エンドロールは流れない 〜前編〜
「……それで、どうするんですか? これから」
ミアが守護者と再び対峙し、スカウトされた翌日。深夜の酒場でのこと。バーテンは、いつものようにカウンターに頬杖をつくミアに問いかける。
深夜の酒場には当然他の客がいることもなく、いつものように申し訳程度の明かりがあたりを照らしていた。
「別に、あたしがどうしたって良いでしょ」
「そうはいきません。あなたはこの酒場の稼ぎ頭なのですから。私はあなたがここに居座るように動く必要があります」
確かに、バーテンが暗殺者組合の招待状を隠していたり、守護者の招待状をミアに渡さなかったりと裏で動いていたのは、ミアを組合に残留させるためと考えるのが理由として自然だった。
「……だったら、どうして今更になって暗殺者組合への招待状を渡してきたのよ」
「さあ、なぜでしょう」
しかし、それならばミアに暗殺者組合への招待状を渡す必要はないだろう。最後まで隠しておき、ミアへの襲撃があったとしても事前に防いでおけば良かったのだ。バーテンにはそれだけの器量がある。そのことはミアが一番よく理解していた。
そこまで考えて、ある結論が口をつく。
「……もしかして、あたしが自分で選べるように、なんてことはないわよね」
「それが裏目に出てしまうほどに、あなたが成長していたのですがね。光陰矢の如し。文字通り金言です」
裏にいても自分の利益だけを考えているものばかりではない。メアの言葉を思い出し、ミアは深々とため息をつく。様々な手紙を渡さなかったのも、ミアが先のことを考え始めてしまったときに暗殺者組合の招待状を渡したのも、バーテンの気遣いだったというわけだ。
「まったく、そんなに捻ったらわからないわよ」
「それで良いんですよ。この一週間、いろいろなことがあったという意味です」
バーテンの言葉で、カイを殺す依頼を請負ってから一週間しか経っていなかったことに思い至る。そして、何度目かもわからないため息をひとつ。それは、平素とは違って満足げなものを感じさせる。この瞬間に限っては、ミアの表情に憂いの二文字はなかったのだった。
「あんたにはかなわないわね。いつもいつも」
「いつか追い越してくれないと困ります。それより、ついさっき新入りが入りまして。ぜひあなたに会わせたいのですが……」
ふと、ミアに合わせて軽口を叩いていたバーテンはそう言って厨房のほうに視線を送る。そして、促すように頷く。
「新入りい? いつも勝手に組合に入ってはいつの間にかいなくなってるじゃない。急に会わせたいなんて……」
いつものように悪態をつこうとしたミアだったが、バーテンに促されて奥の厨房から姿を現した人物に目を見開き、驚愕をあらわにする。
そしてガタリと椅子を倒して立ち上がり、もう二度と出会うこともないと思っていた相手の名前を大声で叫んだのだった。
「リ……リーシャ⁉︎」




