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幼馴染みに浮気され捨てられた結果、アイドルと付き合うことになった  作者: 絢乃
第一章 無人島にアイドルが流れてきた
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008 土井とは

 全ての準備が整い、いよいよ撮影が始まった。

 まずは土井と雪穂が二人で並んで話す。


「なるほど、それで私はここに呼ばれたわけですか! いやぁ、出演料(ギヤラ)を上げろって喚きすぎたせいでベーリング海のカニ漁にでも放り出されるのかと思いましたよ!」


 土井が怒濤のトークを展開する。

 事前の打ち合わせ通り、彼が場を盛り上げる役割のようだ。


「それでですね、実はサプライズがあるんです!」


「ほう! サプライズとは? ちなみに私の誕生日は4月7日、つまり明後日です!」


 今は2月末だ。

 番組の放送日が4月5日なので、土井は今日を4月5日とみなしている。

 撮影中にうっかり収録日を漏らさないよう気をつけねば、と思った。


「残念ながら土井さんの誕生日プレゼントではなくてですね」


 土井が「はい、はい」とテンポのいい相槌を打つ。


「それではご紹介します。私の恋人、吉川大吉君です!」


 いよいよ俺の出番がやってきた。

 スタッフに合図されて、俺はゆっくり雪穂らに近づく。

 カメラの一つが俺を捉える。


「はじめまして、よし、よしか、わ、大吉です」


「おおっと、噛み噛みのようですが大丈夫でしょうかぁ!?」


 土井が大袈裟な反応をする。

 それに対して俺が何か言う前に、こう続けた。


「それにしても高峯さん、まさか一般の方をテレビに呼び込むとは恐れ入りましたよ! 伝説の会見とも言われるあの告白といい、破天荒とは貴方の為の言葉ですね!」


「あはは、実は私、意外かもしれませんが、ワガママな性格でして」


「意外も何もそうでしょうな! ですがそれがいいのでしょう!」


 土井のテクニックにより、収録は滞りなく進んだ。


 ◇


 慣れとは恐ろしいものだ。

 そう思ったのは、船が無人島に着いた時だった。


 既に緊張しなくなっていたのだ。

 船でもカメラは回っていて、そこで色々と話をしたから。

 サバイバルのことから雪穂との惚気話まで、事細かに話した。


「いったんカメラ止まりまーす」


 船から下りる前に撮影が止まる。

 下りた後のことをスタッフと確認した。


 この番組はリアルさをウリにしている。

 無人島の開拓にあたって、事前に何の準備もしていないのだ。

 普通の番組だと、漂着物を装って浜辺にフライパンを置くなどするらしい。

 一般人の言う「やらせ」であり、業界人の言う「演出」である。

 当然のようにリハーサルもしない。完全なぶっつけ本番だ。


「非常事態の時はこれで連絡して下さい。あと、アクションカメラはこのスイッチを押すことで撮影のオンオフを切り替えられます。撮影中はこの部分が赤く光ります」


 細かな説明を受ける。

 それが終わると、俺と雪穂の胸元にアクションカメラが装着された。

 このカメラと後で渡されるハンディカメラの映像が番組の要になる。


「カメラ回りまーす!」


 撮影が再開する。


「ついに着きましたよ無人島!」


 土井がマイク片手にペラペラ話しながら船を下りる。

 まるで今しがた着いたかのような話しぶりに感動した。

 ここに着いてから1時間は説明を受けていたはずだ。


「行こっ、大吉君!」


「おうよ!」


 俺と雪穂は普段と変わらぬ調子で下りようとする。

 演技しないでください、というのが上からの指示だった。

 いつも通りに過ごすことこそ求めているものらしい。


「足を挫かないようゆっくりな」


 先に下りた俺は、雪穂に向かって右手を伸ばす。

 彼女は俺の手を握りながら慎重に船を下りる。


「見て下さいこのさりげない紳士ぶり! これが高峯雪穂のハートを射貫いたテクニックでしょうか!」


 土井が絶好調で吠えまくる。

 プロのアナウンサーは本当に凄いや。


「さてここからは二手に分かれて行動します! 吉川・高峯コンビは無人島の開拓へ行って下さい!」


「土井さんはどうされるのですか?」


 雪穂がカンペのセリフを読む。


「私はここいらで帰らせていただきます!」


「まだ着いたばかりなのに! サボりじゃないですかー!」


 雪穂と土井が台本に従ったやり取りをする。

 演技のできない俺はヘラヘラしながら眺めていた。


「それではお二方、お達者でー!」


 土井が船に乗って帰っていく。

 これにて彼の仕事は終わりだ。


「ここを押せば撮影のオンオフが切り替わります。緊急事態の時は非常用の携帯電話を使って下さい」


 ディレクターがハンディカメラを雪穂に渡す。

 その間もカメラは回りっぱなしだ。

 雪穂に説明している体で、実際には視聴者に向けられていた。


「では、行ってきます」


 俺の言葉に続いて、雪穂も「行ってきます!」と頭をペコリ。


 スタッフが見守る中、俺達は目の前の森に向かう。

 互いに道具の詰まったリュックを背負っていた。


 スタッフは誰もついてこない。

 事前の説明通り森に入るのは俺達だけのようだ。

 分かってはいても驚いた。


 ◇


「まずはどうしたらいいかな?」


 森の中を歩いていると雪穂が尋ねてきた。

 ハンディカメラを俺に向けている。


「とりあえず衣食住の確保だが、まずは周辺を探索しよう」


「りょーかい!」


 無言で森の中を歩き回る。

 雪穂も口を開かないので、沈黙だけが流れる。


(雪穂だって緊張しているのだったな)


 学校での会話を思い出した。

 見た目には出ないが、彼女も心臓をバクバクさせている。

 このままではまずいかもしれない。


「何か解説とかしたほうがいいかな?」


 足を止める。


「できればそのほうがありがたいけど、何かある?」


「ちょうどいいのがあるぜ」


 俺はその場でしゃがみ、目の前の植物を指した。


「これ、何か分かるか?」


「うーん、さっぱり分からない!」


「イヌサフランっていうんだ」


「なんだか美味しそうな名前!」


「とんでもない。コイツは猛毒だぜ。誤って食べたら死ぬ可能性だってある」


「そうなの!?」


「現に日本でも死亡事故が起きているよ」


「そんな危険な植物がどうしてこの島にあるの?」


 雪穂は不安そうに顔を歪めた。

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