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二.郡代見習い(4)

 

 恭太郎がその気になれば、非人の小娘一人を黙らせるくらい、何ということはないはずなのだ。

 刑場で非人を扱き使う小役人とは格が違い過ぎる。

 矢鱈と弱腰なところが拍子抜けだが、身分も格式も高い者とは、案外こんなものなのだろうか。

 尤も、重臣と言ってもそのすべてが踏ん反り返って横柄に振る舞う人物ばかりでもないのだろうが。

 秋津の思い描いていた高位の役人像とは、天と地ほど違っている。

 そのせいか、一旦は怒鳴り付けたほどの憤りも、不思議と萎えてしまった。

 少し可哀想なことをしたとさえ思ってしまうから、尚始末が悪い。

「……。悪かったよ。あたしもきつく言い過ぎた」

「いや、おまえの言うのも尤もだ。本来職務というのは、そういうものなのだろうから」

 それでも、たとえ罪人に与える刑罰とはいえ、生身の人間に刃を突き立てる場面に立ち会うことは恐ろしい、と恭太郎は力なく呟いた。

「罪を犯した者を憐れむだとか、そんな気は更々ない。ただ、刑場で行われることのすべてが、恐ろしい──。まるで自分が処刑されるかのように思えてならないんだ。やはり私は、皆の言うように腰抜けなのだろうな」

 恭太郎の顔に、自嘲めいた弱々しい笑みが浮かぶ。

「やっぱり、恭太郎様に刑場は合わないと思いますよ」

「そう、だろうな。解ってはいるんだが……」

「恭太郎様は、気が優しすぎるんだ」

 すると、恭太郎は少々意外そうに目を丸くした。

「優しい、か」

「たとえ罪人でも、人が殺されるのは嫌なんでしょう? 世間じゃそれをお優しいっていうんです」

「そんな綺麗なものではない。ただ怖気づいているに過ぎないさ」

 途方に暮れた顔で、恭太郎は秋津から目を逸らした。

 そうしてやはり、小さくか細い声で秋津に問う。

「明日、おまえも刑場に来るのか」

「そりゃあ仕事ですからね」

 素っ気ない返答だったが、恭太郎は何故かそこで漸く安堵したように息を吐いたのだった。

 

 

【第三章へ続く】

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