第26話 エピローグ
「今回は本当にありがとうございます」
数日後、村長の邸宅で村長は、再び俺に頭を下げた。
「君たちの助けがなかったら、今回の災難では多くの死傷者が出るでしょう」
村長は顔を上げて呟いた。
災難よ、確かに。
ライン村は先日の攻撃では何の死傷者も出なかったが、村全体が放火されて焼けてしまった。村長たちにとって、ゴブリン軍の脅威は確かに災難だった。
「この邸宅も幸運にも一難を逃れて焼けなかったんですね。でなければ今はここで話をすることができませんから……」
村長の邸宅付近の家屋防護が一般の家屋と異なるため焼けなかった。現在も村人たちはこの付近を中心に村を再建している。
「でもあなたたちの大切な神社は焼けてしまって、大丈夫か」
火を消し止めたにもかかわらず、百年以上の歴史を持つ神社は全く焼けていて、再建されなければならなかった。
「大丈夫だ。命が助かったのは幸い。神社は再建できるが、人の命は生き返しませんよ。……それに、大切なものは失われていません」
そう言って、村長は机の上に置いてあったものーー白い結晶を見ていた。
その白いものは平凡に見えるが、これはライト村が長い間祭られてきたものだ。
ゴブリン軍がこの村を攻撃しようとしたのは、この結晶のためらしい。
「魔力以外にもこの結晶には何か作用があるようだ……村長は何か知ってる?」
村長に視線を移すと、相手はうなずいた。
「最初は隠そうとしていましたが、今になって村を守る君に隠そうとしても無理ですし、説明しましょう。伝説によると、この村はこの神社のために建てられ……」
村長は昔の話をした。
「今日から百年ほど前、大戦に参戦した神官がこの結晶を発見しました。その結晶は魔物の王が残した結晶だと噂され、神官はそれを壊すことはできないと判断し、神社内に結晶を封印し、数百人の従官保護神社を派遣しました。そしてその子孫が発展を続けて……」
「この村になった?」
「はい。神官の大結界に守られて、魔物はこの結界に侵入できず、神官たちは森の中で発展し、ライン村を作りました」
「結界は神官が作った……でも彼らはどうやって侵入してきた」
「一般的には、魔物は結界に触れるだけで灰になるので近づかないのですが、そのゴブリンの指揮官はゴブリンの兵士を絶えず結界に衝突させ一気に結界を弱めて侵入に成功しました」
村長は結晶を見てため息をついた。
「何百年も無事だったが、結局こんなことがあったんですね。この結晶を処分する時が来たようです。シィン君、それを受け取ってもらえますか?」
「えっ!?あなたたちはいらないの?結界を破られたからってことなら、マーリンなら何とかなるはずだ」
マーリンは稀代の魔法使いで、その結界を再現する方法があるかもしれない。
「いや、結界があってもダメ」
結界の再建を提案したが、村長は首を横に振って断った。
「ゴブリンの指揮官たちは、その結晶は恩人の所有する遺物だと言っていました。。恩人が誰なのかはわかりませんが、彼らの背後にはまだ黒幕があるのは明らかです」
「恩人の遺物よ、まだこんなことがあったのか」
遺物、もし伝説が本当なら、魔物の王の結晶を欲しがっていた恩人は、もしかしたら魔王と関係があるのでは……?
魔王に関わる恩人……強い魔人かもね。
「そう、今回の件で死傷者が出なかったのは運がよかったのです。でもまたこんなことが起きたら大変。昔のライン村の人たちなら、強力な魔法で相手を撃退できたかもしれませんが、今はもうできません……だからシィン」
そう言って、村長は真剣な目で俺を見ていた。
「この結晶は実力のある人に守ってもらったほうがいいので、受け取ってもらえますか」
村長たちにとって、この結晶はもう厄介なものになってしまったのでしょう。かつての村の人々が守ろうとした結晶が、かえって村に災いをもたらすものになってしまったとは思いもよらなかったね。
でも村長の言うことももっともで、相手はいつまたこのもののために攻めてくるかわからない。この結晶を受け取っておこう……
「わかった」
「お手伝いありがとうございます」
「あ、ところで、村の再建について、何か手伝うことはあるか?」
結晶を受け取りながら、他に何かお手伝いすることがあるか尋ねた。
「気を使わなくてもいい。木を運んでくれるだけでも感謝しています。村の建物のほとんどは木製で、木ですぐに再建できます」
「そうか」
「それに、これもみんなの村だから、自分の家を放っておくわけにはいかないよ」
そう言って、村長は笑顔を見せた。
邸宅の外に出ると、外のライン村の人たちが懸命に家を再建しているのが見える。追加の助けが必要な場所はなさそうだね。
「みんなやる気満々だね」
「おお!大将!」
肩に木をどっさり担いだヒュルトロスが反対側から歩いてきた。
「話は終わりか」
「うん。お前は勤勉だね。誰もそれを求めていないのに」
「人が忙しくしているのを見て、自分が仕事をしていないのはちょっとおかしい。だから手伝いに行った」
「さすが大英雄だね。じゃ村の方を頼むよ。やることがあるね」
「?大将はどこへ行く?」
「もちろん管理者のところに行くよ」
「つまり、結晶がここに移ったということですか」
管制室では、管理者が空に漂う結晶を興味深く見ている。
「この結晶がもたらすのはトラブルだけなんだから、人に投げようとするのも無理はないよね」
「でもまさかこんなに簡単に承知するとは。いい人ですね」
「揶揄うなよ。俺も人が苦労しているのを見たくない。では管理者、彼らが言った恩人のことをどう思う」
「彼らが言った恩人のことについては、私もわかりませんが、相手が遺品の所有権を主張している以上、その恩人は魔王と関係のある魔人かもしれないと思います」
「魔王とよく知っているから、この結晶を取り戻そうとしているのか。というか、この結晶の効用って何なんだよ」
その結晶を眺めて。その結晶は戦いの中でオークとゴブリンに強力な力を与えたことがある。
「リポジトリにもこの結晶に関する資料はありません。でもあなたたちの言うことで判断すると、おそらく絶えず魔力を与えることができる魔力の塊でしょう」
「魔力の塊……」
「はい、今も結晶は絶えず魔力を生み出しています。相手はその魔力で自身を強化していたようです」
「でも最後は自滅しちゃったのね……」
「それは相手の強さが足りないからでしょう。器が足りないのにどんどん魔力を吸収していけば、最後は魔力が多すぎて自滅してしまう」
「そうか。他に効用はあるか」
魔力を与えるだけで、敵の攻撃を防ぐことができるのだろうか。何か他の効用があるような気がする。
「今のところ、他の効用は見つかっていません。実際にこの結晶をお調べになっても、何も変わったところは見つかりませんでした」
「シィン様、この結晶をいただけますか」
そばにいたマーリンは前に向かった。
「私はこの結晶に少し興味があり、テストをしたいと思います」
管理者に振り向く、相手は何も示していない。
「いいよ。では頼む」
「はい、できるだけ早く探査して、魔法がこれ以上防御されないようにします」
マーリンは頷き、結晶を受け取って管制室を出た。
「じゃ、あとはもう一つ用事が残っている」
マーリンが去った後、俺と管理者は管制室にいた別の人ーーシメリアに目を向けました。
「彼女は突然召喚されたそうですね」
「ええ、ヒュルトロスと同じように、突然目の前に現れたんだけど、なんだか違う」
召喚方は見た目には似ているが、どこか違和感が……
「こんなに来訪者が召喚されやすいのか」
「常識的には、初めてシステムを使う以外に、城主が自発的に召喚陣で来訪者を呼ばない限り、召喚陣は起動しません」
「じゃ今の状況一体は?」
シメリアに目を向けると、相手は静かにここを見ていただけだ。
「そうですか。それでは確認してみましょう。失礼ですが、シメリアさん、あなたが召喚された経緯をお聞かせいただけませんか」
「経緯?」
シメリアは首を傾げて、俺たちの問題を理解していないようだ。
「召喚される直前、あなたが隣の方……シィンが呼ぶ声が聞こえましたか?」
「声……いや、聞こえなかった」
シメリアは振り向いて俺を見た。
「あなたを見ただけ」
「見た?俺?」
「うん、あなたを見た。あなたのそばに着きたくて、ここに現れた」
俺のそばにたどり着きたいから、ここに現れた?
「えっと……それだけか。他に情報はないか」
「いない」
「そうか……」
「相手の情報は本に記載されているはずです。本で確認しましょう」
管理者はそばで声を出して言った。
「ああ、そうね」
英雄の情報を記した本がそばに現れ、俺は本を手に取り、シメリアのことを考えている。
本は素早くめくって、すぐにシメリアの情報を記載したページにめくった。
シメリア 番号17
所属する世界:――
「数字と部屋の魔力の源は一致しています。17号室で間違いありません」
「番号は17で、数字は1桁に近いね。でも所属世界には情報が記載されていないが?」
ヒュルトロスたちが自分の所属する世界を持っていることを覚えている。なぜシメリアの世界は書かれていない?
「あの、シメリア、本にはあなたの世界の情報は書かれていない。あなたはどんな世界から来たの?」
もし彼女の世界がどこなのか知っていれば、召喚陣が意外に起動した理由を調べることができるかもしれない。そう思ったが、相手は驚くべき答えを出した。
「覚えてない」
「覚えてない?」
「うん。あなたを覚えている以外、他の記憶は覚えていない」
「それは……」
記憶喪失じゃないか。
振り向いて助けを求めて管理者に目を向けた。
「彼女は嘘をついていないようですね……。手がかりは少ないですが、だいたい彼女がこの世界に来た理由は推測できます。簡単に言うと、彼女は自分からこの世界に来たのです」
「自分からこの世界に来た?そんなことあり得るの?」
シメリアが言っていた俺を見たことはさておき、世界を越えることがこんなに簡単にできるものか。
俺は懐疑的な目で管理者を見ていたが、相手は淡々と答えただけだ。
「彼女の言葉からしてそうですね。どうやってやったのかはわかりませんが、彼女はあなたを見て、あなたに引かれて、そして召喚システムによって来訪者とみなされこの世界に召喚されました」
「そんなことあるの……」
このようなことはどう考えてもでたらめだが、これは今のところ最も合理的な解釈のようだ。
召喚された当事者に目を向けると、シメリアはそれを聞いても表情が平板だった。まるで今言っていることが彼女とは関係ないように。
記憶を失ったからか、こんなに冷静だった。
理由もなくこの世界に召喚され、しかも記憶を失うなんて……どう考えてもヤバいだね。
「うん、間単に言うと召喚システムミスだから召喚されたんだろ。しょうがない……」
「いいえ、この件は断固否定します。召喚システムは非常に精密なシステムで、決してミスはあり得ませんーー」
「はいはい~被害者が目の前にいるから、弁解するな」
管理者の呼びかけを手で止めながら、俺はシメリアに向かった。
「え、ということで、すみません。あなたを巻き込んでしまいました」
「いえ、言ったでしょ。謝る必要はない。あなたのためにこの世界に来た」
「俺のために……って、どういう意味?」
「……あなたを守るため?」
シメリアは首を傾げる。
「相手はあなたを守るために、自分からこの世界に来たようですね」
「冗谈を言わな……とにかくシメリア、あなたは俺たちにこの世界に召喚された。俺たちは何とかしてあなたの記憶を取り戻して、あなたを帰らせる」
「そんなことしなくていい」
シメリアはそう言って早足で近づいてきて、手を伸ばして俺の手をつかんで目をまっすぐ見ていた。
「わあ……!」
「おや、面白い展開」
管理者は傍らで興味のある声を出した。
「あなたを守らなければならない」
「あ……とにかくよろしく。ねえ、言ったけど……俺はシィン。シィンで呼んでくれたらいい」
「うん……私も同じ。シメリアでいい。よろしく、シィン」
シメリアは一歩後退して、花が綻ぶような笑みを浮かべた。
◇
「ところでシィン、グランニタ城の転移方法がわかりました」
この後、管理者はこの件について言及した。
「ああ、そうだね、だからどうやって城を転移?」
城が長い足で歩いている光景が頭に浮かんできた……そうではないだろう。
「資料を調べて確認したところ、転移には城主自身がその本を使う必要があることがわかった」
「この本?どう使う?」
「特定のページをめくって、グランニタ城を収納したいと頭の中で考えることで、城を本の中に移すことができます」
「おお、そうか……待って?本の中!?」
「そう、この方法で、城全体を本の中の空間に収納することができ、移動に最適です」
「城を本の中に収納する……そうすれば大丈夫か?」
何だかそうすれば管理者もぺちゃんこになってしまいそうな気が……
「大丈夫ですよ。中の空間の大きさは調整されています。また、内部時間の流速も外部と同じなので、心配する必要はありません。便利ですが、内部の人は外の音が聞こえないのが欠点です」
「ちょっと怖い感じね」
もしうっかり人を閉じ込めて忘れたら……まあ、そんなことを考えないほうがいい。
「だからこうすれば、城を本に入れて持ち歩くことができるだろう」
「ええ、もし城を解放するなら同じ方法です。ただし周囲の空間の大きさに気をつけてください」
「はは、狭いところから出したら、きっとたくさんのものを壊してしまい……。とにかくこれで、一緒に行動できるね!」
「そうね」
管理者を連れて冒険するのも面白いね。
だいたい起こりそうなことを確認した後、俺はシメリアとマーリンを連れて城の外に出て本を開けた。
「このページ。そして城を収納したい……」
管理者の指示に従って、すぐにグランニタ城を本の中の空間に収納した。
さっきまで崖の上にそびえ立っていたグランニタ城は一瞬にして姿を消し、荒れ果てた土の畑が残された。
「こんなに大きな城が今、この本の中にあるとは……」
手にしている本を眺めてると、なんだか現実味がないね。
「まあ、でもこれが異世界だからね」
それに、ここから目が覚めたね。
この世界に来てまだ数日しか経っていないが、多くのことを経験しているから、今ではそんなことに驚くことはないね。
前の世界の俺にこのことを言ったら、きっと信じないだろう。
信じられないことだけど、その前に冤罪で監獄に入れられたのも信じられないだね。
思い出して思わず声を失って笑ってしまった。
「……ふん、よし!じゃあ早くライン村に帰ろう!」
笑いながら、俺はライン村に向かって歩いた。




