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エンドロールは流れない 〜後編〜

「……これで、最後ね」


 永遠に続くかのように思われた夜も明け、酒場の窓から朝日が差し始めた頃。最後のテーブルを拭き終わって、ミアは汗を拭いつつ呟く。


 リーシャが「それじゃ」という捨て台詞を残して帰っていった後、ミアは急用のできたバーテンに頼まれて酒場の開店準備をしていた。

 本来はミアの仕事ではないのだが、バーテンに何かと恩義があることに気づいてしまったミアは、小さな手伝いを拒むことなどできず、加えて、それほど恥知らずではなかった。


 そして、たまには朝の帰り道を歩いてみたい。そんな気分だったのだ。理由など、それで十分だった。


『……で、どうするの? 暗殺者になる? それとも守護者になる?』

「いつかじっくり考えるわよ。それよりも」

『そうだね、帰って休もう。()()()()あったみたいだしね』


 この一週間は、ミアにとって激動の日々だった。守護者と相対し、不死身の男と出会い、暗殺者と戦い、暗殺者組合に足を踏み入れ、守護者と正面から刃を交えた。

 

 しかし、それ以上に、自分でもよくわからない関係の人間の存在に気づくこととなった。ユーリの言う『いろいろ』とはそのことだろう。


「あんたも、お手柄だったわね」


 そんな茶化すような相棒の言葉に、ミアは珍しく素直な言葉を返す。それは、今が夜ではなく朝。裏ではなく表だからだろうか。


『別に良いよ、いつものことだし』


 ユーリはいつもと違う言葉に、いつものように嫌味まじりの軽口を叩いて応える。しかし、実際にいつも助けられているからして、ミアが不快な気分になることもなかった。


 ユーリはミアの周囲の状況や密閉された建物の中を見ることができる。そして、思念である故に相手の思念を少しだけ読み取れる、という能力を持っていた。

 だからこそミアは一週間前の依頼で守護者の襲撃を防ぐことができ、同様に背後からのリーシャの短剣を避けることができたのだった。


 ミアが依頼に失敗したことがない所以の半分は、その人間離れした身体能力と戦闘勘である。逆を言うと、半分はユーリの支援のおかげで安全に行動できたからこそ、依頼に失敗せずにその名を轟かせ続けられてきたというわけだ。

 結局のところ、決してミアは一人で生きてきたわけではないのだった。たとえ、孤高を貫く月夜の怪物と言われようとも。


「いつもありがとね」


 そう言ってミアは裏の酒場の扉を開き、朝日の照らす表の世界に足を踏み出したのだった。

 月夜ではなく、眩い朝日に照らされて。月夜の怪物は今日も征く。


まだエンディングは続きます。短いエピソードだったので、今日はもう一話更新します。

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