第10話 召喚
「子供として、トーレは遠くまで走れないはずだ……」
村を出た後、早くトーレの跡を見つけるために、俺は暗い森の中を急速に移動していた。
行動を始めてから間もなく、空は完全に暗くなった。地上で行動すると他の魔物に襲われる可能性があるから、俺は梢の間を移動することを選んで、そうすれば魔物との戦闘を回避することができる。
暗い森の中を移動するのは本来難しいことのはずだが、俺はそんなことに困っていない。
目の前にあるものすべてがはっきりと見えたからだ。
体のせいか、目は暗闇の中でも森の景色がよく見えるから、スムーズにトーレの跡を探し続けることができる。
「経路からして……ここかな!」
予想通り、子供はそんなに遠くまで走れなかったが、間もなくトーレの姿を見つけた。
相手は向こうの川の崖のそばにいて、怪我はなさそうだった。
「おい、トーレ!」
俺は川の反対側に立ってトーレの名を呼んで、こっちを見てもらおうとした。でもトーレは振り向かず、後方の森を見ていた。
うん?向こうにはだれかいるようだ。あれは誰?
向こうには危険そうな集団がトーレに近づいて、彼らはろくなやつではないようで、トーレを攻撃しようとした。
「あいつが剣を振り上げて――まずい!」
相手がトーレを攻撃しようとするのを見て、俺はすぐに前にジャンプして、対岸のトーレの前に降り立った。適時に剣で相手の刀を防いだ。
「トーレ!大丈夫か!」
「シィン!?」
トーレは目を開けて驚いたように俺を見た。
「怪我はないか!」
「怪我はない!」
「ったく……もう走り回るなよ」
短くトーレを叱責して、目をそらして前のやつを見つめた。相手は緑色の肌をしており、どこかの亜人種族だろう。
「で、こいつらは?」
小声でトーレに、前方にいる奴らの来歴を尋ねた。相手は知らない種族だから、その場合はトーレの知識に頼ったほうがいい。
「シィン!これがゴブリン軍だ!」
「ゴブリン!?」
トーレがそう言うのを聞いて、俺は一瞬、相手の話が間違っていたのではないかと尋ねたくなった。
「こいつらがゴブリンだと!?」
相手の様子をよく観察する。緑の肌、黄色の歯と鋭い耳を持っている……確かにゴブリンに似ている。
しかし、あとの特徴はゴブリンとはまったく違う。第一に、相手の背丈は俺よりもはるかに大きく、百八十センチはあるだろうということ、第二に、こいつらはみんな立派な鎧を着ていて、どう見てもゲームに出てくるような弱小モンスターには見えない。
道理でみんなは俺が勝てないのを恐れている。もし事前にこんなやつに会うことを知っていたら、俺もきっと村の外には出ないよ!
剣から伝わってくる相手の力を感じながら、俺は心の中でぼやいていた。
力も強いな……まったく。でも今逃げるわけにもいかないな――!
剣を両手で握り締め、力を込めて相手を押し返した。剣が押し戻されたのを見て、ゴブリンは俺を睨んだ。
「殲滅……」
「ふん……言っても無駄かもしれないけど、話をしてもいいか」
「……人間を殲滅する……」
ゴブリンはそれには答えず、ただこの言葉だけを返した。
「シィン、彼らは操られているようだ!」
「うん、そうだね」
状況はトーレが言った通りのようだ。
先ほど相手を押し戻しながら、俺はスキル『情報探知』を使っていたから、ゴブリンの情報を知った。
ゴブリン(操られている)
称号:なし
スキル:
『狂暴化』
その情報から、その場にいたゴブリンたちは何者かに操られていたらしい。
「操られているのか……こちらには精神制御を解除する方法はないな」
「殲滅……」
一度後退したゴブリンは一歩前進した。
「ゴブリンが誰に支配されて人間を殲滅しようとしているのかはわからないが、こんなことには関わりたくないだな」
俺は手に持った剣を振り上げた。
……ゴブリンの数は多いが、狭い道は一度に一人しか通れないのだから、彼らを1匹ずつ倒すことができるはずだ。
相手の人数を減らして、ゴブリンの陣形にほころびが出たら一挙に相手の包囲を突破できるはずだ……トーレを連れて川の対岸に戻ることもできるが、これで相手が追いつく可能性もある……。
思考加速を使うことでいくつかの可能性を急速に考えた――
「まぁ、とりあえず相手の実力を試してから決めよう」
「ウ……」
ゴブリンは俺を睨んで一歩前に踏み出した。
まさかこの世界のゴブリンがそうだとは……ゴブリンが弱いと思っていた観念を改めなければならないようだ。
これらのゴブリンの実力はC級、いやB級以上の実力があるだろう。今の実力で彼らを倒せるかどうか……ふん。
「どうせすぐに答えが出るんだから、こっちに来い!」
「殲滅しろ!」
ゴブリンは怒号を上げ、巨大な刃を振り回す。
これまで見てきた魔物よりも速かったが、俺には遅すぎたから、相手の攻撃を避けながら呟いた。
「スキル『武芸洞察』……!」
頭の中ではかつて見た映像を思い浮かべながら、体は前世で見た剣術を真似し始めていた。手は自然に動き出し、長剣を握ってゴブリンに向かって切りつけた。
「わーっ!」
剣はゴブリンの鎧に当たった。当られたゴブリンは悲鳴を上げ、そのまま後の木の幹に打ちつけられた。
「殴り飛ばした……」
ゴブリンが撃退されたのを見て、トーレは驚いたようにいった。
「シィンすごいなあ」
「うーん……」
トーレがそばで褒めてくれたが、嬉しくはなかった。
感覚が間違っているからだ。
さっきの攻撃で相手を真っ二つに切るのかと思ったが、相手は飛ばされた。
遠くに倒れているゴブリンを見た。遠くの木の下でゴブリンの体が震えていた。相手の胸の鎧のひびに手を触れ、口の中で激しく息を吐いていた。
どうやらその鎧の関係が彼を生き残らせたようだ。
あいつらの鎧は高級品らしいから、俺の攻撃を受けても生き残れる。
「人間……殲滅」
仲間が飛ばされるのを見て、遠くのゴブリンたちが一斉に睨んできて、武器を握りしめた。
いやあ、これでちょっと面倒だな。
武器を持った数十人の奴らが睨んでくるのを見て、もう少しで降参したくなった。でもこいつらは理性がなさそうだから降参できないんだよね。
「さて、次は誰だ?」
俺は手にした剣を挙げてゴブリンたちを指した。ゴブリンたちはしばらく黙っていたが、直に攻撃を開始した。
……
「殲滅!」
槍を握ったゴブリンが槍を持って突進してきた。体を横にして攻撃を回避し、手にした剣は驚くべき勢いで相手に当たった。
「う……」
俺に打たれたゴブリンは野球のように飛び出し、遠くの空き地で身動きできなくなった。
これで何人目だか?
20人以上を倒してから、人数を数えるのをやめた。
相手の人数は想像以上に多く、これだけの人数は本当に軍隊と言えるだろう。だが、彼らがこんなに多くの人を持っていても、このような精巧な装備を着ていても、依然として俺を倒すことはできない。
なぜ彼らが俺を倒せなかったかというと、その理由は単純だった。
ーー彼らは弱すぎる。
人数も多く、武器も優れていたが、相手は所詮ゴブリンだ。実力面ではではこちらの方が上だ。
ゴブリンが必死についてきても、あいつらのペースは遅すぎる。だから俺は簡単に彼らの攻撃をかわして倒すことができた。
だがゴブリンたちにも強みがあり、剣ではゴブリンの鎧を破ることができないから、致命傷を負わせることはできない。でもそれはどうかな?
いくら甲冑が精巧でも痛ましい打撃感は相殺できないだよ。
「自画自賛ではないが、俺の力は強いだよ」
剣が再び振り出され、胸を打たれたゴブリンの顔に苦しげな表情が浮かんだ。
そんな顔をするのは当然だ。力が強いから、打たれたらたぶんトラックに轢かれたように苦しさだろう!
振り向いて隣の空き地を見ていたが、そこで倒れたゴブリンの数はもうすぐ山になった。
だが、これだけのゴブリンを倒したにもかかわらず、相手の人数はまだ三十数名ほど残っている。
わあ、彼らはまだ撤退しないのか……。
「殲滅……」
正面のゴブリンの目には恐れがなかった。仲間が半分以上倒されても、ゴブリン軍は退却する気はなかった。
では、お前たちが先に倒れるのか、俺が先に倒れるのか、勝負しよう。
「人間!!!!」
剣を彼らに向け、前に進むように目で合図した。その時、背の高いゴブリンがゴブリンの群れから飛び出してきた。彼は大剣を持って、電光石火の速さで前に突進してきた。
速い!
ゴブリンは大剣を振り上げ、一気に振り下ろした。俺はすぐに長剣を振り上げて相手の攻撃を防いだ。
「人……人間!」
「危ない……」
こいつのスピードについていけないところだった。数秒遅れて剣を振り上げたら、たぶん命を落としただろう。
なんだよこいつ……なんで他のやつより速いんだ?
疑問を抱きながら、目の前のゴブリンに『情報探知』を使う。
ーー『狂暴化』?
ゴブリンの状態には狂暴化が書かれている。
なるほど、こいつはスキルを使ったのか。
ゴブリンには狂暴化というスキルがあったのを覚えてる。どうやら相手は俺に勝てないことに気づいたから、スキルを使うことを選んだなあ。
でも彼らは今になってやっとこのスキルを使って、このスキルには何か欠陥があるだろう。さもなくばみんなでこのスキルを使って、戦闘はあっという間に終わってしまう。
「殺せ!」
顔を上げてゴブリンを見ていた。狂暴化したゴブリンは口から白い泡を吐き、目は血走っている。
わあ、こいつは自分の命を燃やして?
どうやら狂暴化という技を使うと体に大きな負担がかかりそうだな。
「殲滅……殲滅!!!!」
体調を少しも顧みないゴブリンは、敵を全身の力で圧倒しようと怒鳴った。
でもこちらの怪力では負けないな。こんな奴、数分もしないうちに気を失うだろう、その時まで我慢すればいい!
「うう!!」
……一秒、二秒……三秒!
予想通り、相手はもう持ちこたえられない。足取りがふらつき、次の瞬間に倒れるだろう。よしーー
俺は反撃の準備をして攻撃する。
「ーー殺せ!」
「へえ?」
その瞬間倒れそうになったゴブリンは体を踏ん張り、大剣で大地を強く叩いた。
強くたたかれた大地大地にひびが入り、やがて砕け始め、数秒もしないうちに足元の岩が崩れた。
「え~~~」
相手がこのような自殺攻撃をするとは全く思わなかった。下は急な流れだね!
後ろのトーレを振り向いて見た。後者は川に向かって落ちている。
「シィン!」
「ちくしょう!」
俺は割れた岩の間をジャンプして行き来し、後方のトーレのそばに来た。
「抱きしめて!」
左手を伸ばしてトーレの手をつかみ、彼を懐に引き入れた。彼にそう叫んだ数秒後、俺たちの周囲は一瞬にして冷たい川の水に囲まれた。
◇
「ゴホ……」
なだらかな玉石灘のそばで、俺は両手を地面に支え、口の中の水を吐き出した。
呼吸が穏やかになってから、横で目を閉じているトーレに視線を向けた。トーレの呼吸は落ち着いていて、怪我はなさそうだった。
「しんどい……」
トーレと川に落ちた後、俺はトーレを守ることに集中した。
まず水に隠れて川面に落ちた巨石を避け、続いて激しい川の中で突起した岩礁を避けるために尽力している。同時に水に魔物がないかにも気をつけなければならない。最後に危険がないことを確認してから、緩やかな玉石灘のそばに上陸した……。
正直、こんなことをするのは本当にしんどい。
こんなに疲れているのは、あのゴブリンのせい……何で狂暴化するんだよ。
相手に文句を言ったが、そのゴブリンは一緒に川に落ちてから姿を消したから、相手はこの文句を聞くことができない。
「とにかく帰ろう……」
いまさら文句を言っても仕方がない。
少しそばにいたトーレの様子を確認したところ、彼は疲れて睡していたようだった。
こんなに安らかに眠れるなんて、うらやましいなトーレ。
俺は立ち上がって、周囲の環境をうかがった。
今はどこにいるのかさっぱりわからない。村に戻るには、道を探すのに時間がかかるかもしれない……。
そう思ったとき、前方の茂みの中で物騒な声が聞こえてきた。
「まったく、本当に必死だな……あんたたち」
前に現れたのは、数十人のゴブリンだった。川に落ちてからずっとついてきてくれたのか。それとも何か敵探しの道具があるのか。今そんなことを考えても無駄だ。
「人間……」
ゴブリンたちの口の中は熱気を吐き、危険な気配を放っていた。
『情報探知』を使わなくても分かるように、彼ら全員がスキルを使って『狂暴化』した。
「まずいな……」
今の俺の体力では、これだけのゴブリンを簡単に倒すことは難しい。まして後ろには守るべき人がいる。
背後に横たわるトーレをちらりと見る。動きを見たゴブリンが、同時に武器を手に突進してきた。
「グー……!」
同時攻撃したいのか……仕方ないなあ。
「さあ!」
手にした剣を握り、一歩前に踏み出した。負ける可能性があっても、俺も戦いを諦めない。
「殲滅!」
ゴブリンは前に突き進んで、手にした刀を取って切ってきた。
後退して攻撃を避けることはなく、むしろゴブリンの懐に飛び込むように加速した。一歩踏み出すと、目の前に現れたのは広い銀色の鎧で、そんな鎧は剣では斬れない。
「だがそれはどうだ!」
俺は剣を上げて、斬撃を使うつもりはなく、まっすぐに剣を前に突く。
確かに、広範囲の斬撃は鎧に阻まれやすいから、俺は策略を変えて、攻撃を1つの点に縮めて、相手の鎧を貫こうとした。
「うーっ」
剣は鎧とぶつかりながら白い光を放つ。
剣の柄から抵抗感が伝わってきて、ゴブリンの鎧が剣の攻撃に抵抗しようとしている。これは一回の槍と盾の力比べだ。
ゴブリンとの間には強烈な光が輝いていた。俺は剣に力を注ぎ、同時に叫んだ。
「突破しよう!」
まるで俺の声に応えるように、剣はいつしか紫色の光を纏い、ゴブリンに向かって攻撃をかける。
「わあーーー!」
この力に支えられて、剣は相手の鎧を貫いた。紫色の光にゴブリンの体を貫いた後、彼の背中に炸裂した。
瞬間、周囲に紫色の嵐が吹き荒れた。後ずさりして風を剣で振り払った後、ゴブリンは倒れた。
「次は誰だ!」
俺は嵐で後退したゴブリンに叫んだ。
◇
「死ね!」
このゴブリンたちに理性があれば、撤退するかもしれない。しかし、これらのゴブリンはすでに狂暴化しているから、彼らは獣のように飛びかかってきた。
10人……追いかけてきたゴブリンはこれだけか。
残ったゴブリンの数を少し計算してみた。どこからともなく力は強いが、このような攻撃も俺の体力を急速に減少させた。でもゴブリンの人数も10人しかいないから、今の体力では彼らを倒すのに十分だ!
「人間――」
「殲滅!」
敗北することを知っているかのように、前のゴブリンが同時に突進し、後ろにいたゴブリンが俺に飛び込んで、最後の攻勢をかけた。
「殺せ!」
このような攻撃に対して、すぐに避けることができてから、彼らを倒していればいい――
そう思っているうちに、視線の右側に黒い影が現れた。
なに!?
目を右側に向けた。ゴブリンが地面に横たわっていたトーレに向かって突き進んだ。
援兵がいるのか!
遠くにいたゴブリンは剣を振り上げ、トーレの首に向かって斬り去った。
「くそ!」
俺はすぐにそこに向かって突進し、そのゴブリンに剣を突き立てた。
「わあ!」
紫の輝きが一瞬にして消え、目の前のゴブリンを倒すことに成功したが、その代償として手にしていた剣がその輝きに伴って切れてしまった。
残ったゴブリンはこの機会を逃していない。後ろには何人かのゴブリンが押し寄せてきて、血のついた刃を俺に持ち上げてくれた。
「殲滅!」
まさかここで終わったのか!もし武器が相手の甲冑を突き刺すほど強ければ、状況は違っていただろうか――?
この時の悔しさはもう役に立たないが、それでも俺は相手の攻撃が来るのを見上げていた。
目の前のゴブリンの目には笑いがあり、確信した勝利の到来が刀を振り回していた。
この刀さえ落ちたら、俺は死んでしまうだろう。しかし死にかけた次の瞬間が来る前に――異変が起きた。
目の前で、火花が出た。
大きな音とともに、俺を斬ろうとした刃が弾かれた。同時に、この真っ暗な森を照らす光が現れた。
この光が現れるのを見て、ゴブリンは数歩後ろに退き、黄色の瞳がこの光を見つめていた。
その後、その姿が前に現れた。
「よ!大将、大丈夫か?」
少しだらだらした声とともに響いた。その姿が振り返る。
風が雲を散らす。月明かりの下で、相手の姿がはっきりと見える。
それは男だ。まぶしい鎧を着た超長い槍を持った男。
「ーー」
男の突然の出現で言葉が出なかった。俺はただぼんやりと彼を見ているだけだ。
「おい!大丈夫か?まさか俺の大将は馬鹿か」
「人間!」
彼の後ろにいたゴブリンは大声で叫んだ。すべてのゴブリンは無視されたことに怒りを感じているかのように、すべて男に攻撃をかけた。
「おい!危ない!」
「ああ、うるさいな。大将と話しているのが見なかったのか!」
男は後ろのゴブリンの声を聞いて、いらいらして槍を後ろに振った。
「あーー」
男が槍を振るにつれて、嵐が現れて大部分のゴブリンを吹き飛ばした。しかし、一匹のゴブリンが体を低くして嵐を避け、男に飛びかかった。
「お?挑戦する勇気があるのか!良い!」
男は感嘆の声を上げながら、ゴブリンに対して槍で突いた。俺は苦労してやっと突破した鎧、男は一瞬にして槍で突破した。
紙を刺すように、男の槍は簡単にゴブリンの鎧に突き刺さり、相手の心臓を貫いた。
「うん……これで終わりだ」
その場にいたゴブリンが全員倒れているのを確認した後、男は槍を振って、槍にぶら下がっていたゴブリンを振り飛ばした。
「それじゃよろしく、大将」
男は振り向いて、俺に笑顔を見せた。




