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本当のターゲット


「……それで、小細工は終わったのか」


 二人が握手を交わした一日後。そして、三人の暗殺者が打ち合わせを終えた翌日の夕方のこと。騎士団本部の副団長室では、守護者と副団長とが誰にも知られず密会を行なっていた。


「ああ。問題ない。騎士団の訓練を中止にし、敷地内には傭兵を雇って配備してある」

「ふん。傭兵も騎士も、有象無象には変わりないだろう」

「なればこそ、死んでも自己責任の傭兵は騎士よりも扱いやすいのだ」


 それは、副団長の考える最善のプランだった。端金で傭兵の命を買いたたき、自分の管理下にある騎士団は休ませ、誰も死なせないように、自分に責任がいかないように。非才ながらも彼が騎士団の実質的な頂点に立ち続けていられたのは、その臆病さから来る計算高さゆえだろう。


「つまらんことを考える。どのみち、ターゲットは貴様一人だろう」

「相手は殺し屋だ。ターゲットを殺すためならなんだってするだろう。これは必要な処置だ」


 そう言ったところで、副団長は自嘲気味に考える。

 自らの命を守るために幾十もの傭兵を死地に送り込む自分は、殺し屋でなくば一体なんなのだろうな、と。


 正直なところ、守護者と言えども月夜の怪物と命を盗む大怪盗を同時に相手することができるのかという疑念は副団長の中に残ったままだった。しかし、暗殺者とは邪道を極めし者。狭い暗がりでは無類の強さを誇るが、白兵戦においては正当に体を鍛え、地道に剣術を磨いてきた傭兵の方が有利だろう。たとえそれが、常識で測ることが難しい類の怪物であったとしても。

 傭兵がどちらかの足止めにでもなれば、守護者が負ける道理はない。


 それは、各勢力のパワーバランスを正当に評価した結果だった。傭兵は一人では弱いが、集まれば一人の殺し屋を足止めするには十分だろう。そして、守護者が一対一の戦闘で殺し屋に不覚をとることなど考えづらい。なれば、傭兵を使うことで、守護者と殺し屋が一対一で対峙する状況を作るのが最善。


「まあいい。どうせ、傭兵の相手をするのは『命を盗む大怪盗』だろう。目立つのが得意な()が陽動を引き受け、その隙に潜入に長けた月夜の怪物が貴様の居室まで侵入する」

「そして、貴様がそこを返り討ちにするというわけだな」

「いや、俺はその手前の回廊で迎え撃つ。なにぶん、()()()が大きいからな」


 そう言って守護者が大袈裟に肩を竦めると、背中の得物が。ただでさえ偉丈夫である守護者の身長ほどもある大剣が留め具にぶつかってガシャリと重厚な音を立てた。


「……言い得て妙だな」


 守護者の得物である大剣が狭いところで扱いにくいのはもちろんのこと。月夜の怪物という強力な獲物(ターゲット)と戦うには、殺し屋に有利な閉所よりも距離を取りやすい回廊で戦うべきだろう。万一にも不覚を取らないために。


 そんな意味が込められた、守護者の口走った思わぬ掛け言葉に副団長は裏社会への認識を改める。

 裏社会など血に飢えた獣の集まりだと思っていたが、守護者を名乗る目の前の男といい、命を盗む大怪盗といい。存外高い教養をのぞかせる場面がちらほらあった。


 当たり前ではあるが、殺し屋も目の前の守護者も自分たちと同じ人間なのだな、と。

 そして、人間扱いされず、表に戻ることも許されない殺し屋とは、なんと過酷な生き方なのだろうか。


「……ふ、今の私に他人のことを考えている余裕などない、か」


 しかし、今はそんなこと関係ない。そう言わんばかりにつぶやき、ため息をつく。そして。


「そろそろだな」


 そう守護者が呟くと同時、騎士団の本部に、勇ましい青年の声が高らかに響き渡ったのだった。


 ——ふはははは! 待たせたな! 命を盗む大怪盗、ここに参上!


お読みいただきありがとうございます

一章はもうすぐ完結です(まだ一章だったのか)。

良い感じの終わり方になると思うので、追いかけてもらえたら嬉しいです。

ご感想ご評価お待ちしております。

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