第二話 出発
時折、薪が小さく爆ぜる音が聞こえる。樹々が揺れ、虫の音が響く。
森に目を遣れば、光すら吸い込まれてしまいそうな闇が広がっている。夜空には満点の星空だが、森と空との境目は、星があるか無いかでしか判らない。
ナタリアさんは俺に厚手の布というか毛布?を渡すと手際良く火を起こし、鞄から出した物を使って簡単だが温かい食事を作ってくれた。
木製のお椀に焼き菓子のような物が浮いている、薄いミルクのようなスープ。甘い香りがする。
口にすると、さほど甘さは無いが穀物の良い香りが口に広がる。
焼き菓子はひどく硬かったが、ナタリアさんに言われてしばらくスープにつけておくと、ホロリと崩れて食べ易くなった。
素朴な味だったが、空腹だったのと夜の冷え込みのせいか、少し涙が出そうになるような旨さだった。
木製の匙を使って、ゆっくりゆっくりと味わって食べる。
食事が終わるとナタリアさんは
『今日はもう休みましょう。』
と言っても毛布に包まり眠ってしまった。
無防備だな、と思ったが俺も酷く疲れていたし、腹が膨れたのも手伝ってか、毛布に包まると直ぐに睡魔が襲ってきた。
———
俺は横断歩道で信号待ちをしていた。肩には剣道の竹刀と防具一式。
信号が青になる。横から制服姿の女の子が俺の前に出る。俺に向かって何かを言っているようだが、声も音も聞こえない。笑顔が可愛い、小柄で愛らしい子だ。彼女が車道へ目を向け、怪訝そうな顔をする。俺は釣られて車道に目を向ける。大型のトラックが迫ってくる。俺は彼女を突き飛ばす。彼女の驚いた顔。トラックが迫る。俺は…
「わああぁっ‼︎」
自分の声で目が覚めた。汗が酷い。怖い夢だった。彼女は…えっと…あれは死ぬ直前の…ああ、なんだったっけ…もう思い出せない。
横から草を踏む音。目を向けるとナタリアさんがこちらへ歩いてくるのが見えた。
『凄い声ね。驚いたわ。大丈夫?』
「あ、ああ。大丈夫。ちょっと夢見が悪かっただけ」
『そう。動けるなら、そろそろ出発するわ。良いかしら?』
俺は立ち上がり、両手で顔を押さえながら大きく息をする。
「大丈夫。出発しよう」
出発するにあたってナタリアさんが渡してくれたのは厚手の革を縫い合わせた靴で、少し大きいが歩くには充分そうだった。
ナタリアさんは杖の他に大きな肩掛け鞄を持っていたので何か持とうかと言ってみたが、必要ないとの事だった。
森の中は鬱蒼としていたが草地から細い獣道が続いていて、陽の光も少しは入るようだった。歩くのも楽だったし空気も旨く感じた。
時折奇妙な鳥の鳴き声が聞こえる。
暫く歩くと切り立った崖に着いた。ナタリアさんが壁面に手を当て何かを早口で呟くと、一瞬壁面に複雑な光る模様が浮かび上がり、模様が消えると壁面に洞窟がポッカリと口を開けていた。
『ここからは少し危険なの。逸れないように気を付けて』
「あ、ああ。わかった」
『それじゃあ行くわよ』
「あ、あのっ!」
『何?』
「…いや…何でもない…」
『?…そう』
俺は酷く嫌な感じがしたのだが、上手く言葉に出来なかった。
洞窟の中はひんやりとしていたが驚いた事に、暗くはなかった。いや、明るいと言う程ではないが、壁面や足元にぼんやりと青や緑に光る苔やキノコが生えていて、羽が大量に生えた蜻蛉みたいなモノも時折飛んでいるが、これも青白く光を放っている。
洞窟内はあまり高さもなく、手を伸ばして跳び上がれば天井に触れる程の高さなので、ぼんやりとした光でも歩くには充分な灯りになってくれる。
綺麗だなと思って見ていると、スタスタと先を行くナタリアさんに遅れそうになってしまうので、ちょっと後ろ髪を引かれながら歩いて行く。
暫くの間ほぼ一本道だったが、左右に分かれている場所でナタリアさんが立ち止まった。分かれているというより、左側は人が1人通れるくらいの単なる穴という感じだ。
穴の中は光が全く無く、見ているだけで何だか嫌な気分になる。
『不味いわね…』
ナタリアさんが呟く。
「どうかしたの?」
『この左の穴、作ったのは厄介なヤツよ。一応護身用に渡しておくわ』
ナタリアさんは鞄から革の鞘に入った鉈を渡してきた。
『慎重に進むわ』
そう言うと、右側の道へと進んでいった。
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