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イモータルキラー

 

 草木も眠る丑満時。闇夜が月明かり以外の光を失った折。()()()()()()は暗がりに紛れて忍び寄り、生なるものを永遠の闇へと誘う。

 今はもう荒唐無稽な与太話と呼ぶ者はいない、誰もが一度は口ずさんだことのある言い伝えだった。

 そんな小話を思い出しながら、黒い外套を纏った少女は言い伝え通り、暗がりに紛れて回廊を駆け抜ける。


「出たぞ、不滅の殺し屋(イモータルキラー)だ! 全員で取り押さえ……がはっ!」


 そうして少女がターゲットを守る傭兵たちの前にその姿を現すと同時、回廊に勇ましい声が響き、その直後。その首筋を切り裂く音とともに、星のない月夜に血桜が咲いた。


 それを皮切りに、回廊に溢れる幾十人もの傭兵たちが、少女が真っ直ぐ回廊を駆け抜けるのに合わせて、悲鳴とも呻き声ともつかない声を上げ、最後にその鎧を死装束に変えた。


「……全く、これまた物騒な通り名をつけられたものね」


 夜桜の並木を潜り抜け、少女はその奥の扉の前で立ち止まり、得物である刀に血振りをくれてから納刀する。


『……』


 同時。その背後で傭兵たちが一斉に倒れ伏し、ついでどさりという音が地鳴りの如く重く、被害者の数だけ連なって響いた。


 その光景に振り返りもせず、少女は肩を竦めてため息をつく。

 そして、重厚なドアノブに手をかけ躊躇なく、それでいて音もなく開け放った。


「……ひぃっ!」


 同時、そこに残されていた身なりのいい男(ターゲット)が慄いたように後退り、恐怖を顔全体に貼り付けて喚いた。

 まるで蛇に睨まれたカエルのように、と表現するのにはいささか動きが激しすぎだろうか。

 たとえ、すぐにその動きを止めることになるとしても。


 そんな男は、壁に背中をつけるのと同時にびくりと震え上がり、同じく震えた口調でこちらを指差した。


「に、二十もの傭兵を一瞬で斃したというのか……! その強さ、人間じゃない……っ! 化物めっ、貴様は一体何者なんだっ!」


 あまりにも情けない有様の男が放った言葉に、相棒はやれやれと嘆息する。もし姿が見えていたら肩を竦めていただろう。


『……あらら、また化け物扱いされちゃってるよ? イモータルキラーさん』

「しょうがないわね。だったら、自己紹介をしてあげましょうか」


 そう言って少女が一歩一歩踏み出すごとに、身なりのいい男……少女が赴いている地方一帯の商会を統括する大商人は手足をばたつかせ、後ずさることもできずにのたうちまわる。

 そして、槍の間合いから剣の間合い。ついには拳の間合いまでゆっくりと近づき、勇ましい笑顔とともに堂々と名乗りあげる。


「あたしはミア。冥土の土産に教えてあげるから、真っ直ぐ天国まで届けなさいよ」


 少女の名はミア。どんな依頼も失敗することがなく、どんな窮地に陥っても、どんな勢力に勧誘されても(なび)かずに殺しを続ける、永遠の、不滅の殺し屋(イモータルキラー)として恐れられる殺し屋である。


 そんな少女の名乗りに商人は泡を拭いて気絶し、最後にはその見えない刃によって命を落とす。それと同時。その視界が暗転するとともに、物語の幕が閉じられたのだった。


お読みいただきありがとうございました

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