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臆病勇者の冒険譚  作者: まやこよ
召喚編
17/18

第十五話 ミド・スパイド戦(後半)

無我夢中で蜘蛛を切り裂く。付与のお陰で、豆腐でも切っているような感覚だ。豆腐ってなんだっけ。どうでもいいか。


ナタリアさんは土の塊を作り出しては撃ち出している。もう伏せろなんて言ってもらう必要もない。放たれた土の塊ですらゆっくりに見えるので、余裕で避けられるのだ。


蜘蛛の集団に斬り込んではナタリアさんの所へ戻り、近くの蜘蛛を切り裂き、また集団へ。


切れかけたら、ナタリアさんに付与してもらう。


そんな事をもう何回繰り返しただろうか。周りは蜘蛛の屍の山である。


ナタリアさんの顔にも疲れが見えてきた。


『…ウ…マ…、キョ ウ マ、キョウマ!聞こえてないの?』ナタリアさんが俺を呼んでいる。


俺は彼女の下へ移動し、周囲の蜘蛛達を蹴散らした。

「ごめん!聞き取れてなかった!どうしたの?」

『私はそろそろ限界なの。敵の数も大分減っているし、今なら門まで戻れるわ』

「わかった。戻ろう」

『じゃあよろしくね』

そう言って彼女は両手をこちらへ広げた。


「ん?え?」

なんでハグして?みたいなポーズ?どゆこと?俺は混乱しながら飛び掛かってきた蜘蛛を斬り伏せる。


『ワームの時も運んでくれたでしょう?さっきも言ったけど、限界なの』


あー、そーゆう…いや、あの時は無我夢中だったしお姫様抱っこ的なヤツをそんなに簡単にやっていいんでしょうかね?いやそういう不純な考えは良くないというか状況を考えろ俺なにもやましい事はないしむしろ頼まれてるしここでドギマギする方が気持ち悪くないかそうだその通りだよし。


刹那の思考の末、

「りょ、了解」

俺は、やっとの事で一言発して、剣を背負うとナタリアさんを抱えて走り出した。


彼女は相変わらず羽のように軽い。いや、これも勇者の力とやらのせいなんだろうけど。なんかいい匂いもする。いやそういう事を考えるな。阿呆か俺は。


蜘蛛が点在する中を走り抜け、門の近くまで戻ってきた。門の前では魔法士や冒険者が集まっていて、近付く蜘蛛達を排除している。俺たちに気が付くと、攻撃を止めて道を開けてくれた。


門の前でナタリアさんを下ろすと、リーダーらしき白髪の男性がすぐにこちらへ来た。開戦の時に大声で指示してた人だ。えーっと、名前が確か…


『アーク支部長、ご無事で何よりです』

「急に抜けるというから驚いたぞ。ああ、彼が話していたお連れかな?」

『そうです。今はご説明する時間がありません。経験は浅いですが、戦力としては間違いなく一級です』

「なんだね、それは。妙な言い方だな。で、君の名前は?」


アーク支部長はこちら顔を向けてに尋ねる。

「キョウマといいます」

「ふむ。私は魔法士協会メルギス支部長、ゴドール・アークだ。よろしくキョウマ君」


『それで支部長、状況はどうなっていますか?』

「ああ、千匹近いと予想されるミド・スパイドは、8割がた掃討したと診られている。撃ち漏らしを門前で待ち構えて倒しているが、こちらは問題ないだろう。それよりも親のアルパイン・スパイドがそろそろ目視圏内に入るが、思ったより戦力の消耗が激しくてな。死者こそ出ていないが、冒険者と魔法士は皆、限界に近い。充分に動けて大物と闘えるのは(銀狼亭)のバトスくらいしか残っていない。君はどうだ?ナタリア嬢」


『申し訳ありません。私も限界ですね』

「ふむ。やはり私とバトスでなんとかするしかないか。付与はまだ使えるかね?」

『少し休んでも2回といったところです』

「なるほど。では私とバトスの武器に頼む。あとは街の中で休んでくれ」


『…支部長、提案なのですが、バトスさんと行くのはキョウマにしませんか?失礼ですが支部長もさほど余裕があるとは思えません。アルパイン相手ですと、厳しいかと』

「む。まあ正直刺し違える覚悟ではあったが…キョウマ君はそこまでなのかい?」

『はい。付与が前提ですが、攻撃力だけならバトスさんを超えます』

「そこまでか。ではお願い出来るかね?」


どんどん話が進んでいくが、俺、行かなきゃだめ?要はボスと戦えって事でしょ?蜘蛛のボス…嫌だなぁ。気持ち悪いし。でも断れる雰囲気じゃないしなぁ。

「あ、あの俺は」

『キョウマ。自分の力を信じて。あなたなら充分に勝てるはずよ』

「でも…」

ナタリアさんが俺の両肩を掴む。

『お願い。力を貸して』

「…わかった。やります」


正直怖いし嫌だけど、この世界に来てお世話になりっぱなしのナタリアさんに頼まれると、断れない。まあ俺なら大丈夫って言ってるし、バトスさん?という人もいるし、なんとかなるだろう。そう思って俺は返事をした。


「よし、決まりだな。バトスを連れてこよう。少しの間だが、休んでいてくれ」

そう言ってアーク支部長は立ち去った。


『キョウマ、剣を見せて。付与を確認するわ』

俺は剣を手渡す。心なしか付与の光が弱くなっている気がする。

『もう切れるわね。バトスさんが来たら同時に付与するわ。ああ、バトスさんにはキョウマも会ってるわよ。私達が泊まっている(銀狼亭)の受付をやっていた男性よ』


…あの人か!え?そんなに凄い人だったの?確かに戦力としてとか言ってたけど。そうかぁ。どんなイカツイ人と共闘するか心配していたけど、なんかちょっと安心だな。

読んでくださってありがとうございます。

誰かに読んでいただけるって、幸せですね。


読むのが好きで、自分が読んで楽しめる作品を目指して書いてます。


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