第十二話 襲来
ようやくバトル展開が近くなってきました。
第十二話 襲来
宿の前でナタリアさんが、はたと立ち止まった。
『肝心な事を忘れていたわ。ちょっと行く所があるから、先に宿に入って休んでいて』
「ん?どこに行くの?別に一緒に行くよ?」
『協会に行くのよ。キョウマの事はまだ説明出来ないから、大人しく宿で待っていて』
…なんか子供扱い…いや、気のせいだろう。協会には興味があるけど、俺が居ない方が良いなら待ってる事にするか。けっこう動き回って疲れたし。
「わかった。宿で待っているよ」
『じゃあ行ってくるわね。戻ったら夕食にしましょう』
なんかやっぱりオカンみたいになってる。まあ記憶も無いしこの世界の事も全然知らないし、仕方ないか。
宿の受付には変わらず初老の男が立っていて、すぐに声を掛けてきた。
「お帰りなさいませ。すぐお食事になさいますか?」
「いや、後でナタリアさんと一緒に食べるので、まだ大丈夫です」
「作用でございますか。それでは湯浴みのご用意を致しますか?」
「ああ、じゃあお願いします」
「承知いたしました。すぐにお部屋へお持ちいたします。他に何かご入用な物はございますか?」
「いえ、特にありません。ありがとうございます」
「恐れ入ります。それではごゆっくりどうぞ」
そう言って部屋の鍵を差し出してきた。相変わらず至れり尽くせりだ。
部屋に戻るとすぐに湯が運ばれてきたので、のんびりと湯浴みをする。まだ動き回っているナタリアさんには少し申し訳ないけど、1日で色々あって少しくたびれてしまった。お湯が疲れを癒してくれる気がする。
部屋着に着替えてベッドに横になると、睡魔が襲ってきた。
カンカンカン‼︎と、鐘が鳴る様を響かせながら、ワラワラと大きな蜘蛛や骸骨達が襲ってくる。俺は敵を切り続けなければならない。ナタリアさんに掛けてもらった付与はもうすぐ切れてしまう。そうなったらいよいよマズい。更に大きな音がしたと思ったら、見上げる程の巨大な蜘蛛が襲ってきた。
「うおおっ!」
…夢か。嫌な夢だったな。まだ夢の中に居るみたいだ。…と言うか、鐘の音が聞こえる。宿の外が騒がしいようだ。何事かと思っていたら、扉を叩く音がした。
「お客様、お客様!申し訳ございません。お伝えしたい事がございます」
受付の男の声だ。少し切迫した雰囲気がある。
扉を開けると、男が深々とお辞儀をする。
「お休みのところ申し訳ございません。実は街の外に大きめの魔物が出現したとの事で、念の為、宿の者が私を含めまして何名か戦力として向かう事となりました。宿に残る者も勿論おりますが、少しご不便をお掛けするかも知れません。恐れ入りますが、ご了承いただけますでしょうか」
「はあ。わかりました」
「ありがとうございます。もう一点、あまり可能性が無い事ではございますが、街の中に魔物が侵入した場合、従業員の指示に従って避難していただく場合がございます。その際にはご協力のほど、よろしくお願い致します」
「わかりました。そうします」
「恐れ入ります。それでは失礼致します」
男が立ち去った後、何となくいつでも動けるようにした方が良いと思い、着替えて剣を背負ってみる。
すっかり眠ってしまっていたが、どのくらい時間が経ったのだろう。
ナタリアさんは戻ってきていないだろうな。大丈夫かな。
しかし、戦力として宿の従業員が行くというのはどうなんだろう。高級宿だから従業員も荒事にも強いとか?いや、街中総出で戦わないといけない程の魔物かも知れない。
そうだとしたら、俺も行くべきなんだろうか。でも転生者って言っても素人だし、ナタリアさんも無茶はするなって言ってたし。いやでも、ナタリアさんが戦力として参加している可能性もあるか。うーん。どうしよう。とりあえずロビーで話を聞いてみるか。
ロビーのカウンターには白と黒のエプロンドレスの女性が立っていた。切れ長の目元で厳しそうな雰囲気だが、若そうだ。俺とそんなに変わらないんじゃないかな。
薄桃色のエプロンドレスを着た従業員が入れ替わり立ち替わり彼女に話しかけて指示を仰いでいるようなので、少し立場が上の従業員なのだろう。指示を出しながらも、手元では何か書き物をしていて忙しそうだ。
手が空いたタイミングを見計らって声を掛ける。
「あの〜」
「お客様。先程からお待ちいただいていましたね。誠に申し訳ございません。緊急事となっておりますので、ご容赦頂ければと思います」
「いえ、こちらこそ忙しいところすみません。ええと、従業員の人が、戦力として出るとか言っていましたが」
「作用でございます。当宿では探索者や騎士、傭兵などの出身の者が数名おりまして、平時はお客様の身の安全を守る事に努めております。街でも指折りの手練れですので、緊急時には招集がかかりまして、向かわなければならないのです。ご不便をお掛けして申し訳ございません」
「いえ、特に不便ではないんだけど、その、皆さんどちらに向かわれたのかなと」
「魔物は西門の外に出現したと聞いておりますので、そちらに向かいましたが…ああ、ひょっとしてお客様も戦闘に参加されるおつもりですか?」
「え?あ、ええと、ああ、そうそう。そうしようかな〜と」
「作用でございますか。当宿ではお客様の安全が第一ですが、お客様自身のご意志で戦闘に参加される事はお止めできません」
「ど、どうも。で、街に来たばかりで西門にどう行けばいいのか解らないんだけど…」
「ああ、西門へは建物を出て左、更に2つ目の通りを左へ真っ直ぐに進めばお判りになるかと思います」
「わかった。どうもありがとう。あ、俺はキョウマというんだけど、ナタリアという人が戻ってきたら西門へ向かったと伝えて貰えますか?」
「キョウマ様からナタリア様へ、西門へ向かわれた、ですね。承りました。ご武運を」
宿を出て、教えてもらった道を小走りに進む。街には鐘が鳴り響き、道も人々で騒然としている。なんとなく話の成り行きで行く事になってしまった気もするけど、まあいいか。ナタリアさんに会えるかも知れないし。
けれど俺は、この時の自分の行動がいかに軽率だったのかを、後で酷く後悔する事になる。待ち受ける敵があんな恐ろしい化け物だなんて、想像もしていなかったんだ。
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