようとしたが、魔力の痕跡は感じられなかった。
相手は魔力を隠すのが得意な魔物かもな……
「シメリア、気をつけてね……」
「うん」
一瞬で眠らせる魔物って、怖いね。
俺たちがなぜ眠っていないのかはわからないが、万が一魔物が再びこの技を使ったら大変だ。
俺は槍を上げて周りを見回し、魔物が現れるのを待っていた。
どこから攻めるのか……きっと見えないところを不意打ちするだろう。そう思うと同時に
「え、まだ寝てない人がいるの。じゃあ、これは食べてみて!」
人間の声!?
音が後ろから鳴り、俺はすぐに後ろに向いた。後方にローブを着た姿が立っている。
「おやすみなさい~!」
相手はそう言って、右手の杖を持ち上げる。杖の上の青い宝石の先には、たちまち透明に近い巨大な白い気流が放出された。
この気流が何なのかはわからないが、気流に触れてはいけないと本能的に認識している。
シメリアと俺は同時に武器を振り、突進する気流を振り払おうとしたが、成功しなかった。
本来ならば振り払われるはずの気流が俺たちの武器を通り抜けて、俺たちの顔にしっかりと衝撃を与える。
「う……武器を通り抜けたなんて……」
「やった!さすが天才の私わ~」
俺たちが気流に打たれてるのを見て、ローブの下からかわいい歓声が上がった。相手は女魔法使いか……
「武器で防御できる攻撃ではないよ。魂への攻撃だよ~」
魂への攻撃?
「やぁ。アイルは天才だね~」
自分の勝利を確信したかのように、女魔法使いは悠然と歩を進める。
「この技に当たれば、誰もがすぐに眠りに落ちるよ。まぁ、どうせあなたたちはすぐに悪夢の中で私のことを忘れてしまうだろう」
うぬぼれた女魔法使いは低い声で笑い出し、横に倒れた兵士に向かった。
「次は戦利品を集める時間だ。うん、この人もお金を持っていない。みんな最近頭がいいね。じゃ、武器を持っていくしかないよ、へ!」
女魔法使いは息を深く吸って兵士の長剣を手にしたが、重心が不安定で、臀部を床に落とした態勢で地面に倒れた。
被ったフードも下ろした。
フードが滑り落ちたので、女魔法使いの顔も見えるようになった。
相手は青い長い髪を持ち、青い瞳を持っていて、かわいい少女だ。
「あ、フードが滑り落ちた……まぁ、どうせみんな寝てるから大丈夫だろう……え」
「……よ」
女魔法使いは振り返ってこちらを見ると、俺たちがまだ立っているのを見て、すぐに慌てた顔をした。
「な、なんであんたら寝てないんだよ!」
「なんで俺たちが眠れると思った……?」
俺たちはさっきからずっとちゃんとその場に立っていたよ。
「だって普段こうしてやってるとみんな寝てしまう!……おのれ!早く眠りなさい!!!!!!!!」
女魔法使いは杖を掲げ、再び純白の風を放った。シメリアは前に来て、剣で白風に斬る。
「ははは、それは役に立たないよ。私の風は物理的な兵器では止められないよーーーーーえええ!」
女魔法使いは驚きの声を上げた。
シメリアの剣が白風に当たるから、強大な気流を二分した。
すごいね、先ほどのシメリアの反撃からして、彼女はこの魔法を一度見ただけでその核心を見抜き、そのまま相手の攻撃を切り裂いた。
「……ありえない」
女魔法使いはぼうっと俺たちを見て、攻撃を続けなかった。自分の得意技が切られるとは信じがたいようだ。
「えっ、話をしてもいいですか?」
「……フン、あんたたちと話す必要はない。あんたの運が良いだけ。また来て!」
杖から再び白い風が出たが、さっきとは違って、出てきた白い風はもっと純白で、しかもその数は20もあった。
女魔法使いの命令で、20人分の純白の風がシメリアの前に押し寄せた。
しかし一回相手の攻撃を切り裂くことができる以上、銀の少女はもちろん第2回までできる。
「――」
数十の白い風が生命のある霧のようにシメリアに近づく。だが、シメリアに近づく前に剣で切り裂かれた。
「すごい……」
俺がゴブリンの火の玉を切り裂いて、爆発させるのとは違う。シメリアは確実に相手の魔法の核心を見抜き、的確に相手の魔法を破壊した。
数秒もしないうちに、シメリアは白い風を切ってしまった。そのまま足を止めることなく、彼女はすぐに女魔法使いに駆け寄る。
「――わあ!」
女魔法使いはすぐに後になったが、すぐに木の根元につまずいて倒れた。彼女が起き上がるのを待たずにシメリアは剣を肩に当てる。
「う……」
「では、今話してもいいですか?」
相手が動けない姿を見て、俺は一歩前に出て優しい笑顔を見せる。
「……何を聞きたい」
相手はため息をついてこちらを見た。
「あなたはその盗みの魔物か」
「ふん、誰が魔物だよ?それはあんたたちが勝手に間違ってるだけ。人を人食い魔物だなんて、馬鹿か」
剣がすぐそばにあるのに、女魔法使いは怯む様子もなく、俺をにらみつけて聞き返した。
「そんなに追っかけられては困るよ」
なんで被害者みたいな顔してるんだよ……。
ツッコミたいだが、今はツッコミ頃合いではない。そこで俺は問い続けた。
「え、確かお前が先に兵士を攻撃したんでしょ?」
「はあ?あんた方が先に手を出すんだろう。有無を言わせずに人を捕まえるなんて」
「人を捕まえるなんて?」
「そうよ!訳も分からず指名手配された」
「えっ、そんなことがあるんか?」
「知らないの?私を捕まえに来たのに」
女魔法使いは不満そうな顔をする。でも手にしていた杖はもうこちらを指してはいない。これ以上戦う気がないから、俺もシメリアに後退するように合図した。
女魔法使いは立ち上がってほこりを払って立ち上がり、地面に倒れた兵士を杖で指す。
「あんたたちは彼らと同じ仲間ではないか」
「正直ただの同行者……あなたが指名手配されたことについて、詳しく説明してもらえるか?」
「これはあの馬鹿城主の仕業だよ。私が危険だと言って、私を牢へ入れてやろうとしたよ」
文句を言いながら、女魔法使いは杖で遠くのヴィットの街を指差した。
「だからこのことで兵士を襲った?報復なんて」
「私はこのことで人を襲うつもりはないよ。その馬鹿城主の命令で、私はこの辺の村に入ることができない。命を守るためには旅商人に買い物に行かなくちゃならない。その悪徳商人たちが売ってるものはみな高い、だから買い物のためには兵士を襲うしかないよ」
「つまり指名手配で街に入れないから、強盗になるしかないんだ……」
「私が悪いように言うな、私は兵士の金を盗むだけだよ。他の罪のない人には波及してないよ」
「兵士が波及したよ……つまり、お前は人を食う魔物じゃないか」
「人食い魔物?……ああ、その噂か、彼らに悪夢を見させた後、彼らはあいつが一番怖いと思っているようだね」
女魔法使いはそう言って、杖の先で倒れている兵士をつつく。
さっきも彼女は夢を見させるようなことを言った。つまりその魔法は人に悪い夢を見させるだけでなく、最も怖いものを夢に見ることができるのだろうか。
「その魔法は、人に幻覚を見せて、一番怖いものを見せるか」
「あんたにそんなに話す必要はないだろう。私を捕まえに来たんだろう?」
まだ俺を信用していないようで、女魔法使いはまた杖で指してきた。
「なぜ眠りの風があんたたちに効かないのか分からないが、甘く見ないでよ。まだ使っていない技がたくさんあるんだから」
「いいえ、俺もあなたと戦うつもりはない……」
相手が魔物ではなく誤解されて指名手配された人間である以上、俺も彼女と戦う必要はない。
でも誤解されて指名手配されたのか。なんだか俺に似てるね。
「……あなたが誤解されているとおっしゃるのなら、早く誤解を解いたほうがいいでしょう?」
「ふん、それは無駄だよ。そんな誤解はすぐに解けるものではないよ!!!」
「わあ、落ち着いて……」
その話をすると、女魔法使いは小躍りして怒っていた。
怒っていつまた攻撃してきてもおかしくない女魔法使いを見て、シメリアはまた警戒した。けんかするなよ。
いったい何があってこんなに怒るのだろう……。
まあ、とにかく『情報探知』を使ってステータスを探知しようか。
相手が何か変な攻撃を仕掛けてきたらまずいだから、備えておこう。そう思って、相手のステータスが目の前に現れる。
アイル
称号:危険な亡霊術師
スキル:
『眠りの風』
「……」
「どうした、急に黙って」
俺の沈黙に気づき、女魔法使い――アイルはこちらを見た。
「あの、もしかして、あなたは手配中の亡霊術師ですか?」
「――知ってたか! ?気づかれたからには仕方ない!」
「ちょっと待って!」
俺は急いで声を出して彼女を止めた。
どのようにみんなはすべてこんなに好戦的だよ!
「あなたの言っている誤解とはこのことか! ?亡霊術師だから指名手配される」
相手の動きが一瞬ぎこちなかった、当たったようだ。
「だからどうなんだ?どうせあんたも私のことを危険だと思っているんでしょう?」
ある意味確かに危険……でもこの時はそうは言えないね。
「いいえ、ちっともそう思っていない。シメリアもそう思っているだろう」
「そうです」
シメリアは俺に合わせてうなずいた。
「そうか」
アイルは杖を置いて、顔をしかめて俺たちを見た。
「あんたたちはおかしいだね。霊術師が怖くないなんて」
「誤解されてるって言っただろう。それとも、本当に亡霊で人を害したことがある?」
「そんなことするわけないだろう!」
アイルはすぐに激高して反論する。自分の声が大きすぎることに気づき、相手は視線をそらした。
「私は何も悪いことはしていない……」
そうだったのか。彼女の考えはわかるし、俺にもそういう境遇があったから。
「つまり、あなたは単に職業柄、指名手配しているだけなんだよね」
「……そう」
アイルは、ため息をついて俯いた。
「人間を生き返らせる研究をしているだけ。霊を無理やり操ろうなんて、私はしない」
彼女は亡霊術師という身分で苦労したようだね。
「人間というものは、見慣れないものを恐れるものだからね。この誤解を解いてあげよう」
「誤解……」
「ええ、あの手配書は城主の命令だろう。後で城主のところに行ってその誤解を解くだろう。これでいいですか」
似たような境遇がある以上、俺もできるだけ彼女の誤解を解くのを助けたい。
職業柄指名手配されているだけで、誤解を解く機会はあるはずだ。
でも城主のところへ行くと聞いて、相手の態度ががらりと変わる。
「城主のところへ……その誤解を解くか」
へえ、相手の口調がずいぶん冷たくなったのは、気のせいか。
「そ、そうよ」
「そんなことできるわけないだろう!!!!!!」
アイルは、とっさに顔をあげたが、手にした杖から瞬く間に2つの巨大な青色の火の玉が飛び出した。
「わあ!」
俺はすぐに槍で青い火の玉を受け止めた。
「そんな言葉で私をだますな!」
青い炎の陰に隠れてそう言っている間に、アイルは森の中へと後ずさりしてしまい、たちまち姿を消してしまう。
「無事ですか」
「うん」
炎を一刀両断にして、俺が無事であることを確認してから、シメリアはアイルの逃げた方を見た。
「追うんですか?」
「いや、いいです。兵士をここに置き去りにするわけにもいかない」
相手はこのあたりをよく知っているようで、途中で見失う可能性が高い。彼女を追いかけて人をここに置いておくと、兵士は魔物に食べられてしまうかもしれないな。
「それに、彼女を説得する方法があるとも思えない」
手の中で折れた槍に目を向けて、俺はため息をついた。




