第四話 街へ
ここから数話程、街の様子や買い出し等が続きます。
そういった細々した事も書きたいので、ご容赦ください。
薪の爆ぜる音が大きく、煙も少し多い。俺の集めた小枝があまり乾いていなかったからだろうか。
ナタリアさんは火を熾すと毛布に包まってすぐに眠ってしまった。疲れていたのだろう。
俺も渡された干し肉を食べると、すぐに横になった。右手も両足もかなり疲労しているし、背中の痛みも残っていてなかなか寝付けなかった。
———
洞窟の地面に深い穴が空いている。覗いてみるが、底がまるで見えない。ポッカリと恐ろしい暗さが口を開けている。俺は穴に降りなければならないのだが、躊躇していると、穴の淵から牙がゾロゾロと生えてきて、ワームが天井へと身体を伸ばした。俺はワームの瘤を狙って槍を投げ付けるが、投げた槍は何故かワームの瘤ではなく俺の背中に突き刺さる。背中に激痛が走る。
「ぐぁああっ!!」
目を覚ますとナタリアさんが俺の肩を揺すっていた。
『随分と魘されていたので起こしたわ。背中の傷を見せて』
彼女は俺の背を確認すると、また軟膏を塗ってくれた。
『思っていたより治りが早いわ。でも野宿するには辛いわね。今日中に街に着きたいわ。歩けそう?』
「ああ、大丈夫。ありがとう」
陽が登ったばかりの様で、眩しい朝日の中を歩いて行く。時間が過ぎる程、空気が暖かくなってくるのを感じる。
時折皮袋に入った水を少しずつ飲み短い休憩を行いながら、とにかく歩く。俺は怠さと背中の痛みで、考えがあまり回らない。ナタリアさんも黙々と歩く。
三度目の休憩を終えた後、ようやく道らしき物に行き当たった。
道に沿って暫く歩いて行くと、二頭立ての幌付き馬車が通りがかり、ナタリアさんが御者の老人に交渉して荷台に乗せてもらう事になった。荷台はひどく揺れたし野菜等が山の様に乗っていて狭かったが、疲れきった身体には非常にありがたかった。
いつの間にか眠ってしまっていたようだ。気が付くともうだいぶ陽が傾いていて、丁度近くに街が迫ってきている所だった。
街は高い壁に囲まれていて、大きな門が口を開けている。門の前には馬車や人々が集まっていて、街に入る順番を待っている様子だった。
ナタリアさんは御者の老人に礼を言って馬車を降りる。俺もそれに続く。
彼女は馬車や人々の列の横をスタスタと歩いて行き、馬車の荷物を確認しているであろう門番に何か見せた。門番は恐縮した様子で俺とナタリアさんをすんなり通してくれた。特別扱いの様だ。
「随分すんなり入れるんだね。皆並んでいるのに」
『魔法士はそれなりに地位が高いの。中でも私は魔導師だから』
「へぇ。魔法士って?」
『魔法士は…そうね、細かい事も少しずつ教えないとね。とりあえず宿に行くから、ひと休みして食事にしましょう。その時に説明するわ』
移動中は街並みや道ゆく人々を眺めていたが、ごく稀にだが肩に大きなトカゲを乗せた人がいたり、獣が服を着て二足歩行していたりと、建物よりは人々?が奇妙だと感じた。恐らく、元いた世界とは違うのだろう。
建物は大半が木と土、草で出来ている様だ。馬車が通る時は土煙が舞い、埃っぽい。
割合数が多い三階建ての建物と建物の間に、洗濯物のような物が大量に干してあるのが目につく。
宿は四階建ての木造に見えたが、街の建物の中でも抜きん出て立派に見えた。地位が高いとナタリアさんは言っていたし、高級宿なのかも知れない。
受付の初老の男性も身綺麗で、何よりロビーの端にあるお手洗い(!)も綺麗だった。
用を足した後に天井から下がる紐を引くと水が流れるのだ。野営ばかりの数日では考えられない贅沢だった。案内された部屋も豪華と言う程ではないが、清潔感があった。
「私は隣の部屋に居るわ。湯を頼んであるから、体を拭いたら声をかけて頂戴」
部屋に入るとベッドに横になりたい気持ちに駆られたが、体を拭いてからでないと汚れてしまうだろうし、何より横になったら眠ってしまうだろう。
誘惑に耐えながら室内を物色していると、ドアをノックする音が聞こえた。
開けると先程の初老の男性が大きな桶と着替えと体を拭く布を室内に入れてくれた。
「湯浴みが終わりましたら、お着替えになって下さい。お食事を摂られると伺っておりますので、その間に片付けさせていただきます。お召し物もこちらでお預かりして洗濯させていただきます。それでは失礼致します」
至れり尽くせりだなぁと思った。桶はかなり大きく、たっぷりと湯が張ってある。一人で持てる重さでもない気がしたが、考え過ぎず有り難く使わせてもらう事にした。
思った以上に体が汚れていたようだ。湯は黒く濁ってしまったが、さっぱりした。背中も少し沁みるが、然程痛まなかった。
用意された着替えは白い貫頭衣だった。これまで着てきた物よりも柔らかい布で、着心地が良い。
さっぱりしてフワフワした気持ちでナタリアさんの部屋をノックする。
直ぐにドアを開けてくれたが、彼女も白い貫頭衣に着替えていて一瞬ドキリとした。帽子も被らず、髪もまだ少し濡れているのか艶があるように見える。
『行きましょう。ここの食事はなかなかの物よ。期待していいわ』
書き溜め分があるので、可能な限り毎日1話更新していきます。
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