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異世界英雄監獄  作者: 千蒼
一章
18/42

第17話 魔法使いの力

「炎よーー」


 澄んだ音が響き、城の先は一瞬にして炎に照らされた。すでに城に迫っていたゴブリンは、何が起こったのか理解できないまま、空から降ってきた火の光に覆われていた。


「キャーーーー!」


 炎に覆われたゴブリン軍の中でたちまち様々な叫び声を上げた。


 炎に覆われた彼らは近くにいる敵を忘れてしまい、本能に駆られたゴブリンはその炎から逃れるために周りに逃げ出した。


 彼らの鎧は物理攻撃を防御できることを誇りとする頑丈な鎧だったが、この鎧は突然の大火の中で少しも防御力がなく、かえって彼らの炎からの脱出を妨げるものになっていた。


 炎は彼らの肌を灼くと同時に鎧を溶かし、彼らを守るための鎧はたちまち熱い鉄の水に変わったーー


「わああーー」


 戦場には多くの悲しい悲鳴が上がった。


 この炎の攻勢を受けて、前方に突進してきたゴブリン軍はすでに崩壊し、戦闘意志を失ったゴブリンはこの炎から逃れるために、また身についた炎を消すために逃げ惑っていた。


 前方部隊が崩壊したため、後方で突撃していたゴブリン軍は急いで停止し、逃走していたゴブリンとの衝突を回避した。


「ガ!」


 前方の軍がパニックに陥り始めたのを見て、軍の中で怒鳴り声が聞こえてきた。その怒鳴り声を聞いて、自乱していたゴブリンは慌てて冷静になり、相手を振り返った。


 相手の体型はゴブリンの中でも少し大きく見える。大きなゴブリンは立派な鎧を着て、巨大な剣を手にしていた。彼はこの軍の指導者、ゴブリン隊長だ。


 ゴブリン隊長の大きな声とともに叫んだ。ゴブリン軍も、混乱はいったん落ち着いた。前方の炎で窮状に陥った仲間たちを見て、ゴブリン隊長は前に腕を振り、後方にいたゴブリンは急いで彼らを攻撃する敵を探し始めた。


 この炎は非常に突然のように見え、決して自然の産物ではなく、敵の罠なら仕掛けがあるはずだが、そんなものは見ていない。だからこの炎の源は1つの可能性しかない。それが敵の魔術師だ。


 炎が天から来ている以上、敵の魔術師は城の上層部にいるはずだ。そう判断したゴブリン隊長は上を見回り、すぐに施法者を見つけた。


 それは若い人間の女だ。相手はピンク色の長い髪を持ち、魔術師ならではの衣を着ていた。魔杖は見られなかったが、先ほどの炎の魔法で判断すると、相手は施法者であるはずだ。


「う……!」


 たった一人の人間、まだ女性の人間だからといって、自分の軍隊にこれほどの損害を与えたとでもいうのか。……許せない。


 ゴブリン隊長は怒っていたが、それで理性を失ったわけではなかった。


 彼は軍に前進を止め、城の前に留まるよう命じた。


 相手は女性人間だが、一応魔術師だ。魔術師はとても危険な存在なので、どんなに慎重にしていても過言ではない。


 視線は城の玄関に向けられ、さっきゴブリン軍を攻撃した大炎はまだ消えておらず、依然として燃え上がっている。草地に燃え移ったから燃え続けているのなら何でもないが、奇妙なことにその炎は城の入り口で燃えているだけだ。


 つまり、その人間は炎で城を守っているのだろうか。


 相手は炎で彼らを追い払い、ひと息つく時間を得たいのだろう。ゴブリン隊長はそう推測した。


 相手の計略を見抜いたと自認し、ゴブリン隊長は低い声で怒鳴り、後ろにいたゴブリン弓兵たちは次々と弓を掲げ、矢を放つ準備をしていた。


 距離が近づいていたから少し当たりにくいだが、この距離ではあの魔術師に当たる可能性がある。


「殲滅!」


 彼の大声で叫ぶと、何千もの矢が城の魔術師に向かって飛んでいった。


 そうなれば、そんな魔術師でも矢を避ける工夫が必要になり、城の炎の防御も弱まるだろう。


「ギャー」


 ゴブリン隊長は矢印を射出しながら大声で叫んだ。何人かの狂暴化したゴブリンはすぐに城の入り口に突撃した。


 ゴブリン隊長はこの城を潰すチャンスを逃したくないから、城の炎がまだ止まっていなくても、狂暴化したゴブリン攻撃を命じた。


 これは彼があまりにも無慈悲だったからではなく、狂暴化したゴブリンが力を増すだけでなく、炎に対する耐性が強くなったからだ。相手がばたばたしている間に、これらの狂暴化したゴブリンは炎を突破して城の中に入る方法があるはずだ。


 城の中に入ることさえできれば、人数の優位性を発揮して人間を殲滅することができる!


 ゴブリン隊長は相手の態度から相手の人数が足りないことをかすかに察知していたから、城に入れば勝つと自認していた。そう思った彼は顔を上げて、城の魔術師の様子を見た。


「ーー!」


 上の状況を見て、ゴブリン隊長は驚いた。


 城の上にいる魔術師は確かに矢に反応したが、相手の反応は予想とは全く違った。


 魔術師がそっと手を前に出すと、彼女の前に半円形の炎が現れた。ゴブリンの矢は炎に触れた直後に燃え尽き、その魔術師に触れた矢は1本もない。


 相手が簡単に味方の攻勢を解いてくれるのを見て、ゴブリン隊長はすぐに城の入り口を見た。城の前の炎は弱まるどころか、強くなる気配があった。


 炎の中の狂暴化ゴブリンたちは炎の中で苦労して前進したが、城に着く前に倒れ、灰になった。


 狂暴化したゴブリンは忍耐力が高くなるので炎に一時的に抵抗できるが、炎に一時的に抵抗できても無駄だ。炎そのものが消えなければ、彼らは最終的には炎に焼かれてしまう。


 ゴブリン隊長は黙って、前方の炎の中で倒れた仲間を見ていた。城門では炎は無限の燃料があるかのように、彼らが殲滅されるまで止まらない。


「ガ!」


 ゴブリン隊長は余計な感傷はなく、手を挙げてゴブリン弓兵に再攻撃を命じた。


 相手の炎の燃料はただ一つ、それは魔術師の魔力だ。十分な妨害をしさえすれば、相手の魔力は遅かれ早かれ尽きるだろう。


 そう思ったゴブリン隊長は、弓の射手が矢を放つと同時に、再び遠くの魔術師の顔を眺めて、相手の慌てる様子を見ようとした。


「?」


 しかし、相手のぼんやりした顔から慌てる様子を見ることはなく、説明できない表情を見た。


「ガ!!!!」


 その表情の意味はまだ確認されていないが、意識は隣の仲間の声に呼び戻された。仲間の叫び声を聞いたゴブリン隊長は、すぐに魔術師の後ろに視線を向けた。


「ーー!」


 魔術師の後ろに何かがあるのを見ながら、ゴブリン隊長は自分の呼吸が一瞬止まったような気がした。


 女魔術師の後ろには4つの巨大な炎がある。その4つの巨大な炎は、炎で作られた槍のように女魔術師の後ろに浮かんでいた。


 前方に降り注ぐ矢のようなものを見て、女魔術師が手を伸ばして前に振る。


 4本の炎の槍がすぐに前に突進した。矢の雨は炎の槍の前進途中の障害物のように、炎の槍に触れた後すぐに燃え尽きた。


 いや、確かに矢雨は障害物にすぎない。炎の槍が矢印を燃やしているのを見ても前進していると、ゴブリン隊長はすぐに相手の目的がどこにあるのかに気づいた。


 目標は自分の位置だ。


 それに気づいたゴブリン隊長は逃げだしたが、周囲はゴブリンでごった返していて、避難行動をスムーズに進めることができない。


 巨大な炎の槍は遠くに見えるが、よく見ると速度が速く、すぐにゴブリン軍の後方に迫る。


 周囲のゴブリンの慌ただしさから、ゴブリン隊長は炎の槍の攻撃範囲から逃れる機会を逃した。その傍らを逃げ惑うゴブリンを眺め、ゴブリン隊長は無言でため息をついただけで、目の前にある炎の槍を見上げた。


 目の前の炎の槍を眺めながら、ゴブリン隊長はその女魔術師の表情の意味を知ったようだ。


 それは哀れみでもあり、冷酷な表情でもある――


 ◇


「あ、当たったな」


 頭上を飛んだ炎が遠くのゴブリン軍に当たったのを見た。


「その位置は、ゴブリン軍の中で最も弓兵が多い場所らしいね」


 管理者はこのように説明した。


「つまりこの攻撃で相手の弓兵部隊が無効化されたということね。すごいねマーリン」


「はい!お褒めいただき、ありがとうございます!実は私も一人多いところを選んで攻撃しているだけですよ!」


「お前に聞こえるとは……」


 突然マーリンの声が頭の中に現れてびっくりした。管理者はこの城の中では念話伝達ができると言ったから、城の中のコミュニケーションは彼を介して他の人に伝達できる。


「便利だね。じゃマーリンは彼らの弓兵を攻撃し続けよう!俺たちも攻撃に出るぞ!」


「わかりました。玄関での炎はシィン様を傷つけることはないので、そのまま出て行ってもいいですよ」


「仲間を傷つけない魔法か。じゃよし!ヒュルトロス、行こう!」


「おお!」


 ヒュルトロスと一緒に入り口の炎へ走った。マーリンが言ったように、炎に触れたとき炎が傷つけることは全くなかったから、俺たちは順調に城を出た。


 炎を踏み出すと、パニック状態に陥っているゴブリンたちが走り回ってるのが見えた。


 どうやら彼らの陣形は崩れそうだ。これでこの軍の指揮者を倒さなくても、一挙に彼らを倒すことができるだろう!


「ガ!」


 城の外にいたゴブリンも、俺たちがまた飛び出してくるのに驚いているようだった。しかし驚く間もなく、ゴブリンたちはすぐに攻撃してきた。


「おい!大将に近づこうとするな!」


 隣にいたヒュルトロスは槍を回し、近づいてきたゴブリンを次々と撃退した。


 ヒュルトロスが簡単にゴブリンを倒したのを見て、周囲を取り囲んだゴブリンは慌てた顔をして、誰も近寄ろうとしなかった。


 この時になっても彼らは攻撃をためらうだろう。


 今では戦況が劣勢に陥っているから、操られているゴブリンでも必ず負ける戦いのために命を犠牲にしたくないだね。


「ヒュルトロス、潰しに行こう!」


「了解!」


 ヒュルトロスが手にした槍先が光を放ち、彼の腕に合わせて前に伸び、前にいたゴブリンたちは一瞬にして倒れ、周囲を取り囲んだ陣形が崩れた。


 この機会を逃さず、ヒュルトロスはすぐにこのギャップに向かって突入し、次第に崩れていくゴブリン陣地を暴れ回った。


 ヒュルトロスが去っていくのを見て、躊躇していたゴブリンがこちらを見たので、俺のほうが解決しやすいと思ったのか、すぐにナイフを振り上げて突進してきた。


「いじめられ役はやらないよ」


 スキル『銀河激流』を使うと言いながら。突進したゴブリンたちはすぐに槍に引き裂かれる。


 今俺はヒュルトロスの力を借りた。だから戦場には、二人のヒュルトロスがいたといってよい。


 槍を振り回し、俺はヒュルトロスの歩みに従ってゴブリン軍の中で大暴れた。


 二人が戦場で大暴れしているのを見ていると、勇敢なゴブリンでも臆病になり、やがて一部のゴブリンは戦場の外に走り始めた。戦場の遠くにいたゴブリンは森の中に逃げようとした。


 しかし、相手が森の中に逃げ出す前に、巨大な火の玉が戦場を飛び越えて相手の前に降りてきた。


「わーー」


 叫びをあげる暇もなく、ゴブリンは一瞬にして爆死した。


 それはマーリンの攻撃で、相手が逃げようとする気配がある限り、彼女はここから逃げようとするゴブリンに火の玉で懲らしめる。


 叫びをあげる暇もなくしかし、一人が逃げ始めると、すぐに真似をする人たちがいる。だからマーリンの火の玉に撃たれる可能性があるにもかかわらず、多くのゴブリンが逃げた。


 多くのゴブリンが逃げ出すにつれて、ゴブリン軍は崩れていった。


「わあ……」


 今ゴブリンが逃亡を阻止しようとしても無駄だった。


 さっきまで戦場で誰よりも勇猛だったゴブリンは逃げることも一流だったようだ。


「やっぱこうなっちゃった……」


 戦場の空には大きな炎が飛び越え、城の上のマーリンはゴブリンが森に逃げ出すのを阻止しようと努力している。


 炎が降り注ぐ先を見ていた。マーリンが放った炎が大地に降り立つと、ゴブリンの大群が倒れた。そうやって倒したゴブリンの数は、俺が倒したものよりもはるかに多いようだ。


「魔法って便利だね……。ところで『武芸洞察』は魔法の真似ができそうだ。試してみようか」


 俺は城の上にいるマーリンが魔法をかける様子を見つめ、前を向いて逃げるゴブリンは『武芸洞察』を使う。


「火の玉!」


 俺の手から一瞬、魔法が放たれた。巨大な火の玉がゴブリンに当たって相手を倒した。


「できそうだね」


 以前は『武芸洞察』で癒しの魔法を真似することもできた。どうやら魔法は武芸の一種であり、真似できる対象のようだ。


 でもマーリンとは違う。俺の火の玉がマーリンより少し小さく見えるのは、魔力がマーリンより弱いからか。その違いはよく分からない。


「じゃあ、もう一つテストしてみよう」


 俺は目を閉じて、マーリンの力を借りてみた。


「う……感じない」


 体には力が湧いてくる感じがない。


 シィン


 称号:なし


 スキル:


『武芸洞察』


『思考加速』


『情報探知』


『召喚』


『魔力放出』


『ヒュルトロスの力』


「やっぱりないわ。じゃーー」


 俺は『ヒュルトロスの力』を解いて、そして再びマーリンの力を借りる。


 シィン


 称号:なし


 スキル:


『武芸洞察』


『思考加速』


『情報探知』


『召喚』


『魔力放出』


『マーリンの力』


「お!あった!」


 どうやら借りられる力は一度に一つしかないようだ。


 体内の高まる力を感じている。ヒュルトロスの力とは違って、マーリンの持つ力は大気中の魔力を感じさせてくれたり、浮かんでいる光の点を見せてくれたりする。


 マーリンの力を借りたから、今の俺はそれが何なのかを理解することができて、これらの光の点は元素の精霊だ。


 そんな魔力に満ちた力に支えられて、今の俺はマーリンに匹敵する魔法をかける自信がある。


「それではよろしくお願いします!」


 これらの精霊にお願いして、手のひらの前の宙に突然巨大な火の玉が現れた。火の玉は俺の掌に浮かんで、命令に従って移動する。


「火の玉!」


 マーリンが魔法を使った時と同じように腕を前に振った。掌の先にあった火の玉は素早く前方に逃げるゴブリンに向かって飛んでいった。


 前方のゴブリンは逃げるスピードが速いにもかかわらず、火の玉はまるで自己追跡の機能があるかのように素早くゴブリンの背中の鎧に近づいた。


 火の玉はゴブリンの背中に触れた瞬間に炸裂し、巨大な炎は悪魔の手先のようにゴブリンを飲み込んだ。燃え上がる炎はゴブリンを飲み込むだけでなく、ゴブリンを中心に付近を火の海に変える。


「え……ちょっと強そうだな。この力……」


 俺の火の玉とマーリンの火の玉は全く違う。マーリンの火の玉は精密な弾丸のようなもので、数が多いだけでなくゴブリンに当ると消え、大地を火の海に変えることは全くない。


 そして俺の火の玉か……なんか複数回使ってしまうと森が燃えてしまうね。


「あっ!シィン様も炎の魔法を使えますか?!」


 耳元からマーリンの声が聞こえてきた。振り返って城を見たが、マーリンはまだ城の上にいた。彼女は風の魔法を通して言葉を伝えているようだ。


「こんなにぎやかな攻め方はお好きではないと思っていたので、炎を抑える力があります……お望みなら、私もこのように魔法をかけることができますよ!!」


 遠くにいたマーリンが手を振った。俺が苦労しなくても、彼女はこの近くを火の海にすることができると言っているようだ。いや、彼女が手を上げた仕草から判断すると、本当にそうしたいようだ。


「そうするな!」


 マーリンがそうするのを急いで止めた。


「力をコントロールできていないだけ。本来のペースでいい。現在の状態から見るとすぐにこの軍を倒すことができる」


「わかりました」


 マーリンは嬉しそうに応えてくれた。そして逃げてきたゴブリンを攻撃し続ける。


 なんだか彼女は嬉しそうだね。まぁ、どうせ森林火災にならなくて良かった……


 戦場に視線を戻した。


 戦場を逃げ惑うゴブリンはばらばらで、もはや大軍の状態は見えない。数からすれば五百人以上のゴブリンが残っているだろう。もっと頑張れば相手を潰せる。


 集合すると俺たちの炎の魔法で一挙に殲滅されやすいから、ほとんどのゴブリンは一緒に行動せず、単独で森に逃げることを選んだ。


 俺とマーリンの炎の魔法に攻撃されても、幸運にも脱出できるゴブリンは少なくないが、そのゴブリンたちが森のはずれにいて逃げようとしたとき、一本の槍が行く手を阻む。


「ここは通れないよ!」


 ヒュルトロスは槍を回して前に突撃し、槍は簡単に相手の胸を突き刺した。


「ガ……」


 戦場を快適に渡り歩く、ゴブリン軍に大きな脅威を与えているこの男が前方に立っているのを見て、ゴブリンたちは畏怖の色を浮かべた。


 できれば、彼らはこんな男と戦いたくないだろう。しかし、後ろから再び灼熱の熱風が吹いてきて、彼らは決心して前に進むことにした。ゴブリンたちは選択肢がなく、怒鳴り声を上げて前方にいたヒュルトロスに攻撃をしかけるしかなかった。


「は!よし、これこそ戦士だな!」


 多くのゴブリンを前にして、ヒュルトロスは退却するどころか笑い出した。


「槍の下から脱出してみよう!」


 ヒュルトロスは銀色の光を帯びた槍を回し、速いスピードで前に突いた。


 スピードが速すぎて槍に残像が現れたため、ヒュルトロスは数本の槍を握るように、相手の攻撃をかわしながら、数人の敵の体を貫いた。


 相手を始末すると、ヒュルトロスは何の余計な動きもせずに次の場所へと疾走し、逃げようとするゴブリンの前に向かった。


「すごいね」


 ヒュルトロスの使っている技は、彼の力を借りても使えるとは限らない……という達人が仲間でよかったね。


 森の端でゴブリンの逃亡を阻止してるヒュルトロスに自信があったから、俺は安心してゴブリンを止める仕事を任せた。


「その面で責任を持つ人がいる以上、戦場に専念しようか」


 手を振って炎を振り出す。これまでの火の玉とは違う。三日月型の炎が多くのゴブリンに当たって爆発した。今回の爆発は前回と異なり、周囲に与える影響はあまりなかった。


 いいね。


「じゃこのまま全力で行こう!」


 そして俺はマーリンと一緒に炎の魔法で戦場から逃亡したゴブリン軍を徐々に解決していった。逃げようとするゴブリンがいても、ヒュルトロスに追い詰められて戦場に戻るから、逃げる心配はない。


 ヒュルトロスとマーリンの積極的な手伝いがあるから、戦いの終わりも早まった。


「ふ……終わったのか……」


 最後のゴブリンを倒し、左右を振り向いて敵がいないことを確認した後、ようやくこの戦いが終わったことに気づいた。


 怪我はなかったが、一つの軍隊と戦った後、やっぱり元気はちょっとたまらない。


「おお!大将!」


 遠くにいたヒュルトロスは手を振ってこちらに向かって走ってきた。さすが英雄というべきか、疲れている様子は全くない。


 城のベランダに立っているマーリンを見上げた。マーリンも熱烈に手を振ってくれた。


 どうやら俺だけじゃなくて、ヒュルトロスもマーリンも怪我をしている様子はない。


「はは……」


「大将、お疲れさま!」


 マーリンに手を振ると同時に、ヒュルトロスもそばに来た。ヒュルトロスはにやりと笑って拳を突き出した。


「この戦いは俺たちの勝ちだな」


「……そうだね」


 俺はヒュルトロスに腕を伸ばし、こぶしを軽くぶつけた。そう言いながら空を見上げると、この時、太陽はもうしばらく空にかかっていた。


 戦闘が早朝から3時間経った後、一人の子供を起点に繰り広げられた包囲戦はようやく終わった。


 こちらの死傷者はゼロで、ゴブリン軍は全滅し、戦闘の結果は俺たちの完全勝利に終わった。

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