第四十二話 超越の魔王
「領域掌握――【無限鮮血】!」
リリスが叫ぶ。
そして、迫りくる魔王の拳を受け止めた。
「なっ……!?」
魔王が目を見開く。
領域掌握スキル【吸血帝王の間】がある以上、リリスが魔王の攻撃を受け止めるなどあり得ない。
――つまり、領域が塗り替えられた。
領域掌握スキルが成功したということになる。
「ありがとね。アンタのおかげで私も強さの極みにたどり着くことができたわ。悪役そのものみたいなデザインなのは気に入らないけど」
リリスの作り出した領域が、魔王の領域を呑み込みながら広がった。
魔王城の天井付近に、巨大な心臓のようなものが現れ。
規則的に鼓動するソレから、無数の血管が伸びて二人を取り囲む。
血管が膠着する二人を完全に取り囲んで、捕らわれている五人を分断すると。
「やった! 出れた!」
「ナイスです、姉貴!」
「あ、ありがとうございます!」
魔王の操っていた血の牢が解除され、中にいた五人は解放された。
アリアはそのまま。
クララは皇女を抱えて華麗に着地。
気絶していたノイズ二人は、思いっきり床に体をぶつけることとなった。
その衝撃で気絶から覚めた。
「私の領域外に干渉できないようにしたわ。これで人質はいなくなったし、アンタは転移して逃げることもできない。まさに籠の中の鳥ね」
【無限鮮血】の効果は二つ。
相手が領域外に干渉できなくなる。
そして、もう一つは――。
「文字通り、この領域内には無限に鮮血が湧き出すのよ」
そう言ったリリスの足元から、鮮血が勢いよく吹き出す。
リリスはその血を取り込んで、一瞬で体を再生させた。
「これで私の血液ストックはマックスになった。アンタの領域は消えて、私のステータス半減もなくなった。ここからは私のターンよ!」
リリスのステータス半減がなくなった以上、残ったのは500近いレベル差のみ。
素のスペックは圧倒的にリリスのほうが高いため、魔王は領域を奪い返すことは不可能。
さらにリリスの領域外に逃げることも不可能。
――つまりは、詰みだ。
「その無限とかいうのも、今の私には通じないわ」
リリスのパンチが、魔王の鳩尾に炸裂!
無限よりも圧倒的なエネルギーを持つリリスの拳が、無限を貫いて魔王を穿つ!
レベル1000の本気の一撃が。
その一撃に込められた超エネルギーが拡散し、魔王の体を廻り。突き抜け。
そして――。
パアアァァァンッ! と。
魔王の体が、細胞のひとかけらも残さずに消し飛んだ。
「いくら再生能力が優れている吸血鬼とはいえ、無からは再生できないでしょ。アンタは強かったわ」
リリスが先ほどまで魔王が立っていた場所を数秒見つめてから、踵を返そうとしたところで。
「や、やったのか……?」
異次元の戦いを唖然と見続けていたクロムが口を開いた。
◇◇◇◇
「ここは……どこだ?」
リリスに倒された魔王は、気がついたら謎の空間に立っていた。
周囲はどこまでも闇が広がっており、それ以外には何もない。
「ッ!」
後方に大きな気配が現れた。
魔王はすぐさま振り向き、正体を確かめる。
そこには法衣を着た大柄な男が椅子に腰かけていた。
まさに地獄の主といった感じの――いや、地獄の主そのものだった。
「は、判決……! じご……地獄行き……!」
ここに来るものは、みな霊体だ。
地獄行きの判決を受け、地獄へ行く。
それがここの日常である。
(まだ私は……まだ終わるわけにはいかない! あともう少しなのだ! もう少しで果たせるのだ!)
だが、復讐に燃える魔王がそんな運命を受け入れるはずがなかった。
運命を分けた要因は三つ。
霊体では物理干渉できず、さらに魔力0の状態にされているので魔法も使えない。
それに安心して、この空間には魔力が存在したこと。
現世ではまだ仮死状態で、地獄に連行されてから完全に死亡する。
つまり、魔王は半分死んで、半分生きている状態だったこと。
地獄の主が、かつてリリスに召喚されて返り討ちにあった地獄大王で。
その時の傷が癒えておらず、本領じゃなかったこと。
この三つだ。
「私の……糧になれ!」
魔王は当たり前のように次元魔法を行使し。
地獄大王を瞬殺してから、スキルを発動させた。
「【吸収】!」
地獄大王を取り込んで糧にして。
それだけにとどまらず地獄そのものを――地獄の亡者たちすらも吸収した。
魔法の深淵にたどり着き。
空間魔法に飽き足らず、最上位の次元魔法を極めた彼は。
――“超越の魔王”となった。
「次元魔法――【次元移動】!」
空間も次元も、何もかもを超え。強さの頂に至った。
かくして魔王は、最強吸血鬼のもとへ舞い戻った。
地獄を吸収し、遥かなパワーアップを遂げ。
強大なスキルを手に入れてから。