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第二十八話 釣り大会

 アスモデウスと別れた次の日。


「アスモデウスが見た未来というのはなんだったんですかね?」


「超気になる!」


「アスモデウスのことだから、意味もなく忠告するはずがないわ。きっと、私たちが出向かないとどうにもならないんでしょうね」


「アリアもそう思う!」


「私も姉貴と同じ意見です!」


 というわけで、身支度を整えた私たちはきちんとお金を払ってから宿を出た。

 観光した時に気に入ったいくつかの店で食べ物やお土産を買ってから、街の外に出る。

 例のごとく、街を覆う壁をこっそり乗り越えて。


「レイメス湖はこの街と帝都の中間地点くらいの場所にあるわ。ミレネ運河沿いに進んで行きましょ」



 雑談したり言葉遊びをしたりしながら、私たちは運河沿いに進んでいく。もちろん走って。

 馬車なんかよりもよっぽど速いので、野宿を挟んで翌日には目的地のレイメス湖の近くまでやってくることができた。


「ねー、お姉様」


「何かしら?」


「レイメス湖って何?」


「「知らなかったんかい!」」


 私とクララの声がきれいにハモった。


 確かに詳しくは説明してなかったけど。

 レイメス湖は帝国一大きな湖だから、知ってるもんだと思ってたわ。


「……レイメス湖っていうのは、さっきも言った通り大きな湖よ。バハムートンにつながっている運河の他にも、何本か運河が出ているわ。帝国の水運や水源の要ね。わかったかしら?」


「わかった!」


 全然わかってなさそう。


 さらに進み続けると、レイメス湖が見えてきだした。

 澄んだ水が地平線の先まで続いている。


「おっきいね!」


「一面湖っていうのもすごいですよね」


「外周はどれくらいあるのかしら」



 私たちはそんなことを呟きながら、何か異変はないか湖の周辺を探索してみる。

 けど、アスモデウスの忠告に関係しそうな手掛かりは何も見つからなかった。


 ここには昔に一度だけ来たことがあるけど、景色はその時から全く変わっていない。

 異常な魔物が発生したというわけでもないみたい。それっぽい気配は感じないからね。



「とりあえず、ここをキャンプ地としましょう」


 【無限収納】からテントを取り出す。

 みんなで協力して組み立てたら、あっという間に野営の準備が整った。


 アスモデウスが意味もなく忠告するはずがないので、私たちは数日はこの辺でのんびりと過ごすことにしたわけだけど。

 さしあたってやるべきは、今晩のおかずの確保ね。


「ハイ! おかずならアリアがいるよ!」


「そういう意味じゃないのよ」


 食料なら【無限収納】にかなりの量が入っているけど、やっぱりこういうのは現地調達でしょ。

 サバイバルっぽい(おもむき)があっていいじゃない。



「せっかく目の前にでっかい湖があるんだから、みんなで釣り大会をしましょ!」



 私は【無限収納】から三人分の釣竿を取り出して宣言した。


「楽しそうだから賛成!」


「私も賛成です。にしても、準備が早いですね」


「一度釣りをしてみたかったのよ」


 公爵時代にはのんびり釣りをする時間なんてなかったからね。


「だったらアリアがお姉様に教えてあげる!」


「じゃあ、エスコートお願いね」


「わかった! アリアがお姉様をエスコートする! で、エスコートって何?」


 クララが単語の説明を終えて。

 よく分かっていなさそうなアリアとクララに話を聞いたところ、二人が住んでいたエルフの集落の近くには川があったそう。

 たまにその川で釣りをして魚を捕まえていたとか。

 だから、二人には釣りの知識や経験があるというわけで。


「まずは水辺の石ころとかをどけて、餌にする虫を捕まえるんだよ。おっ! 出てきた!」


 アリアが石ころをどかすと、小さな虫が数匹出てきた。

 アリアは物怖じすることなくその虫をバッと素手で捕まえ、針に先にブチュッと突き刺す。


「虫ゲット!」


 クララも虫を素手で捕まえて針に突き刺していた。

 二人ともたくましいわね……。


「ほらほら、お姉様も早く早く!」


「え、ええ。うん……」


 私が石ころをどかしたら、すぐに小さな虫たちが出てきた。

 その虫たちに向かってそ~っと手を伸ばすものの……。


「どうしたの? 手が止まってるよ?」


「姉貴って、もしかして小さい虫とか苦手なんですか?」


「……いや、まあ、大丈夫よ大丈夫……」


 例のダンジョン生活の時は、生きるために仕方なく巨大な蜘蛛やG(黒光りしてるアイツ)の魔物を倒したこともあるし……。

 だからいけるわ! 大丈夫! 私はやればできる子よ!


 自分を鼓舞してから、頑張って腕を伸ばす。

 あと少しで虫を捕まえられる瞬間――その虫が素早い動きで私の指に噛みついて来ようとした。


「うわあ!?」


 思わず腕を引っ込めてしまう。

 虫はその間にどこかに隠れてしまった。


「姉貴の悲鳴って、なんかレアですね」


「お姉様かわいい」


「つ、次こそはちゃんと捕まえるわ!」


「声が震えてますよ。私が代わりにやりましょうか?」


「というか、血で捕まえればいいんじゃない? お姉様って血を自由に動かせるもん」


「そういえばそうじゃないの! ナイスアイデア! アリア天才!」


 私は自分の手首を軽く傷つける。

 流れ出た血を操作したら、自分でも驚くほど簡単に虫を捕まえて針に刺すことができた。

 ビビる必要なかったわね……。


「針に餌を刺したら、こうやって遠くに針を投げるんだよ!」


 アリアが竿を振る。

 糸が放物線を描いて、遠くのほうに飛んでいった。

 チャポンと音を立てて、湖の中に沈んでいく。


「あとは魚が食いつくまでのんびり待つだけだよ」


「教えてくれてありがとね、アリア」


「えへへ」


「それじゃあ、制限時間は今から二時間。誰が一番釣ったかで勝負ね」


「アリアが勝つ!」


「いやいやいや。勝ちは譲りませんよ」



 みんなで釣り糸を垂らして待つこと十数分。

 最初に獲物がかかったのはアリアだった。


「来た!」


 アリアの竿がしなる。


「まあまあ大きいっぽい!」


「頑張れー」


「ファイトです!」


「せいやぁっ!」


 私たちの応援を受けたアリアが竿をぐっと引くと。

 ザパァンッ! という音と共に、体長五十cmくらいの魚が飛び出してきた。

 銀色に輝く鱗が光を反射して煌めく。


「この高級感あふれる魚は何かしら?」


「はいはい! アリア知ってるよ! キングサーモンっていうお魚だよ!」


「アスモデウスが好きそうな魚ですね」


「確かサーモンと鮭はほとんど同じ魚なんだっけ?」


「うん。そうだよ。よしおが鮭について早口で喋ってた時にキングサーモンって魚のことも言ってて、それでね。その時によしをの思考を覗いたら、この魚のことを思い浮かべてたの!」


 なるほどね。

 アスモデウスが絶賛するくらいだから、さぞかしおいしいんでしょうね。

 かなり脂がのっているようだし。


「でかしたわ、アリア! 今晩のおかず一匹目確保よ!」


「やったー!」



 それから続けること三十分。

 今の戦績は、アリアが五匹。私が一匹。クララがゼロ匹だ。


 そう。私も魚を釣ることができたのよ!

 魚が餌に食いついて竿がしなる感覚。釣り上げた時の喜び。どんな魚がかかるのかといったワクワク感。

 釣りってホントに楽しいわね。



「あー! 全然釣れない! なんでや!」


 いまだに一匹も釣ってないクララが叫ぶ。


「こうなったら……!」


 クララはそれだけ言い残すと、竿を置いて森の中に消えていった。


「クララ、どっか行っちゃったね」


「何をする気かしら?」


 と思ったら、すぐに戻ってきた。

 右手に大きなムカデを掴んで。


「それは何よ?」


「餌です!」


「餌!?」


「餌です!」


 毒が好きだからって、なにも毒蟲を餌にしなくても……。


「せいや! そーれ!」


 クララはすぐさまムカデを針にぶっ刺すと、湖めがけて放り投げた。

 ボチャンッ! という音がして、ムカデが湖の中に沈んでいく。


「見ててくださいよ! 大物釣ってやりますよ!」


「さすがにムカデじゃ魚は釣れないと思うわよ?」


「私みたいに毒が大好きな魚が釣れるかもしれないじゃないですか!」


「まあ……やるだけやってみなさい」



 それから一時間ちょっと。

 残り時間は五分を切った。

 今の戦績は、アリアが十八匹。私が五匹。クララがゼロ匹って感じよ。


「ほら。やっぱりムカデじゃ魚は釣れないわよ。今からでも、頑張れば一匹くらいは釣れるかもしれないわ。まだ遅くないわよ。泣くほど悔しいなら、今から餌を変え――」


 いじけてたクララを励ましていたら、クララの竿があり得ないほど大きくしなった。


「……ッ! 来たあああああああああああ!!!」


 諦めかけていたクララが、過去一番の大声を上げて。

 魔力を流して竿を強化。水しぶきを上げて暴れる魚を釣りにかかる。


 アスモデウスから学んだことを、しれっと応用してるわね。


「ゼロ匹だけは嫌なんじゃあああああ!!」


 クララが思いっきり竿を引き上げると。

 ――バシャァァァァァンッ! と。

 過去一番の水しぶきと音を上げて、体長三mはあろうかという怪魚が姿を現した。


 不気味な仮面をかぶった頭部に、岩のような鱗で覆われた体。

 人の首を簡単に斬り飛ばせそうなほど鋭利なヒレ。

 口から覗く何重にも生えた鋭い牙。


 それが私たちの近くに落ちてきて、暴れ出した。


「クララすごい! なんか強そうな魚釣れた!」


「これが私の実力ですよ! 見ましたかコノヤロー!」


 私は地面の上でじたばた暴れている怪魚を【鑑定】してみた。


「猛毒ラブラブフィッシュて。何よその適当な名前は」


「同志じゃないですか!」



 この釣り大会を通して、私は「類は友を呼ぶ」ということをひしひしと実感した。

 やっぱり似た者同士って巡り合うものなのね。

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