第十二.五話 ~Sideナタリア~
戦闘場面までは、まだもう少しかかります。
キョウマには宿で休むように伝え、私は魔法士ギルドへと向かった。ゴーブの所で掘り出し物の魔石を手に入れたのは良いが、路銀が足りなくなったからである。
アレアに注文した服の代金も考えると、自分用の研究素材にと残しておいたアシッドワームの牙を売り払う必要があった。
王都以外の魔法士ギルドには、あまり顔を出す事がない。旅をする魔法士は交流の為に顔を出す事も多いと言うが、私の用事は素材の買い取りや研究報告ばかりで、あまり他の魔法士と関わりたいとは思わなかった。
見習い時代はそうでもなかったが、魔導師クラスになってからは妬み嫉みと言うか、快く思わない者も多く、うんざりしてしまったというのが正直な所だ。
まあ素材を売り払うだけだ。直ぐに宿に戻れるだろう。
協会に着いた時には辺りも暗くなり、協会内も人は疎だった。
この街のギルドは辺境にも関わらず建物の作りが良く、雰囲気も落ち着いている。磨き上げられた受付カウンターに立つ女性職員も、見るからに品が良くて好感が持てる。
「ようこそ魔法士協会メルギス支部へ。ご用件は私、サーラが承ります」
『アルネス本部、魔導師のナタリア・アルトリーゼよ。素材の売却をお願いするわ。アシッドワームの牙を一点よ』
肩書きを聞いて職員は少し驚いた様子だったが、直ぐに表情を戻し、対応してくれた。
「ありがとうございます。それでは身分証と素材をお預かり致します。査定には1マーニ程(約10分)かかりますので、どうぞお掛けになってお待ち下さいませ」
トレイに牙と身分証を乗せ、彼女はカウンターの奥へと下がる。
引き替え札を受け取り、ロビーの椅子に座ると、若い男性職員が薬草茶を持ってきてくれた。見習い魔法士には茶など出てこない。こういう所は魔導師のささやかな特権である。
のんびりとお茶を飲んでいると、程なく先程の受付嬢のサーラがやってきた。査定の金額は悪くなかった。というか、協会の価格は余程の手違いがない限りは適正価格だ。
代金を受け取り懐も潤ったので、宿に戻ろうと出口へ向かおうとしたその時、扉が乱暴に開かれ、見習い魔法士であろう青年が駆け込んできた。
「緊急!緊急です!支部長へ取次をお願いします!」
…嫌な予感がする。巻き込まれるのも厄介だが、大事なら情報は欲しい。少し様子を見る事にしよう。
サーラと共にギルドの奥へと青年が向かうが、会話がダダ漏れだ。余程焦っているのだろう。
要するに、大型の魔物が西門方面から街に向かってきているようだ。これはどちらにしても召集される事になるだろう。その前にキョウマと合流しておいた方が良さそうだ。一度宿に向かおうかしらと考えていると、奥から協会職員が外へと飛び出して行った。
…ああ、これはもう手遅れね。そう思った矢先に、奥から数名の魔法士と共に、初老の男性がツカツカとホールに出てきた。
以前も何度か会った事がある。長い白髪を後ろで一つに結い、服装の仕立てが良い。黒地に銀の刺繍。このメルギス支部の長で、アークという。年長者にこういう表現は不遜かも知れないが、かなり優秀な男性だ。
「市内全職員、及び全協会員に通達!急げ!冒険者ギルドへは既に連絡員を送った!他ギルドへの連絡は冒険者ギルドに一任してある!警鐘も間もなく鳴る!メルス副支部長を指示役に残し、私は出るぞ!見習い魔術師以下は協会内にて待機!魔術師以上は西門へ向かえ!」
テキパキと指示を飛ばしながら表への扉へと向かうのを眺めていると、しっかりと目が合ってしまった。
「おお、これはこれは!ナタリア嬢!」
『ご無沙汰しておりますアーク支部長。お元気そうで何よりです』
「そちらも壮健そうで何より。状況は察していただいているかな?」
『西門外より大型の魔物が襲来、とまでは』
「充分だ。ご同行願えるかな?」
『勿論です。が、連れがおりまして、そちらに連絡をしたいのですが』
「了解した。手隙の見習い魔術師を向かわせよう」
直ぐに1人の協会員が来てくれ、走り書きの手紙を渡す。
協会から表への出るのと、街に警鐘が響き渡るのは同時だった。
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