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ープロローグー 赤龍王ヴァリドーラ

ずっと書きたかった異世界モノです。楽しんでいただけたら嬉しいです。

俺の名前は七瀬恭真。

元は高校生だったが、事故により死んでしまったらしい。今は【勇者】の力を持つ転生者だ。絶大な力を持つ魔王を倒す事が出来る唯一の者と言われてる。これまでも多くの魔物や世界各地の魔王に連なる者達を討伐し、平和の欠片を取り戻してきた。



ここは赤龍山脈と呼ばれる、凶暴なドラゴン達が生息する岩山。その頂上近くの岩棚だ。見下ろせば雄大な景色、そして山脈の主と呼ばれる巨大なドラゴンが翼を広げ、悠々と飛んでいるのが見える。


赤龍王ヴァリドーラ。長年王国からの討伐依頼が出ている。が、あまりの強大さゆえに、もはや依頼の受け手もいない。そこで勇者である俺に討伐依頼が出されたのだ。常人では不可能な事を可能にする。それが【勇者の力】だからだ。


俺の横には数年来の相棒である女魔法使いのナタリア。彼女はその美しく肩まで伸びた黒髪と黒いワンピースを風に靡かせ、右手に魔法使いの証である長杖を持ち、左手で鍔広の尖り帽子を押さえながら、美しい声で俺に問いかける。


『準備は良い?』


俺は彼女へ向き直り、彼女の華奢な両肩を掴み、彼女へ自分の気持ちを伝えるため、勇気を出して口を開いた。


「ナタリア…」

『なに?』


「やっぱ、止めにし」

『やかましい、とっとと跳べ』


被せ気味の容赦のない返事からの蹴り。俺は岩棚から落下し始める。仕方がないな、と覚悟を決め、標的のドラゴンへと目を向けた。



—遡る事10日前・王都アルネス 王立魔獣研究所—


通常は論文の発表や会議で使われるであろう100名程が座れそうな講義場だか、今は巨大な黒板の前で講義する老人と、ナタリアと俺の3人しか居ない。


「つまり300年前に運良く新鮮なドラゴンの死骸が発見された事によってドラゴン生態学は飛躍的な進歩を遂げることとなった訳だが、なんと言っても革新的だったのが従来迄の逆鱗弱点説を覆すこの頭部…」

『所長』

調子良く講義をする年老いた声を、若い女性の声が遮る。

「何だね?」

『要点だけ簡潔にお願いします』


白髪に禿げ上がった頭頂部。老人と言って誰もが頷く姿の研究所所長は、その見た目に似合わずもうかれこれ1ラウ(約1時間)程熱心に講義を続けていたが、ナタリアも流石にうんざりしたのだろう。しかし、よくバッサリと止められるものだ。


「ふむ、そうか。いやこれからが面白い所なんだが…」

『簡潔にお願いします』


所長は喋り足りなそうだが、ナタリアの静かな迫力に負けたようだ。


「では、ゴホン!ズバリ、ドラゴンの通常生息域の外、つまり山頂付近からの落下による頭部への攻撃。警戒領域外からの奇襲での一撃必殺!これしかあるまい」


俺は聞いているだけで眩暈がしてくる。なんて無茶を言い出すんだ…


所長は何処となく楽しそうに続ける。


「殺傷後の着地はナタリア君の魔法で対応出来るであろう?あとはキョウマ君の腕次第と言うわけだ。なに、勇者の力なら可能であろう?」


「ちょっ…」

冗談じゃあない。俺は反論しようとしたが…


『可能です。了解しました。ご協力感謝致します』


ナタリアがサックリまとめて講義場から出て行くので、俺も慌てて追う事となった。


—————————


落下しながら、龍殺剣バルムールを背中の鞘から抜き放つ。


風を受けながら体制を整える。空気抵抗を限界まで減らすため、身体を細く絞り込む。


目標に集中すると、視野が狭くなるのを感じた。



—遡る事9日前・王都アルネス 王立武装博物館 館長室—


「お話は理解しますが、やはり1ルナル(約1ヶ月)もの貸し出しとなりますと、当館としても…」

『国王の勅命証です。順当に事が進めば半ルナル程で返却出来ます』


壁一面の本棚には美しい蔵書達。整頓された仕事机。部屋を見るだけでも館長の権限の大きさと優秀さが見て取れる。短く刈り込んだ白髪混じりの髪、学者とは思えない鍛えられたような体格の良さ。普段はこのように狼狽える事などないのだろう。が、ナタリアの迫力の前では仕方がないのかも知れない。


「破損等の事も考慮しますと…」

『勅命証をご覧下さい。破損についても明記されております』


応接用のテーブルに横たわる長剣。龍殺剣の異名を持つ、宝剣バルムール。ドワーフ鉱国の名工が王国との友好の証に400年前に寄贈した品だそうだ。経年による劣化どころか、まるで昨日打たれた剣のようだ。装飾は少ないが俺でも素晴らしい剣だと解る。政治的な意味合いも強い品なのだろう。


「しかし、もし実際に破損したとなると…」

『そもそもドワーフの名工の製作した剣が簡単に壊れるとは思えません。違いますか?』

「それは…そうなのですが…」

『ではお借りします。キョウマ、行くわよ』

「あ、ああ。すみません館長。必ずお返ししますから」

俺は頭を抱える館長に声をかけ、バルムールを掴み、部屋を出るナタリアを追った。


—————————


チャンスは1度きり。龍殺剣バルムールによる頭蓋への一撃を狙う。



俺の落下により猛スピードで近づくドラゴンの頭部。



俺は転生前の事を思い出す。そうだ、初めて団地の7階から地面を見下ろした時から、何も変わってはいないのだ。あの時に感じた純粋な気持ち。


剣を構え、俺は叫ぶ。奇襲攻撃で声を出すのは愚かな事だが、叫ばずにはいられない。

「俺は!」

「俺わあぁっっ!」

ドラゴンがこちらに気付く。だがもう遅い。刃がドラゴンの頭蓋に沈む。涙で視界がゆがむ。



「高所恐怖症なんっだあぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」





『ほら、出来たじゃない』

ナタリアはさも当然のように俺の横に浮かびながら言う。ヴァリドーラは頭部への一撃で死亡。今はナタリアの魔法【スローフォール】で巨大な死骸ごとゆっくりと地面へ落下中だ。俺は下を見ないようにしながら、息を整えている。

疲れた。

時間にしたらほんの数マニツ(数分)だろうが、1ラウ(約1時間)程ぶっ続けで戦闘した気分だ。ナタリアに反論する気力もない。

しかし剣も無事だし、あの館長もホッとする事だろう。ロクでもない提案をした所長にもお礼を言わなくては。彼の説は正しかったのだから。



龍殺しを成し遂げた俺は、ナタリアと共に下山する。背負い袋の中には、討伐の証「龍の心臓」と呼ばれる巨大な宝石。

「なあナタリア。これで当分の間やっていけるだけの報酬が手に入るよな」

『そうね』

「あのさ」

『なに?』

「魔王討伐とか、辞めない?」


ナタリアは微笑を浮かべながら振り返り、その細くて美しい手を俺の頬に添える。




「いだだだだだっっ!!ひゃめてひゃめてごえんなさいっ!!!」


メチャクチャつねられた。千切れるかと思ったわ。ほっぺが赤くなっとるやん。


『何回言わせれば良いの?あなたにしか出来ない事なのよ?』


ものっすごい冷たい目で見下し気味に睨まれながら言われた。怖っ。


「はい…すみません…」


くそう…俺の平和が訪れるのはいつなんだよ…

読んでくださってありがとうございます。

読むのが好きで、自分で読んでも楽しめる作品を目指して頑張っていこうと思います。


いいね、評価等いただけたら、とっても嬉しいです。

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