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本当のターゲット2


「……楽しそうね、あいつ」

「その分、楽しくなさそうなことは絶対やらないんだけどね。よっぽど守護者と戦うのが楽しみなのかな」


 騎士団本部の外周に設えられた柵の傍ら。ミアとリーシャは青年の嬉々とした名乗りと、敷地内の傭兵たちの慌てふためく様子を尻目に、事前にメアから譲り受けた見取り図で侵入経路を確認していた。

 日中はあたりを照らす太陽も、その姿のほとんどを隠し、代わりに少し陰った月が空高く昇り始める。その様はまるで、世界(コイン)が表から裏へと交代していくかのようだった。


「それで、本部の中には何人残ってる? 月夜の怪物さん」

「ちょっと待ちなさい……」


 リーシャの問いに、ミアは顔をしかめて雑嚢を揺らすことで相棒に指示を出す。どうやら、自分の手の内は暗殺者組合側に知られているようだ。

 月夜の怪物は、月明かりの照らす場所で起こったことは全て把握する。いまだ原理は知られていないにしろ、バーテンの組合にいた時のような、手の内の知られていない安心感は戻ってくることがないと見える。


「三人、ね」


 そんなことを考えつつ、ユーリの告げる人数をリーシャに報告する。そして、それはユーリへの確認も含まれていた。


「了解。一人は守護者で、もう一人は副団長。あとはまあ、その側近ってところかな。これはボクが相手するよ。終わり次第そっちに加勢するね」


「ええ」とミアは首肯し、少しして「……そういえば、なんで副団長なのよ。いつも副団長が話題に出てくるけど、団長は」と疑問を投げる。


「ああ、団長は王家直属の騎士隊を取りまとめてるから、騎士団は実質的に二番手の副団長が率いてるんだ。国民を守るのと同じくらい、当主を守るのは重要だからね」

「なるほどね」


 リーシャの端的な説明にミアは得心する。殺しが蔓延る世界で国が成り立つには、それくらいは必要だろう。実際、王族に関わる依頼は避けるという鉄則は殺し屋の中では当たり前になっている。


「それより、裏から侵入するよ。正面では怪盗さんが時間を稼いでるからね」

「了解」


 ミアの返答を合図に二人はお互いの目を見てうなずき、侵入口に向かって音もなく駆け出したのだった。



「突き当たりに一人」

「わかった。ミアは先に行って」


 侵入口から入った二人は、そのまま本部内の回廊を全速力で駆け抜ける。木造りで音が響きやすい足元において、そこには一切の足音が響くことはなかった。


「了解」


 唯一響いたのは、リーシャの指示とミアの返答。言語を(バーバル)用いた意思疎通(コミュニケーション)は殺しの場において不適切だが、状況が状況である。もとより、予告状によってこちらが侵入することは知られているのだった。

 であれば、迅速かつ円滑に意思を伝えることが最善である。

 

「……」


 ミアが音を立てずに回廊の角を曲がり、リーシャが続く。


「出たな、月夜の怪物! この私が仕留めて……うおっ!」


 そして響いた、副団長の側近による予定調和の掛け声。しかし、それはリーシャが側近に投擲したナイフによって遮られる。


「キミの相手はボクだよ」


 側近は慌てて剣を抜き放ち、頭部に飛来したナイフを弾く。が、その隙にミアは回廊の奥まで、側近を横切って駆け抜ける。


「ま、まて! 月夜の怪物!」

「雑魚に用はないのよ」

「……な、私を愚弄するか!」


 側近の上げた、悔しさを隠そうともしない叫びはミアの背中に届くことなく、リーシャと側近の間で響いた剣戟音にかき消されていった。


『……順調だね』


 ふと、そんな剣激音に混じってユーリの声が響く。たしかに、命を盗む大怪盗の陽動によって騎士団本部は実質的にもぬけの殻。唯一残っていた側近も、端的に言って終えば相手ではない。リーシャでも十分対処できるだろう。ミアの評価は異常なまでに低いが、もとより、彼女は暗殺者である故に。


 そして、前回とは違ってこちらから攻撃を仕掛けて始まる戦闘。奇襲の不利はなく、加えて、ミアの仕事は倒すことではなく後続のリーシャや命を盗む大怪盗と合流して複数対一の状況にするための時間稼ぎ。

 

 万一にも、失敗することのない仕事だった。


「ええ。後は守護者に借りを返すだけよ」

『その報酬で借りだけじゃなくお金も返せればいいけどね』

「仕事中よ。終わった後のことを考えるのは、殺しが終わってから」


 ユーリへの返答は、ユーリではなくミア自身に向けられた物だった。仕事中にそれ以外を考えたら死ぬ、というわけではないが、仕事に失敗するような間抜けは大抵仕事中の不注意が原因で依頼を失敗している。であれば、今は目の前の仕事以外に考える必要はない。


『そうだね。それより』

「ええ、ここからでも空気が違うのが分かるわ」

『うん、突き当たりに一人。()()()()()()()()のお出ましだよ』


 相棒の声に、ふと、進めば進むほど、まるで自分の周りだけが歪んでしまったような、加速度的に重くなる空気にミアは歩を緩める。


『……どうしたの? 怖気付いた?』

「まさか」

 緩めたまま、ユーリの声を振り払うように頭髪を揺らし、意を決して歩を進める。そして、


「……また会ったな、月夜の怪物」

守護者(ディフェンダー)……っ!」

 再び、自分を敗北させた相手と対峙することとなるのだった。


やっと守護者を回収しますが、実はまだ回収してない伏線がいっぱいあります。

回収をお楽しみに。

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