第九話 トーラス親方
装備の中でもやっぱり花形は武器。武器屋に行きますよ!
食事が終わるとナタリアさんは少し考え事をしていたが、意を決したように話しかけてきた。
『ねえ、キョウマ。この前のワームを倒した時の事だけど、自分に違和感というか、何かが起こった感じはあったかしら?』
「え?うーん、夢中だったからなぁ。…ナタリアさんが倒れかけた時、多分、昔の事を思い出したんだよね。で、思わず走り出したんだけど…そうだな、景色というか、世界が凄くゆっくりになった感じがしたって言うのかな。だからワームの動きにも対応出来たって言うか…」
『そう。私はワームに槍を刺す少し前からしか見ていないけど、魔法無しであの槍を持つのはかなりの筋力が必要だし、そもそもあなたの動きは、ゆっくりどころか驚くような速さだったのよ』
「うん。そもそも穴からナタリアさんまではけっこう距離があったから、普通の速さで動いたとは思ってないよ。つまりそれが…」
『転生者の力ね。こんなに早く発現するとは思わなかったわ』
「そうなの?何か問題があるのかな」
『どうかしらね。過去の資料でもあまり細かい事は解らなかったから。王族しか知らない事もあるでしょうし、あまり気にしても仕方が無いと思うわ』
…ナタリアさん、意外と適当なんだな。
『ところで背中の傷、まだ痛むかしら?』
「いや?もう全然大丈夫みたいだ。塗ってくれた薬のお陰かな」
『あの薬にそこまでの効果は無いのよ。素直に言って、異常な回復力よ。つまりそれも勇者の力ね。まだ断言は出来ないけど、恐らく身体的な能力全般が強化されるタイプだと思うわ』
「そうなの?うーん、なんだか凄く便利そうだね」
『そうね。ただ、まだ自在に扱える訳ではないでしょうし、この前みたいな無茶はしないように。とは言え、戦う事が出来るなら王都までの道中でも、武器はあった方が良いと思うのよ。どうかしら?』
「武器?買ってくれるって事?良いのかい?」
『それぐらいの手持ちはあるわよ。何か希望はあるかしら?』
という事で、実際に見たり触ったりして判断したいと伝えたら、武器屋に連れて来てくれました。いや、武器屋とかちょっと興奮しますね。
店の裏が工房になっているようで、金属を叩くような音が通りにまで響いてくる。
やたらと丈夫そうな扉を開けて中に足を踏み入れると、壁には所狭しと武器が飾ってあった。中央には木製の大きなテーブルが一つ。幾つかの椅子も置かれている。奥には小さなカウンターがあり、少年が立っていた。まだ10代だろうか?こちらに気が付くと元気に走り寄ってきた。
「いらっしゃい!リア姐さんじゃないかっ久しぶりだねっ」
…ここも知り合いのお店か。ナタリアさん、顔広いな…。
『久しぶりね、トレス。少し背が伸びたかしら?』
「えへへ。せいちょーきだからね。リア姐さんを追い抜く日も遠くないよっ」
『それは楽しみね。親方さんはお手隙かしら?彼の武器を見立てて貰いたいのだけど』
「大丈夫だと思うよ。ちょっと待っててね」
そう言って、カウンターの奥へ引っ込んでしまった。
折角なので、待っている間に店内の武器を物色する。大小様々なナイフ、身の丈程の斧、槍に剣、金属製の杖もある。どれも綺麗に磨かれ、眺めているだけでも楽しい。
さほど時間も経たずにトレス少年が連れてきたのは、頑丈そうな革のエプロン姿で短く刈り込んだ白髪、いかにも職人と言った雰囲気の、厳しそうな顔の初老の男だった。筋肉質の腕がやたらと太い。
「おお、久しぶりだな、ナタちゃん。元気そうだな」
『ご無沙汰してます、トーラス親方。お陰様で。今日は彼の武器を見立ててもらいたくて来たのですが』
ナタリアさんが敬語を使っているのを初めて見た。凄い人?偉い人?怒らせると怖いとかじゃあ無いだろうな…
「へぇ?ナタちゃんが連れとは珍しい。兄さん、獲物は何を使うんだ?」
「あー、えっと…」
突然振られてドギマギしているとナタリアさんがフォローしてくれた。
『特に決まっていないんです。今は素人ですけど、必ず強くなります。力は強いですから、扱い易くて傷みにくい物が良いと思うのですけど、とにかく色々触ってみたいそうなので』
必ず強くなるのか。そうなのか。嬉しい様な、照れる様な、ちょっとプレッシャーな様な。
「なんだい、そりゃ。…力が強いねぇ。あまりそうは見えないが…ま、ナタちゃんが言うならそうなんだろうな。よし、基本武器を一通り持たせるところからやってみるか。何でも持って振ってみなけりゃ解らないからな。裏に行こう」
『ありがとうございます。お手間をお掛けします』
「何言ってんだ。こっちも世話になってんだ。お互い様だよ。兄さん、名前は?」
「キョウマといいます。よろしくお願いします」
「キョウマか。俺はトーラスだ。大体皆、トーラス親方って呼ぶよ。よろしくな。よし、じゃあ付いてきな」
そう言ってトーラス親方は奥へと案内してくれた。そんなに怖くなさそうな人でホッとした。
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