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異世界英雄監獄  作者: 千蒼
一章
26/42

第25話 村の決闘

「おうーっ」


 目の前の敵の攻撃をかわしながら、ヒュルトロスはかすかに笑った。


 余裕を見せていたが、実際に前方で起きた状況は甘くない。


 前方の谷の中で、ゴブリン軍はここに向かって進んでいる。これらのゴブリンは常識的に理解されてるゴブリンとは異なり、どの個体も非常に強い。


 また、どのゴブリンも目を赤くし、獣のような声を上げて進んでいく。


 その数は約3万で、この数の暴力はこの世界でも侮れない。


 我々を阻むには、最低でも何万もの軍隊を出して来いーー。


 とっくに理性のない歌布林たちは、この言葉を咆哮で訴えた。


 それに対して、彼らの前に立ちはだかっていたのは一人、ヒュルトロスであった。


 上司が命じたから、ヒュルトロスはこの軍勢の先に立ちはだかった。


 理由を理解していない見知らぬ人なら、たぶん上司の命令は極めて理不尽だと思うだろう。


 三万対一、どう考えても勝てるわけがない。


 だが、実はそれは実はヒュルトロスが自分からこうしたいと言っていたのだ。


 なぜそんなことをするのか。理由は大したことはない、ちょうどできたからだ。


 簡単に軍の前に飛び込み、ヒュルトロスは軍の前進を阻止しようとした。


 しかし、軍の前進を阻止しようと口を開いても、これらのゴブリンたちはそれを聞き入れずに襲いかかってきた。


 それも当然だね。


 ヒュルトロスは苦笑した。


 これらのゴブリンたちは、狂暴化というスキルを使っていた。このスキルは使い手を理性を失わせると言われていた。そのため、ゴブリンたちは残された理性を失い、前にあるものをどんどん潰していくだけだ。


 いや、残された理性を失ったといっても正しくない。これらのゴブリンは、自分の力でこう進化したのではなく、外力によってこうねじ歪められたのだから、最初からあまり理性的ではない。


「ふん……」


 だが、それにもかかわらず、ゴブリンたちは戦士であり、ヒュルトロスは彼らを見下していなかった。でもーーー


「こんなところにいる暇はないな」


 ゴブリン軍の前方にいた数百人を倒した後で、ヒュルトロスは呟いた。


 これらの軍隊は陽動にすぎない。だとすれば、これ以上ここで時間をつぶしてはいけない。


「すみないが、大将はまだ俺を待ってる……それに戦うときは全力を尽くすべきだろう!」


 全力で戦うことができる。これは主君が保証してくれたもので、主君に安否を心配されるのは嬉しいが、実はその心配は余計だ。


 全力で戦える以上、ヒュルトロスは負けない。


 この世界に来て以来、ヒュルトロスは戦いに全力を出さなかった。真剣に戦えばそれらの戦いは一瞬で終わることができる。


「……じゃあ、行くぞ!」


「ガ!」


 ヒュルトロスの周囲の勢いの変化を察知し、ゴブリンたちはすぐに阻止しようと突進した。


 槍が薙ぐ、襲いかかってきたゴブリンは強力な力で吹き飛ばされた。


 ヒュルトロスは構えている。彼がそうするにつれて、周りの巨大な魔力が槍身に集まった。遠くから見るとまるで空の星が槍身に落ちたかのようだ。


「この攻撃で終わりにしようーー」


 槍が前に出て、槍から光が湧き出る。まるで天上の星のような光が裂け谷を照らし、前に進むゴブリンの目を輝かせた。


 彼らが手を伸ばしてこの光を遮ろうとした瞬間、灼熱の白い光がそのまま飲み込んでしまった。


 この光に触れた者は一瞬にして灰になった。一、十、百、巨大な龍のように前に向かって怒鳴り、巨大な白い光がこの狭い裂け目の中で横行し、すべてのゴブリンを一掃した。


「ーっ!」


 すさまじい光が森を揺らし、近くに住む生き物が次々と外に逃げていった。


 光の音が消えるまでにかかった時間も、一分にすぎない。


 だが、見渡す限り前に立っていた生物はもう一人も残っていない。


「ハッ……ちょっとやりすぎだね」


 谷の中には巨大なスプーンで掘られたばかりのように、長尺状をした巨大な穴が現れた。


 スキル『星の斬』


 これが英雄と呼ばれるヒュルトロスが持っていたスキルの一つが生み出した結果だ。


「目立ってはいけないと言われていたのに、でも緊急事態だから、大将は許してくれるだろ?」


 ヒュルトロスは苦笑し、槍を肩にかついだ。


「大将のところに問題があるとは思わないが、早く帰ったほうがいいね」


 ◇


「ーー」


 巨大な棒の先に、人影が見えた。


 相手は剣を持っていて、オークの木の棒を受け止める。相手はとても小柄なのに、オークの攻撃をしっかりと受け止めた。


「ふん……」


 勢いよく押すと、穴の口に立ちはだかっていたオークを人影が力いっぱい押しのけた。


 オークは穴から遠ざかっていたから、相手の姿も見えた。


 相手は美しい少女だった。青白模様を基調とした鎧を身にまとい、ストレートの銀髪を背中まで伸ばし、凛とした姿で振り返り、青い瞳でこちらを見ている。


「……」


 穴の外の月明かりを浴びて、少女は無言でこちらを見た。


「……あ!」


 もう少しで見とれてしまうところだった。


「あの……もしかして、あなたは召喚された者なのか!?」


「……うん」


 銀髪の少女は軽くうなずいた。


「また召喚した……でも呼んでなかった覚えが……」


 今の状況からすると、確かに相手は召喚された来訪者だったようだ。でも召喚システムにはわからないこともたくさんある。それを受け入れるしかなさそうだな。


「でも人を呼んでも無駄だな……攻撃はあいつらにダメージを与えることができない」


「ほーー!」


 押しのけられたオークは素早く穴に戻り、木の棒を持ち上げて力を入れた銀の少女に向かって振った。


「危ない!」


「……」


 冷静に相手の攻撃を見つめ、少女は一歩後退して木の棒の攻撃を避けながら、手にした剣を前に振るーー


「ウーッ!」


 オークは苦しそうに怒鳴り、急いで後ろに退いた。


 すらりとした剣がオークの腕に切り込み、相手が退かなければ、おそらく剣は腕全体を切り裂くだろう。


「……傷ついた!?」


 俺は驚いて少女を見ていたが、まさか彼女が相手を傷つけることができるとは思わなかった。こうなればできるかもしれないーー


「あの……あなたー」


「シメリア」


 青い目がこちらを見た。


「私の名前はシメリア」


「じゃあシメリア、俺はシィン。あなたは今の状況を理解していないかもけど、でも助けてもらえるか!」


「いいです」


「ん……お前はあの大きい奴を相手にできそうだ。俺はあいつらのボスに会いに行く。そいつに対処してもらえないか」


「うん」


「じゃあー」


 俺は手にした槍を持ち上げて、前にジャンプした。前方にいたオークは再び木の棒を振り上げてきた。


「頼む!」


「……今回は二度と失敗しない」


 かすかな囁きは聞こえないほど小さく、銀の少女の剣は前に突き刺さり、近づいてきたオークを後ろに倒した。


 少女がオークの体に立つのを見ながら、俺は神社の方へ走って行った。


 ◇


 大火が燃えている。建物の内部から炎が噴き出し、多くの火の粉が散布された。


 よく見ると、周りの建物が赤々と燃えている。


 この村の中央には人間によって建てられ、あるものを祀るための神社という建物があるそうだ。しかし現在、この建物の周りには人間が一人もおらず、燃えているのを放っておくしかない。


 このまま燃え続ければ、遅かれ早かれ神社は倒壊し、村も灰になるだろうが、それを見ていた者はそれを止めようとはしない。


 なぜなら、この神社を、この村を焼き払ったのはこの見ていた者ーーゴブリン将軍。


 大部分の軍隊に別の村を攻撃するよう命じ、この陽動の計でこの村の冒険者を別の村に誘導した。その後、残ったゴブリン兵を消耗して結界を突破し、恩人のものを手に入れた後、彼は自分の勝利を確信した。


 神社に祀られているものの外見はガラス玉のような丸い結晶である。


 もろいように見えるが、ゴブリン将軍はこの結晶に込められた大きなエネルギーを感じることができる。道理で人間は恩人の手からそれを手に入れようとする。


 その結晶を手に入れた結果、部下は数人しか残っておらず、5つのオークも4つしか残っていないが、それさえあれば簡単に戦局を覆すことができる。


 ほら、飛ばされた黒い奴のように。結晶の魔力を残りのオークの体に注入すると、真っ黒な奴の攻撃はオークを傷つけることができなくなった。


 勝利を確信すると、ゴブリン将軍は燃え盛る村の出口に向かって早足で移動した。


 オークに魔力が注がれ、勝利は間近に迫っているが、魔力に守られていないゴブリン将軍は戦闘に巻き込まれる可能性があるため今すぐ村を出て戦いが終わるのを待った方がいい。


 でもーー


「う……」


 嫌な足音が後ろから聞こえてきた。振り返ってみると、あいつはそこに立っていた。


 黒いコートを着て、手に銀の槍を持っている。その倒されたはずの黒い奴は、数歩の距離の先に立っていた。


 まだ生きてるのか。


 さっきの不安な振動から大体何が起こっているのかは察知できた。おそらくオークは倒されたのだろう。


 さて、どうやって倒されたのか……?いや、今そんなことを考えても始まらない。


 今、今やるべきことは一つしかない。


 ゴブリン将軍は剣を抜いた。


 剣が引き抜かれるのを見て、黒い奴は眉をひそめて叫んだ。


「お前があいつらの指揮官だろ。お前もう逃げられないんだから、部下たちを降参させてくれ」


 ふん、今になって何を言ってるのか。事はもうここまで来たのに、まだこんなに無邪気なのか。


 ゴブリン将軍は軽く笑った。


 姿を前に振ると、その場から消え、次の瞬間、ゴブリン将軍が黒い奴の前に現れた。


 もしこの時野次馬がいたら、ゴブリン将軍が瞬間移動と思っただろう。


 しかしゴブリン将軍は単純にスピードを上げ、相手の前方に素早く到達しただけだった。ゴブリンを統べる指導者として、この程度の力を持つのは当然だが、


 ……避けた?


 首をかしげて、黒い奴が剣を避けた。


 ゴブリン将軍は十分強いが、目の前の人間は彼よりも強いようだ。


 やっぱりこいつは自分よりもはるかに強いな。そう思っていると同時に、一騎当千の実力を持つ奴は、


「やっぱり……降伏を勧められないのか」


 無邪気にそう言った。


 愚かで可笑しい。こっちは殺意を持って攻撃してきたんだぞ。いったいどこで生まれたからそんな愚かな哀れみの心があるよ。


 哀れみとは、大きなことしか言えない奴が言うことであり、戦場にいる以上、その可笑しい哀れみの心を捨てて、全力で戦うべきだ。


 ゴブリン将軍はさらに速度を上げて剣を振り上げた。一歩遅れてここがまだ戦場だった黒い奴を思いだして、ようやく槍を構えて戦った。


 速い連打で相手を抑えようとする。剣を振るたびに激しい風が吹く。


 その強大な力が命中すれば、目の前の人間を殺すことができる。しかし、毎回の攻撃は受け止められた。


 カン、カン、カン。


 剣と槍が衝突するたびに、衝突する力は周囲に衝撃を与える。


 細く見える腕は決して見た目の弱さのようには見えない。剣の身を介して伝えられた力から、ゴブリン将軍は、黒い奴の怪力が自分をはるかに超えていることを分かった。


 でもそれでも、相手はまだ本気じゃない。


「舐めるな、人間!」


 ゴブリン将軍は怒って怒鳴った。


 このような実力は明らかに瞬間的に攻撃してくることができて、なぜそこでためらっている。この迷いはゴブリン将軍だけでなく、これまで犠牲になってきたゴブリンへの侮辱でもある。


 ためらったりしているなら、こちらがそれらを捨てさせてあげよう!


 一歩後退して、血脈の奥に秘められた力が引き出される。


「う……!」


 目の前の黒い奴が一瞬驚いたような顔をした。おそらく相手もそれがどんな力なのか知っているだろう。


 そう。『狂暴化』。


 これがゴブリンという種族が持ってるスキルだ。


 使っただけで力が上がり、その代償は理性を失うことになる。常識的にはゴブリン将軍は理性を失っていたはずだが、ゴブリンたちとは違って理性を保つことができる。


 それだけじゃない……!


 大切に保存した結晶を胸に置き、結晶の魔力は一瞬にして鎧を突き抜けて体に吸収される。


 ほとんどの魔力は残りのオークに移されたが、結晶にはまだ多くの魔力が利用できる。


 これで、あいつに追いつけるだろう!


 そう考えて、ゴブリン将軍は振り向いた。


「ああ……わかった」


 黒い奴は軽くうなずいた。


 どうやら分かったようだね。


 ゴブリン将軍は獰猛な笑みを浮かべて、目の前の人間に向かって突き進んだ。


 突き、袈裟斬り、薙ぐ、剣に群がる魔力が実体となってほとばしる。それに反対側には、相手の手の槍も同様に漆黒の魔力を放つ。


 2本の武器が振り合う。巨大な魔力の風が2人の周りに広がっている。これによって引き起こされた暴風は、近くで燃えていた炎を吹き飛ばすほどだった。


「はー」


 咆哮している。ゴブリン将軍は剣を黒いやつの槍に押しつけた。


「これでやっと本気になれるだろう!」


 そう言い放つと、黒い男もうなずいて応えた。


「うん、そんなに望むなら!」


「上等だ!」


 黒い奴の力が高まって剣を押しのける。


「俺はこの戦闘を速やかに終わらせる!」


 言い終わり、黒い男は一瞬にして目の前から消えた。それは今のゴブリン将軍でさえ見えない、視力を超えて神速だった。


「うーっ」


 タイムリーに前にジャンプすると、後方からすぐに轟音が聞こえてきた。


 振り向くと黒い奴が後方に現れ、手にした槍はさっきいた位置に移動した。さっき前に進まなければ、今頃は命を落としていただろう。


「おもしろい!」


 その力に応えるため、ゴブリン将軍は魔力を極限まで引き上げ、再び前に連打した。


 斬り合う攻撃の一つ一つには大きな魔力が宿っている。


 魔力による風が黒い奴の髪を吹き上げる。


「そう――そうなんだ!」


 目の前で死闘する敵を見つめ、ゴブリン将軍は満足そうに笑った。


 知らないうちに、彼はこのような戦闘を楽しみ始めた。


 そう、このように、速く、もっと速くなれば――


「もっと……早く――」


 前方に切り出した攻撃が外れた。


 これは戦闘では初めて、ゴブリン将軍が振り回した剣が意識に追いつかなかった。


 どうした?そこで間違いがあった。そう思うと同時に気づいたのが、呼吸が荒くなってきたこと。


 あいつが何かしたのか?


 いや、黒い奴の目から彼が何をしていないかが見える。それに相手もそんなことをする必要はない。ならば、そうなるのは……


「俺のスピードが落ちたか……」


 そうつぶやくと同時に、黒い男の槍が肩に刺さった。


 ゴブリン将軍は後方に飛び、転ぶ寸前に取って剣を構え直す。


 息を落ち着かせながら、顔を上げる。


 目の前の黒い奴が自分に槍を向けた。そして、銀の槍身は紫と黒に輝き始めた。


 槍に輝くのは相手の魔力だろう、どうやら相手は戦闘を終わらせようとしているようだ。


 これでちょうどいい。


 戦闘が終わるのを惜しみながら、ゴブリン将軍も身構えた。


 紫の光が急速に収縮した瞬間、ゴブリン将軍は剣を振り上げ突進し、手にした剣を目の前の人間に斬りつける。


「これで終わりだーーー!」


「ーー!」


 後ろに下がって槍を後ろにして、それから前に向かって、槍身の中の魔力は前に釈放される。


 紫の魔力は街を照らし、燃える音を吹き飛ばすだけでなく、その攻撃は拡大して周囲の数十棟の家屋を破壊した。


 光が消えて、黒い奴が自分の胸に立ったとき、ゴブリン将軍は何が起こったのか気づいた。


 頭を下げて見ると、銀の槍はすでに鎧を突き刺し、胸に巨大な空洞を作っていた。


 致命傷だ。


「これで終わり……」


 黒い奴が囁いた。


 満足したか?


 言葉からその質問を察知することができる。


「ああ……」


 ゴブリン将軍は手を上げた。本来手のひらがあるはずの場所はとっくに粉末化していた。


 狂暴化、厖大な魔力の結晶、これは貪欲にこれらを使った結果である。


 瞬間的に大きな力を得ることには当然相応の代価がある。その代償は粉末になることだ。


 体は次第に力を失い、多分下半身は粉々になり始めていたのだろう。ゴブリン将軍は黒い奴にもたれかかっていた。


 こいつはとっくに気づいていたのだろう。


 相手はこの戦闘を侮辱したわけではない。むしろ、それに気づいたこそ、相手はゴブリン将軍が粉々になる前に殺していたのだろう。


 黒い奴の顔に視線を向け、相手の顔には何の表情もない。


 憎らしい。一気にこの戦闘を終わらせると言っているのに、こんなに長く楽しませてくれて、最後まで戦士として戦わせてくれて……。


「やっぱり人間は――」


 偽善だな。


 かつて強大な軍隊を率いた男はこの言葉を口にしなかった。


 ただそのまま目を閉じて。


 ◇


 話が終わらない。目を閉じたゴブリンの指揮官がそのまま粉になっていくのを見て、俺は吐息をつく。


 さっきまで真っ向から対立していた相手とこのまま灰になってしまった。これまで殺したゴブリンと違って、相手は自意識を持った存在だったせいか、意外に微妙な感じた。


 おそらく戦いの勘か、スキルのせいが、戦い半分、相手がその結晶を使って中の魔力を吸収した時、俺はこのような結果があることを薄々知っていた。だから俺は相手が完全にそれで崩壊する前に彼を倒すことを選んだ。


 最後までゴブリン指揮官に合わせて戦ったが、やはり相手が何のために戦うのか理解できなかった。


「あ、そういえば、名前も聞いてなかったな」


 死闘を経験しているのに、相手の名前もまだ聞いていないなんて、これも異世界ルールだとしたら、それは大変だね。


「とにかくこれで村の危険は解消されただろう。でもその場合は……」


 遠くの家が赤々と燃えている。相手の策略を阻止したが、その結果が村の炎上だったのだろうか。まるで小利大損だね。


「魔法で火を消して間に合うかな……あ」


 隣の地面には白い結晶がある。持ち上げて観察してみた。結晶に魔力が宿っているのを感じることができる。


「これがオークを強くした結晶か。神社の供え物らしい」


 つまりゴブリンがこの村を攻めたのは、この結晶のためだったということか。前の推測を思い出すと、彼らの後ろにいる黒幕は結晶を欲しがってるのかもしれない。でも最後まで彼が現れるのを見ていないな。


「今考えても無駄だ。まだマーリンたちを助けに行かなきゃ……」


 さっきまでオークがマーリンのところに行っていたのを見ていたが、オークやこっちのと同じくらい強かったら、早く助けに行かなければならないね。


「シィン様!」


 そう思っていると、遠くからマーリンとシメリアが歩いてきたのが見えた。


「ああ、そちらも戦いは終わりか」


「はい。敵が倒せなくて困っているところに、このシメリアさんが助けに来てくれたので、戦いはすぐに終わりましたね」


 シメリアさんも、シィン様が召喚されたのですか?マーリンは目で尋ねた。


「なぜかはまだよくわからないけど、シメリアも俺が召喚した」


 危険にさらされた時、突然目の前に現れたシメリア。出てき方はヒュルトロスと似ているが、召喚の過程は少し違うような気がする。


 後で管理者に聞いてみよう……


「ところでマーリン、村にはまだ敵がいるか」


「いいえ、村の中の敵はすべて排除されました。捜査に派遣された使い魔も残りの兵士を見ていません。敵がいないことはほぼ確認できます」


「そうか。それはいい──」


「お──!シィン!」


 振り返ると、前の交差点で誰かがここに向かって走ってきた。トーレ達だ。


「大丈夫!?」


「大丈夫。トーレ、どうして駆け込んでくるの。村はまだ危ないよ」


 敵はみな倒されたが、村の中はまだ燃えていて、安全とは言えない。


「マーリンさんが戦いが終わったことを知らせてくれたんです。隣が川だから。このまま村を焼いてはいけないね!」


 トーレは後ろを指差した。トーレの指の方向を見ると、村のみんながいろいろな容器を持ってきているのが見えた。


「気をつけてトーレ。まだ安全では──」


 トーレの後ろを歩いてきたジャックもバケツを持って歩いてきた。


「えっ、この方は?」


 ジャックは隣に立っているシメリアを見ていた。


「あ、また紹介するね……とにかく消火の手伝いをしょう」


 マーリンの力を借りた時も水の魔法の使い方を覚えた。みんなと一緒に手伝って、迅速に火を消すことができるはずだ。


「そうですか。協力していただいてありがとうございます。ではまず……へえ、もうこの辺には炎がありませんね」


 ジャックは振り向いて、少し怪訝そうに周りを見ていた。


「さっきまでここで戦っていたからね」


 さっきゴブリン指揮官と戦った時の余波で周囲の炎が吹き消されたから、周りにはもう燃えている家はないが、その代わりに家が倒壊していた……


「ごめん……」


「今回の事件の責任はシィンさんにはありませんよ。ゴブリンのせいだから、自責する必要はありません」


「そう、必要な犠牲です。シィンさ……シィンは間違いありませんよ」


「はは……とにかく火を消しましょう」


「わかりました!」


「では先に神社の方へ行きましょう!」


 そう語るマーリンたちはそのまま前へ。


 じゃあ俺もついていこう……そう思って振り返ると、シメリアは俺から遠くない後方に立っていた。


「えっ、あのシメリアさん……」


「シメリア……」


「?」


「シメリアと呼んでくれればいい」


「……じゃシメリア。あなたがどうやって呼び出されたのかはわからないけど、あの、しばらく一緒に行動してくれないか?」


 相手が少し冷たそうに見えたからか、シメリアに向かって話すのは少し緊張した。


「前に他の人と話してもそんなことなかったのに……」


「わかった」


 銀の少女は軽く頷いた。


「え……じゃあ、よろしく」


「あと、私はあなたのために召喚されたんだから、心配する必要はない」


「えっ、俺のため?……俺を助けるためって……」


「あなたのため」


 シメリアは胸に手を当てて俺を見つめて言った。


 このような応答に対して、一時にどのように答えるべきか分からない。


 なんだか、彼女を知っているような気がする。


 そんな話を聞いたのは初めてなのに、この話を聞いたことがあるような気がする。


 しかし、俺の前世の人生にこのような銀髪の少女を見たことがない。もし印象があれば印象に残るはず。


 でも、俺は彼女に会うのは初めて。


「だから警戒する必要はない」


「えっ!」


 考えているうちに、シメリアが俺の腕に抱きついてきた。


「わ……な、なんでそんなにアクティブ!この世界の女性はこんなに積極的なのか?!」


 すぐに相手の手を振り抜けようとしたが、残念なことに、力は彼女に負けてしまった。そうだ、彼女は結晶の魔力に強化されたオークに勝ったことがある、当然俺より強い!


「おお!大将!戦いは終わったか!」


 うろたえているうちに、隣の空に男が落ちてきた。ヒュルトロスだ。


 シメリアはヒュルトロスが現れて力を抜いたから、俺はすぐに優しい懐から逃げた。


「助かった!サンキュー!」


「?大将、なぜサンキューを言ってくれたの?」


「なんでもないわ……ところでゴブリン軍の方はどうだったの。戻ってくることができたのは勝ったということだろう。どうやって彼らに対処した?」


「はは……大将、ちょっと強い攻撃で勝った」


「ちょっと強い……」


「大将安心して!他の敵を引き寄せなかったよ!」


 ヒュルトロスを見てすぐに手を合わせて謝罪したが、何が起こったのかだいたいわかった。


 まったく、こいつは何をしたんだ……。なんで俺の周りは危険なやつばかりだよ。


 そう思っているうちに、俺たちの後ろで家がドカンと倒壊した。


「……まあ、今回はいい。俺もお前のことを言う資格はない。とにかく、あなた功罪償うなら一緒に火を消しょう」


「おお!」


 ……ある意味、こいつらを召喚できる俺が一番危険だな。


 ため息をついて、俺は前のヒュルトロスの歩みについてきた。

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