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異世界英雄監獄  作者: 千蒼
一章
3/42

第2話 グランニタ城

 目の前のかわいい子供は黒い長髪、整った目鼻立ち、きれいな眉毛、そしてきれいな黒い瞳を持っている。


 そしてこの子は黒いロングコートを着ていた。このロングコートの丈は長くないから、この子の細い足が靴を履いていないのが見え、そのまま赤い絨毯の上に立っている。


 このような美貌を持つ子供は間違いなく人を横目にするほど美人だ。しかし今この子は顔を顰めた。美しい顔に苦悶の表情が現れている。


 子どもがこのような苦悶の表情をする理由はよく理解できる……あの子は他の人ではなく、俺自身だからだ。


「わあ……」


 腕を上げて、鏡の中の子供も同じ動作をした。


 一体どういうこと?誰か俺が寝ている間に俺の体とこいつを入れ替えたのか。


 眉をひそめると、鏡の中の子供も同じように眉をひそめた。


 うん……外見はとてもきれいだね……。


 もし目の前の子供が俺でなければ、この子はたぶん聡明な少年や少女になるだろう。


「あ!」


 さっそくロングコートを引っ張り上げて確認してみた。


「……ん?」


 ……この体に性別はない。性別を確認できるものはないと言うべきだ。


「なんでそうなったんだ……ひと眠りしたら急に体が入れ替わった……これは簡単な手術でできることではないだね……」


 超強力な外科医が体を改造したという選択肢を排除すれば、選択肢は一つしか残っていないーー。


「魔法」


 魔法。魔法なら体の変化を説明できる。


 魔法のせいで俺の体がこのようになり、魔法のせいでみんなが行方不明になった……魔法は便利なものだね。どんなことがあっても魔法で説明できるね。


 濡れ衣を着せられた時に魔法というものが出てきたらいいな……。


「はあ……」


 人に濡れ衣を着せられたことを思うと、またため息をつくようになった。


 鏡の前でため息をつく俺を見ていて、後ろにいる管理者が声を出した。


「どうしたの?」


 あ、こいつの存在を忘れるところだった。


 俺は背を向けて後ろの浮いた光の玉を見ている。


 よく考えてみるとこいつも不条理なものだな、もしかしてこいつも魔法のせいで出てきたのか?


「どうしたの……?」


「あの……ちょっと質問ですが、人体改造を知っていますか」


「人体改造?」


「人を別の姿に改造するってことだよ……俺はこんな風に改造されたようだな……」


 俺は自分の顔を指差した。俺がこのように尋ねているのを見て、管理者は音を出していないで、考え込んでいるようですその後、口を開いて答えた。


「上位魔法や上位のスキルを使えば、こんなことができるかもしれませんが、あなたはそうは見えませんね」


「魔法……世界には本当に魔法があるか……」


 相手の話を聞いて、いくら魔法を信じていない俺でも、少し動揺し始めた。


「あの、ちょっとお話したいことがある……聞いてください」


 相手は魔法に関することを知っているようで、どうせ隠し事をしてもいい結果は出ない。俺は管理者にここに来る前に起こったことを話した。相手が困惑を解くのを助けてくれることを望んでいる。


「なるほど」


 説明を聞いた後、管理者の体表は光って声を出した。


「なるほど、監獄に閉じ込められて、監獄で目が覚めるとここに来て、そして体を変えたのか……」


「どういうことか知ってる?」


「以上の条件で分析すると、だいたい心当たりがあります。あなたに起こったことは転生です」


「転生?」


 かつて小説でこの語彙を読んだことがある。


 それは人間が死んだ後、別の世界に復活するという意味だったように……待て、管理者が転生したと言った以上、それは俺が死んだことを意味するか。


「いやいや……俺はまだ死んでいないよ。死んでいなければ転生ことは不可能でしょう?」


「疲れた状態で寝ていると言ったことがあるでしょう。過労で寝ているうちに死んでしまったのでしょう?……あなたたち人間もそうやって死んでいる人は少なくないのでは?」


「う……」


 ちょっと印象がある。寝る前に体の中から何かが飛び出してきたのを見たことがあるのを覚えてる。


 まさかその時に死んだのか。もしそうだったら、本当に笑えないね。犯人を見つけ出すと言ったのに……。


「そうか……死んだ、そして転生した……」


「はい、この世界にも似たような例がたくさんあります。普通、この世界に転生した人は、この世界で多くの変化を引き起こすのに十分な力を得ることができますね」


「この世界に生まれ変わって、そうか……じゃあどうしてこの子になった……?」


「それについては私にもわかりません。召喚術式が発動された気配も感じません。だからあなたはきっと転生者です。ただ種族が何なのか確信していません。もしかしたら、ある未知の種族が生まれるとこんな顔になるかもしれませんね」


「未知の種族……」


 異世界に転生しただけじゃなくて、転生した種族が人間でないこともありうるのか?


「うわぁ……そんなことが本当に起こりうるのか」


 相手の言うことは合理的だけど、やっぱり納得できないね、ということ。


 突然あなたが死んで異世界に転生したと言われた。こういうことは普通の人であればなかなか受け入れられないだろう?だからもがいてみることにした。


「あの、俺がこの世界に転生したと言ったからには、何か証拠があるの?例えば魔法のようなもの?」


「私は魔法でできた存在ですよ。でもそう言っても、私を信じてくれないと思いますよね?」


 管理者はこう問い返した。


 ……確かに、目の前のこいつはかつて『空間操作』という魔法を見せてくれたが、俺はまだ管理者を信じていない。


 納得させるほどの証拠がなければ、おそらく俺はこのことを悪夢と思っているだろう。しかし、管理者は言い続けただけだ。


「どうせ百聞は一見にしかず、この異世界に移った転生者である以上、あなたにも身分に応じたスキルがあるはずでしょう。スキルを使ってみましょうか」


「スキル?」


 そうだね。転生者だと言われた以上、使えるスキルもあるはずだ。


「じゃそのスキルをどのように使うか言ってみましょうか」


「簡単ですよ。魔力を感じてくれればいいです」


 管理者によると、この世界で魔力というものは生命力に相当し、この世界の生物にとって不可欠なものだという。


 生物だけでなく、大気中にも大量の魔力がある。大気中の魔力を制御したり、自分自身の魔力を制御したりすれば、スキルと呼ばれるものを使うことができる。


「魔力を感じれば、スキルは使えるはずです」


「言うは易く行うは難し……」


 この世界の人は魔力を操るのが上手に聞こえる。しかし、俺は別世界の人だから、すぐにスキルが使えるわけがないだろう。


「スキルを使うときは集中してください」


「ああ……やってみよう」


 管理者は集中すると言っていたから、俺は鏡の中の自分をじっと見つめている。真剣に魔力を感知する。


 え?本当に何かを感じているみたいだ?


 大気中に力が流れているのをぼんやりと感じた。これが魔力というものだろう。


「ああ……」


 魔力を操りスキルを使う…てかこの世界はどんなスキルがあるな……できれば炎の魔法を使ってほしいな。


 何故かって?それはもちろん炎がかっこいいから!


 かっこいい炎を使いたくない男の子は世界にいないはずだよね?


 炎を出そうとしたが、最終的に俺は炎を出さず、別のスキルを出した。


「ん?」


 何かを呼び出したようだ。


 隣には、ステータスが現れたようだ。ステータスには数字が少し書いてある。


 これはゲームで見たステータスじゃないか。まさかこれを召喚できるのが俺のスキル?


 本当ならがっかりするが、でもどうせステータスを呼び出したから、何が書いてあるか見てみようと思う。


 前方のステータスをよく見ると、いくつかの特別な文字が大きく浮かび上がっている。


『情報探知』


『思考加速』


『武芸洞察』


 これが俺の持っているスキルのようだ。


 スキルの良し悪しが分からないから、俺はこれらのスキルの情報を管理者に伝える。


「お?これらのスキルは戦闘タイプのスキルですね。『情報探知』は敵の詳細情報を探ることができます。『思考加速』は戦闘に柔軟に思考させることができます。『武芸洞察』は敵の動きを模倣させることができるようです……もしかしたらあなたは戦闘に強い種族に転生したのかもしれませんね」


 管理者によると、これらのスキルは俺が戦場でより有利に戦うことができるようになりそうだ。でも戦いなんてしたくないね。だからこれらのスキルの中では、『情報探知』だけが役に立つようだ。


 でも管理者が他人の情報を探ることができると言った以上、俺は管理者の情報を探ることができることを意味してるじゃない?


 この考えが現れると、俺はすぐに実行した。


 こっそり管理者にスキル『情報探知』を使ってみた。管理者は気づかなかったから、無事にスキルを見ることができた。


 管理者


『空間知覚』


『空間操作』


『探索』……


 たくさん!


 これらのスキルのほかに、管理者には数十のスキルがある。3つのスキルがあればもうたくさんだと思っていたのに、相手には何十ものスキルがあるとは思わなかった。


 管理者は強いやつだな。怒らせないほうがいい。


 これからは決して管理者を怒らせないと決めたと同時に、管理者の体はかすかに輝いていた。


「それで信じたでしょう。ここは別世界ですよ」


「うん、それは十分理解したけど……でも死んだな……」


「まだ釈然としないのか」


「いや……まだあの世でやることがあるだけ……復讐できなくて残念だな」


 陥れた奴に復讐できなかったのは残念だが、この世界に転生した今、多分もう復讐はできない。


「ところで、元の世界に戻る方法はあるのか」


 戻る方法はないかもしれないが、念のため管理者に聞いてみた。


「いいえ、他の世界に移す方法はないと覚えています。この世界は一方的に人を呼んでくるしかなく、人を送り返すことはできません」


「そうか……あきらめるしかないだろう。どうせ監獄にどのくらい滞在していないな」


 もし何年も監獄に閉じ込められていたら、釈然としないかもしれない。でも今俺の気持ちは意外と穏やかで、復讐の考えはあまりない。


 監獄に長く留まらずに亡くなったからね〜


 ……とにかく、復讐ということはしばらく置いておくしかない。今すべきことは、この世界に関する情報をもっと理解することだと思う。


「あの、この世界の情報を知ってるでしょう。教えてくれませんか?」


「この世界の情報を知りたいか……。いいよ、教えてあげてもいい」


 ああ、相手は喜んで情報を教えてくれる。いい人だね。


「それではこの世界の起源からお話ししましょう。まず、この世界には魔力が存在し、そして魔力を使うことができる生命が誕生しました。彼らは魔力を感じる力で自分のスキルと魔法を知っていました……」


 そこで管理者は、この世界の情報について語り始めた。


 この世界には様々な種族があり、ファンタジーの妖精、ドワーフ、巨人、獣人などが実在しているようだ。他にも魔力を操ることができる魔獣、魔族、悪魔のようなものがある。


 人種の違いは大きいけど、この世界の種族は例外なく魔力を使うことができる。


 絶えず精進する魔力というものを通じて、最後に様々な国がこうして作られた。そして国家の樹立に伴い、最後には国と国の間でも交戦が始まった。


 最後に交戦した結果、この大陸には3つの巨大な帝国が現れ、そして例外なく人間が築いた国だった。


 この3つの帝国の中には、亜人と友好関係を築きたい国もあれば、人間の上主義を奉じている国もあり、それ以外にも2つの理念を併せ持つ国が存在する。


 この3つの国は信奉する信念は異なるが、最終的にはこの大陸の覇者になった。


 人間は世界の覇者になった。そして物語はそのまま。


「そのまま?」


 相手の話は途中で終わった。


「他の種族のことは?彼らにも国があるんじゃないか?」


「その辺はよくわかりませんが……実は上記の国がまだ存在するかどうかもわかりません。ですからこれらのことを物語として聞けばいいのです」


「ええ……」


 管理者は長い間外出していないようだ。


「あの、どれくらい外出してなかったっけ?」


「私は外出できません」


 管理者は体を軽く回転させる。


「私の本体はこの城の奥にあるので、ここを離れることはできません。知っている情報はすべて外の人が私に伝えてくれました。もし少し前にこの城に入ってきた兵士たちと話していたら、最近の情報を知ることができたかもしれません。残念ながら彼たちはすぐにここから逃げてしまいました」


 管理者はため息をついた。


「うん」


 管理者が言う少し前とは100年前のことだろう。相手の時間の概念が少しぼやけているような気がするね。そこで俺は少し心配して尋ねた。


「あの……お前が知っている情報は、どれだけ前の人が教えてくれたのか?」


「1000年ほど前の人が教えてくれた情報です」


「わあ!1000年!」


 つまりこいつは1000年以上生きてきたのか!まさかこの世界の人はこんなに長く生きることができるか。


「こんなに長く生きることができるか……」


「私は魔力を吸収するだけで生きていける」


「えっ……」


 相手の年齢がどのくらいなのか気になるが、今気にすべきことはそれではなく、別のことだ。


「……つまり、お前の言ってる情報はすべて1000年以上のことだろう。言っている情報は期限が切れているだろう」


「そうですね。禁忌の森の奥にあるので、外の情報を知るのは難しいです」


「禁忌の森?」


 また新しい名詞が現れた。俺が疑問の表情をしているのを見て、管理者は答えた。


「1000年以上前、魔王を名乗る者が魔物を率いて世界中のいたるところで国を攻撃していた。この森はかつて魔王に占領されていた……森には危険な魔物が多いことから、人間からは禁忌の森とも呼ばれています」


「魔王か。本当に異世界っぽいね」


 この世界に魔王がいる以上、勇者もいるだろう。


「……あなたたちの世界も魔王を知っていますね。だったらあなたたちも勇者のことを知っていますはずよ」


「ええ、知ってるよ」


 管理者は興味を持って、勇者に関することを話した。


「魔王の出現に伴い、人間にも勇者が現れました。大勢の人の助けを得て、勇者は最終的に邪悪な魔王を倒し、世界の平和を取り戻した……この世界の史書はこう記されています」


 なるほど……やっぱり異世界ってこんな古いストーリーが出てくるんだね。


 どこの世界でも魔王に人間が勝つ話があるんだな。


 その魔王が誰なのか知らないが、やはり相手が愚かだと思う。


 自称魔王は自分に負けフラグを立てているに等しいからな。もし俺が世界を征服するなら、絶対に自分にこの名前をつけない。


 でも彼の考えがわからないわけではない。魔王という言葉は本当にかっこいいからだね。


「つまり、ここはかつて魔王の領地であり、魔獣がたくさんいて、人が近づけない場所だったのでしょう」


「はい」


「それは困るね。これではここを離れるのは難しいだろう」


「出て行くの?」


 管理者は俺がここを離れることに驚いたようだ。


「もちろん出て行くだろう。ここには何もないし、お前のように食べたり飲んだりしないわけにはいかない」


 さすがにここは数百年誰も来ていない街だから、食べ物なんてあるわけないだろう。


 今のところ飢餓感は感じていないが、それに気づくと体に飢餓感が出てきる。


 さっきから喉が渇いているから、水や食べ物を探して食べないと死ぬかもね。


 俺の体は魔力を吸収すれば生きられる管理者とは違い、やはり食べ物を食べなければ生きられないようだ。


「確かに、ここには何も食べられるものはありません」


 管理者は苦悩の声を上げた。


「もし前に作物を栽培していたらよかったのに」


 相手はここに食べ物がないことを残念に思っているようだ。


「それはお前のせいじゃない。お前も俺がここに転生ことを予知することはできないだろう」


「うん……」


 光っている光の玉はまだ悩んでいるようだ。だから俺は急いで話題を変えた。


「食べ物のことはさておき。ここを出るには魔獣に勝つ力が必要だね……」


 できれば、この森を突破して村を探してみたい。村を見つけたら食べ物を手に入れる方法があるはずだ。もし見つからなかったら、外で狩りに行くかもしれないね。


 どうせ結果がどうであれ、戦える力が必要だ。


「力ですか。つまり戦いたいということですね」


「そう、戦うスキルがあるのだから、それを使わないのはもったいない」


 この体は以前の体よりも貧弱に見えるから、以前のように柔軟に行動することはできないかもしれないが、スキルをうまく利用すれば、スマートに戦うことができるはずだ。


「なるほど、あなたがどう戦えるかにも少し興味がありますね。それではやってみましょう」


 相手の反応は意外に熱烈。管理者はゆっくりと上に漂い、光の玉の横で突然光が出た。


「わあ……」


 光が散るにつれて、中には長い剣が現れた。


 管理者は『空間操作』のスキルでこの長剣をここに移したようだ。


「この城で一番いい剣です。使ってみて」


 管理者がそう言うと、長剣はゆっくりと目の前に移動した。


 意外とちょっと大きいかな。


 長い剣の大きさをよく見てみると、本来の体であればこの剣を持つことができるはずだが、この剣の長さは100センチを超えており、重さは間違いなく重いから、今の俺には持てないかもしれない。


 でも、もう戦うと言った。この時に尻込みすることはできないね。


 俺は手を伸ばして長剣を手に取り、剣を持ち上げてみた。


「あれ?」


 長い剣を俺に頭の上に上げられた。


 軽い!?


 この剣はまるで重さがないかのように、俺に簡単に持ち上げられた。


 もしかしてこの剣は飾剣?一瞬にしてこのような考えを生んだ。でも管理者はアクセサリー を持って俺を誤魔化すことはないと思う。


 思った通り、剣を構えた途端、管理者が興味を持って言った。


「おもしろい。まさかそんなに簡単に持ち上げられるとは。体に怪力があるようですね」


 怪力?


 どうやら俺の体は普通の人とは違うようだな。でもそれは悪いことではない。


 こんなに簡単にこの剣を持ち上げることができる以上、剣を振り回して攻撃するのも難しいことではないだろう?


 そう思って、俺は剣を振り回し始めた。


「わあーーー」


 以前野球をしていたように剣を振り回してみたが、長剣はもう少しで手から飛び出すところだった。


「やっぱりそんなに簡単じゃないな……」


 何と言っても俺は素人から、剣を手にすることができてもうまく剣を使うことができるわけではないな。


「『武芸洞察』を使ってみましょう。このスキルを使えば、見たことのある武芸を発揮できるはずです」


 恥ずかしがる俺の姿を見て、管理者は親切に注意してくれた。


 そうだね。これは役に立つかもしれない。


 俺は剣を軽く持ち上げ、スキル『武芸洞察』を発動した。


 このスキルは見たことのある人の武芸を模倣することができる。だが今ここには俺に模倣させることができる人はいません。でも見たことのある人の武芸を真似できるスキルなら、前世の世界で見た武芸は真似できるはずだろう。


 そこで俺は『武芸洞察』がこのように発動できるかどうかを試すために目を閉じた。


 想像、見たことがある剣術を想像して……


「うーん」


 その瞬間、俺は『武芸洞察』が発動したことに気づいた。


 体はまるで操られているかのように、見たことのある剣術を自動的に作り出す。


 体はやせているのに、俺はそれを意識していないかのように長剣を振った。俺は一歩前に出て、長剣を振り上げて三日月形の斬撃を前方に放った。


 三日月形の斬撃が壁にぶつかり、大きなひび割れを作った。


「わあ……」


 この剣の関係か、真似した斬撃の威力も強化された。


「すみ……!壁を壊してしまった……!」


 壁にひびが入っているのを見て、俺は急いで管理者に謝罪した。


「大丈夫。威力を試すと言ったのは私で、とっくに心の準備ができています」


 管理者は俺が破壊したことに腹を立てていないようで、興味を持って壁の大きなひび割れを見ている。


 おかしいなこの人……。


「これがあなたの世界の剣のスキルですか。うん、あなたの力を合わせれば、簡単にこの森を出ることができるはずです」


「おぉ?この森の魔物はそんなに強くないのか?」


 たぶんこの森には魔物はとっくにいない。森の中には狼のような獣しかいないのかもしれないだろう。俺は管理者の言葉からこの意味を理解した。


「うん、わかった!力を試す手助けをしてくれてありがとう」


 そう言いながら管理者に剣を返したが、管理者が剣を受け取らなかった。


「それを持って行って使いなさい」


「えっ、いいの!?この剣、貴重なんでしょう?」


 こんな攻撃をさせてくれる武器は貴重だろう。しかし管理者はこの剣を重視する気は毛頭なかった。


「どうせ私には使えないから、この剣をあげましょう」


「ああ……いいだろう」


 まさか管理者がこんなに気前がいいとは思わなかった。これからもチャンスがあれば、きっと管理者のこの恩返しをするね!


「じゃそろそろ準備ができた」


 武器を手に入れた以上、早く出発すべきだ。外が昼なのか夜なのかよくわからないから。もし夜の森で行動したら、道に迷ってしまうかもしれない。


「うん……」


「どうしたの?」


「いや、別に」


 管理者の口調から判断して、相手は何か言いたいことがあるはずだ。


「絶対に言いたいことがあるだろう。言ってみて、できる限りの手伝いをする」


 管理者は何か手伝わなければならないことがあるよう、相手がこんなにたくさん手伝ってくれた以上、俺も彼を助けるべきだ。これはいわゆる投桃報李(とうとうほうり)だろう。


「そう言うなら、お願いしたいことがあります。外に行って状況を探査して、一人を探してくれることを望んでいます」


 うん……この件は手伝うことができる。でも管理者は人を探すと言ってるか……


「まず聞いてみるが、お前が探しているのは1000年以上前の人だろう。あの人は今も生きているか」


「もちろん生きています。探している人の生命力はとても強く、こんなに簡単には死にませんよ」


 へえ?この世界には1000年以上生きられる人がいるのだろうか。よく考えてみると、管理者自体が長く生きてきた光の玉なので、彼の知り合いが生きているのも当然のことだ。


 管理者は時間の流れに鈍いから、亡くなった人を探すのかと思ったね。


「じゃあ、その人の名前は?見た目は?」


「その人の名前はディビル。スーツを着た金髪の金目の男です」


「スーツ?この世界にもスーツがあるんだな」


「この世界はあなたたちのような世界の多くの影響を受けているので、文化が混在するのは普通のことです」


「なるほど……じゃあ、探してあげるよ。つまりこのディビルという人をここに連れてくるということだか?」


「いや……彼の様子を確認すればいい。わざわざ彼に近づく必要はない。あの男は転生者にどんな反応をするか分かりません……。あなたを攻撃するかもしれません」


「攻撃する?あいつは転生者が嫌いか?」


「この世界には確かに転生者が嫌いな人がたくさんいるので、転生者であることを他人に漏らさないほうがいいです」


 この世界にも転生者を排斥する者がいるんだな。でもこれも合理的だ。転生者はみんな強い力を持っているようだ。力を持つ人は何をしても多くの人に影響を与える。たぶん他の転生者がこの世界で少なからぬ変化を引き起こしているからこそ、この世界の人は転生者にそんなに警戒しているのだろう。


 まさか人のすることでヒヤヒヤするとは……少し楽しくないね。


 まあ、とにかく気をつければいい。


「そうか。わかった」


 これを確認してから、俺は出発の準備をした。でもその前に、もう一つ思い出したことがある。


「あ、そうだ、お前は前に『空間操作』というスキルを使ったことがあるじゃないか。そのスキルは俺を一番近い村に転移ができないか?」


 管理者にこのスキルがあったことを思い出す。さっきも管理者は『空間操作』という能力で多くのものを転移してこの部屋に入ってきた。うまく使えば、人を森から送り出すこともできるのではないだろうか。


「私もそうしたいのですが、私のスキルはこの城でしか使えないので、あなたを最寄りの村に送ることはできません」


 管理者は城の管理人なので、この城を離れることはできない。そのスキルもこの城でしか使えない……管理者はこう表している。


「森から送り出すことはできませんが、玄関まで送ることができます!」


 管理者の光球の表面は急速に点滅し、少なくともこのことができると言っているようだ。


「あ、じゃ頼む!」


「任せて」


 管理者がそう言うと、俺の体は光に包まれ、目の前の景色が変わった。


「ああ、これが空間転移か」


 光が散るにつれて、俺はこの城のロビーに現れた。


 その部屋は城の管制室だろう。


 管理者が見てくれた画面のように、この城の玄関はイバラに囲まれ、玄関の外には長い草が外の世界を遮っていた。


 過去にこことほぼ同じゲートから入ってきたことを思うと、心の中には奇妙な感覚があるね。


 ところでなぜ元の世界の監獄は異世界の城とこんなに似ているの?


 異世界に転生したのに、見た目が似ている監獄の中に転生するなんて、これ件はどう考えてもおかしいだろう?


「うん……」


 その間の関連性を考え出してみたが、結局答えは出なかった。


「まあ、あとで考えよう……」


 俺は玄関のそばに出て、大きな緑のイバラを見上げた。


「うわ、こうなったのか……」


 イバラは玄関を完全に遮るだけでなく、玄関のホール内に向かって成長している。そんな姿に成長したイバラからは、イバラを下からくぐり抜けようとすることは不可能であることがわかる。


 剣を使えば棘を断ち切ることができるだろうが……。


 うつむいて下を見ている。やせて真っ白な両足には靴を履いていない。俺は靴も服も着ておらず、ロングコートを羽織っていた。


 もしこのまま外に出たら、きっと刺されてボロボロになるだろう……。


「何か問題でも?」


 途方に暮れていると、管理者の声が頭上から聞こえてきた。頭を上げて見ると、管理者の姿は見えなかった。


 俺が管理者を探していることに気づいき、管理者の声が再び現れた。


「管制室であなたと話しています。困ったことはありますか」


「そこは本当に管制室?……ちょうど手伝ってもらいたいところだね。お前のところに何か服はあるか。あの、幾つかの体を守る服が必要だ……」


「……なるほど、確かに装備が必要ですね。でも私のところには服はありません。鎧だけです」


 管理者が話していると同時に、そばに浮いた鉄製の鎧が現れた。


 鎧か、嫌いじゃないんだけど……。でも着るのはちょっと難しいかもしれないね。


 よろいのそばに歩いてきた。鎧を見上げる。


 この鎧は防御力が高いように見えるが、今俺の身長は本当に低すぎる。この鎧を身に着けるメリットは何もなく、むしろ行動の妨げになりかねないね。


「すみません、この装備しかありませんが、でもまだこれーー」


 鎧の横の地面で光っていて、振り向くと地面に茶色のブーツが現れた。


「これを着ていれば、足の裏を怪我する心配はないはずです」


「うん、ありがとう!」


 服がなくてがっかりしたけど、俺は文句は言っていない。さすがに人がこんなに手伝ってくれたのだから、文句を言う資格はない。


 俺は歩み寄り、ブーツを履いた。ブーツは意外に履き心地がいい。森の中を歩かないとどうなるかはわからないけど、あまり悪くないと思う。


 俺は満足そうにうなずいて、巨大な荊棘の先に行って止まった。


「すいませんイバラさん。お前を切り落とすよ!」


 手にした剣をイバラに向け、頭の中で真似したい剣技を考えている。


 目の前の棘は金属ならではの光沢を反射しており、簡単に断ち切れるものではないのではないかと疑ってしまう。しかし管理者がくれた剣はとても鋭利で、きっと棘を断ち切ることができる!


「お!」


 長剣を振り、前方のイバラに向かって横薙ぎに薙いだ。斬撃は残像を帯びてイバラに迫り、一瞬にして大きなイバラを切り落とす。


「わあ……」


 見渡すと前方に道が開拓されていた。


 イバラを断ち切るには手間と時間がかかるかと思いきや、一度で成功した。


 管理者がくれた剣はやっぱり強いだね!


「ありがとう!管理者、もしお前が助けてくれなかったら、ここを出られなかったろうに!」


「いいえ、私がいなくても、あなたはそれができます」


 管理者は謙虚な対応をしている。


 管理者がこんなに謙虚だとは思わなかったよ。管理者がそう言うのを聞いて、久しぶりに気持ちが晴れた。


「それじゃ出発しょう!」


 手を振り上げながら、前方のイバラを切り落とし、俺は一歩踏み出した。

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