プロローグ
平凡な人生って一体は何だろうな。
世間では諸説あるけど、基本的には学校を無事卒業して良い仕事を見つけられれば、人生の勝者になったと言えるだろう?
そんな人になれるように、俺、浅野綾人は今もその目標に向かって頑張っている。意外なことがなければ、遅かれ早かれこれらの目標を達成し、平凡な人生を送ることになるだろう。
そう、意外なことがなければ……。
「おい、前へ進め!」
背中を強く押され、視線を横に向ける。左右から二人の警察が睨んできて、前に行けと命じた。
おや、急かすなよ、別に凶悪犯じゃないし、逃げないからよ……。
「な、何その凶悪な目つき!」
「脅すなよ!!」
悪気はないと目で訴えたが、それがかえって彼らを緊張させた。
ねえ、やめて、本当に泣くよ。
思わずため息をついて、手首に目を向けた。手首にはとある金属のものがかぶっている。
問おう、この場合で手首にあるべきものは何だろう?
……もちろん手錠だ。
アホでもわかると思うが、俺の人生は今ちょっとしたハプニングがあった。
今俺は容疑者とされ、裁判官の判決を受ける準備をしている。
そしてなぜこのようなことになったのか、その点については、その後起こったことを見てみましょうーー。
「被告、浅野綾人、前に出てください」
前から名前を呼ばだから、二人の警察を連れて被告人席に着いた。彼らは椅子を提供してくれないから、立っているしかない。
「では被告には弁解の言葉はないでしょう。今すぐ被告に懲役1000年の判決を!被告は文句があるのか?」
前方にいた女性裁判官は非情にも判決を下した。
「当然……」
「当然?」
「当然意見がある!!!!!」
怒って一歩前に出て、大声で叫んだ。両脇にいた警察が、慌てて俺を捕まえた。
「暴力をふるうな!」
暴力を振るうのはお前らだろ!
警察の話を聞いて、思わずそう言いたくなった。しかし俺は怒りに耐えて、前の高い女性裁判官に視線を向けた。
「俺は無実だ!!」
「ふうん?数十人の警察官を殺害したことを否定したいのか?」
年上の女性裁判官は眉をひそめ、前方の書類の文字を読み上げた。
「被告はこれらの犯罪を犯しています……複数の銀行強盗を企てて、国会議事堂を火事にしたり、発砲して渋谷を掃射したり、それ以外にも数え切れないほどの重大犯罪を犯しています……あなたが犯した罪業は確かな証拠ですよ?」
罪業……こいつの判決は少しも公正ではないだろう?
「そんなことをしたことがないと言っただろう!そんなところに行ったことはない!」
俺は心の中で文句を言いながら、大声で言った。
上述の罪例は確かに裁判官が犯人に重刑を言い渡すのに十分である。もしこんなことをしたがあれば、必ず正直に罪を認める……しかし、俺はそんなことをしたことはない!
裁判官が言った事件は、俺も家でテレビを見て初めて知った。
高校生らしき外見の男がテロを仕掛けたという。
国会議事堂、銀行、渋谷、その男の行く先々で、多くの惨事が起きた。しかし、この男は今まで逮捕されていない。
魔法を使ったように。相手は現場に何も残されていなかったようで、薬莢も行動の主張理由ももない。だから警察は今もその男の行方を真剣に捜査している。
「危ないな」
この世界がますます危険になっていると感慨していた時、警察が家に駆け込んで俺を逮捕した。彼らはまたこれはすべて俺がしたことだと言って、罪を認めさせた……。
そんなことをしたことがない!
アリバイがあっても、彼らは俺がやったと言い張るから、俺は上訴を続け、最高裁判所にたどりついた。
しかし裁判官の最終判決は有罪であった。
「証拠はしっかりしています。これ以上言い逃れをしないでください」
裁判官は冷たくこちらを見ていた。
彼女だけでなく、その場にいた全員が俺を似たような目で見ていた。彼らの目から見れば、俺は危険な殺人犯だ……おそらく今、みんながそう思っているのだろう。
この半年かかった訴訟の結果はすでに確定した。この訴訟に勝っても、元の生活には戻れないだろう。
「半年かけた結果がそうだったのか……」
「お兄ちゃん!あきらめないで!」
そのとき誰かが叫んだ。顔を上げて、隣に立って家族として出席した妹の浅野静がこちらを見ている。
信じてくれる人がいるよ……嬉しいのだが、残念ながらもうお手上げだ。
すま……静、兄ちゃんが負けて……。
俺が頭を下げるのを見て、静が大声で叫んだ。
「あきらめないでお兄ちゃん!お兄ちゃんが罪を認めれば、きっと減刑できるわ!」
「……」
「早く罪を認めて、お兄ちゃん!」
ブチッ、何かが切れた音が響いた。
「お兄ちゃんーー!」
「はあ?!アホかお前!」
妹がそう言ったのを聞いて、俺はすぐに怒って怒鳴った。
「俺は絶対に罪を認めない!!」
周りから騒ぎという声が聞こえてきた。だがここに至っては、俺も弁解することはない。
どうせ助けてくれる人はもういないから、俺は深く息を吸って、その場にいたすべての人に叫んだ。
「いいか、お前ら。俺は無罪だ!何も間違ったことはしていない!ハハハハハハ!」
俺が大笑いするのを見て、周りの人たちが怒りのまなざしを向けてきた。
「ハハハ!」
「彼を連れて行け!」
俺はそのまま警察に連行された。
そして時間が経つにつれ、収容する監獄はすぐに決まった。
「ここがお前の新しい家よ!」
隣の監獄の警備員の話を聞きながら、監獄の正門を見上げた。正門には金色の書体で監獄の名前が書かれている。
「グランニタ……」
それがこの監獄の名前。
どんなに凶悪な犯罪者でもかまわず、グランニタに入っただけでは絶対に出られないと言われているので、グランニタは日本で最も厳戒態勢の整った監獄とも言われている。
グランニタという監獄は日本にありながら、外観は華やかなグレーの西洋の城のようで、異国に来た気分にさせてくれる。
外観がこんなにきれいなデザインをしているから、グランニタはテレビで紹介されたことがあって、俺もそれでこの場所を知ることができた。
伝説の監獄にしか出てこなかったのが目の前にあるのを見て、なんだか感動した。しかし、ここが将来の終焉の場所だと思うと、気持ちが落ち着かない……。
「入って!」
背中を強く押され、俺は重い足取りで監獄に入った。
意外と綺麗だったんだね。
監獄の内部環境を見回した。監獄の内装はとてもきれいで、なぜ監獄の囚人のためにこんなに良い内装を設計したのか疑問になるほど快適だった。
しかし、どんなに快適であっても、ここが監獄であることを変えることはできない。
標準的な獄衣に着替えてから、俺は自分の房に向かいながら、灰色の獄衣に刺繡された番号を見下ろした。
2054。
これが俺のこの監獄での番号だ。
数字は2000以上ある……つまりこの監獄には2000人以上の犯罪者がいると?
この監獄に来た奴はみんなヤバいだろうな。うっかり殴られるかもしれないね。
頑張って獄友と交流れば、いじめを避けることができるはずだろ。
獄友が悪いやつだと恐れていたから、俺は監獄の警備員が監獄に連れて行っている間に見回していた。この監獄の囚人がどんな奴らなのか確認したい。
へえ?人と熱く語り合うような奴がいるんだな、無口な奴もいるし……あ、あいつ眼鏡かけてるんだから知識人だろ?
監獄の囚人を評価しながら横の牢屋を横目で見る。牢屋のドアの上に1758という数字が書かれた四角い枠がある。
よく見ると、すべての牢屋のドアの上にこのような数字がある。これらの数字は囚人の番号と関係があるようだ。
たぶん同じ数字の囚人が同じ数字の牢屋に入るのだろ。つまり、俺の牢屋は2054号室だろう。
どんどん進むにつれて、俺と監獄の警備員は監獄の奥まで行き、身近な監獄の数字もどんどん変化していき、番号は元々の数千から徐々に十桁になっていく。
牢屋の囚人の服に刺繍された番号も十桁になっている。つまり推測は正解だ。
でもちょっと怖いことに、これらの桁番号の囚人たちはとても危険なようだ。ほら、冷たい目で睨んでくる奴がいるよ!
おそらく監獄の奥にいる囚人の数は一桁だろう。
でもこうなったら、どうして監獄の奥まで歩いて行った?番号は2054……どう考えてもこんな奥の牢屋に閉じ込められるわけがないだろう?
疑問に思っていると同時に、前の警備員は前方の牢屋のそばで止まった。
「ここがお前の未来の家よ、2054」
顔を上げてみると、ドアの数字は確かに2054だった。
「ええと……すみませんが、なぜ牢屋がここに?隣の牢屋は1桁番号で、俺だけが違うよ?」
警備員に疑問を言わずにはいられない。
「はあ?お前が極悪非道な犯罪者だ!当然最奥の牢屋に配属され監視されるだろう!」
「極悪非道な犯罪者……最奥……」
皆に危険な犯罪者だと思われていることを忘れるところだったね。
極悪非道な犯罪者だと思われている以上、彼らが俺をこのように扱ってくれるのも当然のことだ。
「入って!」
俺はため息をついて、警備員の指示に従って牢屋に入った。しかし、牢屋に入ると、状況がおかしいことに気づいた。
……牢屋にはベッドが1つだけ。
「どうしてベッドが1つだけ?」
警備員に振り返って尋ねた瞬間、背後のドアが閉まった。
「何が不満なんだ!これはもういい待遇だ!」
相手は俺がこの待遇に不満を持っていると思うようだが、俺が気になっていたのは、この部屋に誰もいないことだった。
まさか……頭の中で悪い答えが出た。
「あの……もしかして、俺はこの牢屋に一人で住む?」
「当たり前だろ!お前に比べてこの監獄の囚人はずっとおとなしい……他の囚人と一緒にさせたら、お前きっと凶暴に彼らを殺すだろう!」
「いや、そんなことはしないーー」
「弁解する必要はない。朝6時に集合。新しい生活を楽しもう!」
警備員は弁解の機会も与えず、足早に牢屋の前を去った。
「……」
牢屋の内部を見渡す。牢屋の内部にはトイレとベッド以外何もない。文字通り本当に何もない。この牢屋は空間が狭いだけでなく、電灯もないから、外に明かりがついていなければ、きっと何も見えないだろう。
「冗談じゃないよ……」
わけもわからず無実の罪を着せられ、わけもわからず監獄に入れられてしまう夢なら、誰かが俺を目覚めさせてほしい。
「俺の人生はどうしてこうなったの……」
すばらしい人生が始まろうとしているのに、このような状況に遭遇した。
ゲームでもそんな理不尽なことはないが、ここは理不尽極まりない現実世界。
「……くそっ!」
人は狭い暗い空間にいると、すぐに落ち込んで絶望するという。しかし、俺は少しもそのような感じがない。
少しもがっかりした感じがなくて、限りない怒りしかない。
「どんなに時間がかかっても、必ずその犯人を捕まえる!」
そう、この仇は必ず討たなければならない!
どんなに時間がかかっても何とかして外に出なければならない!
「きっと、ここを離れる方法があるーー!」
そう決心した瞬間、目の前の世界が揺れ始め、意識が朦朧とした。
「う……疲れたか……」
精神はこの半年の苦しみの中で限界に達したようだ。長い疲労がいま浮き彫りになり、身体のあちこちから休息を求められている。
ここを離れる前に体が壊れないように、俺はベッドのそばに行き、横になって目を閉じた。
しかし目を閉じると、濡れ衣を着せられた悔しさが再び込み上げてきた。
「くそ!」
ーーどうしてもここを離れる!
頭の中でそんなことを考えながら、意識はだんだん遠ざかっていった。
休憩しようか……。
意識が暗闇に陥ったとき、何かが体から離れていることを感じた……。
でもそれがいったい何なのか、もうわからない。
意識が暗くなった後、俺はこの世界を離れたからだ。