おじいちゃんの初旅
「イチにまず私の話をします。」
「おい!いいのかよ話して!」
「大丈夫ですよ。メタル、イチは信用出来る方だ。」
「あぁ聞こうかのう。」
みんなが向かい合って話すのは初めてでは無いはずなのにどこか緊張が走っていた。
「私は魔王の息子で次代魔王候補でした。」
「お主が魔王の倅じゃったとわ。」
ディアーノは暗い面持ちのまま話を続けた。
「ですが嫌いだったんです。魔王が人間を滅ぼし世界を我が物にしようとしている事が…」
「人間の子供は無邪気で私が魔物だと知らずに一緒に遊んでくれました。」
「私が頻繁に出入りしていた村はある日、跡形もなく消えていました…」
ディアーノが少し俯き涙ながらに話している。その様子は魔物というよりまさしく人間の悲しみだった。
「それから交友があったメタルと戦いに向かない魔物達で20年かけて脱出を図り今の今までこの森で息を潜めて生きていました。」
「そうだったのか…なんとも悲しいのう。」
「ディアーノは魔王である父親を殺そうと思っているんだな?」
メタルが驚きディアーノに目を向ける。ディアーノは何も言わず頷いた。
「イチは何でわかんだよ?」
「昨夜の戦いでな…ディアーノがわしに覚悟を問おうとできたんじゃ」
壱は目を閉じながらゆっくり心穏やかにメタルに話す。
「世界を変えるとなれば人間を滅ぼすか、魔王を討つかの2択じゃろ。ディアーノは後者を選ぶと思ってのう。」
「イチは本当にお爺さんみてぇだな」
「まだまだ見た目は若いじゃろ。ほっほっほっ」
「そこでメタルとハルさんにはここで残ってもらって私とイチさんで王都を目指そうと思うんだ。どうかな?」
ディアーノはメタルの目を見つめて問いかける。
「お前ら2人なら大丈夫な気がしてきたよ。行ってこいよ。」
「行ってお前の親父さんを止めてこい。」
「ハルさんにはわしから話そうかのう。きっと理解してくれる筈じゃ。」
「2人ともありがとうございます。」
ディアーノに安心を見せ王都での思惑を話す。
「王都で今、勇者が滞在しています。」
「珍しいこともあるんだな…てか、なんで知ってるんだ?」
メタルは不思議そうにしていたがディアーノは回答してくれた。
「フクロウを飛ばして見てもらった。勇者のパーティーは勇者以外みんな殺されている。」
その言葉は耳を疑うものであった。勇者のパーティーが壊滅とは聞いたことがないからだ。
「詳しくはまだ知らないが勇者が王都に滞在している間に私とイチで接触を図り、パーティーに入れてもらう。」
「なるほど、勇者のパーティーとやらになれば魔王も倒しに行けるのか」
「あっさり行くとは思いませんが可能性は高まると思います。」
「ならば話は早いな。勇者が居なくなる前に早めにここを立とう。」
そう言いイチはハルさんのいる下へ降りて行った。残されはメタルとディアーノは少し沈黙の後、メタルが口を開く。
「俺は正直、心配だ…お前が魔王のとこから連れ出してくれなかったら今頃、軍用武器を造らされる毎日だった。」
「それが嫌だと相談に乗ってくれて脱走させてくれた恩人を死地に向かうのを止めたい気持ちはある。」
「だけどよ…」
「ディアーノは優しいやつだから見過ごすなんてしないのも分かるからよ。世の中、平和にして生きて帰ってこいよ」
「あぁ世界を変えてくるよ。」
一方、壱は春とさっきの経緯を話していた。
「春さん、アリスちょっと出掛けて来るからのう。」
「少し長くなりそうだが必ず帰ってくるから。」
「壱さん、あなたならきっと大丈夫だわ。」
「約束を破ったことなんて1度も無かったもの。」
「帰ったらわたしの手料理振る舞うから楽しみにしててくださいね。」
春さんの目には少し涙が浮かんでいた。だが彼女は心配されまいと笑顔で見送ろうとしている。その誠意には答えねばなるまい
「春さん、本当にありがとう。」
春と壱、アリスと抱擁を交わしイチは腹を括った。
上から2人が降りてくる。
「イチさん行きましょう。」
ディアーノとイチは武器を手に取り、荷物をまとめメタルと春、アリスに別れを告げた。
「では行ってきます。」
「おじいちゃん、ディアーノ、気をつけてね。」
アリスはディアーノと壱にハイタッチした。
「春さん、メタル行って来るからのう。」
「行ってらっしゃい。」
2人は大樹の家を後にして歩き始めた。
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