第11話 根拠地
「大将?俺?」
「そう。よろしく!」
「えっ、すま。だれよお前?」
目の前の男が笑顔を見せているのを見て、思わずそう返してしまった。
「えっ、大将が俺を呼んだんじゃないか!?」
「いえいえ、呼んでいないよ!」
頭を振ってそんなことをしていないを示した。俺には召喚に関するスキルがないだけでなく、魔法もできない。この男を召喚するわけがない。
「おかしい、たしかに大将に召喚された」
男は苦悩して頭を掻く。
「もしかして間違えた?でも確かに大将……おや、さっきのシーンはかっこいいのに」
男は頭を抱えて苦悩して体を揺らし、少し頼りなさそうに見えた。
「えっと、召喚のことはさておき。助けてくれてありがとう」
いくら相手が頼りなくても、助けてくれたことは事実だし、ちゃんとお礼を言うべきだ。
「いいえ!大将を助けるのは俺がすべきことだ!」
「大将とはどういう意味だ……」
「俺を召喚した主人だから、もちろん大将だ!」
男は楽しそうに言った。
相手は嘘をついているようには見えない。まさか本当に俺が彼を召喚した?人間を召喚するなんてことが本当に可能だろうか?……っていうかここは異世界ということで、本当にそんなことができるかも。
「まあ、そんなことは考えないでおこう」
俺は地面に横たわっていたトーレのそばに行ってしゃがんで、相手が怪我をしていないかどうかを見た。
さっき戦闘に影響されなかったようだ……あまり長くここにいさせてはいけないな。夜の気温はだんだん寒くなり、トーレが風邪を引いたらよくない。
「でも今どうやって帰るかな……」
頭を上げて空に高く掲げられた月を見ていた。
今は魔物が活躍しているに違いないが、俺は武器がないだけでなく疲れているから、このような状況でトーレを村に連れて帰るのは本当に難しい。
「う……」
後ろにいる男を振り返った。
「あっ!」
俺が彼を見るのを見つけて、男は緊張して槍をつかんだ。
その姿はなんというか……小学の頃飼っていた子犬を思い出した。
「ハァ……あちらの方!」
「はい!大将!」
呼んだのを聞いて、男はすぐに走ってきた。本当に犬に似ているね……
「大将と呼ばないで……あの…しばらく護衛してくれませんか」
「護衛?」
「うん、この森を出たい」
どこからともなく現れた男に頼むのはよくないけど、今は護衛を頼むしかない。
「お金が必要なら、村に帰ったらあげるから」
「いいえ、大将を護衛することにはお金を受け取る必要はない!……この森を出るか。でもどうやってここから出ていけばいいのかわからないな」
どうやってここを離れるのか分からないのに、男は自信を持っているような顔をしている。
「お前も離れ方を分からない……」
「この世界に召喚されたばかりだから、ここのことはよくわからない!」
「そうか……」
そういえば、こいつは突然出てきたようだが、まさか本当に召喚された人のか。
「うん……ここから出る方法はわからないけど、俺は大将を連れて大将の根拠地に帰ることができるぞ!」
「俺の根拠地?」
「そう!召喚された時にこれらの知識を受け取ったから、大将を我々の根拠地に連れて行くことができる!」
それはどこから受けた知識……でも彼が自信をもってそう言っているところをみると、この根拠地は安全なようだ。
「その根拠地はどこ?」
「この森の中、しかも遠くないよ」
「うん……」
距離が近いなら、そこに行ってしばらく休んでもいいかもしれない……。
でもそんな便利そうなところもちょっと危険な気がする。この男の出所は不明なので、彼の根拠地も罠の可能性があり、その可能性は無視できない。
とにかく多少は警戒しておこう!
「……じゃ、根拠地に案内してくれ」
俺はトーレを背にして、男に振り向いて言った。
「承知した!」
返事を受けると、男はすぐに行動を始め、森の奥へと向かった。
「おい、そんなに大きな声を出すな、危ないぞ!」
彼のような音を隠さない移動方法は魔獣を惹きつけやすい。
「ほえ!」
そう言ったとたん、一匹の魔獣が草むらから飛び出して彼に飛びかかった。
「ん?大将、何言って?」
男が振り向く、同時に肩に担いだ槍が彼の移動に合わせて魔獣に命中し、一瞬にして魔獣を吹き飛ばした。
「いや……別に」
どうやらこの男は俺よりも強いようだ。
腕に自信があり、男は進んで前を歩いていく。
男は少しも声を隠そうとしないから、道で多くの魔獣に出会ったが、これらの魔獣は簡単に彼に倒された。
男の倒したこれらの魔獣のいくつかは俺さえ倒すことができない。だけど男は片手で魔獣を解決した。
簡単に魔獣を倒すことができるなんて、そういえば彼も簡単にゴブリンの鎧を突き刺していた……一体どうこと、この男?
前の男の背中を見て、このような男がこの森に現れるなんて、そしてちょうど強い力で救ってくれたなんて、本当にそんな器用なことがあるのか。
まさか本当に彼の言ったように、俺が召喚したのか。どう考えてもあり得ないだろう?じゃいったい……ダメだ。答えが思いつかない。
「おい!お前はいったいどこから出てきた?」
質問の答えが思いつかないから、俺は相手に答えを求めてみた。
「え?俺は大将に召喚されたんだよ?」
さっきも同じ話を聞いた気がする……別の方法で聞いてみよう。
「じゃどうやってお前を召喚した?お前はどこから召喚された?」
「これか……」
男はこちらを振り返り、後退の仕方で進んだ。彼は顎を触って少し考えて口を開いた。
「大将の呼びかけを聞いてこの世界に召喚されたんだ」
「この世界?」
何か大変なことが聞こえてきそうだ。
彼はこの世界に召喚されたと言ったが、もしかしたら彼は俺と同じように、同じ世界からここに召喚された人かも?
「待って、お前と俺は同じ世界から来たのか?……名前は?」
「うん……大将が名前を聞いた以上、俺にも答える義務があるね!」
彼の名前を尋ねると、男は足を止め、体の周りに物凄い勢いが漂ってきた。
「吾が名はヒュルトロス、アルスター世界の大英雄だ!」
男は槍を振り回し、鋭い目でこちらを見つめ、自分の名前を口にした。
「大英雄ーー?」
「そう、吾こそ救国の英雄ヒュルトロス……でも今は大将の部下だ!」
男ーーヒュルトロスはこの言葉を言った後、口調は元のだらだらした雰囲気に戻った。
アルスター世界?英雄?
なんだかまた謎が増えてきたような気がする。
とにかくヒュルトロスが俺の世界の人ではなく、アルスター世界の英雄であることが確定する。
そのような英雄がこの世界に来た理由はただ一つ、俺が彼を召喚したからだ。召喚に応えたから、ヒュルトロスはこの世界に来たのだーー。
「大将?どうした?」
「……」
どう考えても不合理なーー。
まあ、もう考えるのもおっくうだ。どうせこのことが本当かどうかは彼の言う根拠地を見ればわかる。
脳は一日の疲れを経てもう考えたくない。
「早く根拠地に連れて行こう」
「了解!」
「……ん?」
歩いて間もなく、歩いてきた道が少し見覚えがあるような気づいた。
いや、錯覚だろう。この森はこんなに大きくて、いつも似たような地形があるだろう。そう、きっとそう。
そう思って前を向いて歩いている。
「大将!根拠地が見えてきた!」
「おお!見せて!」
ヒュルトロスが木の葉をめくると、やっと彼の言う根拠地の姿を見た。
遠くの高台にある根拠地は大きな建物だ。その建物の材質は金属製のようで、暗い灰色の建物は月の光に照らされてきらきら光っていた。
「おい、これが根拠地か……」
「そうだ!ここが大将の根拠地だ!」
どうやらヒュルトロスは確かに俺が召喚された人だったようだ。彼が見つけた建物は確かに俺と関係があるし、この建物は俺がこの世界で最もよく知っている建物と言っても過言ではないからだ。
「おい!グランニタじゃないか!」
その先にある監獄のような城を見つめて、俺はヒュルトロスにツッコミを入れた。
◇
「あら、こんなに早く帰ってくるとは」
俺とヒュルトロスがグランニタ内に入ると、すぐに音がした。
「おお!声が頭に入ってきた!」
「まさかこんなに早く帰ってくるとはね。友達も連れてきたし」
「ごめん、ちょっと問題があるから」
「では、上で話しましょう」
話を終えたばかりで、目の前の世界は一瞬にして変わった。目の前に光る光の玉と華やかな部屋が現れた。
「ここにも問題がありますね」
……
「なるほど、武装したゴブリン……か」
出会ったことをすべて管理者に話した。ゴブリンとの出会いを聞いて、管理者は興味を持った。
「あのゴブリンたちは魔王の軍団ではなく、誰かがわざわざ彼らをコントロールして集まったのでしょう」
「ゴブリンを操れる人がいるのか……」
「強力な魔人の中には魔物をコントロールできるものもいますし、特殊な道具があれば人間でもゴブリンをコントロールできるものもあります。とにかくゴブリンたちは決して自分たちで集まったわけではない」
「ふーん、ゴブリンをコントロールして武装させる……あの人は何がしたいんだよ?」
「彼らの口から聞こえた言葉から判断すると、制御者は彼らに人間を襲わせようとしているのだろう」
管理者がそう言うと同時に、光球は少しを回して、そばのベッドに横たわっているトーレを見ていた。トーレの状況を説明した後、管理者は城内のベッドを移してトーレに使用した。
「トーレは大丈夫?」
「彼の体は大丈夫。ただ過労のせいで眠っているだけです。明日は目が覚めると思います」
「そうか、ハァ……よかったな」
「……よく頑張ったね。子どものためにゴブリンと戦う」
「そうね、疲れた。あ!管理者ごめん。お前がくれた剣を使い損なってしまった」
俺は腰に掛けた剣を取り出した。狂暴ゴブリンと戦っている間、剣を酷使したために、長剣は戦いのうちに真っ二つに折れてしまった。
「ごめん、これは珍しい長剣だろう」
管理者がくれた剣はとても強く、簡単に物を断ち切ることができるだけでなく、魔獣を威嚇することもできる威力の強い剣だ。
管理者は俺を信頼してこの剣をくれたのに、剣は使われて壊れてしまったから、彼は怒っているだろう……
顔を上げて光の球を見る。管理者には顔がないから、彼の気持ちが分からない。返事を待つしかない。
「うーん」
やっぱ怒ってる!
「うん、それはなんでもない。どうせ壊れそうな剣」
「え?」
管理者は何と言った。
「気にする必要はありません。この武器の品質は非常に劣等で、壊れるのは当たり前のことです」
彼はなんとこの剣が粗悪品だと言った!
管理者の口調は淡々としていて、まるで長剣が壊れても大したことはないと言っているようだ。
いや、管理者は慰めてくれているはずだよね?
「それよりも、それこそ気にすべきものでしょう?」
「それ?」
管理者は光体を回転させ、俺は振り向いた。
部屋の隅に一人の男が立っていた。それは英雄ヒュルトロスだった。彼は今ここを元気いっぱい見ている。
「それは気にしなくてもいいだろう……」
「それは長剣よりずっと重要。説明から判断すると、彼は別の世界からあなたに召喚されてこの世界に来たのでしょう」
「それは偶然でしょう?召喚魔法なんて俺はできない……」
「それはそうとは限らない。魔法を使う必要もなく、人事物を召喚することもできる時もありますよ」
「そうですか……」
俺がヒュルトロスを召喚したと思うと、また何かトラブルを起こしたような気がする。
「召喚できるたら、彼を送り返すこともできるだろう?」
「無理かもしれません。なにしろこの世界の召喚術は一方通行のものが多いし、それにすぐに送り返すのはもったいない。まだ彼に聞きたいことがあります」
管理者は確かに人を元の世界に戻すのは難しいことだと言っていたが、それならば今彼を送り返さないほうがいい。
「ところで、彼に聞きたいことがある?何のこと?」
「彼を召喚する時間を推測してみました。あなたが彼を召喚するとき、私のところにも魔力の反応がありました」
「え?それはつまり……」
「ヒュルトロスは、この城を触媒にして、あなたに呼び出されたのかもしれません」
「この城を触媒にして……いや、意味がよくわからない」
「あなたはヒュルトロスを呼んで来て、ちょっと彼に確認することがあります」
「ああ、ヒュルトロス!ちょっと来て!」
「大将!俺を呼んだか!」
ヒュルトロスは大きな声で応え、すぐに走ってきた。
「何か用か大将!」
「ええと、管理者がお前に聞きたいことがある。できるだけ彼の質問に答えて」
俺は耳鳴りのする耳を押さえて、短く彼に言った。
「わかった!何か問題でも?」
ヒュルトロスは目の前の浮遊光球を少しも恐れず、管理者を真剣に見ていた。
「……では、ヒュルトロスさん、どうやってこの城を知ったのですか?」
「魔力があるから。俺と大将は深い魔力のつながりがあるが、こことも魔力がつながっている。だからここを知ることができた」
魔力のつながりよ、小説でしか聞こえないセリフを言っているような気がした。
「予想通りですね」
管理者は、状況が予測通りであるようで嬉しい。彼の隣に透明な画面が現れた。それは前に見たのと似たような監視映像だった。
透明な画面に部屋が現れた、部屋には何もなかった。管理者は映像の速度を速め、時間の流れを速め、部屋は相変わらず何の変化もなく、ただある瞬間、部屋の内部は巨大な光を放った。
管理者は映像を一時停止し、光が出た瞬間を捉えた。
「よく見てください」
管理者の話を聞いて画面をよく見て、明るい光の源が地上にあることを発見した。部屋の床に魔法陣がある。
「魔法陣?」
「あなたはこの魔法陣を通してヒュルトロスを召喚したのです」
「そうか、道理で魔法陣が見えない……でもどうして彼を呼び出すことができる?触媒があるから?」
小説の中には魔法使いが召喚陣に物を並べて使い魔を召喚するシーンもある。
「そのはずです。あなたはこの城と深い因縁があるので、危急の時にこの城の機能を起動し、城を触媒にヒュルトロスを召喚しました」
「なるほど……いや、この城とは縁が深いとは思えないよ」
この城にいたのもそんなに長くないのに、何か縁があると言われても無理があるだろう。
「それは必ずしもそうではありませんね。前世にいた監獄とこの城は似ているって言ったでしょ?……実はこの城も監獄を改築したものなんですよ」
「えっ?」
「おおよそそのせいで、牢獄のような城に転生したのでしょう。そのおかげで、あなたはこの城と深い因縁を結び、この城の能力の一部を手に入れたのですが……」
管理者は話をすると同時に、声が少し上がった。
「……この城にはこの召喚の機能があります。おそらくあなたは城に認められているので、この城の能力を使って、他の世界の英雄を召喚することができます」
頭を上げて管理者を見ていた。その光の球の下には、俺には理解できない、深く悲しい感情がある。
「管理者……?」
浮いている光の球は、長い間応えてくれない。
やがて、太陽のような球体の中から再び音が聞こえてきた。
「……ちょっとお願いがあります、浅野綾人。あなたはこの城の主になってもらえますか?」




